ぱちっと部屋の明かりが点く。お昼寝を始めたはずだったのに、外はすっかり真っ暗だった。腰とお股が痛い、それに凄く喉が渇いている。私の事が好きなのは良いけど、ハメを外しすぎである。まあ、その……悪くはなかったなって、ちょっとは思ってるんだけど……
「気のせいですかね、何かこう……全身に力が張るような感じがするんですけど」
「気のせい、じゃない。サテライトの、お陰」
「流石サテライト様ですっ♡」
「すっごい複雑なんだけど……私はどうすればいいんだろう」
まさかその、吸われてお礼を言われる日が来るとは思わなかった。えっちしてヒロインを強くするとか、何処のエロゲ主人公なんだ……そもそも、誰と戦えば良いんだろうか。
「えへへ、サテライト様♡夜ご飯食べれそうですか? 辛かったらぁ、ベルが口移しでなんて……きゃっ♡」
「んっ、大丈夫。自分で食べられるから……」
「えへへへへ、サテライト様ぁ♡歩くの辛かったら、ピザでも頼みますか?」
「ふっ、ふぅ……どうしてこうなってるかは、知ってるよね?」
「お嫌でしたか? あんなに嬉しそうにしてくれていたので、てっきり……」
「くっ、その顔は狡いからやめてね? 嫌だったわけじゃなくて、その……うん、なんでもないや」
尻尾があったら、ブンブンと振っているのだろうというくらいに私へと抱き着いているベルちゃん。嬉しそうにしたり悲しそうにしたり、随分と忙しい子である。
ただ、腰が抜けて歩けなくなるくらいには好き放題されてしまったので、帰ろうにも帰れない。シャワーくらいは浴びたいんだけど……ちょ、ちょっと休まないとそれすら厳しい。
そして折角買った冷蔵庫には食料品が入っておらず、殆どが飲み物とアイスくらいである。だから、何か宅配してもらうしか無いんだろうけど……スクイレ?
「あんまり、自炊しない。いつもウーバーする」
「確かにあんまり料理してるところ想像できないね……」
「レシピは知ってる、多分できる……よ?」
今から食品を買いに行くのも大変だよね。という訳で急遽、ピザを頼んで魔協でのお泊り会が決まった。普段の職場とか学校に寝泊りって何と言うか……こういう非日常感が意外と楽しいよね。
「とっ、とりあえずお風呂借りるね? ちょっと乙女としては匂いが気になると言うか……」
「ん、分かった」
ゆっくりと立ち上がり、ガクガクの膝を引き摺って……何とかお風呂場へとたどり着く私。ここ最近、かなりの頻度で膝が震えて立ち上がれなくなっている気がする。
洗面所の前で魔法少女の衣装を消す。魔力で編まれた衣装だから付けるも消すも自由である。わざわざ魔法少女に変身したままお風呂に入る事はあんまりないけど。
まぁ、私みたいに髪色とか変わる子とかは魔法少女体のまま過ごす子もいるらしい。そんな訳でお風呂場へと歩を進めた時……
「ベルが、ベルがサテライト様を洗わせていただきます!」
「はえっ?」
緑髪の魔法少女からの思わぬ提案に、面食らう事になったのだった。
お風呂場の椅子へと腰掛ける、あって良かったお風呂の椅子。お風呂の椅子と言っても、銭湯にあるような奴だけどね?
「サテライト様とお風呂入るのは……初めてですね!」
「ん? 旅行の時一緒に……」
「あれは、しずくおねーさんじゃないですか! サテライト様はサテライト様ですよ? どっちも魅力的で……ふへへ……」
結局、断る理由も思いつかずにベルちゃんを招き入れた私。そこまで広い訳では無いけど、少女2人が入るにはなんら問題のないサイズのお風呂場だった。
まあ確かに、自分で髪を洗うのも怠いくらいには疲れ切ってはいたんだけど……これにかこつけて、えっちな事とかしたりしないよね……?
