「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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52.淫魔の街でのよくある一幕なんだが?

 長い、長い夜が終わって。

 

「ご飯はぁ、疲れてると思って……精が付くものを用意したわ?」

「えっ、流石にちょっと身体が……」

「もう遠慮しなくていいのに……それじゃあ食べさせてあげるわね?」

 

 あれから色々あって。

 

「はぁい、今日のお洋服はこれよ♡」

「んっ♡もっ、もうちょっと優しく脱がせて……」

「……やっぱりちょっと人間には、やりすぎだったかもしれないわね?」

 

 色々あって……

 

「んん~とっても可愛いわ? それに、とっても良い匂い♡」

「ちょ、匂い嗅いじゃダメ……っ」

「だぁめ♡もう我慢する理由も無いものね?」

「ぴゃぁ!? なっ、舐めるのはもっとダメ!?」

 

 色々あった……うん。

 

 

 

 金曜の夜に始まった私と彼女の『あの日の続き』。

 

 その結果として土曜日の間、丸一日動けなくなっていた私をルクスが介抱してくれていた。恋人らしく介抱してくれていたルクスだが、彼女の責めのせいで動けなくなっていたのは言うまでもない。

 

「ん~とっても幸せだわ?」

 

 正直に言えば甘く見ていたと言って良いだろう、今やお花を摘みに行くのにも介助が必要だった。最中はともかく、終わった後は膝が震えて立ち上がれなくなってしまうのだ。

 

 そんな私を、ニコニコと嬉しそうにルクスは見つめている。

 

「あら? 困ったわ? 枕が無くなっちゃったみたいね?」

「そんなピンポイントで枕だけ無くなる事ある?」

「もう、仕方ないから……私が枕になるしかないわね?」

「それ、ルクスが私を抱っこしたいだけじゃ───」

 

 自分より一回り大きな女性に、ぎゅっと抱きしめられる。

 身体の上から落ちないように、彼女の尻尾が腰の周りへと巻き付けられる。

 

「はぁい、捕まえた♡」

「ふふっ、捕まっちゃった……」

 

 何と言えば良いのか、包まれているようで安心する。

 繋がれた手のひらが、にぎにぎと存在を確認するかのように握られている。

 

「すべすべねぇ、とっても可愛くて……食べちゃいたいわ?」

「もう~恥ずかしいから止めてよぉ」

 

 恋人つなぎにするのは別に良いんだけど、こうなるとやはり汗とかが気になってきてしまう。

 

 

 そんな風にじゃれ合っていると、突然ピクリと身体が震えて、胸が詰まるような感覚が身体を襲う。

 これはもしかしなくとも、昨日の後遺症で……

 

「ルクス……張ってきちゃったから、その……」

「まぁ、今日のご飯の時間ね?」

 

 じわりと肌着に滲んだそれを見て、彼女がペロリと舌なめずりをする。一週間もすれば魔力の漏出も止まるとは言っていたが……逆に言えば、それは一週間は止まらないという事。

 

「溢れ出しそうなしずくちゃんの魔力……沢山吸ってあげるわね?」

「おっ、お願い……っ♡」

 

 あくまで食事行為、それ故に疚しい事では無いと……

 自分に言い聞かせて、着たばかりの衣服を脱ぐ。

 

「それじゃあ……いただきまぁす♡」

「あっ、やっ♡」

 

 触られただけで身体の力が抜けて、フニャリと倒れこむ。

 まあこんな身体で抵抗しようなんて、到底無理な話なのかもしれないけど。

 

 

 

 

 朝、小鳥の囀りで目を覚ます。

 

 布団の中は少し乳臭いけど、身体の方は問題なく動きそうだった。

 これが本当の乳臭いガキ……やかましいな。

 

 起きようとしてモゾリと身体を動かすと、それで起こしてしまったのか握っていた手のひらがピクリと動く。

 

「あっ、起きちゃった?」

「別に良いのよ? そろそろ朝ごはんの用意しなきゃいけない時間のはずだし……ね?」

 

 そんな彼女はまだ寝惚けているのか、黒い尻尾をユラユラと動かして私の身体に巻き付けては離してを繰り返している。

 

「ふふっ、夢みたい♡」

「あの、ルクス? そう言って貰えるのは嬉しいんだけど、お花摘みたくて」

「ここでしてもいいのよ?」

「さっ、流石にそういうのはちょっと!?」

 

 そんな一幕がありながらも、お手洗いに行き……戻ってきたあたりの事だった。

 何時の間にかパジャマから着替えていたルクスが、妖艶にほほ笑む。

 

「しずくちゃ~ん、身体は大丈夫かしら?」

「うっ、うんっ……なんとか?」

 

 昨日とは違って、一人で立てない程膝が震える訳では無かった。

 

「それなら今日はぁ、観光に行きましょうか?」

「まっ、前みたいに牧場?」

「ううん? もっと違う所よ?」

 

 それもそうか、牧場もその……面白かったけど。

 観光地として見た時に、そう短いスパンで行くものでも無いだろう。

 

「何処に行くかはついてからの、お・た・の・し・み♡でも、きっとしずくちゃんも気に入ってくれると思うの」

「分かった、楽しみにしてるね?」

 

 淫魔基準の観光地が、本当に人間に安全なのかなんて……

 楽しそうなルクスに水を差すような事は、とてもじゃないけど言えなかった。

 

 そんな機嫌の良さそうな彼女が、わきわきと手を動かして近づいて来て……

 

「それじゃあ……今日のお着換えも手伝ってあげるわ?」

「えっ? もう必要な……」

「もうそんなに照れなくても良いのに♡」

「やっ、違くて!? 本当に───ッ♡」

 

