「ごめんなさい、すぐにはちょっと考えられないです」
「あぁ、勿論だとも。時間をかけてよく考えて欲しい」
真剣にこちらを見つめて、それから手元のティーカップに視線を移したクロエちゃんの父親。
彼が悪意からそんなことを言っているのなら、突っぱねる事も容易かった。確かに、事業家としての提案ではあるのだろう。
「私も、酷なことを言っている自覚はある。だが……何よりクロエ自身のためにもなるんだ」
でもその顔は、娘の幸せを願う父親の顔でもあって。
クロエちゃんのお父さんも悪い人ではないのだろう、むしろ父親として真っ当と言える感性だ。
だからこそ即答できなかった。
「すみません、失礼します」
「……あぁ」
書斎を出て、部屋へ戻るべく歩き出す、
彼が……意地悪や先入観だけで言っていないからこそ、私も悩んでいる。
そんな事を考えていると何故だか無性に……クロエちゃんに、会いたくなった。
部屋に戻れば居るだろうなんてことは、分かりきっているのに。
部屋に戻ると、想像の通りにクロエちゃんは居た。
「ただいま~」
「えぇ、おかえりなさいしずく」
そんな彼女は、今はベッドの上でスマートフォンを見ながら寛いでいる。
私は……クロエちゃんの何なのだろうか。
淫紋のせいでエッチなことをして……そこからズルズルと関係を続けていた。
告白もしていないし、一般的な彼氏彼女にあたるところの、彼女……ではないだろう。
そして、ご主人様……と言ってもそれは夜の間だけ。
学校に戻れば、また仲の良い友人に戻る。
クロエちゃんが私のことを好いてくれているのは分かっている。
私もクロエちゃんの事は好きだ、でもそれがどういう好きなのかは……分からなかった。
彼女の笑った顔も、怒った顔も。
意外とお茶目なところも、夜はちょっと意地悪なところも好きだ。
だけどこれがどういう『好き』なのかなんて。
将来の事なんて……考えた事もなかった。
いや、考えないようにしていた……のだろう。
普通の恋愛だとか、好きと恋の違いだとか……我が身になると分からないものなんだな。
「クロエちゃんは、将来の事とか……考えてる?」
「急にどうしたんですの? まぁ、それはもう……かなり考えてますわ」
「そっか、そうだよね……」
来年からは高校生、将来の事だって考えなきゃいけない。
彼女ほどの家柄であれば、お見合いの話だって来ているのかもしれない。
そんな事を考えていると、クロエちゃんが手元のスマホから視線を外して私を見つめていた。
「お願いが、ありますの」
「うっ、うん」
いきなりどうしたのとか、珍しいねなんて……少しおどけようとして……止めた。
「少し踏ん切りがつかない事がありまして。一言、勇気づけてほしくて……その……」
ぎゅっと私の手を握った彼女が、何時になく真剣な声色だったから。
自信満々な彼女にしては珍しく、踏ん切りがつかないような様子だった。
そんな彼女に、私がしてあげられることは……
「きっと、クロエちゃんなら上手くやれるよ。何と言っても、この私が信じてるんだし」
「なんですの……それ。ふふっ、貴方らしい激励ですわね」
「……でしょ?」
なにか決意を決めた様子の彼女が、部屋を後にするために立ち上がる。
先ほど見せていた緊張は、少なくとも私には無さそうに見えた。
「それでは……行ってきますわ」
「うん、いってらっしゃい」
きっと、先程の話について彼女のお父さんと話し合うのだろう。
もし、クロエちゃんが私以外の誰かと幸せな家庭を築くことを選んだとしたら。
友人としては……祝福するべきなのだろう。
だけどそんなことを考えると……どうしてか、胸がチクリと痛んだ。
海に旅行に行った時に感じた、胸の痛み。
そしてこの独占欲、きっとそういう事なのだろう。
私、私は……
クロエちゃんのことが好きなのかも、しれない。
それから暫く、クロエちゃんは帰ってこなかった。
自覚してみると、納得のいくことも多いけど……あくまで私の性癖と『純愛』とやらは噛み合わない。きっと彼女の事を愛してしまったら。
自分より大切だと思ってしまったら、積み上げてきた関係をいつか……壊したくなってしまうかもしれないから。入れこみすぎるのは、あまり良くないだろうな。
そんな思考を打ち切り部屋で一人で待っていると、先程までは何も感じなかった部屋もやけに広く感じる。
いやまあ、たしかに私の家に比べれば部屋は大きいんだけど……
なんとも言えない気持ちで、スマートフォンとにらめっこをしていた。
一時間ほどして、部屋のドアが叩かれるまでは。
「旦那様が、お呼びです」
「えっ? あっ、はい」
数時間前に『時間をかけてよく考えて欲しい』なんて言っていたわりには、もう呼び出されるなんて……先ほどとは別件だろうか?
