「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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35.ドキッ!掟だらけのシラユリ村……なんだが?

 豪勢な朝食を終えて、真っ黒な高級車に揺られていた。

 

 朝食もビュッフェ形式だと、何処までしっかりと食べようか迷いがちだ。これから車に乗るのに、あんまりお腹いっぱいにしても辛いし。

 

「海も楽しかったけど……夏と言えばやっぱり欠かせないものがあると思うんだよね」

「夏まつり?」

「かき氷もスイカも海の家で食べましたし……BBQとかですか?」

「花火っていうのもありですわね」

 

 確かに、確かに今あげられたものも夏を代表する風物詩というやつだろう。だが、それでも……日本の夏と言えば「これ」というものが、私にはあるのだ。

 

「確かに、確かにそれもありだけど……やっぱり夏と言えば、ホラーでしょ」

「ぴっ!? こここ、怖いのですか!?」

「別に構いませんけど……」

 

 窓の外を見やって、不可解そうにするクロエちゃん。その疑問はたしかに尤もだろう。太陽は空でキラキラと輝いている、肝試しには少し早すぎる……というより遅すぎるくらいの時間だったからだ。

 

「……今、午前9時ですわよ。そういうのって夜に行くものですわよね?」

「ふふん、任せてよ。何と言っても今回行くのは……ここ!」

 

 地図アプリで示した先にあるのは、山の中にポツリとある一見変哲もない村。シラユリ村と言う名のついたその村は、よくある自然が綺麗な田舎村だという。だが、それだけならばわざわざ旅行の行先には選ばない。その理由とは……

 

「古くから奇妙な噂が残るという……因習村なんだから!」

「珍しい村を観光ルートにしたとは思っていましたけど……そう言う事でしたの」

 

 因習村。

 それは古いしきたりや言い伝えが、生活と密接に根強く残っているという村を指す総称である。今から行くシラユリ村にも例に漏れず、そのような言い伝えがあるとされている……らしい。

 

 日本の田舎の夏……縁側で風鈴の音を聞くようなあの風景は、東京の都市部に住んでいると中々味わえないモノでもある。その二つを一緒に堪能できそうな因習村は今回の目的にうってつけだった。

 

「嘘か本当か、行方不明になる観光者も多いらしいよぉ?」

「ひえぇぇぇ! 脅かさないでくださいッ!」

 

 まあ、SNSでの怪談なんて9割が嘘だからね。*1山で遭難した……なんて言うのを面白おかしく脚色しているに過ぎないのだろう。

 

 数十年前の外敵の出現から、目に見えない怪異の恐怖はより身近な『外敵』へと置き換わった。そのせいで無くなった訳では無いものの、怪談の怪異の話などは殆どが姿を消した。

 

 今や、「夜遅くまで起きていると外敵がやってきて食べられちゃうぞ」なんていう脅し文句が子育てに使われるくらいである。まあ実際あいつら怪異みたいな見た目の奴も居るし……

 

「……あのさ」

「なぁにぃ、しずくのおねーさん♡ベルはいっつも通りだよぉ?」

「なんで変身してるの?」

「え~? 全然ビビってないけどね♡」

 

 何時の間にか魔法少女へと変身していたティンカーベル。正に語るに落ちるという奴だった、それでいいのか……? というか人格まで器用に切り替えている、そんなに怖いものが苦手だったとは思わなかった。

 

 

 

 山道を車で登る事しばらく、ようやくお目当てのシラユリ村へと到着する。流石に古い村と言っても道路は通っているらしくて安心した。近くは自然も豊富で、民泊をやっている家がある事もあって人の出入りはこの規模の村にしては多いらしい。実際緑豊かで空気が綺麗だった。だったのだが……

 

「…………酔った」

「マジ? 大丈夫?」

「……マジ、大マジ。でも少しすれば、楽になる……はず」

 

 グロッキーな顔で椅子にもたれかかっている彼女は、大分余裕が無さそうだった。魔法少女として戦う以上、三半規管も強くなってる筈なんだけど……いや、スクイレとして戦ってるところは記憶にある限り見た事が無い。引きこもり気味な彼女に、山道はきつかったのだろう。