 

 このあと、滅茶苦茶着替えした。

 

 


 

 

 外に出て、暫く歩くと綺麗な街並みが見えてくる。

 

「んも~っ!」

「わんっ、わん!」

 

 聞こえてくる鳴き声だけ聞けば、緑豊かな田園風景を想像する事だろう。

 

「もっと……もっと強くリードを引いてくれわんっ!」

「あっ、角はハンドルじゃなっ……もぉぉぉぉぉ♡」

 

 だが残念? ながら、此処は都会風の街並みで……

 

「こら、あまり大きな声を出したら他の人に迷惑でしょうが。これはもう、躾確定ね」

「やっ、『躾』だけはお許しを……!?」

「だめ、きまりでしょ? はいしか言っちゃだぁ~め♡」

 

 声を上げているのは人型で半裸のオスだったり、メスだったりするのだ。

 純粋な人間じゃなくて、角や耳がついてたりするわけだけど。

 

「はぁい、おうちに帰りましょうね~♡」

「やっ、やだっ♡直します、直しますから───っ!?」

 

 リードを引かれ、引きずられていく牛角の女の子……面倒くさいから牛人で良いか。

 そんなやり取りが街のあちこちで行われているというのに、誰も気に留める様子すらない。

 

「今日もペットちゃん達が元気ね?」

「元気というか何というか……まあ良いか」

 

 綺麗に並んだ建物と、終わってる治安。

 それが淫魔達の国最大の都市───

 

「さぁ、行きましょうかしずくちゃん?」

「そうだね……」

 

 ───プレッツエルという街だった。

 

 

 改めて街の様子に目を向ける。

 確かにこうしてみると、人型以外にも様々な種族が歩いていたり飼われていたりしている。

 

 極稀に見る純粋な人間の中には、自ら買われたいと立候補したという奇特な性癖の持ち主が居るらしい。

 やばいなそいつ……いや、私みたいなやつの事か。

 

 それとは別に、淫魔と仲が良さそうに歩いている人型も目にする。

 彼らの違いは、リードと識別章がついているかどうか。

 

 同じ種族でありながら、ペットにもパートナーにもなり得る街なのだ……ここは。

 

「とんでもない街だよね……」

「みんな幸せそうだし、良いんじゃないかしら?」

「そういうものなのかな? まあ、良いか……」

 

 何処かで見覚えのある牛型の魔族も、牛の角の生えた巨乳の女の子も皆、リードをつけられて尻尾を振っている。中には涎や別のお汁を垂らしているものも居て……凄い風景だった。

 

 それもそれでちょっと羨まし……いや、なんでもない。

 

「わぁ、可愛いお姉さんだぁ!」

「は~い、可愛いお姉さんだよ?」

 

 そんな街を歩いていると、小さな子供に話しかけられた。いや、角と尻尾が生えているし、小っちゃい淫魔と言うべきか。

 何故か淫魔って大人のお姉さんのイメージがあったから、小さい子も居るっていうのは意外だった。

 

「あのね、ユナね……!」

「うんうん、ユナちゃんって言うのね? どうしたのかな?」

「あっ、ちょっと……」

 

 背丈からして人間の年齢で言えば9か10歳くらいだろうか?

 これくらいの子はやはり元気なのが一番似合うと思う。

 

「一目惚れしたから、ユナのお嫁さんになって欲しいの! お姉さんのお豆さんを、ゴシゴシして一晩中可愛がってあげるから!」

「なっ、はっ───えっ?」

「ん? もしかしてお胸の方が好きだった?」

 

 一瞬何を言っているのか分からなくてフリーズする。

 小さくても淫魔という事なのだろう、完全に人間と同じ価値観だと思い込んでいた。

 

「こら、お痛しちゃダメよ? この子は私の番だもの」

「え~っ、ルクス様のお気に入りなの~? ズルい~!」

「ふふっ、良いでしょう。とっても可愛いのよ? 勿論夜も……ね?」

「えっ!? 羨ましい~! 大切にするから、ユナの子を孕んで欲しい!」

 

 こんな小っちゃな娘でも、しっかり淫魔なのだろう。そしてこの歳で既に女の子が好きらしい。

 あまりにも早すぎる性の目覚め、いやそもそも実際の年齢がいくつなのかも怪しい。

 

「ねぇ、綺麗なお姉さんのお名前は?」

「サテ……しずくだけど」

「じゃあちょっと屈んで欲しいんだけど……だめ?」

 

 言われるがままに屈んで、彼女の目線を合わせると……紳士が手の甲にするように、首元に柔らかい唇が押し当てられる。感じたのは子供特有の高めの体温と、服のポケットにスルリと入れられた一枚の紙きれ。

 

「はいっ、いつでも連絡して良いよ! ユナの事忘れないでね! しずくお姉さん!」

「えっ? あっ……じゃあね、ユナちゃん……」

 

 ポケットに入っていたのは、おそらく彼女の連絡先。ませている……という次元ではない。

 あんな小さな子にナンパされたのだと気づいたのは、彼女が去ってからだった。

 

「小さくてもサキュバスなんだから……油断しちゃだめよ?」

「うっ、うん……凄いんだね……」

 

 

 ここが、サキュバスの街……とか言って凄いんだなとかそんな場違いな事を思った私は……

 まるで、田舎から出てきた女の子のようだった。

 

続きが見たいお話のアンケート!(第二弾)

  • 10.泳げない訳では無いんだが?後編
  • 19.ドキドキお泊まり大作戦なんだが!?
  • 26.ただの耳かきのはずなんだが?
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