クーラーが効いていて、過ごしやすい環境が保たれているショッピングモールの昼下がり。午前は服を見た訳だが、こうして家具まで1つの施設で揃うのはやはり大型商業施設の大きな魅力の1つだろう。
小物を置いたりする為に、棚が必要だと思った私はちなつちゃんを連れて家具屋へと赴いている。ちょうど良さそうな木目調のキャビネットを見つけたは良いものの、サイズが不安だったのだが……
「どれくらいのサイズなら入りそう?」
「棚用のスペースは横が……」
今まではデメリットも目立っていたが、こういう時にはやはり彼女の完全記憶能力は便利である、本来なら色んな家具の間取りをメモしておかなければいけないが……彼女は一度覚えた事を忘れる事が無い。買ったけど、スペースが無かったなんて事も起こりえない。
「他に良さそうな家具は無いかな。なっちゃんは何か欲しいものある?」
「……特に、ない」
ただ、彼女自身に物欲が無いのが問題だった。外野がとやかく言うのは筋違いかもしれないが、あの部屋はあまりに殺風景だ。断捨離が好き……という訳でも無さそうだし。
「選んで、くれるのは……嬉しい」
「そう? じゃあ遠慮なく、今度は新型のバリスタマシンとか……」
「遠慮は、必要」
大き目の姿見や椅子と机といったものから、最新式の白物家電まで……こういう機会でも無いと模様替えをし無さそうな彼女の為に、反応を見つつも見繕っていく。これで家具の類は大体揃っただろうか。
「でも、棚だけあっても、仕方がない。何を飾ればいいの?」
「観葉植物とか……後は私のグッズとか?」
「……そういうところ、嫌いじゃない」
そんな中で、ふと彼女の足が止まる。目の前にあったのは、ショーケースの中に並べられたパンダのぬいぐるみだった。
「欲しいの?」
「分からない。必要性は感じない、けど」
堅い、堅すぎるよ……可愛いから、楽しいから、美味しいから。何かが欲しい理由なんて、それくらいで十分だと言うのに。
「このぬいぐるみが部屋にいる事で、メリットは無いよ……ね?」
「欲しい物は欲しいで良いんじゃない? 理由はそれ以外に必要無いよ」
「そういう……もの?」
「そういうものだよ」
結局、少々強引にぬいぐるみをカートに入れてレジへと向かう。少しでも興味が湧いたのなら、それに越したことはない。執着は、繋ぎ止めるための楔にもなるから。
その後も、スリッパやら……あったら良さそうな小物を揃えていった。お会計は中学生からすれば途方も無いものになったが、サテライトの稼ぎから見れば大したものではなかった。
毎年、流行は移り変わるしこの歳なら身体だって成長していく。それ故に、この買い物は必要であり必然である。そんな言い訳をこうして重ねているのも、私が新しい「それ」が欲しかったからに他ならない。
「また、着替え……?」
「今回は水着。お昼見たのは服と下着……用途が違うんだよ、用途が」
「……それはそう、だけど」
毎年、各メーカーからは新作の水着が発表される。学校指定の水着で良い……なんて子もいるけど、やはり私はお洒落に手を抜きたくはない。よく見られたいと言う1点において、この私に妥協は無い。
「それに、水着がないと海に行けないでしょ?」
「必要なのは、分かった。適当にそれで……」
「大丈夫! 私が似合うやつをしっかり選んであげるから!!!」
「話を、聞いて……?」
夏休みの期間中、皆で海に行く予定を立てたのだ。これもまた、誰かへのプレゼントになっているのだが……それは時が来た時に話すことにしよう。とりあえず今日は、海へ行く時のための水着選びだ。
夏らしさを意識したワンピースタイプの水着も良いが、フリルの着いた可愛らしいフレアタイプのビキニも捨てがたい。LJCとして、少し大人なタイサイドのビキニに挑戦してみても良いかもしれない。
スクイレ……ちなつちゃんにはどんな水着が似合うだろうか。頭の中でいくつか選択肢を出しては消して、試着するべき水着を選定していく。肌が白いし、日焼け止めを塗るとはいえ紫外線にはあまり強くないのだろう。そう考えると、ラッシュガードもあった方が良いだろう。
ラッシュガードがあるという事は、中の水着はシンプル目で……ある程度攻めても良い。いや、むしろ攻めた方が良い。そうに違いない。そう思って白いパーカータイプのラッシュガードに、中はシンプルな黒いタイプのリボンビキニを選んでみる。後は本人が気に入るかどうかだけど……とりあえずは試着だ。
「前は、閉めないの?」
「こういうタイプは羽織って、前は開けとくのがお洒落かな?」
