「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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4.お約束なんかに負けないが?

 協会からの呼び出しから三日、サテライトの失踪から十日が経った今日。当然しずくは学校にもその姿を現すことは無かった。3の法則の通り、遭難から3日が経った今……水分不足であれば耐えきれないだろう。しかし、最悪な事に「そういう相手」に捕まったのであればその心配はないはずだ……ゾッとする話ではあるが。

 

 そんなわたくしは、何の因果かしずくと最後に会ったミーティングルームに呼び出されていた。今回はわたくしだけという訳では無く、他にも協会に所属しているかなりの数の魔法少女が集められている。

 

 

 突如として現れた人類の敵である『外敵』が世界に出現して早30年、現代兵器どころか物理法則すら捻じ曲げる理外の存在に対抗できず、人類は大きくその数を減らすことになった。それと対抗するかのように人間の少女が突如として授かった『異能』。『魔法』と『戦闘用の衣装』の二つを持ち合わせた彼女達を、政府は『魔法少女』と命名した。

 

 現状では、理外の存在に対抗できるのは、同じく理外の存在である魔法少女のみ───というのが通説だ。だからこそ、どこの国も国防の要を齢10歳程度の子供に頼り切っているというのが今の世界の現状になる。

 

 しかし、魔法少女とは一概には言うものの、その年齢は幼女と言うべきものから妙齢の女性まで様々である。とはいえ年齢によってその能力は増減し───15歳程度がピークであるというのが一般的だ。そんな魔法少女たちを束ねているのがこの……魔法少女協会。そんな施設が権力を持っているのは、当然の事ではある。

 

 しかし、それだけの権力を持つに至ったのは───

 

「集まってもらったのは……他でもない」

 

 ───その魔法少女協会の長の力に寄るところも多い。先日会った時と同じように、一切の感情を覗かせない目は……まるで作り物のような無機物さを孕んでいた。

 

 

「先日、大規模な魔力反応が探知された」

「そんなことは分かっていますわ、あの日の───」

 

 恐らくはサテライトの失踪、あるいはその捜索の為の会議だと思っていたが……その予想は大きく外れる事になった。それも、悪い意味で。

 

「それとは別、予兆の段階に過ぎないけど……その規模は『奥多摩侵攻』のものと同格か、それ以上と計測された」

「……なっ!?」

 

 赤い髪の魔法少女、フランマの驚愕の声を皮切りに……ミーティングルームにどよめきが広がるのを感じる。今から3か月程前、日本各地で出現した1000を超える外敵と、その中でも最も大きな魔力反応を持つ奥多摩の山中に現れた一つの巨大な反応。そこには───『剛力の魔王』と呼ばれる特殊個体が確認された。

 

「つまり、あの『魔王』と同格の魔力反応が発生したと言っているのか?」

「そう、計測班はこの異常事態を───第二の魔王のものと認定した」

 

 先程とは比較できない程のどよめきが会場を包む。まさか魔王が複数体存在するなんて聞いたことも無い、それでも誰も取り乱さないのは……ここに居る魔法少女たちの誰もが精鋭ぞろいである証拠だろう。

 

「戦力の分散は、愚策。それでも、民間人への被害を考慮すると……ある程度は分けざるを得ない」

 

 そう言ってすらすらと地図に書き込まれる魔法少女名、これだけの数の魔法少女の全てを覚えていなければ出来ない芸当だった。そして、隣接するエリアの魔法少女は相性も考えられているらしい。知ってはいたものの実際に目にすると驚きを隠せない。

 

「発見しても足止めと連絡に専念、これが最適とシミュレートした。何か要望があれば挙手を」

 

 非の打ちどころが無い布陣だった、少なくともわたくしはそう思う。気に入らないところはあるが、作戦立案やこういった対策において彼女より優れた人間は見た事が無い。それは、魔法少女だけに限らず……大人も含めてだ。

 

「サテライトは……いらっしゃらないのですか?」

 

 か細い声で、拠り所を求めるかのような質問だった。誰もが思っていた疑問だろう。

 

「彼女は……訳あってこの作戦には参加できない」

 

 聞こえるのは落胆と動揺、そして不安の声だった。最強の魔法少女が築いた束の間の平穏に何処か甘えていたところがあるのだろう、わたくしもそんな事が全く無いと言えば嘘になる。

