不知火ユウタロウ。
それが魔法少女ジェーン・ドゥの名前である事に気付いた……気づいてしまった私は、今の彼女の状況に思考を巡らせていた。
息を吸う事に普段意識を割いたりしないように……
記憶は無くても、長い間身体に染みついた習慣が消えないのか。
外部からの要因で記憶から消しても追われ続けるような……
「男の子にならなきゃいけない」という長年の強迫観念が染み付いているのか。
一体何が起きているのか、それは本人にしか……いやきっと本人にも分からないけど。
一つだけ確かなのは「これ」だけを知った所で、私達にどうにかしてあげる事は出来ないという事だけだ。精々が男の子扱いしない事だけ、それすらも確実に正しいかと問われると分からない。
<悪趣味……ですわね>
<名前の時点で、きっかけは本人が望んで……という線はなさそうだよね>
今にも胃酸がせりあがって来そうで、平常心を保つので精一杯だった。彼女の事を良く知ってしまったから猶更許せない。
どうして、どうしてこんな一人の人格を無視するかのようなことが出来るんだ?
今もきっと
<気持ちはわかりますけど、此処で暴れても何の解決にもなりませんわよ>
<分かってる、分かってるけどさ。こんなのって……あんまりじゃん……>
人を人とも思っていないような所業。お父さんとお母さんくらいは、せめて子供の味方であって欲しかった。それが当然だと……思っていた。
何か原因を知れるような、そんな何かを捜したものの……当然ながら見つからなかった。見つかれば彼女のことが分かるような何かを、記憶を消す前の彼女が部屋に残しておくとは確かに思えない。
<これ以上は無駄ですわ……帰りますわよ>
<うん、ありがと……ごめんね>
<何で貴方が謝るんですの、全く……>
結局、それ以上の手掛かりはなく部屋を後にする事になった。
夕暮れに染まる住宅街は真っ赤に染まっていて、まるで燃えているようで。
あたりからは夕食の準備の為か、美味しそうな匂いが漂ってきて……
何故だか無性に、お母さんに会いたくなった。
時刻は夜、私もお風呂に入ってパジャマに着替えた。後は寝るだけ、寝るだけなんだけど……
「お母様……その……」
何となく寝付けなくて、リビングでスマホを見ていたお母様に話しかける。おそらくは、何時ものようにWeb漫画の類を見ているのだろう。淹れたばかりであろうティーカップからは、まだ白い湯気が立ち上っていた。
「どうしたの、しずくが言い淀むなんて珍しいわね」
「きょ、今日……一緒に寝ない? ルクスも一緒に、さ」
少し驚いたように目を見開いた後、熱でもあるのかと額に手を乗せられる。
「ねっ、熱がある訳じゃないよ?」
「無い方がむしろ心配なんだけど……まあ良いわ」
熱が無いと分かると見透かしたかのように私の頭を撫でながら、ぎゅっと抱きしめてくれたお母様。ちょ、ちょっと恥ずかしいけど、別に中学生だしそんなに珍しい事でも無いでしょ!?
たっ、多分。
「良いけど……お母さんを挟んでルクスちゃんと乳繰り合ったりしないでよ?」
「しないよ!?」
実の娘の事を何だと思っているのだろうか、清純派美少女でやらせて頂いて……頂いて……
真の清純派美少女は、実の母親に自分のミルク(直喩)を飲ませたりしないのでは? うぅ、何だが思い出して恥ずかしくなってきた……色々重なって私にしては珍しくバッドにハマりそう。
親から子はあっても、子から親へは流れ得ないはずなのに。こうして意識して向かい合うと本当に申し訳ない、せめて私が墓場まで持っていく事で二次被害を防ぐしかない。
「娘の交友関係に口を出す気は無いけど……あんた、刺されないように気をつけなよ?」
「それは……頑張ります……」
ぎゅっと抱きしめると柔軟剤の匂いが広がる。とっても、安心する匂いだ。私からもきっと同じ匂いがするのかな。
「ほら、何時までも甘えてないで自分で歩きなさい」
「え~っ、抱っこして?」
「しょうがないわね全く。それにしても最近何故か調子が良いのよね、あんた知ってたりしない?」
「ししし、知らないよ!?」
そんなお母様に抱きかかえられて、寝室へと向かう。
「はぁい、呼ばれてきたわよ? お義母様♡」
「ちょっと狭いかもしれないけどゴメンねぇ、この子が急に甘えたがって……」
「あらあら、良いのよ? これくらい甘えてくれた方が可愛いもの♡」
冷静になったらとっても恥ずかしくなってきたけど、今更なかった事には出来ない。逃げるようにベッドに入ると続いてルクスが私の右へと入り込む。