着替えが終わったらしい彼女が、少し恥ずかしそうに姿を現す。白い肌には黒いビキニが良く似合っている。夏場の日光対策とお洒落の為に、帽子系のアイテムを一つ追加しても良いかもしれない。
「そんなに、マジマジと見られると……恥ずかしい」
「良いね、似合ってる! すっごく可愛いよ!」
「……そう。なら、これで、良い」
褒められるのに慣れていないのか、少し顔を赤くしたちなつちゃんが着替える為に試着室へと戻っていく。
ちなみに、私は白のオフショルダータイプの水着を買った。やはりヒラヒラの誘惑には勝てない、デザインも私好みだったし。他のメンバーがどんな水着を買ってくるのかは、中々に楽しみである。
あらかた買う予定のものも買い終わり、時間が余った私達は行く当ても無くブラブラとショッピングモールを歩く。特に何か買う訳でなくても、こうして商品を見て回るだけでも楽しいものだと思う。ウィンドウショッピング……って言うんだっけな。
「……これ」
「そう言えば一昨日くらいからだっけ?」
そうやって歩きながら何となく辿り着いた先にあったゲームセンターの、クレーンゲームに思わず視線が止まる。何と言ってもその中に飾られていたのは、デフォルメされた私達のぬいぐるみだったのだから。
サテライトのほかにも、グライシアとブレイディア……そしてスクイレのものがある。流石にと言うか、当然というか……ティンカーベルのものは無かった。まあ、知名度的な観点で仕方ないと言えば仕方ないとは思う。探せばどっかにはあるとは思うんだけど。
「欲しいなら、とってあげよっか?」
「得意、なの?」
「まあまあ、任せておいてよ」
奇しくも私のグッズを飾るなんて言葉が現実になりそうだが、この出会いもまた運命という奴だろう。この私が、クレーンゲームの一つや二つ華麗にクリアできない筈が無いだろう。ピタリと止まったクレーンのアームがゆっくりと降りて、サテライト人形の頭を鷲掴みにし……
「アームの力弱すぎない!?」
「どの人形が欲しいか、言ってない……よ?」
「…………あっ」
あまりにも自意識過剰だった。少し恥ずかしさからか顔が熱いけど、そのまま続行する。当たり前かもしれないが、クレーンゲームでは人気な商品ほど取れ辛い。だからさっさと取りたいなら、取り方も工夫する必要があるだろう。
今度はクレーンのアームを人形の頭から少し離れた位置でピタリと止める。アームはゆっくりと下がっていくと……人形についていた商品説明用のタグと人形を繋ぐ透明な輪っかの間へとスッポリと入り込み、アームに引っかかって上へと持ち上がっていく。
「凄い、上手」
「でしょ~? 私にかかればこれくらい、お茶の子さいさいって訳よ」
少しズルかもしれないが、魔法を扱うにあたって身に着いた……というより身に着いていた抜群の空間認識能力が役に立った。火属性の魔法少女なら火に、グライシアなら氷に……というように、自分の魔法を使うにあたってそれに伴った能力も成長する事が多い。
私の場合は、1メートル以内の空間の認識と、その場所にかかっている力を何となく直感的に理解できる……と言う風に。地球の公転方向や自転方向も、調べる間でも無く理解できてはいるのはこれが原因だったりする。
「ちょっと、待ってて?」
「あ、なっちゃんもやりたかったの?」
そう言って500円玉をクレーンゲームへと投入したちなつちゃんは、真剣な顔でクレーンへと向き合っている。4度目の挑戦でなんとか人形の腕と胴体の間へとアームの爪先を通し、ゆっくりと持ち上がった人形は、落下口へと向かって重力に従って自由落下していく。
随分と手際が良い、何処かでやり方を見た事があったのだろうか。
「テレビで、やってたから」
「そっか、上手だけど……意外だね?」
「ん、これ」
そう思っていた所、彼女は取ったばかりの
「貴方から、貰ってばかりじゃ、いられない」
「そう言う事なら、それじゃ有難く貰っておこうかな」
気にしなくても良いというのに、随分と律儀な事だ。私が選びたいから選んで、私が上げたいからあげているだけだというのに。とはいえ、友人からのプレゼントは嬉しいものだ。備え付けの持ち帰り用の袋へとスクイレの人形を入れると、彼女も同じようにサテライトの人形を袋へと居れて大事そうに抱える。
「最後に、もう一つだけ寄りたいお店がある。良い?」
「勿論、それじゃ行こっか?」
珍しく欲しいという意思表示をした彼女に連れられて、ショッピングモールを進んでいく。その先にあったのは、彼女のイメージからはかけ離れていて……ある意味、彼女にとって必要なさそうなモノであった。
