それから街中を歩き、バスに乗り込んで揺られる事数十分。
ようやくバスも目的地へと着くらしい。
2人ともこれくらいの距離なら文字通りひとっ飛びなのだろうが、こういう道のりも旅行っぽくて粋なモノだろう。
バスを降りてまず感じたのは、硫黄の匂い。
目先にデカデカと立った看板……よりも先に、バスのアナウンスが告げてはいたんだけど。
「ついたわ? ここが今日の目的地……淫獄温泉よ?」
「淫獄……温泉。匂いで何となくわかってたけど、本当に温泉なんだ……」
名前以外は、想像よりも随分と普通なモノが出てきたので驚く。
もっとこう……牧場みたいなエッチなのが出てくると思ってたから。
まあ、サキュバスがお風呂に入ってると考えたらそれだけでエッチなのかもしれないけど……
なんかこう、変に私だけ期待してたみたいで釈然としない。
別に私がエッチな子という訳では断じてないはずだ……うん。
「ほら、行きましょう?」
「そうだねぇ……」
スキップしだしそうな彼女に手を引かれて、大きな建物へと向かう。
この時の私は、まさかあんな事が起こるなんて……思ってもいなかった。
淫獄温泉。
それは、淫魔の為の温泉……と言うだけでなく。
そのパートナーたちにも人気な観光名所らしい。
と言うのもサキュバスの恋愛事情は、3割がインキュバス、1割がサキュバス同士での恋愛に発展するらしい。
つまり残りの6割は他種族と結婚するという事だ。
それとは別に家畜として飼われていたり、ペットとして人型が連れられているのは……ほかの魔族による侵略戦争による捕虜らしい。ジュネーブ法なんてある訳が無かった。
本当にそれで良いのだろうか……?
まあ、細かい事は気にしても仕方ないのだろう。
此処は国どころか……次元が違う場所にある、別の世界なのだから。
館内に入ると、そこは私のよく知る温泉施設とそう変わらない建物だった。とはいえ食事は見た事も無いものが並んでいるし、恐らくは着物代わりの服(これを服と読んでいいのか分からないが)は見覚えが無いものだ。
「お嬢ちゃん可愛いから無料で良いよ? 代わりにお姉さんと楽しい事……」
「はぁい、ストップ。入場券は買ってあるから結構よ?」
当然の如く受付にすらナンパされる、せめて職務を全うして欲しい。
というか隣に女王がいて、よくその連れをナンパできるな……
「仕方ないから大目に見てあげて……ね?」
「別にモテる分には気分が良いから良いんだけど……それにしても異常じゃない?」
私が可愛いのは分かるけど、それにしても異常だ。
あっちでも店員さんにナンパされた事なんて殆ど無いし。
「顔も魔力も極上だもの。淫魔からしたら正に……命を賭けても欲しいくらい魅力的なのよ?」
「成程……? 私にはよく分からないなぁ」
そんな雑談をしながらも脱衣所へと向かっていく私達。
私もだが、ルクスもかなり視線を集めていた。淫魔の女王が一体何をしているのかは分からないが……やはり彼女の存在は特別という事なのだろう。
「お洋服は、一人で脱げるかしら?」
「もう、そんなに子供じゃないよ?」
そうは言いつつも、昨日まで服の着替えを手伝って貰っていた訳だが。
あれは身体に力が入らなかっただけで……なんて誰に向けるでもない弁解を並べている内に服を脱ぎ終わった。
相変わらずの大きさに、同性ながらも面喰らう。
何を食べたらこんなにもたわわに実るのだろうか……と考えて辺りを見渡す。
「きゃっ、お姉さんの身体が気になるの? もう、エッチな子猫ちゃん♡」
「あっ、ジロジロ見てすみません……」
隣で着替えていたお姉さんも、物凄いサイズ感だった。
種族特性なんだろうなぁ、これ……
「……? 触りたいなら私のを好きにしていいのよ?」
「いや、触りたくない……訳じゃないんだけど。そういう事じゃ無いからね?」
服を脱ぐとブルンと揺れた巨峰に触れたが最後、公共の場だというのも忘れてとんでもない事になるのは目に見えている。
流石の淫魔も脱衣所で盛り合ったりはしないだろう……しないよね?
