「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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32.空と海と桃色の姫君なんだが?

 灼熱の太陽が照り付ける砂浜で、目隠しプレイなんていう高度なプレイをしている……海より広い心と砂浜よりもきれいな心を持った絶世の美少女は誰でしょう……そう、私です。

 

 いやまあ別に、何もいかがわしい事をしようとしている訳じゃなくてスイカ割りに興じているだけなんだけど。でも今日日(きょうび)スイカ割りなんてしないよね、折角だから用意したけど。何時の間にかスイカは用意されていたけども。

 

「そうねぇ、もう少し前進してちょうだい?」

「しずく、わたくしの言う事が聞けるわよね? まずはその場で30度左を向きなさい?」

「しずく様! もう少し、もう少し右です! そのままこちらへと歩いて……そう、思い切り抱き……危なっ!?」

 

 全員が全員好きに指示を出すせいで頭がこんがらがって、最後の指示に従って木刀を思い切り振りかぶった所で待ったが入った。人の気配を薄っすら感じるから振り下ろすつもりは無かったけども、あまねちゃんが絶対スイカ割りをさせるつもりが無かった事だけは理解できる。

 

「しずく、これは戦闘と、同じ。スイカの気配を……感じて」

「成程、空間を把握して……その先に確かに見えるよ、冷えたスイカがッ……!」

「スイカ割りってそう言うゲームでしたっけ?」

 

 目を閉じた事により周囲の空間と、そこにかかる力を強く感じ取れる。周囲にある人間四人分の重さと、それとは別に頭より大きな球体状の物体を感じる。これが、これがスイカだ。

 

 アタリをつけて地面を踏みしめて踏み込み、木刀を振り下ろすと一拍遅れて「スパァン」とスイカが両断されたらしき音がする。これで間違いだったら大問題だが、周囲の反応からして間違いないだろう。

 

「なんで変身もしてないのに、人外染みた挙動をしてますの???」

「実は魔法少女になった日から随分と身体の調子が良くて……」

「規格外が、過ぎる」

 

 綺麗に割れたお陰で、食べれる部分がしっかりと残った……それで十分じゃないだろうか。ただ理想の敗北を求めていただけなのに、どうしてこんな才能にばかり恵まれてしまったのか。シャクシャクと音を立ててスイカを食べ進めると……かなり甘い。スイカにしては随分と糖度が高い事に気付く。もしかしなくても高いスイカだったのだろう、少なくともスイカ割りに使う様な一品じゃない。

 

 

 スイカを食べ終わって、砂遊びをしているあまねちゃんを横目に海へと繰り出す。ちなつちゃんはどうやら、パラソルの下でルクスと何かを話している。真剣な話をしていそうだけど、自分から誰かと関わろうというその心意気が素晴らしい。確実に前に進んでいると言えるだろう。

 

 そんな中で海へと繰り出した私は、膨らませた浮き輪の上にぷかぷかと浮いていた。別段泳げない訳では無い、泳ぐのが嫌いな訳でも無い。ただこうして優雅に過ごすのも好きだというだけだ。

 

 とは言え、あまり沖に行き過ぎるのは危ない。流されて帰って来れなくなるとかではなく、外敵の危険性があるからだ。日本のような島国の、陸地部分であれば流石に外敵は居ない。しかし、海の上に現れた外敵に関してはそうもいかない。人間の生活圏から遠く離れた海の中では、未だ外敵の脅威が眠っている。

 

 とはいえそんな事は稀だし、そもそも出てきても何ら問題は無い。だから波に揺られるままに、海水浴を楽しんでいたのだが。そんな風に考えたのは私だけでは無かったようで……

 

「あれ、クロエちゃんじゃん。クロエちゃんもチルい感じ?」

「チルいって言うのはよく分かりませんけど……まあ、ゆっくりしたかっただけですわ」

 

 確かに最近は、ドタバタしたり事件に巻き込まれたりして大変だったからなぁ。私が行方不明になった後第二の魔王が現れたり、私が消えた時の対応を巡って新星魔法少女協会が出来たり、私が居なくなって弱体化したと踏んだ過激派が大きな動きに出たり。

 

 

 あれ、もしかして全部私のせいでは……? あまりこの話題は好ましくない、何か別の話を考えよう。

 