 

「わたくしが出ますわ、彼女が居なくても問題はありません」

 

 皆を安心させるように、何処か自分に言い聞かせるように声を張り上げる。一位が居なくなった以上、二位のわたくしが他の娘を安心させるのは当然の勤めだ。こんな形で……最強を譲られる事になるなんて思ってもいなかったけど。

 

「通達は……以上」

 

 こんな時に、外敵なんかに構っている暇なんて無いというのに……それでも、もしかしたらこの侵攻にサテライトを攫った外敵がいるかもしれない。それに、もしこの侵攻を許せば人類の生存圏は大きく後退する事になるだろう、そんな事を許すわけには……いかない。

 

 あなたの帰ってくる場所は、わたくしが必ず守りますから。

 

 

 

 

 少しずつ暗くなりつつある、神奈川にある大きな公園にわたくしは居た。魔力の反応から推測されるに、この辺りか八王子の方向に魔王級の魔力反応が出現する可能性が高いと言われていたものの……それも確定ではない。

 

 そんな中で、最も強い駒であるわたくしが『魔王』の出現確率が最も高いとされる場所に配属されるのは自明の理だった。周囲の住民は避難が完了している、ここなら周りを気にして本気を出せないなんて事は無いだろう。思考は今も上手くまとまらないけど、そんな事を言い訳にするほど腑抜けてはいないし、修羅場をくぐってきてはいない。

 

 流石の推測と言うべきか、それとも運が良かったのか……悪かったのか。目の前の空間が歪んでいく、その場の重力が何倍にもなったかのような圧力が一帯を包んでいく。それが示すのはつまり……

 

【おお、出迎えとは。下等種にしては気が利いておるな】

「こちらグライシア、魔王らしき個体をかくに───?」

 

 3mを越える巨大な身体と、角の生えた頭部。質の良さそうなローブその身を包んだ悪魔のような異形がそこに佇んでいた。この重圧……間違いなく『魔王』だろう。手筈通り協会へ連絡を入れようとして───何かがおかしい事に気付く。無線越しにノイズしか聞こえないだけでなく、スマホですら圏外を示している。二つとも故障したというのは考えづらいだろう、そうなると奴の策によるものか……

 

「あなた、何かしましたわね……?」

【ああ、力のが負けたのは……貴様らを侮ったからである。雑魚は群れ、そして強者の首元に噛みつかんとする】

 

 遮断の正体に漸く気が付いた、おそらくは魔力を膜のように張って周辺の通信を遮断しているというのだろう。それもこの一帯を包んでもなお、気づけない程の魔力操作精度。どれだけの研鑽を積めばここまでの技量を持つに至れるのだろうか。

 

【故に我は下等種を侮らぬ、貴様らを個として処理し、その上でその全てを平らげる】

「冥土の土産に、名乗る事くらいは許してあげますわよ?」

 

 少しでも情報を持ち帰らなければいけない、そう思って奴との会話を引き延ばしつつ隙を窺うものの……一切、隙らしい隙が見えない。間違いなく格上だ、わたくし一人で勝てる可能性は───限りなくゼロに近い。

 

【不遜にも我に名を問うか、まあ良かろう。我こそは───『術理の魔王』】

 

 王を名乗るのも、納得の重圧だった。これがサテライトが立ち向かった魔王と言う生物。最早、生物としての格が違うと言わんばかりの圧倒的な魔力が空気を震わせている。

 

【いつまで余の前で首を上げている───頭が髙いぞ】

「───かふっ!?」

 

 有り得ざる重圧により、地面に叩き伏せられ肺の空気が外へと漏れ出る。腕は硬質なはずのコンクリートに容易くのめりこんだ。重力系統の魔法か?探知を得意とするわたくしが魔法の発生すら目で追えなかったなんて、有り得ない……なんて、そんなことよりもこの場を切り抜けなければいけない。

 

氷面鏡(ひもかがみ)───ッ!」

【……ほう、面白い】

 

 わたくしの魔法は決して戦闘向きではない、氷でできた鏡を生成する……それだけの能力。優秀さで言えばもっと優れた魔法はごまんといるだろう。それでも、わたくしが二位の座にいるのは、忖度でも実家の力でも無い。

