「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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27.限界オタクとご本人なんだが?前編

 何時ものように学校に向かう道すがら、いつものように近所という訳でも無いのに家の前で待っていたクロエちゃんと学校に向かう最中の出来事だった。

 

「何を聞いてるんですの?」

「何も聞いてないよ?」

「じゃあなんでヘッドセットなんてつけて登校を……?」

 

 クロエちゃんの疑問も当然のモノだが……これには山より低く海より高い理由があるのだ。

 

「いっ、いやさ……お耳見られるのって、恥ずかしくない?」

「……急にどうしたんですの?」

 

 どうしたって、会議の後の親睦会であんな事が……とは言い出せない。クロエちゃんからすれば、普通に耳かきをしていただけなのだから。あの場で気づいていたのはルクスとスクイレくらいのものだろう。

 

 あんな風になってたけど、誤魔化せて……たよな、誤魔化せてたと信じたい。あの日の事を思い出すと、顔から火が出そうだった。それに顔を埋めていたせいで、変な癖がつきそうだし。別に私は断じて匂いフェチでは無い。ないったらないのだ。

 

「別にいいですけども、授業中は外すんですのよ?」

「えっ、脱がしたいってコト……!? クロエちゃんってば大胆……」

「……本当に脱がしますわよ?」

 

 何を、とは聞けなかった。洒落にならない事になりそうだったので、平謝りをしておく。そんな他愛のない……? 会話をしつつも、学校へと向かう。

 

 今日は……放課後は予定がある。貰ってばかりだった私が、プレゼントを返す番だ。ルクスのはプレゼントと言って良いのか疑問だが、彼女だけ省くのも可哀想なので一緒に選ぶことにした。その第1弾を今日……用意するのだ。

 

 

 何をプレゼントすればいいのかはとても迷った。そしてベルちゃんに渡す物を何とか考え付いた。その中で、一番プレゼントしやすかったのが彼女と言うだけで、渡す順番に別に深い意味は無い。

 

 何と言ってもサテライトの大のファンである彼女なら、私関連のグッズなら何でも嬉しいのではないかと思いついたのだ。だが大抵のグッズは持っている可能性がある。故に……これだ。

 

 コート紙にでっかく笑顔のサテライトが載った、特別な写真集。なんと、わざわざスタジオを用意してカメラマンを呼んで作った私の写真集なのだ。勿論持っている品と被りようがない、世界に一つしかないのだから。

 

 一応、参考までに聞いたクロエちゃんに「自分の写真をプレゼントにするなんて正気じゃありませんわ!?」なんて言われたけど、需要と供給があるんだからそれで良いだろう。少なくとも需要はある訳だし。

 

 ちょっと気分が乗りすぎて際どいシーンが増えてしまったような気もするが、R15の範疇に……待って、ベルちゃんって何歳だ? まっ、まあ良いか……ジュニアアイドルも写真集出してるくらいだし。

 

 推しが自分の為に写真集を作ってくれたなんて、それはもう喜んでくれるに違いない。プレゼントを考えろと言われた時には頭を悩ませたものだが、考え始めると楽しくなってきてしまって……つい興が乗りすぎてしまった。

 

「あっ、ベルちゃんに連絡取ろうと思ったけど流石にこの時間は迷惑かな?」

 

 モノが出来て、明日あたり会えないかの連絡を取ろうと思ったけど、電話するのには少し躊躇がいる時間だった。あの子の事だから私からの連絡なんて何時でも嬉しいかもしれないが、彼女にも生活があるだろう。

 

 こういう時LINEがあると便利なんだけど。連絡先……電話しかないのもちょっと不便かなと思って、少し迷う。

 

 でも、LINEのプロフィール本名だし、画像は私の後ろ姿なんだよなぁ……変えても良いけど、クラスの皆がきっと残念がるに違いない。

 

 まあ、ここからベルちゃんが急に寝返って、敵対組織に私の情報を流すようなことは天がひっくり返っても無いだろうし渡しちゃってもいいか。むしろ、天がひっくり返ったら真っ先に私の安否を気にしそうな娘だし。

 

 そう思って次の日の朝に、LINEを教えたのが間違いだったのかもしれない。おはようとお休みは毎日欠かさず来るのはまぁ良い、1時間毎に連絡来るくらいは構えてたから。でもあの子、私の連絡に毎回1分以内に返すんだもん。ちょっと怖いよ。

 

 

 そして何時会えるかを聞いたら、「何時でも開けます」と帰ってきた。忠誠心が怖いよ、もう少し自分のプライベートも優先してくれ。

 

 


 

 

 その週の土日にベルちゃんと出会う事になった訳だが、彼女のLINEも当然のように本名だった。LINEのアドレス交換はまぁ、仲の良い魔法少女同士の通過儀礼みたいなところがあるから、他の子達も同じような悩みを抱えてるんだろうけど。

 

 でもさ、だからって……

 

「初めて会うのが自分の家ってのも、肝が座りすぎじゃない?」

 

 ベルちゃんに何処で会おうか聞いたら、彼女の家らしき場所の住所が送られてきたのだから驚きだ。現代っ子だからなのか、彼女のネットリテラシーが特別低いのか分からないけどさ。こういう場合は、普通イオンとかじゃない?