私を挟んで何時も通りだっさいTシャツに身を包んだルクスと、お母さまが並んでいる。川の字で並んで寝るなんて初めてだった。
流石にちょっとベッドが狭いけど……でもその狭さもまた幸せだなって感じる。
「実の娘ながら顔が良いわね、その顔で他の女の子を引っかけて回ってるのかしら?」
「しずくちゃんって顔も良いけど、とっても優しいのよね。他種族の私達まで気に掛けて……ね?」
「もっ、もう寝ようよぉ……」
「ふふっ、揶揄いすぎたかしら」
先程まで恥ずかしさで消えそうになっていたものの、ぎゅっと抱き着くと温かさと安心感で睡魔が一気にやってくる。
「お母様は……何があっても……私の……」
「安心しなさい、私はあんたの夢を納得はともかく飲み込める母親よ。ちょっとの事じゃ驚きやしないわ」
「んっ……お休み」
視界が真っ黒に染まって、徐々に意識が薄っすらとしていく。
心地良い微睡の中で、私は意識を手放した。
ちゅんちゅんと小鳥の囀りが聞こえる。私の体内時計で言えば今の時間は大体6時くらい。何時ものようにランニングに出かける時間だ。
「私───復活!」
一晩甘えてメンタルは随分と回復した。人に甘えるだけで一晩で回復するとは、随分と固いメンタルである。さて、今日は早速……!
「五月蠅いわよ、休みの日くらいもう少し寝かせなさい」
「ごっ、ごめんなさいお母様……」
朝六時の声量では間違いなくなかった、昨日の夜のせいでテンションが少しおかしいのかもしれない。出来るだけ静かに身を起こして、ベッドから旅立つ。実の母親と淫魔をベッドに残して……文字に起こすと、とんでもない絵面だよね……本当に。
ランニングシューズが地面を蹴る、今日はパトロールと言うよりも日課としてランニングをしている。そしてランニングをしながらも昨日の事を考える。考えがまとまらないときはリフレッシュと運動は重要だと聞いてから、こうしてランニング中に考え事をする事が増えた。
昨日分かったことは、ジェーンちゃんの名前と男として育てたらしいという事くらい。
本来は詳細は当人たちに聞ければいいが、当人たち全てが記憶喪失という有様……残念ながらこの件を知っている人間はいないに等しいだろう。
せめて、もう一歩踏み込んだ彼女の内心を……日記やメモのようなものが残してあれば、この問題を引き起こしている原因が分かるかもしれない。
そう思って彼女の部屋を捜しては見たものの……残念ながら日記の類は見つからなかった。
考える───どうして彼女は男の子にならなければいけなかったのか。
考える───どうして彼女は、明るく立ち振る舞うのか。
考える───どうして彼女は無意識的に人を遠ざけるのか。
ダメだ、分からない。恐らくは分かるはずもない。慣れてきた身体に合わせるように、コンクリートを蹴る力を強める。何処までも走っていけそうな気がする、早朝の風の爽快感を肩に感じる。
それじゃあ糸口を変えてみよう。もし、私が彼女だったなら……
今までの全てを忘れ去るとするのなら……どうする?
きっと、何処かにメモか何かを残すだろう。もしも無ければ、それで手詰まりだが……探してみる価値はある。だけど彼女の住んでいた家にはなかった、ならば他に考えられる保管場所は……
そうだ、もしもあの部屋から何かを持ち出したとしたら……‥それが何処にあるかなんて分かり切っている事だ。
「魔法少女協会の……寮」
問題は、彼女が招き入れてくれるかどうかだが……
彼女が今住んでいるそこに、もしかしたら手掛かりがあるのかもしれない。
正直、程々に日常とか親の描写があった方がエッチなシーンが引き立ちますよね。
普段エッチなしずくちゃんにも、愛情を持って育ててくれたご家族がいる訳で。その落差もまた愛おしい。
第一章で続きが見たいお話のアンケート(第一弾)
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0.或る魔法少女の結末
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2.5.淫魔たちの牧場見学なんだが?
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7.5.ご主人様と躾の時間……なんだが?
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その他(コメントまでどうぞ)