とはいえ、私の気持ちは決まった。
ならば後は、伝えるだけだ。ズルズルと引き伸ばすのは、私らしくない。
そう思って、彼の書斎を訪れたのだが……
「……何度も呼び出して、すまないね」
「いえ、私もお伺いしようと思っていたので」
どこか焦燥した様子の彼は、先ほどとは違って所在なさげに机の上で腕を組んで俯いていた。
「しずく君、うちのクロエの事なんだが……」
「あのっ、私やっぱり……!」
クロエちゃんと一緒にいたいと。そんな私の声は、思わぬ一言に遮られた。
「是非とも、これからもよろしく頼むよ」
「……えっ?」
心変わり? この短時間で? そんな訳はない、でも現にこうしてお願いされていて……
一番高い可能性は洗脳だろうか、そんなことを思いつつ疑問を口に出す。
「急にどうしたんですか? 何があったんですか?」
「なにも無かったというか、ナニがあったというか……‥」
「はい?」
なんとも要領の掴めない回答しか得られなかった。
「あぁ、でも……親切心からのお節介にはなるが、高校くらいは卒業しておいた方が、人生の選択肢が広がるということだけ……ね」
「あっ、はい……分かりました」
そんな会話とともに、部屋を出た私は……まるで、狐につままれたような気分だった。
ただ、問題ないというのならそれに越したことはない。その理由に関しては、気になるところではあったけど……それこそクロエちゃんに聞けば、何かしらは知っているだろう。
部屋の前まで戻ってきて、扉を開けて……開けようとして立ち止まる。
部屋の中にクロエちゃんが居るのは間違いないだろう、当然だ。だけど……どんな顔して会えば良いんだ?
「入らないんですの?」
「ふぇっ!? いっ、今入ろうと思ってた所だよ?」
後ろから声がして、驚いて振り返る。まだ彼女は帰ってきていなかったらしい、おそらくお風呂に入っていたのだろう。フワリといい匂いが漂って、何故か……緊張する。
「どっ、どうしたんですの? 顔が赤いですけど……熱でもありますの?」
「そっ、そうじゃないけどね!? 最近忙しくて、疲れちゃったのかも……」
どうしよう顔が、熱い。
自覚したら、してしまったら……こんなにドキドキしてしまうものなのだろうか?
どうしよう、今顔見られたく……ないかも。
「大丈夫だとは思いますけど、体調が悪かったら直ぐ言うんですのよ?」
「うん、あり……がとね?」
部屋に入ってベッドへと腰掛けて、視線をクロエちゃんの方へと向ける。
この静寂も苦ではないが、私には言わなければいけないことがある。
結果的に、話し合いは有耶無耶にはなってしまったが……なぁなぁで済ませてはいけないだろう。将来のことを考えて、一緒に居たいなら居たいと本人に伝えるべきだ。
そう思って意を決して立ち上がると、彼女の青い瞳とバッチリと目が合う。
「ふぅ……その、クロエちゃん」
「どうしましたの、急にかしこまって」
なんて言えば良いのかわからない、なんて伝えるのが正解なんだ?
