「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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旅行中は曇らせ要素の供給が少なく、百合要素強めに仕上がってます。


33.湯煙温泉とスイートな時間なんだが?

 時刻は6時過ぎ、着替えや身体についた海水や砂を洗い流して海を後にする。

 

「いやぁ、楽しかったですねしずくおねーさん! それで今日は何処のホテルに泊まるんですか?」

「あれ、一応旅行になるからって親御さんにその辺の予定表は渡したはずなんだけど」

「あぁ、そうでしたよね。タチバナリゾートホテルでしたっけ……あれ、どっかで聞き覚えが……」

 

 行きと同じく黒塗りの高級車に揺られること数十分程、ビーチからも見えていた白い建造物の前へと辿り着いた。『タチバナリゾートホテル』と書かれた大きな看板は、どう見ても間違いなくこのホテルが橘財閥の所有地であることを雄弁に示していた。

 

「到着いたしましたお嬢様。こちらでお荷物の方はお部屋へ運んでおきますので」

「えぇ、頼みましたわよ」

「これもしかして……そういうことなんですか?」

「もしかしなくても……そういうことだよ」

 

 なし崩し的にプライベートで遊びに来ているだけで、別に私の友達は個々人ではそこまで仲が良い訳じゃない。むしろ悪いくらいだったので、クロエちゃんがナチュラルガチお嬢様だという事に気付いていなかったとしても、仕方の無い事なのかもしれない。

 

 そしてチェックインすらなく顔パス、ホテルマンが荷物を車まで取りに来るあたりに権力を沸々と感じる。神崎グループの一件でより一層事業を拡大した橘財閥の現会長……つまりクロエちゃんのお父さんは、私に対してとても感謝しているとはクロエちゃんからの伝言だ。

 

 その影響からか、娘の泊まる場所を取るついでなのか。とてもお金は頂けないと予約の際に押し切られてしまった。確かに神崎何某のシェアを完全に奪い去る勢いで躍進している橘財閥にとって、ホテルの一室の料金くらいは本当に大したものでは無いのかもしれないが……タダより高いものは無いと言うし、私も正直怖い。

 

 

 ホテルのロビーを通って奥にあるエレベーターへと乗り込む。ボタンを押すまでも無く、ホテルマンが行先の階層……ホテルで一番上の階を選択してくれる。当然のように最上階に案内されそうなことに、あまねちゃんが滅茶苦茶びびっていて可愛い。

 

「ぴぇぇ……消されたりしませんか!?」

「しませんわよ、必要がありませんもの」

「消す必要があれば消せるって事じゃあないですか……!?」

 

 ピンポーンとエレベーターが到着の合図を告げる。終始震えっぱなしのあまねちゃんと手を繋ぎ……なんて考えていると、急にちなつちゃんが震えながら右手を差し出してくる。違う、震えているから握る訳じゃない……けどまあお求めならと左手で握り返すと、満足したのかそのまま歩き出す。

 

 

 

 案内された先は、当然のようにホテルで一番高い部屋であるロイヤルスイートである。最高階にある部屋の奥にある窓からは、海を一望できるガラス張りになっていた。今は暗くなってしまっているものの、陽が昇っている朝はとてもいい景色が見れる事だろう。

 

 同じ部屋の中に和室と洋室があり、好きな場所で眠れるという贅沢さ。部屋の中にある温泉は何と源泉かけ流しで、大浴場に流れているものと同じものを贅沢にも個人で使えるという。中学生が泊まるにはあまりも過分で、贅沢すぎる部屋だった。

 

 運んでもらった荷物を受け取り、ソファへと腰掛ける。流石に一日中遊びっぱなしで疲れたけど、流石に海に行った後にそのまま寝るのはまっずい。お風呂と……それに、折角だからご飯も楽しみだし食べたいよね。各自荷物の整理をしていると、漸く再起動したらしいあまねちゃんが動き出す。

 

「みっ、皆さんどうして手慣れてるんですか……!?」

「いやまあ、スイートに泊まるのも初めてじゃないし」

「魔法少女サテライトを、安い宿には、泊められない」

「私はびっくりよ〜まるでお城みたいね?」

 

