式典を終えて、自然と彼女達と昼食を一緒に食べる流れになる。私も彼女がどんな魔法少女なのかは気になっていた所だったので、渡りに舟と言う奴だった。流石に私達が飲食店に向かうと騒ぎになってしまうので、変身を解いてだけど。
それにしても、スクイレが言う『彼女と話をしてあげてほしい』とは一体どうすればいいのだろうか。いや、それも分からないのか。何と言っても今の彼女は、魔法を得た時の記憶を失っている。記憶の無い彼女の過去は、深層心理にすら浮かび上がらない。
とりあえず私に出来るのは、過去ではなく今の彼女を見てあげる事だけだ。と言っても私はカウンセリングの専門家でも無いし、単純にお話しするだけだけど。
「ここが行きつけのファミレスっす、美味しい上にメニューも豊富なんっすよね」
「そうなんだ、協会の……寮から近いから?」
「そうっすね、それもあるっす。それにしても、本当にこんな所で良かったんすか?」
「ファミレス、普段いかない。珍しい」
彼女だったり、他にも帰る家が無かったり遠かったりで協会が所有する寮に泊まる魔法少女は少なくない。その他にも、協会本部に寝泊りできるスペースが幾つか用意されている。記憶が無いとは言っていたが、彼女も同じなのだろう。
「僕がドリンクを持って来るっすよ? お二人はどうします?」
「わたし、リンゴジュース」
「私は野菜ジュースお願いできる?」
「分かったっすよ、ちょっと待っててほしいっす!」
カーキ色のチノパンにパーカーと言うボーイッシュな服装に身を包んだ彼女は、ドリンクバーへと歩いていった。
「良い子だね、優しい子だ」
「うん、そう」
よく気配りが出来て、明るくて快活。あまり物事を抱え込むような少女には見えなかったが……それでもそんな少女が自身の記憶を消した事だけは、確かなのだ。
「お待たせっす、普段はこう……キラキラしてないんっすね?」
「テレビとかも来てるからね。とは言え普段もずっとあぁだと……ね?」
普段と魔法少女と学校、私は三つの顔を使い分けて生きている。理想とする自分を演じて、その落差を楽しむため……なんて話は今はどうでも良いか。人は大なり小なり、そういう所があると思う。
「ハンバーグコンボランチ、お待たせしました」
「あっ、それ僕のっす! こっちにお願いします」
服装の趣味や食べ物の趣味まで男の子っぽいというか、そう言う感じなのかな。最近は珍しくないけど、普段周りにはいないタイプだったから新鮮だった。
くるくるとスパゲッティを巻きながら口へと運ぶ。確かにこの都内に個人でファミレス店を構えているだけあって、味はかなり美味しい。
「それにしてもどうして僕にお声を掛けたんっすか? あのサテライトさんから声を掛けられるなんて光栄ではあるんっすけど……」
「神凪……神凪ほにゃららの時にお世話になったって聞いて、是非お礼を言いたくて」
「ほにゃらら……神凪宗一郎の件っすか? あぁ、あれも仕事なんで気にしなくていいっすよ!」
まあ実際に全くの嘘という訳でも無い、もしも記憶を消せなければ存在を消さなきゃいけない所だった。魔界に送ってしまえば、まあ証拠は残らないわけで。
「僕もお礼をしたかったんすよ、やっぱり立場上”
「それこそこっちがお礼を言いたいくらいだよ、ジェーンさんのお陰で救われた魔法少女は沢山いるから」
「そ……そうっすかね? どうしても、救いきれなかった人たちを思うと心が痛いというか……」
外敵に攫われた魔法少女たちは、二通りの道があるとはスクイレの言だ。一つは、記憶を消して元の日常へと戻る事。もう一つは……
「魔法少女は、神様じゃないよ。私達は一人の人間にしか過ぎないんだから……拾えた命に感謝していく事しか出来ないと思うな」
「それも……分かってるんっすけどね……」
強い願いを帯びていても、死者をよみがえらせることのできる魔法少女は未だ存在しない。そしてこれからも存在しないだろうとも思う。魔法は奇跡のような力だけど、私達はあくまで人間なのだから。
それにしても、随分と強力な能力だ。物事を忘れられないスクイレと、物事を忘れさせるジェーンの魔法。果たして一体どうなるのか、恐らく試した事はあるのだろうが……
「記憶処理を魔法少女に施すには、対象の同意がいるんっすよね。他者の魔力を弾く? とかで」
「ちなみに私は、忘れられなかった。恐らくは、体質と都合が悪い」
先に考えていた疑問の答えを教えてくれた。完全記憶能力の前には効果が無かったということは、徐々に記憶を消していくものなのか? それとも、思い出しづらくしているだけなのか……いや、あまり人の魔法の推測をするのも、失礼か。
その後も適度に会話をしながら昼食をとり終わる。程良い満腹感の中、お店を出ると冷房の効いた室内と気温のギャッブに思わず顔を顰める。
