「こ、こんなかわいい私に本当に何もしないなんて流石に据え膳でしょ!?」
あれから鎖を解いてもらい(不服)、特に何をされる訳でも無く可愛らしい部屋に案内された私。この淫紋の説明こそあったものの、それ以外は私の好きな事や食べ物といった日常的なモノから、好きなタイプや趣味と言った趣向的なモノ、そして困りごとが無いかと言った話しかしていない。他愛のない雑談というか、お見合いと言うか……お世話と言うか。そんな話しかしていないのである。
私が案内された部屋には何故か人間界の情報が映るテレビも冷蔵庫もあるし、ゲームもある。私が暇にならないようにわざわざ用意してくれたのだろうけど……下手をしなくても家の部屋より大きすぎて少しだけ居心地が悪い。そんな時トントンとドアをノックする音が部屋に響く。
「入ってもいいかしら?」
「はっ、はい……大丈夫ですよ?」
上擦りかけていた声を何とかいつもの優等生のそれへと戻してから返事をする。わざわざノックをして部屋に入ってきた、救急箱らしきものを持ったサキュバスの彼女。この場所も彼女のものだから勝手に入ってくればいいのに、わざわざノックと確認をしてから入ってくるのは律儀と言うかなんと言うか……こんな優しい人に責めてくださいだなんて、猶更言い出しづらい。
「その、
「……大丈夫ですけど」
私の魔法も回復魔法みたいなことが出来る訳じゃないので、自然治癒に任せるしかない。それにしても、鳩尾の怪我に気づかれているという事はつまり……
「私のあの技の発動を止める為に、自ら意識を失うなんて……流石はサテライトね♡」
「ちっ、違っ……!」
「あら、隠さなくてもいいのよ?そうでなきゃあんな事をする必要が無いもの」
そういって薬らしきものを塗った後、愛おしそうに私の鳩尾の周りを撫でる彼女の指先と尊敬の視線がくすぐったい。それにしてもどんどんと本当の事が言い出し辛くなっていく。私はどんな態度と心持ちで、彼女と接すればいいのだろうか。
「あなたは……」
「ルクス・ルクスリア」
「えっ?」
「私の名前よ。私だけが一方的に名前を知ってるのも狡いかと思って」
そう言って恥ずかしそうに笑ったルクスちゃんが眩しい、あまりにも眩しすぎるよ……もう邪な気持ちを向けていた事実が情けなさ過ぎて消えたくなってきた。先生、私死にたいんですよ。いや、まあ死なないけど。
とはいえこれからどうしようか、ここから彼女が豹変して襲われるヴィジョンが全くと言って良い程見えない。脱走防止の為のお腹の文様は、ルクスなりに私がここを出ていけば……戻ってこない事を理解してのモノなのだろう。申し訳ないが、私もそう簡単に自分の信念を曲げるつもりもない。
「ご飯の用意をしてくるわ、苦手なものはあるかしら?」
「いえ、特にはないですけど……」
「腕によりをかけて作るわ、楽しみにしていて頂戴?」
そう言って部屋を出ていくルクス。ここを黙って出ていくことは出来ると思う、でもそれは彼女の告白を無視して……勇気と覚悟を踏み躙るような行為だ。素の私を見せれば幻滅してくれるかもしれないけど、夢を壊すようなものだし……駄目だ、色んな事がありすぎて頭が回らないや。
「つっかれたなぁ……」
少し行儀は悪いが、身の着のままでベッドに突っ伏す。静かになった広い部屋では、大きな魔力反応があったとか、魔物が増加傾向にあるだとか……そんなニュースが流れていた。
そう言えば皆はどうしてるかな、何も言わずに居なくなっちゃったけど……まあこうなった時の為の準備もしていたし大丈夫だろう。
魔王とかいう親玉も倒したし、後の事はどうにかしてくれると思う。私以外にも優秀な魔法少女は多いし、何といってもグライシアちゃんもいるしね。急に黙っていなくなった事はあれだけど、クロエちゃんは他に友達も多いし、芯の強い娘だからきっと立ち直ってくれるだろう。
彼女の悲しむ顔を想像すると、心がチクリと痛む。何時かは来る別れではあったけど、私の夢の為には必要な事だったので赦して欲しい。まあ、今回は失敗に終わったわけだが。1日や2日でどうにかなる訳が無い……よね?
