「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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24.言葉にしないと伝わらない事もあるんだが?

 次の日。目を覚ますと朝日が……と言う訳に今回はいかなかった。

 

 何せ事件が終わった後の後始末があるのだから。魔法少女協会の長である彼女からすれば、ここからが本来は本格的な仕事だった。あそこで楽になってしまう予定だったから、今後の事なんて何も考えられていない彼女は、困った様にサテライトの長い髪を指で梳く。

 

 

 二人分の体温で随分と暑くなった室内で、人形のような少女はベッドの匂いを一通り堪能した後に手錠を解いて思案に耽る。目下の問題は……

 

「……どうしよっか、な」

「あっ、ごめんなさい♡ごめんなさい♡」

 

 軽くトリップしかけているサテライトだ。流石にこの状態の彼女を置いて仕事には戻れない。汗やその他諸々で水分不足も怖いし……一旦正気に戻してからでは無いと、誰かが部屋を訪ねた時に不味い。彼女の心が壊れないように、覗きながらやっていたから問題は無いとは思うのだが……

 

「サテライト? 廃品(神凪)を警察に持っていかないと、いけない」

「許して、許してください……♡」

「…………少し、ギリギリを責め過ぎた?」

 

 このまま、彼女を一人占めしてずっと一緒に居るのも悪くは無いなと思う。でも、他の三人も彼女を捜しに来るだろう。それに、私にだって守らなきゃいけない娘達がいる。

 

()()()。起きて、私を見て?」

「はっ……はひっ? あっ、スクイレ……」

 

 彼女は無意識的に魔法少女の”サテライト”と、女子中学生の”星乃しずく”を住み分けている節がある。何時もえっちな妄想をしている時も、妄想の中に居るのはピンク色のコスチュームを着たサテライトだ。

 

 そうする事で、日常生活で友人に接する態度とその他を切り替えているのだろう。だからこうして名前を呼んであげると、意識を引き上げられるんだと思う。

 

 顔を赤くして肩を震わせているサテライトを見ていると、この続きをしたい気持ちが沸々と湧き上がってくるが……嫌われたくないし、時間も押しているから目に焼き付けるだけにする。私の人生において、こんなにも自分に完全記憶能力があって良かったと思った瞬間は無いだろう。

 

「とりあえず、お水」

「んっ、ありがと……」

 

 身体を動かすのに辛そうにしているサテライトを見ると、この続きをしたい気持ちが…………ダメだ、思考が堂々巡りだった。今は彼女の中に渦巻いている、羞恥と行為の余韻を楽しむだけに留めておこう。私の人生において、こんなにも読心魔法があって良かったと思った瞬間は無いだろう。

 

 あぁ、駄目だ。諦めていたものが直ぐ目の前にあって感情の整理がつけられない。私の魔法では自分の感情は分からない、分からないのだ。だから対処法も分からない。恐らくはきっと、幸せ……なのだろうけど。幸せ過ぎて困るなんて、人の感情と言うのはよく分からない。

 

 


 

 

 お水を飲んで上体を起こすと、頭がくらくらする。自尊心はもっとぐらぐらしている。あんな事があった後だというのに、スクイレは何時もと変わらないように……いや、少しだけ機嫌が良さそうに見える。

 

「お外、もう暗い……ね」

「警察行かなきゃだよね、送ってこうか」

「動ける、の?」

「ほら、友達の為なら逆境でも立ち上がれるタイプの魔法少女だから……私」

「格好良いけど、実情は情けない、ね?」

 

 腰が立たなくなっている理由が、情事のせいだとはとてもじゃないけど言い出せない。そしてラインでグライシアに連絡を取る事を忘れてはいけない(一敗)

 

 それと、自業自得とは言え、神凪……誰だっけ。

 

「神凪宗一郎、ね」

 

 そうだ、神凪何某を縛ってきたまま放置してきてしまった。花粉入りらしいアロマの残り香の残るあの場所に。脱水症状とか諸々起きてないと良いんだけど、あれでも事件の貴重な証人なわけだし。

 

「機密事項を、知られたから。記憶を……飛ばしてからかな」

 

 そんなことが出来るというのか、知らなかったんだけど。恐らくは所属している魔法少女の魔法なのだろうが……

 