「それにしても、本当にご馳走になっちゃって良かったすか?」
「良いの良いの、私から誘ったんだし」
「ありがとうっす、ごちになるっす!」
昼食を奢っただけでとても喜んでくれる。彼女の仕事的に、かなりの額を貰っているはずなのにも関わらずだ。
「それじゃあ解散っすかね? ありがとうございました、今日は楽しかったっす!」
「うん、それじゃあまたね〜」
こちらへ大きく手を振ってその場から離れていく彼女は、結局最後までとても感じの良い子だった。
去っていく彼女の後ろ姿を二人で眺める。
その背中が見えなくなったあたりで、会話のために口を開いた。
「ちなつちゃんにも仲が良い子が居てよかったよ」
「うん、でも……やっぱり話していて、恐怖心を感じた。人なら、当たり前の反応。仕方ない……」
自分の心を丸裸にされるというのは、常人にとっては結構なストレスらしい。そのことを知れてしまうというのも、今更ながらに大変そうである。
「それで、ジェーンちゃんの事だけど……」
一緒に話してみて思ったのは、別に彼女に特別何かする必要があるのかという事だ。過去に何があれ、今が幸せならそれで良いと思う。忘れたいことは忘れたままでも良い、別に全てに向き合って生きていく必要も無いのではないかと。
「うん。それだけなら、わたしもそのままに、してた。でも、一つだけ、致命的な……すれ違いがある」
「すれ違いって? 話をした感じ変な印象は受けなかったけど……」
言うべきか迷っていたのだろう、人の心の奥底を言いふらすような真似はあまりよろしくない。それでも話すことを決めてくれたのは、私への信頼からだろう。勿論私も、言いふらすような真似をするつもりは無い。
「あれだけ快活に見える彼女は、人と会いたがらない。それどころか無意識的に、自分の存在を他の人の記憶から消したがってる。その理由を、欠落させたまま」
記憶や経験によるものではなく、本能的に自身の存在を覚えていてほしく……ない?
どれだけの経験があれば……いや、まだ憶測にすぎない情報で人にレッテルをつけるような真似は良くない。
「何時の日か、わたしは彼女が……消えてしまいそうで怖い。杞憂なら、それでいい……けど。せめて私たちだけでも、彼女を忘れないで、あげたい」
「分かった。とりあえず少し話をしてみるね? 仕事の都合会うことはあるだろうし、まだ彼女について知らなさすぎると思うから」
「うん、お願い」
協会へと彼女を送る道すがら、真夏の日差しに焼かれながらも歩いているとスクイレがスマホを取り出して、何かをフリックする。
「そういえばこれ、今日の護衛とご飯の、お礼」
彼女がスマホを操作し終わると、ピロンとLINEの着信メッセージが鳴る。
何かしらのファイルかリンクを送ったようだが……
「何時から魔法少女協会はLINE決済を始めたの? 寡聞にして知らなかったよ」
「時代の、波。アップデートしていく、べき」
そう言って指でVの字を作る彼女だったが、表情は何処かぎこちない。
最近はこうして冗談にもノってくれる、情緒が豊かになってくれて嬉しい限りだ。それにしても贈り物は何なんだろうか……まぁ本当に現金ではないんだろうけど、それはそれとして中身が気になる所だ。
「それは、それとして」
「ん、どうしたの?」
「しずくが、他の女の子と仲良くしてるの見ると、やきもきする」
「スクイレが『あの子をお願いしたい』って……!?」
「スクイレとしての判断と、
素晴らしい心根だ、公私混同をしない様は尊敬できると言ってもいいだろう。
こんな状況でなければ……だが。
「ホテルでサンドイッチ。しずくは、おっきいほうが、好き?」
「なっ、何でバレ……いや、愚問だったか」
「ねぇ、答えて? 返答次第ではその……頑張る」
そういって胸元を強調するちなつちゃんだったが、その胸は平坦であった。
だが、たぷんたぷんのおっきいお胸は素晴らしいが……平坦なお胸にしかない魅力も間違いなくある。例えば、抱き合った時の面積とか心臓の拍動がしっかり聞こえたり。手ですっぽりと覆い隠せるというのもまた、それはそれでエッチな気がする。
……何か違和感があったような気がしたが、まあ気のせいだろう。
「じゃあお昼寝……する?」
そう言って上目遣いで私を見上げるちなつちゃんに、思わずドキリとする。なんだ、何がおかしいんだここ最近……旅行に行ってから、ずっとこうだ。
とりあえず待っている彼女に返事を返さないといけない。
まあ? 中学生にもなって一緒にお昼寝なんて……まさかね?
「……する」
「やった、じゃあ、私の部屋行こ?」
……した。
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