だから何も心配はいらないよね?何か忘れていた気もするけど、忘れるってことは大したことじゃないんだろう。そんな悩みとは裏腹に疲労から来る睡魔が押し寄せる。寝不足はお肌に悪いのだ、枕が変わっても眠れるタイプの私は、それに抗うことなく意識を手放した。
飾り気のない部屋と、隅に積まれた資料。まるで生活感のない大理石の床のその奥には、まるで人形のような少女が椅子の上に鎮座していた。何もかもが退屈で、何もかもを諦めたような……そんな色の無い目をした、浮世離れした雰囲気の少女。それが人形だと言われれば、信じてしまいそうな見た目。
「呼び出しに応じてくれた事を感謝する、グライシア」
「忙しいから用件は手短にしてくださるかしら、スクイレ
彼女こそがわたくしをわざわざここに呼び出した魔法少女にして、魔法少女協会の長……魔法少女スクイレだった。
本心を言えば、今もきっとどこかで一人戦っているサテライトを捜しにいきたい。だからわたくしには
「分析、十分な睡眠を取れていないと推測」
「馬鹿にしてるんでしたら帰ってもよろしくて?」
そんな見え見えで分かり切ったことを言われたもので、苛立ちのあまり語尾が強くなってしまった。当たり前だろう、あの子が頑張ってるというのにわたくしだけがのうのうと睡眠をとるなんて……ありえる訳が無い。
「あれから
「それ以上口を開いてみなさい。いくらあなたが協会の長と言えど……容赦はしませんわよ」
何時でも魔法を撃てるように、そして何よりその事を示すためにステッキを向ける。
「……そう」
一切の感情が読めない目で、ゆっくりと呟いた彼女。こんな状況でも焦りも、怯えすら見せない無機質な瞳がわたくしを見つめている。そもそも彼女相手に心理戦を仕掛けようと思うこと自体が阿呆らしい事だった。こんな場所で無駄にしていい時間なんてない、早く本題に入ってほしい。
「彼女は、貴方が傷つく事は望んでない」
「分かったような口を……!」
いの一番に『待機』の命令を出しておいて、自分は安全な椅子の上で悠々と待っておきながら……『彼女』の事を分かっているような口で、その様な事を宣うのか。
「……貴方には好きにする権利がある」
「言われなくても理解していますわ、それでは急ぐので」
退出の際に、疲労からか苛立ちからか上手く力加減が出来ずに乱暴にドアを閉めた音は……寝不足の頭に響いて痛んだ。分かっている、彼女が自分の為に誰かが傷つくような事を望んではいない事なんて。
―――でも、それならあなたの事は誰が守るというんですの?
最強の魔法少女でも、高嶺の花の優等生でも……あなたはわたくしと同じ中学生でしかないというのに。誰もが『最強』の犠牲の上に成り立っていた平和に胡坐をかいていただけ。このまま終わりだなんて、絶対に認めない……認められるはずがない。
「わたくしは絶対に諦めませんわ……」
きっと、何時も通りの笑顔を彼女が見せてくれるであろう望みは無い事なんて頭の片隅では分かってはいた。
「だからあなたもどうか……諦めないでしずく……!」
例え貴方がどれほど変わり果てた姿で帰って来たとしても、帰ってきてさえくれれば。
わたくしはそれだけで……
次回「お約束なんかに負けないが?」
誰も覚えてなんて無いんだが?
魅力的だなと思ったシーンは何処ですか?
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キャラの掛け合い
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戦闘描写
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えちちなシーン
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地の文・心情
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その他(よければ感想まで)