「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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50.星乃しずくのジレンマなんだが?

 都心にある大きな魔法少女協会……その奥に位置する協会長、スクイレの私室に招かれた私達。この前に来た時よりも、私物の類が増えていて安心する。

 

「来てくれて、ありがとう」

「いやいや、別にそんなかしこまらなくてもいいのに」

 

 そんな彼女が、律儀にお菓子を用意して待っていた。そんなにかしこまらないでも、別に私と……

 

「……スクイレの仲なら?」

「思った事を口に出すのは、ちょっとズルくない?」

「こうでも、しないと。小恥ずかしい事を……考え続ける、から」

 

 確かに、見える事を良い事に普段から可愛いだとかセクハラ染みた事をし過ぎたかもしれない。少しばかり反省が必要か。

 

「別に、嫌じゃ……ない。恥ずかしいだけ」

「そう? なら……」

「でも今日は、ダメ。ちょっと……真面目な話」

 

 少し頬を赤くしていた彼女は、コホンと一つ咳払いをして続ける。

 

「グライシアとの、関係。まずは、おめでとう」

「あっ、あはは……ありがとうで良いのかな?」

 

 その、付き合い始めたという事実だけなら問題は無いのだろう。だけど、その……

 

「話をしたいのは、あなたの抱える問題に……ついて」

「私の性癖の話……だよね? これまた急だけど、どうして今になって……?」

「そろそろ、頃合いだと思って」

 

 人形のような少女の、ハイライトの無い灰色の瞳。それがまるで私の奥底を見透かすかのように、私の目をジッと見つめていた。

 

「少し、いやかなり……あなたの深層心理に踏み込む事になる」

 

 否、実際に見通しているのだ。彼女の持つ魔法『思考解露』によって。

 

「辛かったら、言って……ね? 急ぐ必要は、無い」

 

 そう言って私の手の上に、自らの手を重ねた彼女の体温を感じる。

 灰色の瞳に映った私は、どんな顔をしていただろうか。

 

 

 

 

「まず、貴方は深刻な問題を抱えて、いる。貴方の持つ生まれつきの願望……破滅願望」

「うっ、うん」

「積み上げてきたものを、滅茶苦茶にしてしまいたくなる……そんな歪んだ願望」

 

 それも私の一部だとは、理解しているものの……こうして言葉にされると少し恥ずかしい。

 

「あの……さっきから思ってたんっすけど、本当に僕がこれを聞いてて良いんすか?」

「ご家族の人にも、説明をしておきたくて……」

「いや、姉の赤裸々な性事情とか……どんな顔して聞けばいいんっすか?」

 

 何と言っても、今日は隣にジェーンちゃんが居るのだから。

 

「あぁ、まぁ……深刻そうな話なので少し黙ってるっすけど」

「うん、お昼は私が奢るから……さ?」

「お母さんから、外で食べるならってお金渡されてるっすよね? 誤魔化しても無駄っすよ」

「うぐっ……」

「……続ける、ね?」

 

 そう言って、ややバツが悪そうに椅子に座り直して私達の話に耳を傾けている妹。そんな彼女を横目に、スクイレが話を続ける。

 

「サテライトは私達の事を……大切には思っている。でも、今まで『そう言う関係』にならなかったのは……理由が、ある」

「その……理由って?」

 

 確かに、考えてみれば夏の旅行くらいの頃には『そう言う関係』になっていてもおかしくなかったかもしれない。

 

「仲良くなって、色んな事をして……このままいけば、ドンドンとその人の事が……大切になる」

「それは……問題ないんじゃない?」

 

 別に誰かを好きになる分には問題ないんじゃないかと、そんな至極当然の疑問。

 

「貴方は心の奥底で、気づいてしまった。もし、一番大事なものが……自分自身じゃなくなったら?」

 

 その言葉でハッとする、私が学校で優等生を演じているのもサテライトとして理想の魔法少女を演じているのも……元はと言えば敗北のギャップを期待してのことである。それが霞むほどの、大切な関係性が出来てしまえば……

 

「そう。今は自分に向けられている、その歪んだ欲望の矛先が。何処へ向かうのかは……語るまでも、ない」

 

 それは、私という人間が生まれ持った矛盾。必死に築いた全てを壊したい。大切だからこそ、滅茶苦茶にしてしまいたい。そんな昔からずっと変わらない……破滅願望。

 

「周りの人たちの事を傷つけたくない。だからこそ、無意識的に貴方は遠ざけた。誰かを好きになる事……そのものを」

「じゃあ、どうしてクロエちゃんに……その、今になって告白したんだろ」

「減っている、というより……薄まってるから、かな。ずっと理想の敗北を追い求めていた、昔と違って……今は、供給がある。それに……」

 

 タップリと溜めてから、言い辛そうに私を見て……頬を染めてその口を開く。

 

「随分と、身体……エッチになったよ、ね?」

「えっ、急にどうしたの?」

 

 これは……つまりそういうことなのだろうか。真面目な話をしていたものの、あまりにも可愛くてエッチな私に我慢が出来なくなって、理性のタガが外れて……!