 

「お手洗い借りれるお店があるか探してくるね?」

「うん、大丈夫だけど……ありがとう」

 

 

 運転手さんにちなつちゃんを任せて車の外へと出る。村の真ん中を通る、心地良い川に沿って敷石の道を歩いていると……どうやら村の方が騒がしい。声は辺りで一番大きな建物から響いているようだが、その内容はしっかりとは聞き取れない。

 

「───な事を!」

「お前は何も分かっておらん!」

 

 二人の男性らしき声が、何かを言い争っているようで……その声は激しさを増していく。勢いよく玄関を開けて建物から出てきた大柄な男性が、こちらを一瞥すると眉間の皺を更に深くする。

 

「お前達……余所者か。お前さん達みたいな若いもんがこんな田舎に何の用があって来たんだか……」

「自然が綺麗だって聞いて、観光を……川とかとっても綺麗ですね」

「はん、そうかい……精々暗くなる前には帰るんだな」

 

 排他的な印象の若い男性はずかずかと何処かへ歩いていく。夜には帰れ……元よりそのつもりだったが、こうも強調されると何かあるような気がして仕方ない。だが、とりあえずはお手洗いを借りれるお店を探さないと……

 

「待て貞む……おや、お客人ですか。こんな所までよくお越しに、歓迎いたしますぞ」

「あぁ、ありがとうございます。それで連れが体調が優れないみたいなんですけど……何処かお手洗いを借りれるお店はありませんか?」

「それは大変ですじゃ、是非うちをお使いになってください! おっと、申し遅れましたな。私はこの村で村長を務めております春日道山と申しますじゃ」

 

 

 先程の彼とは打って変わって、人当たりの良さそうな村長さんの好意にあやかってお邪魔する事になった。先ほどより幾分か顔色の良くなったちなつちゃんと、先ほどよりも余裕がありそうなあまねちゃ……ティンカーベルを連れて家へとお邪魔する。

 

 一般的な造りの家だった、村長さんの家と言うだけあって他の家よりも大きいものの……特別何か変なものが飾ってあったり、やけに高級品で固められている訳でも無い。そんな中で彼は、ティンカーベルを見て驚いた様子で声を発する。

 

「魔法少女……」

「どうかされました?」

「いえ……いえ、ワシにもあれくらいの孫がいるものですから」

 

 応接室らしき畳の部屋に通される。縁側の窓から見える綺麗な川は、この村のトレードマークで上流の源泉は、わざわざ汲みに行く人もいるくらい綺麗なのだとか。

 

「今、お茶をお出ししましょう」

「そんなそんな、申し訳ないです……」

「ワシがしたくてしているだけですから、お気になさらないでくださいですじゃ」

「そう言う事なら、ありがたく頂戴させていただきます!」

 

 廊下の奥へと消えていく村長さん、随分と観光客でしかない私達にも優しい人だった。それにしても魔法少女は此処では珍しいのだろうか、悪感情は見えなかったから嫌い……というようには見えなかったけど。

 

「今更余所行きの貴方を見ると、こう……違和感が凄いですわね。背中がかゆくなるというか」

「酷くない?」

「普段と学校、お外での姿も全部印象が違うものねぇ」

 

 私の株を上げるために、猫の一つや二つくらいは被れる人間なのだ、私は。手持無沙汰になってそんな雑談をしていると、廊下を可愛らしい花柄の着物を着た女の子が通っていくのが見えた。おそらくお孫さんも夏休みという事もあって実家に帰省しているのだろう。

 

「……あら?」

「どうしたの、ルクス?」

「あの子……」

「お待たせしましたですじゃ」

 

 お茶とお菓子を持ってきてくれた村長さん、そのラインナップはよくあるおじいちゃんの家に行ってきた時に出てくるラインナップだった。

 

「お孫さん、とっても可愛いですね」

「そうですじゃろ、晴信と言うんですじゃ」

「はるの……晴信?」

 

