私は、どうするべきだ。
「なっ、どうすれば……」
「姿を現すのは……止めておいた方が賢明ですわね……」
部屋の中にいたのは、三人の魔法少女達。
このまま彼女達を連れて帰るのは簡単な事だ。
だけど、どう頑張っても戦闘は避けられない。彼らを潰すこと自体は確かに容易い、そも、物理攻撃である以上は私には届かないのだから。
だがこれはあくまで潜入任務。私達がここに居るという事自体が拙い結果になるし、襲撃があったと聞けば本丸を叩くときに影響が出かねない。
そして薬品等を定期的に摂取しなければいけない……と言う可能性も無くは無い。連れ帰る事が最善の結果を産むかと言うと、そうとも言い切れない。
ここではそもそも何をしていたのか。せめて何か手掛かりは無いかと資料に目を通すと……
「人類が魔法少女に対抗するための兵器の……開発」
魔王が倒れたから、今度は力を持つ魔法少女が邪魔になった? 恐らくはその辺りの理由だと推測できる、つまりは利権争いだ。『人間も一枚岩では無い』なんて、ルクスと会った日のミーティングの日にも考えてたけど、ここまで愚かだったとは思っても無かった。
何かをさせていたと言うよりも、思考能力を奪っているだけだろう。実験品を試すならその方が都合が良いから。
それなら連れ帰ることは出来るが……大局を見据えれば、ここは退いて後日同時作戦を仕掛けた方が間違いが無い。
「よし、早く助けよっか」
「構いませんけど、勝算はあるんですの?」
「無いよ?」
でも、魔法少女サテライトなら見捨てたりしない。何よりここで彼女達を見捨てるのは夢見が悪い。例えどうなるとしても……行く末は彼女達が正常な判断を取り戻してから、自分自身で決めるべきだ。
「……ですよね、信じてました!」
服が汚れるのも気にせずに応急処置をし続けているベルちゃんだったが、相手には反応が無い。眼は虚ろで、何を見ているのかもわからない。普段ならそういう感想の一つも沸くのかもしれないけど、あまりの惨状に気分の悪さの方が先に来る。
「私が暴れるから、怪我人は任せても良い?」
「一応、気を付けるんですのよ?」
「まさか、私が負けるとでも?」
流石に私もそこまで節操無しじゃない……無いよね?
脱出の準備が出来たのを見計らって、研究室の壁を内側から蹴り飛ばしてご挨拶をする。ガコンと鈍い音がして、金属製の扉が地面を滑る。
「魔法少女サテライトだよ、抵抗は無駄だから大人しく投降してね?」
「なっ、敵襲ッ……敵襲!」
いきなり慌ただしくなった室内、その声に紛れて数人分の足音は紛れて消える。中から私が現れたのに驚いた様子はあるものの、油断なく武器を構えている。素人じゃない、戦闘慣れした……軍隊のような動きだった。
とは言えかなり不利な条件での戦闘だ。
「皆まとめて、星を見せてあげるね☆」
何せ、室内の研究道具や資料を壊さないように気をつけなければいけないのだから。
私が勝つのは───戦う前に既に決まっている。
まあ当然、何事も無く帰路についていた。
フラグのような発言をしたけど、一般人と私が戦って何か起きる訳が無いよね。
そもそも身体能力が違いすぎて魔法を使う必要すらなかった。
あれから敵を全てのして、扉を破壊してから外へと出た。これで立ち入り前に証拠品を持ち出す……なんてことは出来ないだろう。多分生きてる、多分。私は手加減も完璧なので、多分。
そんな訳で魔法少女協会の本部へと辿り着いた私は、スクイレの私室を訪れる。
考え事をしているようで、何時ものアイマスクをつけたまま椅子に座っているのは我らが姫様。スクイレは人を見ると、思考が流れ込んでくるので考え事をするときはアイマスクをしている……と言っていた。直視しなければある程度は緩和できるらしい。
「ただいま、スクイレ。あの子達は?」
「……無事、少なくとも生命維持に、関しては」
私が部屋に入ってきた事にも気づかない位集中していたのだろうか、一応ノックはしたんだけど。
ゆっくりと上体を起こしてアイマスクを外した彼女の、ハイライトの無い灰色の瞳と目が合う。
それから、助け出した少女たちの事情を聞いた。あの後治療系の魔法少女や医療設備をフルで駆使したものの、体力の消耗が激しいらしく一度眠った後……まだ目を覚まさないらしい。もし先延ばしにしていたら危なかったかもしれない。
心配ではあるものの、此処から先に、私が彼女達に対して出来る事は無い。
私は最強ではあるが、全能であるとまでは過信していないので。
そして当然かもしれないが、工場の襲撃は相手に通達されているらしい。
まあ、普通気付くよな。自分とこの工場の施設が襲われたんだから。
