「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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26.ただの耳かきのはずなんだが?

 見渡す限りの肌色が眼前に広がっていた。

 

 

 細かったり、肉付きが良かったり。太ももだけ見ても、やはりかなり個性が出るというかなんと言うか。そんな中で、何故かグライシアに膝枕をされている美少女は……私だ。

 

「あっ、あの……グライシアさん?」

「怯えなくても、そこまで怒ってるわけじゃありませんから楽にしていいですわよ」

「あっ、そう……?」

「もっと早く教えて欲しかったとは思っていますけど」

「うぐっ、その……本当にごめんなさい」

 

 会議室の横にある休憩室と言う札がかけられたこの部屋は、今日が初対面の彼女達の顔合わせと親睦会の会場となっていた。言ってしまえば『友達の友達』みたいなものだから、すぐに仲良くというのも難しいと思うけど。

 

 そんな中で私は、グライシアの太ももの上へと頭を乗せていた。どうしてこんな事に……なんて言うほど、深い理由も無いんだけど。私の名誉のために言っておくと、私が何時もこんな事をしている訳でも、懇願したわけでも無いという事だけは伝えておく。

 

「ほっ、本当にこんな事で良かったの? ご褒美じゃない?」

「あら、私がしたい事をして良いんですわよね? なら、これでいいですわよ?」

 

 乳から声がする……なんて流石に失礼過ぎたが、本当に振り向くと視界の半分が乳で埋まる。私とグライシアは本当に同い年なのだろうか……?

 

 大きさで並び替えるとすれば、ルクス>グライシア>私>スクイレ≧ベルちゃんくらいのサイズ感だろうか。ルクスは流石は圧巻のサキュバスと言うべき肉付きだった。

 

「え~っ、ずるい! サテライト様、こっちも空いてますよ?」

「ダメですわ、これは私が勝ち取った正当な権利なのですわよ?」

 

 そう、先ほどの会議の後に課せられたいくつかの条件の内の一つがこれだ。親睦会の最中はグライシアの言う事を聞くというもの。聞いたときには一体皆の目がある中で何をされるのかと期待したものだったが、蓋を開けてみれば健全な膝枕だった。膝枕が健全かは置いておくとして。

 

 売店で買ってきたらしい、竹製の耳かきを取り出したグライシア。耳かきをして欲しいではなく、してあげたいというのはよく分からない。まあしてくれるという分には役得だし、私に選択権は無いんだけど。

 

「動くと危ないから、鼓膜が大事ならじっとしておくのですわよ?」

「はーい」

 

 そう言われると、動きたい気持ちが鎌首をもたげてくるが……彼女に消えないトラウマを刻んでしまいそうなので自重しよう。それにしても人に耳かきをしてもらうのって、こう考えると結構信頼が要るのかもしれない。

 

「あっ、気持ち良い……」

「へぇ、人間って進んでるのねぇ……」

 

 細い耳かきの先が、右耳にゆっくりと入ってくる。耳かきしてもらうなんて、小学生の時にお母様にしてもらって以来だろうか。されてみると……なるほどどうして、耳かきに専門店があるのも納得の気持ち良さだった。

 

「ん~何でもしていいって言われちゃうと……して欲しい事が沢山あって迷っちゃいますね!」

「いや、流石に常識の範疇でお願いするね?」

 

 流石に世界征服してほしいなんて言われたら困ってしまう、出来ないとは言わないけど。私の為に組織を作って献上してきた子の”なんでも”は、文字通り洒落にならない。

 

「……本当にすごい恰好ですわね」

「そうかしら? 私達サキュバスにとっては普通なのよねぇ」

「人間と、敵対的って訳じゃ、ないけど。文化や常識の違いは、擦り合わせが必要」

 

 確かに久しぶりにボンテージアーマーを着こなす彼女は、正しく想像してたサキュバスだった。微妙に見慣れていたから気にならなかったけど、こうして見ると……ちょっとエッチすぎるかもしれない。

 

 

 

 その後もされるがままに、皆の話す様子を見つめていた訳だが……当然ながら、あまり会話が弾んでいないと言うか、堅いというか。それもそのはず、種族も立場も違う彼女達の共通の話題と言えば私くらいしかないのだから。

 

 それで良い……とは思うものの、どうせなら友人同士には仲良くはしてもらいたい。完全に自己満足だけど、私がして欲しいからするのだ。それに…………あっ、そこめっちゃ良い。

 

「ほら、ベルちゃん。何か質問とかない?」

「えっ!? えっとぉ、ベル気になるんだけどぉ。サキュバスらしい事って例えば何が出来るの~?」

「ん~そうねぇ……こういうのはどうかしら?」

 

 そう言って指でハートを作ると、こちらに向ける彼女。あれは……最近流行りの指ハート……!? 誰が教えたんだ、流石にこっちの世界に浸かり過ぎじゃないだろうか。

 

魅了(チャーム)♡」

 

 フヨフヨと浮かぶピンク色のハートがゆっくりとこちらに向かってくる。私達の魔法と全く別の体系によって放たれた、正真正銘未知の魔法。それは、私に当たると弾けて消えた。

 

 戦闘中はこんな事をされた覚えは無いので、単純に手札を隠したいのか見た目を重視したのか……後者だろうな、そもスクイレに隠し事なんて出来ないし。

 

「お~? おぉ……なんかちょっと分かり辛くない? もっと派手なのは無いのぉ?」

「それじゃこういうのはどうかしら?」

 