 どこからどう考えても、男の子の名前だった。独特な名前の付け方をしている可能性もあるけど、もしかしたら2人お孫さんがいる可能性も……

 

 

「村では、年頃の男の子には女物の服を着せるんですじゃ。シラユ……シラユリ様の為にですな」

 

 

 因習村っぽい風習来たァ……! 本当にそんな習慣が根付いた村が現代にあったのか。だけどホラーというよりかは、なんかエッチなゲームにでもありそうな設定観だった。これじゃ淫習……

 

「何年ほど前くらいからシラユリ様はいるんですの?」

「100年ほど前と聞いておりますが……シラユリ様の話はそれくらいでよいでしょう。お菓子も良ければ食べてくだされ」

「わぁ、ベル……ルマンドだぁいすき♡」

 

 少し不自然に話自体を打ち切られる、余所者に聞かせる話でも無いという事なのだろう。この辺りも随分と因習村っぽい。後そろそろあまねちゃんには帰ってきて欲しい、初登場時のカリスマとか何処に行ったんだ。

 

 

 話も弾み、おすすめの観光スポットを教えてもらったり村の名産を教えてもらったり……そんな話をしていると、お手洗いからちなつちゃんが帰って来る。顔色は何時も通り、どうやら酔い覚ましが効いたらしい。これで一安心、そう思っていると……外から絹を裂くような悲鳴が聞こえた。

 

「一体何が……?」

「ちょっと窓を……なにこれ」

 

 何時の間にか曇りがかっていた空、その下を流れる綺麗な……いや、綺麗だった川は真っ赤に染まっていたのだ。鮮血のような真っ赤な赤に。

 

「シラユリ様じゃ……シラユリ様がお怒りなのじゃ……!」

 

 玄関から焦った様子でやって来たのは、この家に入るときに出会った若い男性。此処まで走って来たのだろう、肩で息をしている彼は声を張り上げて……言った。

 

「はぁっ、不気味な村だろう……だから言ったんだ、こんな村には近づくなとっ……!」

「貞宗……お主、お客人の前じゃぞ!」

 

 正に一触即発と言った空気、不自然な赤色は未だ川を染め続けている。呑気にお茶を頂く……という雰囲気でもなくなってしまった、此処に居るのは迷惑になるだろう。曇りがかった空がヤケに不気味に感じて来た。

 

 

 そんな事を考えて……いや、そういえば何か知っているだろうかとちなつちゃんへ目配せをする。彼女は小さく頷くと、咳払いをしてからポツポツと喋り出す。

 

「うん、川が赤くなったのは村長の息子の仕業。私達を早く村から追い出したくて、お目当てだと聞いた川を、赤い塗料で汚して、怖がらせようとした。私達の身を、案じてだ、ね」

 

 ギョッとした顔で固まる若い男性。途轍もないネタバレを喰らった気がする。こういうのって、村の人への聞き込みとか証拠を集めて少しずつ進めていくものなんじゃないのか。それに最後の私達の身を案じてって一体……

 

「観光者が、行方不明になっている噂は、本当みたい。それは、村長の仕業。シラユリ様を名乗る怪物に、生贄を捧げてる。それが示すのは、つまり……」

 

 今度は村長さんがギョッとした顔で固まる、反応を見るに血縁者なのだろう。そして話がドンドンきな臭くなってきた。排他的だったガラの悪いお兄さんは実は私達の味方で、私達をこの村から逃がすために悪役を演じていたって事……? そういうのホラーゲームだと居なくなってから気づくよね。

 

「そしてこれ、恐らく外敵案件。つまり───」

 

 村長の記憶を読み取ったスクイレとしての見解だ、間違いはないのだろう。つまり分かったのは、これが少々面倒くさい事態に発展しそうだという事と……

 

 

「───魔法少女の仕事だ、よ」

 

 

 ……私達にミステリーとかホラーは物凄く相性が悪いという事だった。

 

 

*1
あくまで彼女の個人的な意見です




推理パートとかスキップです、残念ながらどう頑張っても姿を見られると詰むので。

活動報告を更新しました、この作品に関する話なのでよければご覧になっていってください。
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