「わっ、想像の三倍くらい広い~!」
「ふふっ、結構人気のお風呂なのよ?」
風呂場へと入ると、湯煙が広がっていた。
石畳の床に、多種多様なお風呂が並んでいるのが見える。
そしてそれに浸かる女性の誰もが、美女や美少女揃いだった。
こう見ると意外と若いサキュバスも居るらしい、ギャルっぽいサキュバスも居るし。
「しずくちゃんは何処のお風呂に入りたい? ついていくわよ?」
「えっと、それじゃあ……えっと?」
炭酸風呂や、露天風呂といった普通のラインナップが並んで……並んで?
「触手風呂って……何?」
「触手の居るお風呂よ?」
そのままの意味だったらしい、余計に意味が分からなくなった。
お風呂の前にあるプレートに目を向ければ、ミルク風呂とかスライム風呂とか精液風呂みたいな……とんでもない名前のお風呂が並んでいるのが見える。
他二つは論外として……そもそもこのミルク風呂って何?
何のミルクなのかすら書いてないのがすっごい怖いんだけど。
「何処にするのかしら?」
「あっ、えっと……ルクスのおすすめで良い?」
「分かったわ? 沢山おすすめしてあげるわね?」
それもそうか、サキュバスに人気なお風呂だもんなぁ……そっかぁ……
うねうねと壺の中で蠢く胴体。
大きなものはシャワーヘッド程度の、小さいものはヒダのようなサイズの彼らは……水中でひしめき合っている。
ヌラリと光沢と粘度を持った湯船の液体。
中にいる彼らが動くのにつられて水面がゆらゆらと揺れて、粘度故にか泡立つのを見ていると背筋がゾクリとする。
「ねっ、ねぇ!? 本当に初っ端からここなの!?」
「あら? 意外と気持ち良いのよ?」
「いやさ? 確かに気持ち良いのかもしれないけど……!?」
蛸壺ならぬ、触手壺風呂。
お風呂と言うよりかは、どう見てもエロ同人みたいに私に乱暴するつもりしかなさそうな触手が……今か今かと犠牲者を呼び続けているようにしか見えない。
「もう、身体冷やしちゃうから早く湯船に浸からないとダメよ?」
「なんでそう言う所は常識的なの……きゃっ!?」
持ち上げられて、壺の中へと投下される。
ビクンと震えた触手が大腿へとへばり付き、私の肢体を絡めとる。お腹も脇も、首元も……嫌らしい触手がくねくねと迫ってくる。
そんな中、待ちわびたと言わんばかりに、私の身体へと触手が巻き付いて吸い付き……♡
……吸い付き?
「……あれ? 気持ち良いね?」
「だから言ったでしょ? おすすめだって」
なんかこう……想像していたのとは違う気持ち良さだった。
極めて普通に、健全に気持ちが良い。
何処かで味わったような気持ち良さ……あっ?
