「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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直崎ゆきふり 様よりスクイレのファンアートを頂きました!!!
今度は私室のスクイレです……可愛い……

【挿絵表示】


そんな彼女が今回の主役です、よければご査収ください。


29.お買い物の日なんだが?前編

 人の喧騒で満たされている休日のショッピングモール。その中でも、特別に人でごった返しているフードコートは、休日と立地も相まって学生が多い。世間の学生は夏休み期間に入ったからだろう、かくいう私の中学校も休みで、休日を満喫している。

 

 今日の私のコーデはオーバーサイズのシャツでややラフさを意識している。それはTPOに合わせたモノとも言えるし、単純に私の気分でもある。そんな訳で今日は色々と買い物に来たのだが……私の物を買いに来た訳ではない。

 

 そも、ショッピングモールで初手フードコートに行くような時間帯でも無いのに、こうして待っているのは……待ち合わせをしていたからに他ならない。

 

 見覚えのある灰色の長髪の姿を見かける。どうやら彼女は、変身時に髪色が変わるタイプの魔法少女ではないらしい。初めて会うから恐らく……という但し書きが付くけど。こちらに向けて一直線に向かってくるあたり、人違いと言う線は無いのだろう。

 

「……お待たせ。待った?」

「いや、今来た所だよ」

 

 事実だ、現にここについてから5分も経っていない。

 

 本当は協会まで迎えに行っても良かったのだが、珍しい事に外で待ち合わせをしてみたいと言うのでこうして普通の学生のように待ち合わせをしている。

 

「とりあえず、服から見にいこっか」

「……別に、貰った分で間に合ってる、よ?」

 

 そういう訳にもいかないだろう。何せ、数日前までスクイレは……

 

「服を買いに行くための服が無いなんて……年頃の女の子としては死活問題じゃない?」

「……必要、無かった」

 

 まるで流れのような人混みの中を歩く。以前までは考えられなかった事だが、協会本部の襲撃を受けてあの部屋の安全性がとか、権利がどうとかでこうして自由に歩き回れるようになったらしいスクイレ。国のお偉いさんや探られると痛い腹を持っている人からすれば溜まったものでは無いかもしれないが、そんな事は私達の知った所ではない。

 

「具合は悪くない? 人もやっぱ多いし」

「……良くは、ない。でも、想像してるよりはずっと大丈夫だ、よ?」

 

 やはり体調はあまり良くは無さそうだった。当然ながら、通りすがる全ての人の思考が流れ組んでくる……と言う状態なのだろう。雑にどうでもいい情報が際限なく流れ込んでくる、私だったら普通に出歩きたくない。

 

「近くに居てくれる? それで少し、マシになる」

「あえて魔法の矛先を私一人に集中させるってこと?」

「そういう、こと。少し覗きすぎたら、ごめん……ね?」

 

 別にそれ位なら全然問題は無い。そもそも今日の外出も私のエゴ……と言うより、プレゼントの為に連れ歩きまわしているようなものだし。

 

 手を繋いでショッピングモールを歩く姿は、仲のいい友人のようにしか見えない。少なくとも、この場に、魔法少女たちのトップと長が居るとは誰も思いもしないだろう。

 

「スク……」

「高宮ちなつ。ちなつで、良いよ。私だけ知ってるのも、不公平……でしょ?」

 

 確かに、考えを読める彼女には私の名前は初めから分かってはいたのだろう。それでも本名で呼ぶ事が無かったのは、常に変身した状態で会って来たからであって……彼女の配慮によるものなのだろう。実は普通にお出かけに行くのは初めてだったりする。

 

「それじゃ行こっか、なっちゃん!」

「なっ……!? うっ、うん。行こう……しずく」

 

 夏の暑さはクーラーが効いている室内ではさほど気にならない。ひんやりとしたちなつちゃんの手を取って目的地へと歩き出す。買うものが多くて実は意外と時間がギリギリなのだ。お昼までに洋服だけでも見ておきたい。

 


 

 私がスクイレ……ちなつちゃんに送るプレゼントは迷ったけど、『私物』という事にした。というのも、彼女にはあまりにも私物が少ないのだ。部屋は簡素だし、服もあまりない。と言うより、殆どの時間を魔法少女に変身しながら過ごしている。

 

 流石にこれはあんまりでは無いかと思う。必要性だとか、そう言う事じゃあないのだ。今回私が考えたプレゼント及びミッションは『あまりにも簡素な部屋を私色に染める』……そう言う事だ。や、別に私のグッズを置かせるとかそういうんじゃないけど。

 

 イーオンは素晴らしい、服から家具……そして日用品に嗜好品まで何でも揃う。一日で色々と集めるのには、間違いなくここしかないだろう。明日は明日で、私も数日後に迫った『あれ』の準備をしなくてはいけない訳だし。

 

「良いね、良いねぇ! じゃあ次はこれとこれと……」

「まっ、待って……そんなに沢山、いらない、よ?」

「全部買う訳じゃないから大丈夫、試着してるだけだから。ほら次行こ?」

 

 荷物はまとめて宅配サービスを使えば良いから、後の事を考えず好きに買える。自分の服を選ぶのも好きだけど、人の服を選ぶのもこれまた楽しいんだよねぇ……私を着せ替え人形にしてきたクロエちゃんの事を思い出すが、人は人。私は私なのだ。

 

「ゴシック・アンド・ロリータは似合うと思ってたんだよねぇ……」

「こっ、これを着て……どこに、いけば、いいの?」

 