「はいっ、髪を洗っていきますよ〜」
彼女はシャンプーを手に取り、手の平で馴染ませてから優しく頭を洗い出す。お風呂場に着いて来たがるとは、どれだけ私の事が好きなのか……分かってても、微笑ましいというか嬉しいというか。
「お痒いところはございませんか? えへへ、綺麗な髪ですね〜」
「何か随分と……手慣れてるね?」
手際は勿論の事、まるでプロの手付きとも言うような気持ちよさだった。少なくとも、1週間程前に温泉で洗ってもらった時とは比べ物にならない。
「こんな日が来た時のために、美容室のおねーさんにお願いして髪のお手入れとマッサージをちょっと教えてもらったんです♪ 美容室のおねーさんも、「あまねちゃんなら今すぐでもお店で働けるね……忖度抜きで……」って太鼓判を押してくれたんですよ?」
それはちょっと頑張ったのレベルに入らないのではないだろうか。あの旅行が終わって1週間も経ってないと言うのにこの仕上がり様……私のグッズを自作するくらいだから気づいてはいたが、才能の塊すぎる。
そもそも、私が失踪してから1ヶ月で新しい組織を立ち上げた女だった。スピード感が怖いまである。
「あっ、そこ気持ち良い~すっごい上手だね……」
「えへへ、嬉しいです! それに推しの髪を……綺麗に保つお手伝いが出来るなんて……」
実際、とっても気持ち良かった。これからもお願いしたいかもと思う位に。今更だけど、温泉でも無いのに同じお風呂場ってなんか変な感じがするなぁ……そこまで気が回ってなかった。
「お身体も洗っちゃいますね? 勿論、洗い方はバッチリです!」
「うん、じゃあお願いしよっかな……えっ? そんな事も美容室でやったの?」
ボディーソープを泡立てて、ゆっくりと首筋に近づけているのが鏡に映っている。なんだ、この妙な胸騒ぎは。その手の伸ばし方、見覚えがあるような無いような……
「身体の洗い方はぁ、ルクスさんに教えてもらいました♪」
「……ひっ!?」
まずい、まずいまずいまずい……!
「はぁい、あわあわ~♪」
「ちょっと、ベルちゃん!? 今日、これ以上は……」
「スクイレが言ってました、サテライトの”いやいや”は……して欲しいだって♪」
もうこれ以上は、洒落にならない……なんてことを共有してるんだスクイレは……♡
「嫌だったら、突き放してください。でも、ここをこーんなにして……期待しちゃってますよね?」
「ひゃん♡ちっ、違うもん……」
「良かったぁ、私の身体でもちゃんとえっちだなって思ってくれてたんですね♪」
身体をゆっくりと洗われている、女の子の弱点をばっちりと把握したような触り方で。
「鏡に映ったサテライト様、とってもエッチですね? ほら、見えます? きもちよさそーに、顔を赤くして……」
「はっ、恥ずかしいよぉ……」
「ふふっ、洗ってるだけなのに……どうしてこんなに固くしちゃってるんですか?」
「生理現象だから……違う、興奮してないっ」
触れるか触れないかのようなフェザータッチで、既に泡塗れのお胸に触れる。固くなんてなってない、身体を洗ってもらってるだけだから……なんでもない♡
「はい、痒い所はありませんか? 何処か言ってくれれば、もっと洗ってあげます♪」
「あっ♡無いっ、無いから……」
「へぇ? そう言えばぁ……後ろ、気になりませんか?」
なぜ後ろなのかと思って振り返ると……お風呂場の曇りガラスの奥、そこには確かに……灰色の人影が見えた。そして耳を澄ませば聞こえる……僅かな嬌声と水音。まさか、いやそのまさかだろう。きっと心配になって様子を見に来てくれたんだ。あっ、ごめんなさい……♡