 オーナーの娘は当然として、私もスクイレ(協会長)もそれなりの立場どころか、国防のトップに位置する存在である。セキュリティの観点から良い部屋を使う事は多いし、そもそもあまりお金に困ってはいない。うちは金銭感覚を守るためにお母様に預けてるけど。

 

「わっ、私だけ場違い感を感じます……!」

「まあ、肩肘に力入れないで楽しもうよ」

 

 緊張からかせわしなく目線を部屋のあちこちへと向けているあまねちゃんに、

 

「夕食は18時からですわ、ビュッフェ形式ですのよ」

「わぁ、ビュッフェなんですか? 小学生だから子供料金で……ぴぃっ、無料なんだった……!」

「……ティンカーベルって随分と愉快な方でしたのね」

 

 新星魔法少女協会を率いていた時の、カリスマ感溢れるメスガキは何処に行ってしまったのか。まぁ、魔法少女の時と日常でキャラを使い分けている人は珍しくないらしいんだけど。主に私とか。

 

 そんな彼女とクロエちゃんの初対面は戦闘中だったというし、ぎくしゃくするのは仕方が無いと思う。正確には書店で会ったのが初めてだけど、2人とも正体に気付いていた訳でも無いし。

 

 それでもこの一日を通して、かなり彼女達四人の仲も深まったと思う。少なくとも以前のようにいがみあっているという程ではないだろう。少々強引だったけど、こうして5人で旅行に来て良かったと思う。

 

 

 

 ビュッフェ形式の夕食を終え、部屋に戻ってくると和室には既に布団が敷かれていた。必然的に誰が何処に寝るかは揉める事にはなったものの……私が寝る場所を選ぶのは最後にすると言った事で、その争いは更に熾烈を極めた。

 

「和室に布団が三つ、シングルのベッドが二つですわね……」

「必然的に、余った一枠にしずくおねーさんが来るんですね?」

「こういうのも面白いわねぇ、心理戦って奴かしら?」

 

 私は別に鈍感系主人公じゃないので、彼女達が私に好意を向けている事は分かっている。とは言え別に同じホテルの部屋に居るんだから、そんなに必死になる必要も無いのに……とも思う。随分と私の隣で寝たい子が多いらしい。

 

 それでも、流石に30分も議論を続けているのは長すぎる。私そろそろお風呂入りたいのに。

 

「残念。どんな策略を立てても、私の勝ちは、揺るがな……っ!?」

「……くじ引きで決めよっか」

「……そんな。運には自信が、無い」

 

 携帯のアプリでの厳正なるくじ引きの結果、私とクロエちゃんとルクスが和室。他二人は洋室という事に決まった。流石に携帯アプリに不正を仕掛けられる魔法は無かったらしい。折角良い所のベッドで寝れるというのに、やけに不満そうな2人が印象的だった。

 

 

 お風呂場に入ってシャワーで髪を流すと、やっぱりさっぱりする。潮風は嫌いでは無いけど、べた付くのだけは頂けない。とは言え魔法少女は身体が頑丈で、少しケアを怠っても直ちにボサボサになるとかそう言う事は無いのだが。

 

 ロイヤルスイートなだけあって大きなお風呂だ。とは言え五人も入ると狭くは無いものの肌色の主張が激しい。ガラス張りの窓からは、夜景が一望出来て……わざわざ個室の風呂の中にヒノキの大きな浴槽があるという贅沢さ。

 

 まあ別に、銭湯や温泉に行く時に入浴時間をずらしたりはしないように……これだけ広ければ全員で入っても違和感は無いのだが、個室の風呂だというだけで少し変な感じがしなくもない。

 

「しずくおねーさん、お背中お流ししますね!」

「えっ? あぁ、うん……お願いしようかな」

 

 頼んでもいないのに、ザプリとお風呂のお湯から上がって後ろへとやって来た緑髪の少女。ただ髪が長いと確かに洗うのは面倒くさいので、してくれるというのなら断る必要も無い。

 

「ここのお湯はお肌にいいらしいわ、美肌効果があるみたいね?」

「胃腸とかにも良いらしいですけど……流石にこの歳でその心配はなさそうですわね」

「今は、医療系の魔法少女も、充実してる」

 