 

「そういえば、わたくしへのプレゼントは決めてくださいましたの?」

「うん、大抵のものは買えちゃいそうだから悩んだけどね……」

「へぇ、期待してていいんですわね?」

「勿論、大船に乗ったつもりでいてよ」

 

 早ければ今日にでも渡す予定だった、まあまだ未完成とも言える品なんだけど。そう言えばプレゼントで思い出した、一つクロエちゃんに聞きたいことがあったんだった。

 

「チョーカーの裏にあるさ、K.Tってロゴ……何処のメーカーなの? 私聞いたことないんだけど」

「当然ですわね、わたくしが立ち上げたブランドですもの」

「……えっ?」

「お父様から任されて、幾つか事業を手掛けているのですわよ。表向きはまだお父様の名義ですけども。わたくしのブランドだからK(クロエ).T(タチバナ)単純でしょう?」

 

 やけに質が良いと思ったら、まさかの展開が待ち構えていた。まさか自分の名前のイニシャル付きブランドのアクセサリーだなんて……私のプレゼント、そんな物に対抗出来るほど重くないんだけど。そんな想いが伝わったのか、ニッコリとほほ笑んで彼女は続ける。

 

「別に、かかった金額や時間じゃありませんわよ。プレゼントは気持ちが一番大事なのですから」

「そう言って貰えると、ハードルは幾分か下がるんだけど……」

 

 それでも気になる者は気になるのだ。とは言え、高いものをプレゼントしても高い物こそ既に持っている可能性が髙そうだし……当初の予定通り行こうと思う。

 

 パタパタと足を水面に打ち付けて、ぼーっとしていると水飛沫が飛んできた。飛んで来た先に視線を向けると、珍しい事に悪戯が成功したと言わんばかりの顔でニヤニヤとこちらを見ているクロエちゃんが居た。珍しいなと思いつつ、手で水鉄砲を作ってぷぴゅーっと噴射する。

 

「ちょっと、顔狙いは卑怯ですわ!?」

「ふへへ、先に仕掛けてきたのはそっちだよぅ?」

「ちょ、このっ……! ちょこまかと……!」

 

 距離を離してしまえば水鉄砲程度簡単に避けれる、如何にも学生らしいじゃれ合いは……白熱したクロエちゃんが氷面鏡で水鉄砲を作ろうとした所で終わった。持ち出すなよ、そんなものを。

 

 

 砂浜に戻ると、随分と人だかりが出来ている。何事かと思って見てみれば……

 

「あっ、しずくおねーさん! 見てください、最高傑作です!」

「ああ、いや。途中から見えてはいたんだけど……なにこれ?」

 

 砂遊びで何かを建てるのは良い。てっきり私の像でも作るのかと思っていたが、彼女にも流石に良識と言う奴があったらしい。だが、あまりにも精巧に作られたそれは、まるで何処かの賞にでも出すのかと言う出来だった。そして何より、そこに建てられていたのは……

 

「これ、誰のおうちなの?」

「理想のマイホームです、将来の!」

「……?」

「勿論、しずくおねーさんの部屋も作ったんですよ?」

 

 いや、そうはならんやろ。

 

 そんな声を喉の奥で留めつつ、もう一度しっかりと砂像を見る。確かに一般的な家の間取りに見える。何故、何故こんな精巧に作れるのか、作ったのかは全くもって分からないが。

 

 まあ、海の楽しみ方は人それぞれだろう。前からちなつちゃんがカメラを持って向かってくるのが見えたので、砂のおうちの前でカメラに向けてピースをしておく。帰った後に、アルバムでも作れるくらい思い出に残る事があると良いななんて思う。

 

 

 

 お昼ご飯は海の家らしく焼きそばとイカ焼きを注文した。どうしてかは分からないけど、海と祭りで食べる焼きそばってすっごく美味しいよね。

 

 そんなお昼を食べてから少しして、食後の休憩と言わんばかりにパラソルの下でフルーツジュースを飲みながらぼーっとしていた時だった。オイルを塗ってもらう前の、ルクスとのやり取りが頭の中でリフレインする。即ち、水着と下着を分けるものとは何なのか。

 

 露出面積……と言う話では無いだろう。下着よりも肌の見えるビキニはある。肌が見える事が恥ずかしいのか、それとも下着を見られることが恥ずかしいのか……いや、間違いなく肌だろう。別に身に着けている布を見られて、恥ずかしいとは思わない筈だ。

 

 それじゃあ一体、なんで水着はよくて下着はダメなんだ? 本当に名前と作られた用途が区分を分けているだけ? だったら、こうして水着で出歩いているのはとても恥ずかしい事なんじゃないか?

