「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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4章『真夏の贈り物と小さな棘』
25.やっとスタートラインなんだが?


 突然だが、ご存じの通り私は自分のことが大好きだ。

 

 顔も、性格も、体型も、その性格までも……私を構成する全ての要素が自信をもって愛おしいと言い切れる。

 

 だけど自分の非はちゃんと認めるし、反省もする。それでも自分の事が大好きであるが故に、自己嫌悪に陥って精神的に不安定になって後々まで引き摺る……という事はあまりない。

 

 

 だから、こんなにも悩みすぎて胃腸がキリキリするくらい思いつめているのは……お母様に性癖の諸々をカミングアウトして揉めて以来だった。

 

「浮かない顔ねぇ、大丈夫?」

「大丈夫……じゃないけど、何時までも避けてはいられないからさ」

「そう、それじゃあ先に玄関で待ってるわね?」

 

 ショッキングピングの髪先をくるくると指で弄っているのは、私の家に居候している淫魔であるルクスだ。悩んでいる理由と言うのも、彼女についてなのだが。

 

 とは言え、何時までも引き延ばしていても仕方がない。私は自分の部屋を出て目的地へと向かおうとして……立ち止まる。

 

「もう少しだけ、鏡を見て精神を落ち着かせてから行こうかな」

 

 鏡に映る私は、今日も今日とて顔が良い。

 よし……どうとでもなる気がしてきた……!

 

 


 

 

 都心に、権力を示すかのように聳え立っている魔法少女協会の本部。その中にある。申請さえすれば誰でも使えるミーティングルームにて対峙するのは5人の少女達。

 

 扉は閉め切られており、この部屋での盗聴等を危惧してか……入念な荷物検査をしてから部屋へと入った私達。窓すら無いこの部屋は、私にとって逃げ場のない密室と化した。

 

 この部屋で平静を装っているのは、2人だけだった。その内の1人、いつも通りと言わんばかりに涼しい顔をして座っているスクイレは、時計を見てからいつものように呟く。

 

「定刻通り、これから会議を始める、ね」

「いや、会議するのは良いんですけども……」

「お姉さん、だぁれ?」

 

 一斉に2人の視線が、私の横に座る彼女へと注がれる。自然体のまま、こちらにウインクをしてから立ち上がる。

 

「淫魔の女王をしているルクスよ、今はサテライトちゃんのおうちに居候してるの♡」

 

 平然と。そう言い放った彼女に、思わずと言った様子で目元を抑えるグライシアと、口を開けたままポカンと固まったティンカーベル。無理も無いだろう、私も逆の立場だったら受け止め切れない。

 

 彼女のことを何時までも隠し通してはいられない。親しい人たちには、顔合わせをしておく必要がある。そう思って設定した会議ではあるものの……色々と説明しなければいけないと思うと胃が痛い。

 

「……協会長?」

「ん。知ってた、よ?」

「なっ、何で聞かれてないから答えなかっただけみたいな顔をしてますの!?」

「えっ、魔族の方……方で良いんですよね? 相互不干渉が限度って話じゃありませんでしたっけ?」

 

 困惑するのも無理は無い、人類と魔族の間に交流は無いのだから。あくまで『外敵』と違い人間界の侵攻に中立的・批判的なだけで、こちらの世界に馴染んでいる訳では無い。

 

「どういう事か、説明してくれますわよね。サテライト???」

「はっ、はい。不肖サテライト、説明させていただきます……!」

 

 胃がキリキリと痛い。求めてた痛みは、こういうのじゃないんだよなぁなんて。半ば現実逃避のような考えが頭に過ぎるくらいには、大分参っていたけど……ここまで来たらもう、なるようにしかならない。なるように……なれぇ……!

 

 


 

 

「……つまり、あの日の魔力反応の正体は彼女で」

「そうねぇ」

 

 グライシアの刺すような視線が痛い。

 

「行方不明になってたのもその人の所にいたからで……?」

「確かにいたわねぇ」

 

 ベルちゃんの困惑の視線が辛い。

 

「淫紋を、刻んだのも、彼女だ、よ?」

「間違いないわ?」

 

 静まり返った静寂が苦しい……!

 

 

 流石にわざと負けた『本当の理由』や、知られると不味い所までは話さなかったものの……こうして殆どの事情を話し終わったわけだ。

 

 まるで針の(むしろ)だった。責めてくれた方がまだ気が楽なくらい、居た堪れない。なるようになった結果が……これだよ。

 

「いっそ3カ月遅れのエイプリルフールと言ってくれた方が、まだ納得のできる状況ですわね……」

「あっ、あはは……」

 

 珍しくジョークを放ったグライシアと、素に戻って愛想笑いをするベルちゃん。仲の良くなかった彼女達が、私とルクスと言う共通の問題を前に同様に困り果てている。世界平和は此処にあったんだよね……バカか?