警察が取り囲んでいるが、現代兵器の効かない兵隊を前に有効な手が取れていないらしい。まさかこの時代に全身鎧を見る事になるなんて。外敵の素材で作ったのだろう、マジで国1つ落とすのかと言わんばかりの戦力だった。
「ごめんね、先走っちゃった」
「……大丈夫。それでも、予想の範囲内」
初めから行き当たりばったりで行動したのは、どうやら予想の内だったらしい。
流石は我が魔法協会のブレインと言うべきだろうか、よく私の事を分かっている。
取りあえずミーティングをするだろうし他の2人をと思って呼びに行こうとした所で……腕を掴まれ引き止められる。あまり人と触れ合いたがらない彼女にしては、酷く珍しい事だ。
「……今は、必要ない」
「良いけど、なんで?」
「本当に変わった、ね。他の子の、お陰?」
「そんな事は無いと思うけど、急にどしたの?」
珍しく、彼女の灰色の瞳が動揺で揺れている。
そんな私の考えを呼んだのか、彼女の視線は手元の資料に移る。
「今までの貴方なら、一人で行ってた」
「いやぁ、流石に……流石にそんな事は無いと思うよ?」
とは言ったものの、一昔前の私なら……どうだろう。自分一人で出来るからと、突っ走っていた可能性も無くはない。いや、恐らくは一人で行っていただろう。
別に今も、極論で言えば私一人でどうにかはなるとは思っているけど……他の子が居れば、もっと被害が少なくて済むし、救える人も増えるだろうと思って。
「信頼、してるんだ」
「確かにそうなのかも」
「……本当に変わった、ね?」
何か間違えただろうか、心無しか何時もより落ち込んでいるように見える。それとも、痛ましい少女達の状態に心を痛めているのだろうか。
「あっ、もしかして人と居るの疲れた?」
彼女はその魔法と性質上、人と居ることが大きなストレスに繋がりやすい。だがそんな心配は無用だったらしい。
「……大丈夫、もう慣れたから」
慣れる……ものなのだろうか、私には人の心を読むなんてことは出来やしないけど。
「……事態は、動いてる。ミーティングをするから、2人を呼んでくるね」
状況は待ってはくれない、時計の針は進み続けている。
部屋で流れ続けているニュースでは神凪グループの本社を上空からヘリが映していた。
見上げると首が痛くなりそうな高さの、神凪グループの本社ビル。広大な敷地の中に建てられたそれは、今や警察に包囲されているものの……突入出来てすらいないのが現状だった。
PMCが外敵の素材で作られた装備で武装している。だから私達魔法少女か、同じ外敵の素材で作られた装備で戦うしかないものの、警察側にはその数が無い。
このビルと敷地を破壊するだけなら数秒あれば出来る。そう出来ないのには、そのビルの中に魔法少女や無関係の社員が複数いるからだ。報道のヘリが回っている前でそれは流石に不味い。回ってなくてもやらないとは思うけど。
今回の作戦に魔法少女協会は、本部勤めを含めた殆どの魔法少女を動員している。魔法少女を守るという大義を通すために、威信をかけてこの作戦に臨んでいる。
「それじゃ突入は私達で。手筈通りいこっか?」
予めブリーフィングで話した通りの作戦を開始する。まあ基本的に工場でやった奴の焼き増しだから、あまり語る事は無いんだけど。強い技は対策されるまで擦れとは、良い言葉だと思う。
ビル中にある監視カメラを眺めていると、上の言う通り魔法少女の4人組が侵入してくる。異常なのは、同じ見た目の人間が3組もいる事だ。
少々面食らったが、落ち着いてみるとそのどれもに熱源の反応は無い。つまりは3つともがフェイク。わざわざ工場の奴らの情報から対策を考えた甲斐があった。曰く、透明になれる手段があると。
急遽設置されたカメラは、何も無いはずの場所にくっきりと人型の熱源を感知していた。それはゆっくりと上階に向かっている。その情報を伝えるべく俺は、無線を───
熱源感知カメラ。
ビルの中の廊下に隠すように配置してあったそれは、あくまで光を屈折させて見せかけの虚像を見せるだけのグライシアに対して抜群に効果を発揮する。私達の使う魔法はあくまで魔法であり、(例外はあるが)万能の一手でも銀の弾丸でもない。
だから私達は上に向かった…………と思ってくれてそうだなぁ。
「ぜ―ッ……はァ……つっ……つっ……」
「お水いる? 凄い汗だけど」
「つっかれましたわ! 調節とか遠隔操作は!! 苦手ですのよ!!!」
「あんまり大きい声を出さないでよ、暑めのおねーさん」
カメラは氷面鏡で、サーモカメラは酷く手加減したブレイディアの魔法で騙す。こんなのでも魔法少女序列3位、これ位ならできる。ちなみにグライシアは氷面鏡を遠隔で同時に三桁数出せるとか出せないとか。その情報今出す必要あった?