「サテライト様がえっちな声出すから、ですよ? ここで止めたらぁ、可哀そうですよね?」
「すっ、スクイレ……♡」
「そう、スクイレを助けるためだと思って……ですよ? 素直な気持ちを、教えてください?」
羞恥心と、興奮と愛情を天秤にかける。天秤はすぐに、後者へと傾いた。
「どっちも……痒いですっ……」
「はい♪ どっちは何処かはぁ……察してあげます♪」
じゃああああと、シャワーから勢いよく水が溢れ出す。
「シャワーのぉ、お湯加減と強さは如何ですか?」
「ちょ、丁度いい……です♡」
「はぁい、それじゃあ押し当てていきますね~」
よくない、とてもよくないけど……スクイレの為? いっぱい、いっぱい声……出さないと。シャワーの水音に負けないくらい、おっきく……♡
「手は二つしかないので……自分で弄れますか?」
「うん、右は自分で……ッ♡」
「はいっ、それじゃあ……痒くなくなるまでよーく洗い流しますね♪」
勢いよく流れる水と、三つの水音。
水道料金が心配だななんて言う場違いな感想は、押し当てられたシャワーヘッドに押し流された。
「はいっ、身体拭けましたよぉ~ふわふわのタオルは気持ちいですねサテライト様♪」
「う”ん”っ、そ、そうだね……」
なんとか、肩を貸してもらってお風呂場を後にする私。何とか衣装を纏いなおすと、運ばれたベッドへと座りこむ。どうして、お風呂に入る前よりも疲れてるんだろう……
「ドライヤーかけちゃいますね、座ったままで良いですよ♪」
「おね……がい……」
何処か頬を上気させたスクイレが早足でお風呂場へと入っていくのを見送る。暖かい風で髪を人に手入れしてもらうのは、気持ちが良かったがさらに眠気を誘う。ドライヤーをかけ終わったと同時に倒れ込み、意識がぷつりと落ちて……
次に意識が覚醒したのは……来客を告げるインターホンの音だった。
「あっ、おはようございます! サテライト様♪ ピザ来たみたいです、私が行ってきますね?」
「んっ、おはよ……お願い……」
魔協の玄関に届いたピザを持ってきたベルちゃん。必然的に彼女が受け取りに行くのが一番丸い。流石に一眠りしたからか、食事ができる程度には回復していた。それに、沢山運動したからかお腹はペコペコだった。
見慣れたチェーン店のピザの外箱を開くと、美味しそうな鶏肉の乗ったピザが姿を現す。
「それじゃあ、いただきま~す♪ 協会長様はぁ、意外とセンス良いね? 分かってるじゃん♪」
「読んだだけだ、よ? ピザと言えば、テリマヨって……あれだけ、主張されたら。頼まざるを……得ない」
「えぇ? なんのことぉ? ベルわっかんな~い♪」
まあ、外れない選択肢だよね多分。
それにしても二人とも随分仲が良くなったものだ、本当に。
「それで、調べてもらってた件。何か、分かった?」
「報告ぅ……? メールでよくない?」
「口頭の方が、間違いが、無い」
「えぇ~アナログすぎぃ……まあサテライト様にも教えてあげたいですし、報告しますね?」
そう言って手をウエットティッシュで拭いた後、紙の資料を鞄から取り出すベルちゃん。なんだかんだ言って、大事な資料は紙ベースで保管している……抜け目ない。
とは言えどうやら真面目な話だ、流石に気は抜けないと意識のスイッチを切り替える。
「記憶の……ジェーンちゃんだっけ? 初めて彼女と会ったって言う地区を洗ってみたけどさぁ……」
そう言って数枚の資料をペラペラと捲るベルちゃん。その顔は先ほどと違って至って真面目そう……だけど、時折ぺろりと舌なめずりをしている。恐らく、ピザの照り焼きが付いたのだろうけど……ちょっと絵面がエッチすぎるので止めて欲しい所である。