 

 そんな事を考えると、周囲の視線が途端に気になって来た。

 

「あれ……なんでっ?」

 

 下着姿を見られているのか、私は? 隠さなきゃいけないのだろうか、そう思って手を身体の前で組んで隠すと恥ずかしさが更に増した……なんで? 思考が飛躍しすぎているのは分かるけど、一度スイッチが入ってしまえばもう止まれない、止まらない。

 

 タオルを身体に巻いて、ゆっくりと座り直す。先ほどよりも落ち着いたのに、なんでこんなにイケナイ事をしているように感じてしまうのか。分かんないけど、胸がどきどきして止まらない。

 

「余念がない、ね?」

「うぇっ、ちなつちゃん……!?」

 

 今一番事態を把握してくれる彼女が来てくれたのは、幸か不幸か……夏の暑さのせいか、緊張と興奮のせいか……頭が茹で上がりそうなくらい熱い。思考か上手くまとまらない、なんでこんな風に……

 

「ううん、っと。タオル、脱いで?」

「わっ、分かってて言ってるんだよね……!?」

「もちろんだ、よ?」

 

 言われるがままにタオルを脱いで、水着を見せる……顔から火が出そうなくらいなのに、その姿をマジマジと見られて頭がおかしくなりそうだった。

 

「うん、とっても似合ってる。可愛いよ、しずく?」

「嬉しい、嬉しいんだけどさ……?」

 

 周囲の人の視線が気になって仕方がない、頼むから誰も来ないでくれなんて思ってはいたものの……現実は非情である。こちらに歩いてきた緑髪の少女が、ぱあっと顔を輝かせ……そして少し不機嫌そうになってこちらへ歩いて来る。

 

「何やってるんですか、しずくおねーさん……と……ちなつ」

「ちょうど良い、ところに。水着の感想が聞きたいんだって」

「なっ、そんな事言ってな……!?」

 

 口元に細い指をあてられて、それ以上は言葉にならなかった。見ないでほしいって言ってるのに、なんでわざわざそんな注目を集めるような事をっ……!

 

「すっごい可愛らしくて……まるで真夏の妖精がビーチに降り立ったみたいです……!」

「本当に似合ってる、お洒落のセンスもあるのは……凄い」

「あっ、ありがとね?」

 

 なんだこれ、どんな特殊なプレイなんだ。羞恥心と肯定感がドンドンと膨れ上がっていく。

 

「おへそが可愛い、ね」

「視線が吸い込まれそうな太もも……真の芸術ってこんな近くにあったんですね……」

「それはもう水着の感想じゃないよね……?」

 

 一番恥ずかしいのは、恥ずかしいのに褒められて……満更でも無い自分の内心と、それを見られているという事だ。

 

「なんだか面白そうなことをしてますわね?」

「あらあら、ファッションショーかしら~?」

 

 何時の間にか全員揃っていた、こうなってしまえば最早どこにも逃げ場はない。四人の視線が私の身体へと集まる、そのお陰で周りの目が気にならなくなったのは良いけど……事態自体は悪化している。心臓の鼓動がさらに早くなって、何も考えられなくなっていく。

 

「とっても素敵ねぇ、可愛いお顔がよく映えるわね?」

「腹が立つくらいに綺麗な肌ですわね……」

「ひゃっ、触って良いなんて言って……!?」

 

 脇腹をつままれるのは、また別の恥ずかしさがある。そんな事は知らないと言わんばかりに、されるがままにポーズを取ったり、頬っぺたをもちもちとされ続けた。

 

「ふふっ、人間の文化のお陰で、今日はとってもいいものが見れたわ?」

 

 

 自尊心を積み上げては、羞恥心でそれを崩していく。そんな羞恥プレイのような何かは、ちなつちゃんの提案でかき氷を買ってくるまで続いた。止め時が本当に、本当に絶妙だった。

 

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