 初対面の時に思った、人形のようなイメージに恐ろしいくらいに似合う黒を基調とした白がアクセントのドレス。良いよ、凄く良い……抱きしめちゃいたいくらいに可愛い。履きなれない厚底のロリィタ靴にあたふたしている所もまた可愛い。

 

「見えてるの、分かってる……よね? 恥ずかしいから、やめてほ……」

「それじゃあ、次はね!」

「聞いて、ないっ……!」

 

 意外と満更でも無さそうな彼女に渡した次の服は、所謂『地雷系』というものに属するファッションだった。肌が白いからこういうファッションは良く似合うと踏んでいたのだが……成程どうして、私の目に狂いは無かったらしい。

 

「次は白いワンピースと……こういうパーカーみたいなラフなのもあると便利だよ? 意外と女児服とか似合ったりしそうだね?」

「全部、買わないって、言った……!」

「やだなぁ、方便だよ」

 

 初めから着せるだけ着せて買う事なんて、分かっていただろうに。それでもあえて抗議の意を示したのは、せめてもの抵抗……いや、口は嫌がっても心は素直というやつだろう。

 

 それからお昼までタップリと着せ替え人形にした。お会計はとんでもない事になっていたが、今日の会計はお小遣いではなく魔法少女としての収入を使って良いとお母さまに承諾を得ている。つまり今日の私は無敵なのだ……好きなだけ買い物できる……!

 

 普段の鬱憤を晴らすかのように、片っ端から服を買いあさった私は真っ白に燃え尽きたちなつちゃんを背負ってフードコートへと向かう。いや、元々真っ白ではあったからセーフ。

 


 

「…………疲れた」

「お疲れ様だね、何か食べたいものはある?」

「しずくと、同じので良い……」

 

 考える事すらしんどそうに、机へと突っ伏している。お昼もまだまだ買い物があるのに、この調子で最後まで持つのだろうか……まあ、魔法少女は丈夫だし……大丈夫だろう。

 

「精神的な疲れだって、ある……」

「はいはい、買ってくるからちょっと待っててね?」

 

 本当に嫌なら、嫌と言ってくれるはずだから……彼女もこの状況を愉しんではくれているのだろう。引きこもり気味だったから、体力が追い付いてないだけで。そもそも着せ替えしてる方は楽しいけど、着せ替えられてる方は結構体力使うんだよな……

 

 そんなにガッツリ食べても眠くなりそうだし、金ダコで良いだろう。こういう時にぴったりだ、間違いない。ドリンクは……隣のお店の奴が面白そうだし、これで良いだろう。

 

 買い物を終えて席へと戻ると、モソリとちなつちゃんが上体を起こす。本当にお疲れの様子だった、まあ無理も無いだろう。この人混みのせいで……許すまじ……!

 

「違う。断固として、抗議する」

「ごめんね、学生らしい思い出を用意してあげたくて……」

「うぐっ、いや……騙されない、よ? 楽しく、なってた」

 

 およよ、と目に涙をためてみたが、心の読める彼女相手にどれだけ取り繕ってもバレるものはバレる。まあそんな事は置いといてたこ焼きを食べよう。折角なんだしアツアツの状態で……

 

「この、飲み物は?」

「サンシャイントロピカルジュースだけど、夏限定の」

「飲み物の名前を、聞いてるんじゃない、よ?」

 

 大き目のグラスにストローが一つ……一つ? のジュースは、南国っぽさを感じる黄色いジュースだ。ストローは一つしかないモノの、先端は二つある。所謂、カップル用というやつだろうか、知らんけど。

 

「こっ、こんな……」

「いや、味が気になってさ。別に2人同時に飲む必要も無くない?」

 

 私は一人で焼き肉にもいけるし、スイパラも行ける。なんなら遊園地も行ける。そう言うタイプだから、別にカップル用だろうが、子供向けだろうが味が気になれば普通に頼んでしまうのだが……今回だけは少しばかり自重するべきだったのかもしれない。

 

「あっ、ああっ……!」

「あっはっは、面白い表情が見れた。これだけでも今日ここに来た甲斐が……いやいや、冗談! 冗談だから!」

 

 拳を握りしめて見る見るうちに真っ赤になっていく彼女を、宥めすかす。あまり可愛がり過ぎて嫌われでもしたら、多分立ち直れない。そんな事にはならないとは思うけど。

 

「……早く、飲む」

「そうだね、流石に喉も乾いちゃったし」

 

 少し不貞腐れたように、口元をストローの先へ近づけるちなつちゃん。それに倣って私もジュースを飲むために、ストローへと唇を近づける。

 

 おでこが当たりそうなくらいの距離で、ストローからジュースを吸う。甘酸っぱくて、青春の味がした……と人は言うけど、青春に果たして味があるのかは疑問が残る。とは言え、美味しいのは確かだった。

 

「楽しい、ね」

「それは良かった。でも今日はまだ……始まったばかりだよ?」

「……うん」

 

 まだお昼過ぎで、服を買っただけだ。他にもいろいろと買わなければいけないモノがある。女子の買い物は長いと言うが……家具も買わなきゃいけない以上は、どんなに頑張っても長くはなる。

 

 それと、私も買わなければいけないモノがあるのだ。それが何の為なのかは……そのうち自ずと分かる事になるだろう。




お知り合いの名前に被るととても嫌な思いをすると思ったので、本作の主要キャラは意図的に名前は「ひらがな」か「カタカナ」に統一しています。ひらがな表記で被ってたらごめんネ!

後編、そして次回以降に続きます〜
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