「本人の安全性とかの観点で、教えられない。でもどうしてもって言うなら、サテライトなら……」

「いや、そこまで知りたい訳じゃないから規則を破ろうとしないで?」

 

 とんだ職権乱用もあるものだ、今更か? やはり世間の意見として、洗脳や記憶と言った魔法に対する差別は根強い。そんな彼女達の傘になれる、協会というデカい権力は偉大なんだなと思う。

 

 

 何処かに連絡をした後、スクイレの執務室へと向かうと……そこには縛られたままピクピクと痙攣している神凪何某が居た。端正な顔立ちの御曹司だったように見えたけど、こうなってしまっては形無しだな……

 

 


 

 

 結局、朦朧としたままの神凪何某はパトカーに連行されていくまで何も喋らず、フラフラと首を振って気色の悪い笑みを浮かべていた。

 

 さぞ楽しい夢を見ているのだろう、正気に戻った時には獄中だろうから落差で酷いことになりそうだけど。ショックで死なないと良いな、裁判が終わるまでは。

 

 SNSやニュースを見ると、この事件により魔法少女の地位や立場だけでなく……世論までもが有利な方向へと進んでいるようだった。やはり痛々しい少女達の様子が彼女達も同じ人間だと気づかせてくれたのだろう。

 

 

 とは言えひとつ疑問は残る。神凪の会見の時には黒幕が分かっていたと言うのなら、初めから本社に突撃すればよかったのではないかという事だ。心を読んだだけで証拠が無いと言っても、どの道突入する事には変わらないのだから。

 

「でも、1度目で証拠が、あったから。警察とマスコミも動いた、でしょ?」

「警察とマスコミを巻き込むのが目的だったって事? 世論を味方につける為だけに?」

 

 あの時ニュースの会見を見た時から、ここまでの絵図を描いていたというのか。だったとしたら……とんでもない事だ。

 

「魔法少女を守り導くのが、魔法少女協会……そして私の仕事」

 

 その上で、あの現場を見ればスクイレは神凪に『暗殺』されたように映る。

 

「その為には、魔法少女が全ての権力を握った方が都合が良い」

 

 魔法少女不要論を唱えていた神凪が、魔法少女協会の長を暗殺する。そんな事があれば、世論はどんな風に推移するだろうか。

 

「これが、一番合理的で、綺麗な着地点だったんだ、よ?」

 

 世論は過剰なまでの魔法少女主義に染まりかねない。不要論を唱えれば、神凪と同じような危険思想持ちだと取られかねないのだから。

 

 そして次の、協会の長として有力なのは……私か?

 

「楔になると思わなかったと、言えば嘘になる。でも」

 

 目尻が下がるのは、申し訳なさからか。確かに、堕ちる前の立場がデカければデカいだけ燃えるとは言え……デカくなり過ぎれば、私を負かした相手への報復が確実に行われる。

 

「幸せを掴んで欲しかったのは、本当だ、よ?」

 

 そう言った彼女が何処まで本気だったのか私には分からない。人の心を読めるのは、協会長であるスクイレだけなのだから。

 

 


 

 

 事件への対応をし終わった後。さも治外法権だと言わんばかりに、出頭もせずに部屋の片づけを始めたスクイレ。警察としても、色んな利権や法律が絡んで無理強いは出来ない。取り調べをするだけで、むしろ情報を抜かれてしまうのだ。

 

 そんな訳で十分に換気して、スクイレの部屋へと戻ってきた。流石にスクイレを一人にするのが怖くて、今日は彼女の部屋に泊まる事にする。その他諸々が終わったころには、時計は0時を回っていて私も歩いて帰る気にならなかったのもあるけど。

 

 ベッドへと腰を下ろすと、横からとても視線を感じる……なんて考えると、用があるのか急かしてるように取られちゃいそうだけど。急いでないし、別に焦らなくて良いからね。

 

「う、うん。こういう時。そういえば。何か、あげた方が良いんだよ、ね?」

「いや、そういう訳じゃないけど……」

 

 確かに今までは、淫紋とかチョーカーとかピアスとか色々貰ったんだった。淫紋はプレゼントと言うのにはちょっと怪しい所だけど。

 

 ただ、別に一夜を過ごしたからと言って、何かをあげなければいけない訳では無い。そんな事を考えていると、どうやら困り果ててしまったようで彼女の目線が右往左往している。