今頃上階は来もしない魔法少女に対して守りを固めているだろう。大丈夫、後で行くから。
まずは地下に向かって人質に取られかねない魔法少女達を救出する。これが初めから私たちの目的である。どうやって地下にいるかを調べたのか、それはスクイレにしか分からないが……流石協会長という事なのだろう。
地下にあるやけに重厚そうな鉄の扉を開けた先。傷だらけの魔法少女達を初めて見たブレイディアは顔を青くしているし、他の面子も顔を顰めている。まあこればっかりは慣れるものでも無いだろうな、私もあまり気分が良くは無い。
部屋には工場で見た何かしらの武器と、洗脳装置らしきものが鎮座している。だが、工場にあるものよりも随分と小型化が進んでいて……ギリギリ持ち運べそうなサイズだった。
「それじゃあベルちゃんは応急処置お願い、ブレイディアは扉の前に立っててくれればいいよ」
「わかりました、サテライトおねーさん!」
「私の指示だけ、雑過ぎますわね!」
まあ、あれこれ言うより……位置だけ指定した方が強いし。あの火力を突破……以前に近づくことが出来ない。いくら外敵の装備で身を守っていようと、中身は人間だし……全身甲冑なんて最悪の相性だ、まず蒸し焼きになる。
「それじゃ行こうかグライシア。もう隠蔽の必要は無いよね?」
「えぇ、他に魔法少女は居なさそうですわね。後は消化試合……ですわね」
人質もいない以上、あとは適当に突っ込んで終わりだった。いくらダメージが通るとはいえ、流石に武器の数も質も違いすぎる。何より魔法に対しての対策もないのにどうして勝てると思ったのか。
ただ、最上階の社長室はもぬけの殻だった。もし、逃走までの時間稼ぎが目的だったのなら上手くやられたものだが……一先ずはこうして、神凪グループの大規模なテロとも言える暴挙は幕を閉じた。
少なくとも、この時はそう思っていた。
これで……終わりか。
警察や救急がビルへ入っていくのを横目に見ながら、そんな感想を抱いた。
「随分と……呆気なかったですわね」
「確かにそうだね、あの戦力で国を取れるとも思えないし。何がしたかったんだろうね」
確かに随分と呆気なかった、私達が強すぎたのもあるかもしれない。グループの社長である、神凪何某とやらは居なかったけど……上手く逃げ出したのだろう。そこは惜しいが、当初の目的である少女たちの救出は終わった。
ただ何故か……首元がチリつくような感覚が消えない。
何かを見落としているような、魚の小骨が喉に引っかかったような違和感。
〈我々は、魔法少女に頼り切りな……この歪な社会構造を変えるべきだと考えています〉
テレビで見た、会見の時の神凪何某の言葉を思い出す。手に入れた武器と洗脳器具で結局……何がしたかったんだ?
〈もう脅かされるだけの生活は終わりです〉
これは、外敵の事だと思っていた。だが、魔法少女を脅威と見ている? 脅威と言うのは、身を脅かされる事だけを指すわけではない。
魔法少女を傷つけられる最低限の装備と、持ち運べる洗脳装置。出払っていて、人のいない協会の本部。それらの点が少しずつ、線へと繋がっていく。
「魔法少女という権力の……頂点になり替わろうとしている?」
その結論が妙にしっくりと来た。温存していた魔法を使って空へと浮き上がる。私の考えは、もしもの話だ。違っていれば笑い話として、グライシアに足蹴にでもしてもらえば良い。だから、行くに越したことは無い。
「ちょっと、先に帰ってるから!」
「どっ、何処に行く気ですの!?」
「本部だよ、後の始末はお願い!」
もし、私の推測が正しかったとすれば……
敵の狙いは初めから───スクイレだ。
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