 まるで宝物を触るかのように、丁寧に私の髪を洗う指先が少しだけ擽ったい。後少し鼻息が荒い。

 

「よっ、良すぎる……織りたい……」

「どういう感想なのさ、それ……」

 

 そもそも人の毛髪で織物なんてどれだけの日数がかかるというのか。如何に私が自分の事が好きでも、その一線は不味いと認識してるぞ。

 

「今日の夜摂取できない分、ここで補充しておかないと……」

「まさか、一緒に寝る訳じゃなくて同じ部屋で寝るだけだよ?」

「推しと同じ部屋の空気を吸いたいんですよ……!」

 

 分からないけど、空気にも需要があるらしい。そう言うグッズも売りだ……なんか変なファンが一杯つきそうだから止めておいた方が無難だろうな。いや、逆にむしろそれも有りか?

 

「……流石に、できない。どうしてもというなら、頑張る」

「やっ、流石に自分の身を危なくしてまで、そんなことしなくても良いよ?」

「一体何を考えてますの??? 碌な事では無いんでしょうけど」

 

 髪を洗い終わって、次は身体を洗うべくボディソープを手に取る。考えてみれば、日焼け止めと良い今日は随分と身体をケアしてもらう事の多い日だった。私も誰か洗ってあげたりした方が良いのだろうか。

 

「背中すべすべで……ふへっ、夢見心地です……」

「それじゃあ私が今度はあまねちゃんを洗ってあげよっか」

「え”っ”?」

 

 先ほどまで好き勝手言ってくれていた彼女を椅子へと座らせる。いつもツインテールにしている綺麗な薄い緑色の髪は、お風呂に入っているからか流していて普段と少しイメージが変わる。

 

「そういえばティンカーベルって言うから金髪なのかと思ったら……地毛も緑なんだね?」

「それは、ピーターパン(サテライト)を導く妖精になりたくて……」

「そっか、それにティンカーベルも服の色は緑だしね」

 

 ゆっくりとシャンプーを伸ばしていくと、気持ち良さそうに目を細める少女は、少女たちの為の組織の長でも、メスガキでも、熱烈なファンでも無く……間違いなく年相応の少女だった。普段の学校で見せるような自然体がこれなのだろう。

 

「痒い所はないかな?」

「あっ、大丈夫です……そのまま……」

 

 髪を洗い終わって、続いて体を洗うべくボディソープを手に取る。小学生らしく、起伏の少ない身体だった。むしろクロエちゃんのあれの方が異常なのである。

 

「あの、洗ってくれるのは嬉しいんですけど……」

「嬉しいなら良いんじゃない?」

「ちっ、違くて……!」

 

 別に同性同士だし、そこまで気にする必要も無いだろう。流石に下は不味いような気がしなくも無いが……それにしても可愛らしいおへそだな。

 

「ふへっ、しずく様……サテライト様が……ううっ……」

 

 気持ち良さそうな、幸せそうな彼女を見ていると、興が乗ってきて……

 私の中のサービス精神と悪戯心が鎌首をもたげてくる。

 

「あの、あののっ、当たって……!?」

「ん~何がかなぁ?」

 

 背中を洗うのにちょうどいいので、身体をスポンジのように見立てて背中を洗う。目を白黒させたままのあまねちゃんの反応を伺いながら、大腿へと手を伸ばす。小さな穴の開いた耳が真っ赤になっていて、戯れに息を吹きかけてみる。

 

「ひゃん!?」

「何処か痒い所はあるかなぁ?」

「あっ、えっと……!」

 

 私には存外魔性の女としての才能があったらしい、傾国の美少女だとは常々思っていたが……まあこれだけの女の子を誑かしている時点で今更か。泡泡の指先を今度は脇腹へと動かすと、擽ったそうに身を捩り……

 

「……バカな事をしてると、風邪を引きますわよ? 早く湯船に浸かるんですわよ……」

 

 

 そんなクロエちゃんの一言と共に、現実へと引き戻される。

 時刻はまだ19時過ぎ、夜はまだ……長い。

 




あのサテライトがイニシアチブを……!?(実際にこのままもう少し進んだらどうせ受けに回る)
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