「ドクターフィッシュみたいな?」
「ドクターフィッシュ? が何か分からないけど……身体の老廃物とかを綺麗にしてくれるのよ?」
「じゃあドクターフィッシュじゃん……」
何だか期待して損した気分だった、なんかごめんね触手さん達。
世の中にある触手の全てがエロ触手なわけではないのかもしれない。
ドクターフィッシュなのか……そう思うと途端に可愛く見えてきた。
蜘蛛が益虫だと聞いてから可愛く見えるようになるのと一緒で。
「あ~極楽かも……」
うねうねとした吸盤付きの触手が太腿や肩へとへばりついて、身体を揉み解してくれる。
口の付いた触手はその口で、脇の間やお臍周りに取りついて老廃物を掃除してくれている。
「んふっ、ちょっと……くすぐったいけど。気持ち良い……」
「あらあら、とっても気持ち良さそうね?」
それと壺の底と壁面にこびりついているひだのような触手は、触れている踵や足の裏側でもぞもぞと動いて汚れをこそぎ落としてくれているのだろうけど……位置が位置なだけにやはりちょっと、くすっぐったい。
「あら、随分と気に入られたみたいね? まさか触手ちゃん達にも人気だなんて……」
「そっ、ふふっ。んっ、そんなに……私の魔力って美味しそうなの?」
「そうねぇ……とっても美味しそうよ?」
人間なのでよく分からないけど、彼ら基準だと美味しそうに見えるのだろう。
思えば外敵も有名になる前から目の色を変えて襲って来ていた……気がする。
「あ~っ、もうちょっと強く……効くぅ……」
マッサージが得意なモノ、お掃除が得意なモノ。
同じ触手ではあるものの……彼らは別の種族の触手なのだろう。
全て一緒くたにしているようでは、人と魔族の共存なんて遠い未来なのだ。
こうして互いを知り合う所が、きっと共存の第一歩になる。
「こら、くすぐったいから……変なとこ触っちゃダメだって……ん?」
何時の間にか湯船で揺らめいている彼らが、一回り大きく……それもグロテスクな形へと変化していた。触手が入れ替わったようには見えないし、何かしらの変化があったのだろうけど……
「何か、一回り大きく……凶悪な形になってない?」
「あら? 魔力が溜まって進化したのね? 普通は百年に一度あるかないかなんだけど……本当に上質なのねぇ」
成程、老廃物とかに溜まっていた魔力を食べて進化した……のかな?
なんか餌扱いされてるみたいで嫌……いやそれも『あり』なのか?
「残り湯とか、売れそうねぇ……」
「それは別の意味で売れると思うからダメかな?」
なんてくだらない思考を回していると、突如として触手が水面へと勢いよく飛び出す。
うねうねとこちらを……見定めるように。
「あら? 感謝してるみたいね? 御礼にお耳も掃除してくれるらしいわよ?」
「言葉も分かるんだ? って、えっ? ちょっと、そこは聞いてな───っ!?」
耳の縁をヌメヌメとした何かが磨き上げるように吸い付いて来て、思わず振り払おうとして……
「───ッ!? あっ♡お耳はだめっ♡」
そう言えば、吸盤型の触手に絡みつかれていたのを忘れていた。
しっかりとホールドされていて、とても力づくでは振りほどけな……
「ルクス!? あっ♡とっ、止め方とかないの!?」
「うちの子じゃないしねぇ……力づくとか?」
「それじゃ意味なっ……♡」
善意の行動に対して、彼らを傷つけたくはない。
でも、あっ♡これぇ以上続けられたら……やばいっ♡
「みっ、耳は性感帯なのっ……やだやだっ、見ないで♡」
「あら? ふぅん……別に良いのよ? そういう用途に使う人も居る訳だし……」
「私が大丈夫じゃな……あっ♡」
グチュグチュと、耳の穴を棒状の何かが弄っている。
「あっ、ぐちゅぐちゅされちゃってる♡お耳の奥、触手でっ……♡」
細かく枝分かれした触手が、耳の穴の壁面をやさし~く掃除していく。
まるで、愛撫のように。
ヌメヌメとした不快感と、気持ち良さが相まって身体が火照りを増す。
そのまま最後のスパートと言わんばかりに激しさを増した触手が……グポリと一気に引き抜かれて♡
「───やっ♡あっ、あー♡」
触手に押さえつけられた駄肉が、ブルりと震える。
やばいやばい、皆……見てるのに♡
「ふふっ……店員さん呼ぶわね♡」
───その残り湯が売りに出されることになったのは、また別の話。
次もまだ温泉?回
続きが見たいお話のアンケート!(第二弾)
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10.泳げない訳では無いんだが?後編
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19.ドキドキお泊まり大作戦なんだが!?
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26.ただの耳かきのはずなんだが?