「それでぇ、私の方で調べた資料が……こっち。いやぁ、さっぱりって感じ。記憶の……ジェーンちゃんだっけ? 彼女を知ってるって人は全くのゼロ♡ゼロ♡」
「んぐっ♡」
「あっ、ごめんなさいサテライト様!? つい……何時もの癖で!」
急にカウントダウンも無しにそんな事を言われると、身体が勝手に身構えてしまう。想像の3倍くらいは敏感なんだぞ、私……流石に達することはなかったけど、スイッチが入りかけた。
「でもでもぉ、近辺で全く証言が無いっておかしいよねぇ? 人一人が生活するにはぁ、絶対痕跡が残るんだよぉ? どんなに酷い目に遭ってたとしても、ご飯食べてなきゃ生きてる訳無いし」
「それはそう。食事をしないと、生きては、いけない」
今の私達のように、魔法少女と言えど食事をとらないと生きてはいけない。熱したお湯をかけられようと、煙草を押し付けられようと傷つかないけど……餓死だけは避けられない。
「それに、経験上こういう子って親の『お使い』に行かされることが多くてぇ……ご飯のついでにちょっとお酒とか煙草とか買おうとした子を重点的に調べてみたらぁ……ビンゴ♪」
調べたとは言っているものの、間違いなく正規の手段では無いだろう。ハッキングとかしていそうな気がする。新星魔法少女協会の少女たちの魔法は、魔協の子達よりもこう……暗い雰囲気の魔法が多い。知ってる中だと、テレポート系の子とか。
恐らくは、「こんな場所にいたくない、遠い何処かへと行きたい」という強い想いの表れだ。そうでもなければ、10歳程度の少女の一番強い想いがテレポートにまつわるものにならないはずで。
「それでも、これを見るってことは……彼女の無くしたかった過去を暴くってコトだよ? それって、本当に正しい事なのかなぁ? ね、えらーいえらーい協会長様?」
「全ての魔法少女の、幸せが。協会の、優先すべき……事項」
「答えになってなくなぁい? 悩んでるなら悩んでるって言いなよぉ?」
「サテライト様は、どうしたいですか? 私は、貴方の道をナビゲートしますけど……貴方の行きたい場所は、貴方様自身が決めて欲しいです」
急に真面目な顔で瞳を見つめられると、少しびっくりする。普段の対応からは全く想像がつかないが、彼女はこの歳でこういう少女たちを救うために活動する組織を率いる、圧倒的なカリスマの持ち主だ。この中でジェーンちゃんの境遇への理解が一番できているのも、彼女なのかもしれない。
「私が……どうしたいか……」
「はいっ、ベルはどんな判断をしたとしても……サテライト様を導いてみせますよ?」
考える、どうする事が最善なのか。彼女の過去を知った所で、徒に傷つけるだけなのかもしれない。とは言え、何もしなければ彼女は無意識に人を遠ざけ続ける。スクイレにとっての私のように、誰かに支えてもらう事すら出来ない。
「まだ、その封筒の中身は……見ない。もう少しだけ、ジェーンちゃんを見てみる事にするね」
「……はいっ、流石はサテライト様です!」
その答えが正解だったのかは分からない、今は何が彼女にとっての地雷なのかもわからない。それでも、話し続ける。それが私の選んだ選択だった。
何せ彼女と会ったのは今日が初めて、私はまだ記憶の魔法少女ジェーン・ドゥの事を……知らなさすぎる。出会って一日の私が、彼女の何を決めつけれようというのか。
「ん、分かった。明日以降も……お願い」
「うん、取りあえずは……彼女の好きなモノを知らないとね」
今がどれくらい満ち足りているのか、それすら分からない。少なくとも、仲のいい友達が居なさそうなことだけは確かだが……意外と、一人が好きなタイプの子かもしれないし……今日接した感じ、そうは見えなかったけど。