 

「まあ、サテライトの交友関係に私達が文句を言う筋合いも無いのですけど……バレたら事ですわよ?」

「本当はサテライトを、トップに据えてから。大々的に穏健派との交流を、表明する予定、だった」

「え”っ”、引退する予定だったんですか!?」

「…………聞かなかった事にしますわ」

 

 まあ引退どころじゃなかったんだけど……それは今回置いておこう。スクイレからしても、あまり率先して広めたい内容でも無いだろうし。

 

 弁明の余地も無い、今回の件は私が100悪い。あの時さっさと勝負を決めるなり、早く連絡するなりしていれば。もう少し事は大きくならなかっただろう。

 

 

 静まり返った会場で、考えがあると言わんばかりに口を開いたのはスクイレだった。

 

「彼女を、こちら側に引き込む事には、十分な利点が、ある」

「それは……一体どんな利点があるというんですの?」

 

 懐柔の方向性へと舵を切るらしかった。私とルクスから言えることは殆ど無い。私に至っては赦しを得る立場なのだから。

 

「簡単な、話。財閥の一人娘である、貴方の抱える……後継者問題が、解決する」

「流石にこんな大きな養子は……いえ、()()()()()ですの?」

「考えている、通り」

 

 後継者……? そう言う事……? 分かりそうで微妙に分からない、ルクスが居ることで、何が解決するというのか。

 

「本当にできるんですの?」

「出来るかって言うと……余裕ねぇ。まあ、ざっと思いつくのは3通りくらいかしらね?」

「そっ、そんなにあるんですの……!? 1つしか思いつきませんでしたけど」

 

 何か考え込むように考え事を始めたグライシアを横目に、スクイレはベルちゃんへと目を向ける。盲愛的なベルちゃんの事だから、黙っていた事は二つ返事で許してくれそうだが、ルクスに関しては……

 

「えぇ~? ベルはやっぱりさぁ───」

「……()()

「───良いんじゃないかなって思うよ!? ほら、魔族の人とも出来れば仲良くしたいじゃん!?」

 

 さっ、祭壇って一体……? どうしよう、さっきから話に全くついていけない。恐らくは高度な読み合いが発生しているのだろう。

 

 そも舌戦で協会長に勝つためには……スクイレの魔法名『思考解露』の対策が最低限必要なスタートラインである。

 

 その上で彼女は会話の全てを記憶しているのだ、小さな矛盾や弱みが大きな矛になる。会話と言う土台に上げた……会議と言う形を取った時点で、この場所は彼女の独壇場であったのだ。

 

「そして『外敵』の討伐の為、逆侵攻。穏健派・中立派の魔王を擁立して、この長い戦争に、幕を引く。十分なメリットがあると、踏んでる」

「それは随分大きく出たね♡」

「ただ、少し……残す」

「……そんなに爆弾を落とされると、流石に整理しきれませんわよ」

 

 既存の利権と、魔法少女の立場や必要性等を加味した上で残すという事だろう。ここだけなら私も理解は出来る、思いつくことは無かっただろうけど。良い感じに有耶無耶になっている、本当に助かった。

 

「まぁ、これまで辛酸を舐めさせられてきたから……上に立つというのは、私から否は無いわよ?」

「決まり。取り敢えずは、ここだけの話に、しておいて」

 

 なんとか会議を終えて、安心して深く息を吐く。もしルクスを討伐する話の流れになった時の為に、どうやったら三人を傷つけずに無力化できるかのシミュレートはなんとか役立てずに済んだ。

 

 流石に、彼女の生死に関わってくると、性癖とかそう言うのは後回しにしなければいけないと思う位には……ルクスの事を家族のように思ってるからさ……

 

「……人と話すの、疲れた。後で、なでなでを所望する」

「うん、いくらでも撫でてあげるから……本当に助かったよ……」

 

 なんか気が抜けてきた……折角だから皆で海とか行きたいな……うん。

 

「それと、サテライト?」

「ん~?」

「……後で、話がありますわ」

「う”ぇ”っ!?」

 

 ……当然のように、全然忘れてなかった。

 

 とりあえずはプレゼントを贈る事と、その他諸々を条件に何とか許してもらえたわけだ。まあ、貰ってばっかりだったし、私からプレゼントと言うのも間違ってはいない筈なんだけど……うん。

 

 何を贈ればいいのかさっぱり分からないんだけど、私なりに一生懸命選べばそれで良い……か?




25話目にしてようやく、ようやくヒロイン同士の道が交わった……
ここが、スタートラインという事なんですな
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