 

「……想像してる意味じゃ、ない。ねぇ、聞いて?」

「その、スクイレって意外と大胆なんだね? いっ、良いよ……ベッド行く?」

「これ、僕は出て行った方が良い流れっすか?」

「きっ、聞いて……!」

 

 何時になく声を張り上げて、可愛らしくポコポコと腕を振って抗議の意を示すスクイレ。どうやらそう言う『お誘い』をしたかった訳では無いらしい。少し脱線してしまった空気の中、彼女が咳払いをして続ける。

 

「んんっ。一般から随分と逸脱した、エッチな経験と気絶寸前まで続けられる責め。これを、堕とされている……とサテライトの身体が認識していて」

 

 確かに、いくらそういうプレイだと分かっていても……あまりにも苛烈な責めに心が屈したことは何回かあった。今や、生半可な責めではその夜の経験と比較してしまうだろう。

 

「それに性癖って言うのは、幾つも持てば持つほどに一つに対する固執が減っていく……はず。パラフィリアでヘマトフィリアでネクロフィリアで……と増えていったら、全てに対して等しい執着を向け続ける事は、出来ない」

 

 そういうもの……なのだろうか。

 

 まあ確かに、あまりにも多い性癖があって……そのどれもが一度に味わいたい! とはならないかもしれない。犬であり猫でありながら、狐にはなれないように……盛れば盛る程良いという物でも無いというものなのだろう。

 

「つまり……どうすればいいの?」

「性癖を……えっちな経験を増やして、破滅願望を中和する。それが、今後の……というより、今の方針」

 

 とんでもない、とんでもない結論が待ち受けていた。

 

 確かに、以前ほど外敵には負けたいとは思わなくなっていた気がしたが……そういうカラクリだったのか。思い返してみれば……特にスクイレとのプレイでは、そう言う傾向が多かったように感じる。

 

「つまり、これからもエッチな事をし続けていけばいいって事……?」

「それを目的にしちゃ、ダメ。あくまで、プレイの結果として堕ちていくのが理想」

「へっ、へぇ……この歳でエッチな事を推奨されるって言うのも、なんかあれだね……」

 

 あくまで、それが目的になってしまってはいけないという事なのだろう。確かに、堕ちる為にエッチな事をするのでは、私もきっと満足できないだろう。

 

 何度も言うが、初めから堕ちているのは解釈不一致だ。必死に耐えて力及ばず堕ちるのが『良い』のであって、負けたがりの敗北は美しくない。

 

「他の子にも、伝えてある。最後には……心の底から気兼ねなく誰かを愛せるように、なるはず。その頃には、身体がどうなってるかは……分からない、けど」

「んっ、それは楽しみ……じゃなくて、怖いね」

「……ふーん。今日伝えたかったのは、それだけ。それと……」

 

 その後の言葉を言うのを躊躇していた彼女が、頬が赤く染めながらも……続ける。

 

「私も、待ってる……から」

 

 何を、とは言わなかった。そしてそれが何を指すのかも……私には分かっている。

 

「今更だけど、どうしようもなく悪い子だね、私」

「それでも、幸せにしてくれるって……信じてるから、ね?」

 

 とは言えムードとタイミングを考えるべきだろう。

 

「甘すぎる……お昼は、ブラックのコーヒーが出るお店にするっすよ」

 

 少なくとも……妹の見ている今でない事だけは確かだった。

 

 


 

 

 時刻は昼時、話し合いの後そのままロイヤルなグレードのファミレスにやってきた私達。

 

「ん~っ、やっぱり甘いものは別腹っすよね!」

「あはは、ジェーンちゃんが嬉しそうで何よりだよ……うん」

 

 明らかにお母様に渡された予算をオーバーするであろう、三段のパンケーキを美味しそう食べる妹を見ながら紅茶を口に含む。

 

 予算外とはつまり、私のお小遣いから出るという事だ。別に、別に良いけどね? 可愛い妹にご飯を奢れるんだから……うん……

 

「新しい生活も、順調そうで……なにより」

「スクイレちゃんのお陰様っすね、かなり手を回してくれたっすよね?」

「ノーコメント、で。グレーゾーンだから……」

 

 あれから『ジェーン・ドゥ』と名乗った魔法少女は、我が家の新しい家族として迎えられた。

 

 戸籍も何もなかった彼女が新しい生活を送り始めるまでには、勿論一悶着あったものの……今は元気に中学校に通っている。

 

 そう、名前が無かったのだ。ジェーン・ドゥ(名無し)の通りに。

 

 昔の名前を使うのも考えたが……それによる親権の主張だとかでのトラブルが目に見えていた。だから、彼女は()()()()生まれ変わり……

 

「星乃……星乃ユウ。自分の名前なんすけど、なんだかやっぱりまだ慣れないっすねぇ……」

「女の子らしくて、良い名前だと思うよ? ユウちゃん」

「そう言うのは、恥ずかしいから止めるっす……!」

 

()()タロウ』から二文字取って、『ユウ』。

 

 こうして女の子である彼女の新しい人生は、ようやく始まったのだ。学校に通っていなかった間の勉強もあって、ついていくのも大変そうにしているけど……それでも楽しそうだった。

 

「なんで見てるんすか? もしかしてその、サテライトも……」

「……お姉ちゃん」

「おっ、お姉ちゃんも……一口欲しいんすか? なっ、慣れねぇっすね……」

「ううん……それじゃあ一口貰おっかな♪」

 

 まだ少しぎこちないながらも、温かい時間を過ごしている私と名無しだった彼女。

 過ごせなかった分も、楽しい時間を彼女と歩んでいければいいなと思う。




バステ付与は───加速する(大義名分)

現状のステータスを『あぺんど!』の方に、そのうち更新しておきますね。
ちょっと増えすぎて、R17.9だと書ききれなくなってきたので……

それとアンケート第二弾もやるます

続きが見たいお話のアンケート!(第二弾)

  • 10.泳げない訳では無いんだが?後編
  • 19.ドキドキお泊まり大作戦なんだが!?
  • 26.ただの耳かきのはずなんだが?
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