 立ち上がったルクスがくるりと回って一瞬光ると……角と羽が消えて、身に纏っていた衣装もダサめのTシャツへと変化していた。早着替えと言うにはあまりにも早すぎるし、身体すら変わっている。

 

「そっ、そんなピンポイントな魔法がありますの!?」

「相手の嗜好に合わせて身体を変化させる魔法の応用よ?」

「他の人に使えたりするのぉ?」

「出来るけど、半日が限度かしらねぇ」

 

 ぬいぐるみになったりしていたのは、あの魔法の応用なのかな。それとも別の物なのか。これ以外にも、幾つか使える魔法は知ってるけど……奥義がバスターなのだけは納得が出来ない。

 

「そっかぁ、サテライト様はお胸は大きい方が好きですか?」

「わっ、私? 私は……そうだなぁ……」

 

 唐突に私に振られた質問、なんとなくここで答えを間違えてはいけない気がする。

 

 そうだな、確かに大きなお胸に憧れる気持ちが無い訳では無い。だがしかし、私の完璧なスタイルにこれ以上の胸は不要だろう。

 

 月並みな意見だけど、誰のものなのかが重要なのかもしれない。小さい胸にはまた別の良さがあると思うし、そもそも私は飼ってくれるなら相手が人間じゃなくても良いくらいには雑食だった訳だし。

 

「きっと大きさにね……貴賤は無いんだよ」

「そっ、そっかぁ……?」

 

 満足のいくものだったのかは分からないけど、納得はしてくれたらしい。逆側の耳を向ける為にクルリと頭を回すと……お腹に顔を埋める形になったわけだが、まあ良いか。

 

「私としては、スクイレちゃんの魔法の方が興味深いけどねぇ?」

「想像している程、便利なモノじゃ、ないよ」

「へぇ。考えてる事と会話するって言うのも、中々珍しい感覚ね?」

 

 そんな話が繰り広げられているのを横目に聞きながら、心地良くて眠くなり始めた頃。突如として『それ』は起きた。耳元へと、竹製の耳かきがゆっくりと入ってきて───

 

「───ッ!?」

「ちょっと、動かれると擽ったいんですわよ」

「えっ? だって、えっ? なんで、耳がこんな……?」

 

 耳を抑える指の感触が先ほどよりもくっきりと感じられる。耳の内壁に耳かきが触れると思わず体が跳ねる。ただ、耳を触られているだけなのに……何故か凄くエッチな気分になってしまう。

 

「なんで、こんな……」

「痛かったんですの?」

「いや、痛くは無くて……むしろ気持ち良いんだけど……♡」

 

 原因と言えば、さっきのハートか? だけど、なんでこんな事に……

 

<へぇ、人間って進んでるのねぇ……>

 

 何となく流してしまっていたけど、もしかしてルクスは『気持ち良い』の意味を履き違えて無いか? 気持ち良いって、そう言う意味じゃ───ないっ!?

 

「ちょ、ちょっと一回ストッ───!?」

 

 ズボリ、と耳の奥に突っ込まれた刺激でその先の言葉は声にならず掻き消えた。今身体を動かせば本当に鼓膜が傷つきかねないし、体勢のせいで周りの様子も分からない。

 

 もしかして、ルクスはずっとエッチな事をしながら話し合いをしているとでも思っていたのだろうか。あまりにも、あまりにも文化の違いが過ぎる……! 人間は、エッチな事をしながら雑談は……しない……!

 

「はっ、はぁっ……♡」

「恥ずかしいので、あまり匂いは嗅がないでほしいのですけど?」

 

 違う、息が上手く吸えていないだけで。スクイレは声を掛けてはくれない、ナチュラルにこの状況を愉しんでいる節がある。こんな所でまで堕とそうとしないでもいいのに……!

 

「もう少しで奥にある大きいのがとれそうなのですわ、少しジッとしていてくださる?」

「あっ、それ以上はちょっと本当に……♡」

 

 これ以上……奥? 冗談じゃ、ない。皆が見てる中で、醜態を晒すなんてとんでもない。きっと後ろでスクイレもベルちゃんもルクスもこっちを見ているのに。耳を触れられてるだけでおかしくなりそうなのに、これ以上は絶対ダメだ。

 

「待っ……ムグッ!?」

「動くと本当に危ないんですわよ」

 

 太ももとお胸でサンドされて、身動きが出来ない。甘い匂いが肺いっぱいに広がって、頭が刺激に回らなくなっていく。駄目だ、こんな所でそんな事になれば私の人生──────終わる?

 

「───あっ♡」

「へぇ、そういうのも、あるんだ、ね」

 

 そんな状況なのに、いや……だからこそ身体と本能がどうしようもなくこの状況を求めてしまっていた。奥を見る為に広げようと添えられたのであろう指が、まるで愛撫のように感じる。

 

 最早、耳を見られる事すら恥ずかしい事な気がしてきた。どうしよう、こんなんじゃ街中を出歩くだけで……だけで……♡

 

「じゃあ、取りますわね?」

「まっ……あ、あっ♡───ッ♡」

 

 細かく震える身体。足がピンと伸びきって、頭が真っ白になる。

 

 でも、これで終わり。何か忘れているような気もするけど、これで終わりだ。

 

「……はーっ、はぁっ♡あの、グライシア……? お手洗い行きたいから離し……」

「こっち側、梵天って言うんですわよね。フワフワしてて気持ち良いですわよね……」

 

 待って。そんな、敏感になったばかりの耳にそんなモノ当てたら───

 

 

 

 

 

 

 

 一つだけ、今日分かった。

 人間と淫魔の異文化交流は、思ったより大変なのかもしれない。

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