 

 

 赤い屋根の一軒家の前でこっちを見てニコニコとしながら待っていたのは、見覚えのある薄い緑色の髪の女の子。ここまで来て場所を間違えた……と言う可能性は完全に潰えた。

 

「さっ、サテラ……!」

「あまねちゃん、変身してない時に魔法少女名で呼ぶのは良くないよね?」

 

 朝の住宅街だし、誰が聞いているかも分からない。こんな所で身バレのリスクを背覆いたくはなかった。

 

「ほっ、星乃さん?」

「遠くない?」

 

 女子同士で苗字呼びはかなり距離を感じる気がする、うちの中学だけかもしれないけど。

 

「しっ、しずく……様?」

「……様は流石に要らないよ?」

 

 こんな小さな子に様付けで呼ばせてる中学生、とんでもない噂が立ちそうだった。

 

「しっ、しず…………やっぱ無理ですッ!」

「あっ、ちょっと待って……」

 

 そう言って玄関のドアを開けて中に入って行ってしまった彼女を追って、家へと入ったはいいものの……

 

「呼び捨てで呼ぶのって、そんなにハードル高いかなぁ……?」

 

 家には呼べて、名前は呼べないって感覚はよく分かんないよなぁ……

 

 

 

 プレゼント以外に、菓子折りを持ってきたは良いものの……問題は、彼女の御両親にどう挨拶するかだ。同じ中学という訳でもない所か……彼女が通っているのは本当に小学校だったのだから。どういう関係性なんだよ。

 

「いつも、あまねがお世話になっております」

「こちらこそ……これ、つまらないものですが」

「わざわざありがとうねぇ」

 

 ご両親と顔を合わせると、申し訳ない気持ちが溢れる。お宅の娘さんに悪い遊びを教えてるのは、間違いなく私です。

 

「あまねとは、何処で知り合ったの?」

「私も、魔法少女のサテライトが好きでして」

「あぁ、成程……」

 

 納得と言った様子で頭を縦に振るご両親。私もサテライト(私の事)は好きだし、嘘は言ってない。家族公認で推してるのか、大ファンじゃん。

 

 

 二階にあるという彼女の部屋に入った第一印象は、『私』だった。

 

 ベルちゃん改め、あまねちゃんの部屋には魔法少女サテライトのグッズが所狭しと並べられている。コラボPCとか決して安くないグッズもあるのに、これだけ揃えられているのは魔法少女が実力があれば儲かるからだろう。もしくはご両親が激甘なのか。

 

「ほっ、本当にサテライト様が……私の部屋に……!」

「はいはーい、お邪魔してるよ?」

 

 当然かもしれないが、ファンの人のお部屋に入るのなんて初めてだから中々に面白い。ただ、パンツの見えるタイプのフィギュアを飾ってるのは流石に将来有望が過ぎる。あれは一応非公式グッズなんだけどな……存在自体は認知してたけど、別にエロ売りはしてないので。

 

「まさか、本屋であった『綺麗なおねーさん』がサテライト様だったなんて……」

「私は知ってたけど、流石にそれを言う訳にもいかないからね」

「プライベートでも優しいなんて……感激です!」

 

 偶々小さい子が私のファンだったから順番を譲っただけなんだけど、夢を壊す必要も無いので黙っておく。私と言う人間は、どうしようもなく区別主義だった。

 

「改めてだけど、自己紹介しようか。私は星乃しずくだよ」

「夕方の夕に、霧吹きの霧で夕霧あまねです!」

 

 早速だが、そんな彼女に今回のメインであるプレゼントを渡す事にした。何となく今を逃すと、渡すタイミングが無くなりそうだったので。

 

「これ、プレゼント〜! 神棚とかに飾られそうだったから保存用、布教用、読む用に3冊刷って来たから」

「これは……えっ、私の知らないサテライト様の写真集? 何処で買ってきて……」

 

 思った通りの反応をしてくれて嬉しい、プレゼントのし甲斐があるというものだよね。

 

「非売品だから、売ったりしないでね?」

「えっ、つまりその……!」

 

 ただ、実はこの写真集は完成してなくて。最後に一手間加える予定だった。

 

「お名前は、どうすればいいかな?」

「あっ、えっと……!? あまね、あまねでお願いします!」

 

 慣れた手つきで、サインペンを走らせる。直筆サイン……ファンの子は好きだよね、私にはよく分からないけど。名前を入れてあげると皆喜ぶからやってるけど、推しが居ない私には実はよく分からない。

 

「はいっ、どうぞ?」

「あっ、あっ……」

 

 手を差し出したまま、一向に受け取る様子のないあまねちゃん。まるで現実を受け入れられていないような、そんな表情だった。一緒に夜を共にした仲だと言うのに、キャラを作っていない限界がこのあたりなのだろうか。

 

「むっ、無理っ……推しが……キャパオーバーですっ!?」

「あっ」

 

 後頭部からベッドへと倒れ込み、動かなくなるあまねちゃん。喜んでもらえてそうなのは嬉しいけど、少々やりすぎてしまったらしい。




後編へ続く
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