「カメラが欲しいんだ? そういうデバイスが好きなイメージは無かったんだけど……」
「確かに、全てを忘れられない私にとっては……必要ない」
フォトグラフィックメモリー。映像として全てを記憶できる彼女にとって、わざわざ写真を撮って後々見返す……なんて必要は、本来必要ない筈なのだから。
「でも、今見た世界を。綺麗だったもの、楽しかったものを……」
それは、彼女にとっては小さくても間違いなく大きな一歩だったと思う。
「
誰かの心を読むだけでなく、自分の思った事、感じた事を誰かに伝えようという気持ちになってくれたのだから。
「そっか……そっかぁ。まずは何を撮るか決めてるの?」
「うん、決めてある」
結構なお値段の一眼レフカメラを持って、お会計を済ます。自分のお金で買いたいと譲らなかった彼女と、カメラを持って帰路に就く。外はすっかり暗くなり始めていた、楽しい時間が過ぎるのはあっという間だと言うが、その通りだったらしい。
買った家具などが郵送で届くのは、明日以降の事になるだろう。その時は責任をもって、模様替えの為に一肌脱ごうと思う。それにしても、彼女が一番初めに撮りたかったものとは何だったのだろうか。それだけが気になって仕方がない。
魔法少女協会に出入りする時は、当然魔法少女に変身してから行き来している。そうでなければ、顔写真を撮られればその人物が魔法少女だと殆ど確定してしまうからだ。それゆえに、適当な個室で変身してから協会の奥にある、スクイレの私室へと向かう。
「ふぃ~流石に疲れたね……楽しかったけど」
「うん、疲れた」
彼女の私室へと着いた私達。持っていた今日の戦利品を下ろすと、文字通り肩の荷が下りてすっきりとした。流石に買いすぎた、間違いなく。
箱からカメラを取り出したちなつちゃんは、そのレンズを私へと向ける。職業柄というか普段の癖で、ポーズを取りかけたが……恐らく彼女が撮りたい写真はそう言う写真では無いのだろう。あえてカメラへと目を向けず、部屋の隅へと視線を移す。
パシャリと、カメラのシャッター音が響く。そちらを向くと、満足そうな彼女が頷いている。彼女の記念すべき被写体一号は、私だったという事らしい。
「それじゃ、ベッドに横に、なって?」
「えっ、良いけど……なんで?」
言われるがままに手で押されてベッドへと押し倒される。何処かで見た事がある構図だ。だけど何処でだったか、思い出せそうで思い出せない。間違いなく直近の事ではあったんだけど‥‥‥
「美少女コスプレイヤーと秘密の個人撮影会‥‥‥」
ポツリと呟かれた一言に、思わず嫌な汗が額を流れる。
冗談だろ、冗談と言って欲しい。そんな事を彼女と出会ってから思い出した訳が無い、絶対に間違いなく断言できる。真昼間のショッピングモールで考える内容じゃないからだ。
「読めるのは、考えている事だけじゃない。昨日使ってた妄想。こういうの……おかずっていう?」
「‥‥‥ッ!?」
「良かった。こういうのも好きなんだ、ね?」
パシャリと、シャッターの音が鳴る。カメラの記憶領域には、赤面した私の顔がバッチリと残っている事だろう。スクイレは忘れる事が無いとは知っていたが、こういう形で改めて分からされると‥‥‥とっても恥ずかしい。
「着せ替え人形にしたことは私もちょっぴり反省してるからさ? だから今日は‥‥‥」
「ダメ、クロエもあまねもしたのに‥‥‥私だけ仲間外れは、嫌」
スルリとスカートをたくしあげられた後、またもパシャリとシャッター音が鳴る。ギリギリ純白の布が見えないような、そんなカメラワークの際どい写真。押しのけようと思えば、押しのけられるのに。抵抗しないのはきっと、彼女を傷つけたくないから。きっと、きっとそれだけだ。
「色んなしずくを、カメラに映してあげる‥‥‥ね?」
「あっ、あはは‥‥‥今日はお泊りするってだけお母さんに送って良い?」
変身しているのに、私の名前をあえて読み上げたであろう意味は‥‥‥深く考えずとも理解できた。
ピロンと、メッセージアプリが送信された音を皮切りに‥‥‥彼女は細い指を私の太ももを撫でるように沿わせ‥‥‥そして私の脚をゆっくりと持ち上げて開く。また、パシャリとシャッターの音が鳴る。
「んっ、んん。あっ、あー‥‥‥この写真、ばら撒かれたくなかったら‥‥‥わかるよ、ね?」
「なっ、なんでも‥‥‥なんでもしますから‥‥‥♡」
そしてパシャリと、シャッターの音が室内にまた───響いた。
何度も‥‥‥何度も。
次回「夏の海には刺激が一杯!なんだが?」に乞うご期待!
(秋になるまでには夏のイベントとシチュエーションを消化しておきたいですよね)