 

「…………私があげたいから、あげる」

「かっ、可愛い……」

 

 あんなに、色々あった後だというのに……プレゼントを渡したいけど、素直になりきれないから理由を捜しちゃうところも可愛いな。なんだかとっても庇護欲を擽られる。

 

「……ッ!? そういうの、いきなりは、やめて」

「うんうん、そうだね。今度一緒にお買物しようね」

「……サテライト、いじわるする」

 

 そんな彼女が恥じらいながらも差し出してきたのは、いつも使っていた見慣れたアイマスクだった。

 

「渡せる私物……これくらいしかなくて」

 

 人を見ると思考が流れ込んでくる彼女の、必需品であるアイマスク。

 

「このアイマスクって、大切な奴じゃないの?」

「もう少しだけ、世界を見てみようと思えたの。だから、私にはもう、必要ない」

 

 そこにはプレゼントしたいという気持ちと、これから先変わっていこうという彼女なりの決意が込められているのだろう。それなら私が遠慮をするのも違うと思ったので、受け取っておくことにする。

 

「他の子みたいに、ずっとじゃなくて良いの」

 

 スクイレが首元のチョーカーに触れて、それから耳元のピアスを撫でるように触る。

 

「だから、寝る時だけはつけて……私の事、思い出して欲しい」

 

 いっ、いじらしい……! 不覚にもキュンとしてしまった、これが母性と言う奴なのだろうか。

 

「あなたのためなら、赤ちゃんにでもなる、よ?」

「献身は嬉しいけど、それはちょっと特殊なプレイになっちゃうかな……」

 

 

 お風呂も済ませたし、後は寝るだけなのだが……結局、同じベッドで寝る事になった。私は別に椅子でも良いんだけど、そう言ったらスクイレも譲らなかったので。まあ、確かに二人とも身体がそんなに大きい訳じゃないし、別に問題ないんだけど。

 

 そうだ、早速だけどアイマスクを使わせてもらおうかな。

 

「使う時、洗ってからに、して」

「私は気にしないけど?」

「私が……気にする」

 

 折角もらったので、つけてみるとサイズ自体は丁度良い。無臭という訳では無いけど、でも殆ど体臭は感じない。すっきりとしたハーブ系の香り、恐らくはシャンプーかトリートメントの匂いだろう。スクイレ自身、あまり代謝が多い方では無さそうだし。

 

「あの、見えちゃう私が、悪いのかも、しれないけど。私が見ている事も、忘れないで……」

 

 抗議の意味を込めてか、アイマスクを取ろうと必死に手を伸ばす読心系無表情ロリだったが、残念ながら貰った以上はこれは私のモノだ。流石に不摂生気味の彼女にフィジカルで負ける訳がない。諦めたのか、ジト目を向けてきた彼女を横目に壁側へと身体を寄せる。

 

「読心系無表情ロリって、本人がいる前で、普通……考える?」

「的確でしょ?」

「そう言う問題じゃ……ない」

 

 流石に朝から色々な事があって眠気が限界だった。暖かいベッドにいると、直ぐに睡魔が襲ってくる。おっかなびっくりな様子で、背中に抱き着かれるけど……別に嫌じゃないし遠慮しなくてもいいのに。なんて考えていると、まるで抱き枕もするかのように腕を回される。

 

「……お願いが、ある」

「どしたの?」

 

 それから少しだけ時間が経って、何かを決心したかのように耳元で囁く彼女に思わずゾクリとする。小さくて、喋るのが得意ではなさそうだとは言え……声自体はかなり良いのだ。

 

「捨てないで、とは言わない、から。要らなくなったら、貴方の手で、終わらせて、ね?」

 

 その内容にもゾクリとする事になるとは思わなかったけど。少なくとも寝る前のお願いにしてはあまりにも、あまりにも過ぎる。あるよね、寝る前に色んな考え事が頭に浮かんじゃうことって。

 

「捨てたりしないよ、安心してお休み?」

「……ん。お休み」

 

 夜は更けていく、別に内心を覗かれているから眠れないなんて事は全くなかった。それが慣れなのか、精神的なモノなのかは分からないけど……ぐっすりと眠れたことだけはここに記しておく。

 

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