こういうのはどうしたいか、どうなりたいかだろう。
「私と、人生を歩んでくれ……ませんか?」
「えぇ、良いですわよ?」
あっさりと。
あまりにもあっさりと返されて、驚いてしまったが……よく見ると嬉しそうに口角が上がっていた。無感情だったというわけではないのだろうけど、それにしてもあまりにもあっさりだった。
「えっ、そんなあっさり……良いの?」
「わたくしはもうとっくにそのつもりだったというか。むしろ、これでセフレだとか言い出したら……貴方を殺して、わたくしも死にますわ」
さらっと怖い単語が並んでいたが、確かに両親に顔合わせってもしかしなくても、そういうイベントみたいだった。初めからクロエちゃんはそのつもりだったという事なのだろう。
「でも私、色んな娘のこと好きで……好かれてて……不誠実で……」
「随分、今更ですわね」
「それに、女の子同士だし……!」
「それこそ、本当に今更ですわ」
たしかに今更かもしれないけど……並べてみると碌でもないな本当に。
それと他にも、彼女のお父さんが一番気にしていたことがまだ……
「将来のこと、考えてるって言ってたけどさ? ほら、子供とか……」
「……あぁ、お父様ですわね? 全く余計なことを……」
「えっ?」
バタリ、と。いきなり押し倒されて、顔が間近まで迫る。まつげが触れそうなくらいの距離に彼女の顔がある。いつもだったら、可愛い顔だなって思うくらいなのに……ドキドキする。
覆いかぶさるように、身体が重なり合って……私の大腿に熱いナニかが押し当てられる。
あれ、これ……もしかして?
「これって、おっ……おち!? クロエちゃんって実は男の子だったの!?」
「おばか!? そんな事が……あるわけがないですわ!」
ペシンと頭にチョップを入れられて、冷静になる。
確かに少し、思考が飛躍しすぎた。
「ルクスに頼んで、その……生やしてもらったのですわ。もちろん、お父様にも説明済みですわ」
確かに、こんな事ができるのは夜の女王……淫魔のルクスくらいしか無いだろう。
「もしかして、距離を取ってたのって……」
「そうですわ。正直、生えてからというものの……煩悩が収まりませんのよ」
「ぼんの……端的に言えば、ムラムラしてたって事ね?」
「濁したのに、どうしてわざわざ言い直したんですの?」
そう考えると、今日ズボンなのも、距離を取られていたのにも納得がいく所がある。
そしてあのお父様の微妙な表情にも。
「別に、言ってくれればその……処理してあげたのに」
「本当に大切に思ってますの。性欲に任せて貴方を傷つけるような事は、したくなかったのですわ」
「うぐっ、ごめんなさい……」
そう言われると、性欲に任せて色々やってきた身としては謝る事しかできない。
そんな私を見つめていた彼女は、ゴクリと生唾を飲んで……舌なめずりをした後。
「まぁでも、合意の上なら構いませんわよね?」
「ふぇっ? あっ、ちょっとまっ……!」
ぎゅっと手首を掴まれて、ベッドへと更に押し倒された。
「大丈夫ですわ、貴方の欲望を満たせるように……わたくしがリードして差し上げますから」
「ねぇ、こんな……クロエちゃんのご家族も居るのに……ダメだよ?」
「ふふっ。そんな物欲しそうな顔で言われても、説得力がありませんわよ?」
細い指が、肋を撫でて……そのまま背中に伸びて、ホックを外す。
そんないつも通り、いつも通りの行為がまるで……別物のように感じた。
「やっ、顔……見ないで? 電気消さない?」
「ふふっ、照れてますのね? 可愛らしいですわ」
「はっ、恥ずかしいんだけど……!」
顔を見られるのが恥ずかしいと、思った。
心臓が跳ねるように脈打つ、顔が近づいただけでこんなにも緊張するなんて思っても居なかった。
前戯ですらないのに、こんなにもドキドキするなんて。
鼻先が触れそうなくらいの距離に整った彼女のお顔がある。
指先がうなじに沿ってすすっと動いて……ゾクゾクと背筋が震える。
「ほら、こっちを向きなさい?」
「やっ、やだっ……♡」
頬を指でつままれて、そのまま……唇同士が触れ合う。
「はむっ、んちゅっ……♡」
柔らかい唇の感触、初めてのキスは……さっきまで飲んでいたであろう紅茶の味だった。
互いの唾液を交換し合うかのような、フレンチなキス。