 

 わたくしの姿を投影し、姿をくらましてから上空に作り出した巨大な氷の鏡を落下させる。出力と応用、この二点を磨いて編み出した必殺の戦闘スタイル。

 

【だが、頭を隠しても魔力は丸見えでは無いか。ほれ───】

「ブッ潰れなさいッ!」

 

 巨大な漆黒の弾丸が現れ───氷の鏡に大きな穴をあける。魔力の事なんて、そんな事は当然織り込み済みだった。わたくしの鏡は───魔力をも映し出す。ただの氷の鏡を出すだけの能力、その慢心を突いた初見殺しの一撃必殺。

 

【……驚かされた、良い手品だ】

 

 だが、巨大な氷の鏡を砕いて現れた魔族は無傷とは言わないものの致命傷からは程遠かった。今のは、わたくしの持つ中でも最大の火力。こんな時に戦闘特化の他の魔法が羨ましくなるが、泣き言を言っても現状が変わる訳では無い。

 

【ならば全て溶かしつくしてしまえばよい】

 

 まるで太陽が地上に現出したかのような、圧倒的な熱量。こんなものを民間人のいる市内で放たれればどれだけの被害が生まれていただろうかと考えるだけでゾッとする。眼を開けられない程の光量と供に放たれた熱球は、拡散して辺り一帯の鏡を溶かしつくし……当然ながら居場所が丸裸になったわたくしへと向けられた。

 

 回避は───しきれない。咄嗟に庇うように突き出した左腕が焼けるように痛い。否、実際に焼けているのだろう。瞬時に氷の鏡で腕を覆ったのが功を奏した、そうでなければわたくしの肩から先は、この世界から綺麗さっぱり燃え尽きていただろう。

 

「──―ッ!」

 

 余りの痛みに気を失いそうになるが、こんな所でまだ気を失う訳にはいかない。奴の手札は殆ど割れた。前回の【剛力】と違い、奴の能力は魔法特化。重力、闇、炎……その辺りが見えた手札であるが、他にも手札を持っているとみていいだろう。

 

 これではっきりした、わたくし一人では……奴を倒せない。それどころか身体は既に満身創痍。もし体調が万全なら、この場から逃げる事くらいは出来たのだろうか……なんてそんなくだらない言い訳ばかりが思考を邪魔する。だけど今の状況は必ずしも、勝てない事を意味する訳では無い。何故ならこの戦いは初めから───

 

「データは十分ですわ、貴方の魔法のデータや傾向は既に観測済み」

【死に往くものがそれを知って何を……貴様ッ!?】

 

 ───氷の鏡によって、協会本部に中継されていたのだから。いけ好かない協会の長だが、その頭脳は本物だ。この戦闘データを基に早急に対策を練って、効率的かつ合理的な排除を行うだろう。種の割れていない敵(未知)程、怖いものは無いのだから。

 

「わたくしという個を侮りましたわね、術理とやら?」

【……成程、人間如きにしてやられたわけだ】

 

 初めて見せた、奴の動揺する表情。勝利とは───必ずしもその場で敵を倒す事だけを指すものではない。奴の未知は疾うに既知へと引き摺り下ろされた。

 

「どうやら知恵比べはわたくしの───あがっ!?」

【ふむ、仕方ない……此度は撤退するとしよう。あれだけの手駒を使って小娘一人とは採算が合わんが───じきに()()()

 

 

 頭上から放たれた漆黒の弾丸が直撃する、その衝撃に耐え切れず意識が闇へと包まれていく。そんな中で最後にわたくしが見たのは──―

 

「……じゃん」

「しず……く?」

 

―――ここに居るはずのない彼女の幻想だった。人は窮地に陥った時に都合のいいものを信じたくなるとはいうものの、本当だったらしい。それでも妄想の筈なのに貴方の背中は……どうしてこうも大きくて暖かく感じるのだろうかなんて、そんな思考は深い闇の中に消えていった。

 




次回「金髪ツインテお嬢様に負けたいんだが?」
土曜日19時更新予定
(内容がちょっぴりアレなので、お食事前には適さないかもしれません)

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