唇を離した後も、じんわりとした余韻が広がる。
口元が寂しくて、隙間を埋めるようにもう一度唇を近づける。
それから、どれくらいの間していたのだろうか。
舌と舌を絡め合うような濃厚なキスをして、まるで小鳥のくちばしが触れるかのような軽いキスをして。
好きって気持ちが、ずっと強くなっていく気がする。
だけど酸素が足りなくなって、二人でその場に重なり合う。
互いの呼吸音が、心臓の音が聞こえるくらい近くで抱き合って……二人の汗が気になり始めた辺りで、クロエちゃんが身体を起こした。
「えへへ、はじめて……クロエちゃんにあげちゃったぁ♡」
「これまた……誘うような事を言いますわね」
キスも良かったけど、身体が火照って更に続きがしたくなる。
「はっ、はぁっ……ねぇ、もっと続き……しよ?」
「たしかにちょっと、苦しくなってきましたわね」
そんな私の前にボロンと露わになったのは、女性には存在しないはずの器官。
「へぇ、おちっ……男の人のやつなんて初めて見た……」
「わたくしも、触ったことは疎か見たこともありませんでしたわ」
興奮しているのか、脈打つかのように佇んでいる『それ』。
すんすんと鼻を近づけて嗅いでみると、濃い匂いに頭がクラクラしそうになる。
「これで、狙ってやってないというのですから……魔性の女ですわね。本当に」
遂に、これが……クロエちゃん大きいのが、私に……♡
「期待していそうな所申し訳ないのですけど……」
「きっ、期待なんて……してないよ?」
「色々と話し合った結果、式をするまではそういうことは無しという話になりましたの。万一にでも電撃……と言うのは、この歳だと体裁も良くは無いですし」
「えっ、じゃあ『それ』……どうするの? 辛くない?」
今にも破裂しそうなくらい膨張しているそれを、そのままにしておくのも可哀想だった。
いや、あくまでクロエちゃんのためを思っているだけで。私がしたいとかそういう訳じゃまったくないんだけど。
「別に、前以外にも穴はありますのよ」
「待っ、待って? 私はじめてどころか触ったことも無いんだけど!?」
「安心なさい? 誰しも最初ははじめてですわよ?」
おしりを突き出すかのような姿勢のまま、四つん這いにされる。
そんな彼女がスーツケースから取り出したのは、ピンク色のゼリー状の液体。
「こんな事もあろうかと、ルクスから色々と譲り受けていますの」
「ねぇ、そのピンク色のゼリーは何に使うつもりなの……?」
「何って……ナニに決まっているじゃありませんの」
よく見ればゼリーだと思っていたそれは、うねうねと揺れているのが分かった。
間違いなく生きている、というよりも……見たことがある。記憶が確かなら、あれは洗浄用の……
「あっ、ちょっと……待って♡入らない、入らないからぁ……♡」
押し当てられたひんやりとした感覚。
それがズリュリという音とともに、お尻の中に入ってくる音がして。
「あら、入ったじゃありませんの」
「やだやだやだ、待って本当に待って? 無理っ、無理だよ!?」
不快だった。
あまりにも異質な、異常なまでの異物感。
その穴は本来出すために開いているのであって、中に入れるための穴じゃない。
「嫌がっているっていうことは、もっと欲しいという合図だと教わりましたわよ?」
「あっ、やだっ? やめ、待って。せめて、せめて……一息つかせてっ♡」
その後、めちゃくちゃ……した。
まあその、初めのほうは違和感が凄かったけど。
その不快感が興奮を誘ったというか何というか……
癖になったら、どうしよっかなぁ……
第一章で続きが見たいお話のアンケート(第一弾)
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0.或る魔法少女の結末
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2.5.淫魔たちの牧場見学なんだが?
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7.5.ご主人様と躾の時間……なんだが?
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その他(コメントまでどうぞ)