「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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54.淫魔のお風呂には危険が一杯……なんだが!

 まだ耳元がびくびくする、あまりにも……あまりにも酷い目に遭った。

 

「うぇっ、ぐすっ……酷い目に遭った……もうお嫁にいけないよ……」

「でもあんなーに可愛く気持ち良さそうにしてたんだから、引く手数多よ?」

「本当に恥ずかしかったんだけど!? あんな、あんな目に遭うなんて……」

「それに……私がお嫁さんにしてあげるわ? それとも、お婿さんが良いかしら……?」

「うぐっ、今のはその……比喩表現と言うか……」

 

 耳元でそんなことを囁かれると、思わずゾクッとしてしまう。

 今までの反動かこの淫魔、距離の詰め方が強すぎる……

 

 私の心を本気で堕としに来ているのだろう、もう堕ちているような気もしなくも無いけど。

 

「他のお風呂は……うげっ……見直しても凄いラインナップ……」

「次は……そうね? こことかどうかしら?」

「此処は……そこは……」

 

 そう言って彼女が指さしたのは……ドロッとした粘液が溜まっている白いお風呂。

 エッチな本でしか見た事無い、ドロッとした白濁とした液体のお風呂。

 

 つまるところ、精液風呂だった。

 

「妊娠しちゃうじゃん、絶対入っちゃダメな奴じゃん?」

「ふふっ、まさか本当に精液を使ってるわけないわ? この量の精液を暖めたらとんでもない臭いになって気づくわよ?」

「それもそうか……じゃあネーミングセンスが最悪なんだね……」

 

 物は試しとチャプリと足先をつけると、ドロッとした液体は丁度いいくらいの温度だった。他の温泉よりも若干温度が低いのは、粘度の高い液体を加熱しすぎると火傷が怖いからだろうか?

 

 恐る恐ると言った様子でゆっくりと浸かってみると、ドプンと言う音を立てて身体が沈む。跳ねた水滴が顔に跳ねてあまりにも犯罪的な絵面になってしまった。

 

「効能はやけど、肌質改善、腰痛改善……いや、普通だね?」

「どちらかというと、お気に入りの子を精液みたいなお風呂に沈めてエッチな所を記憶に収めるのが主流ね?」

「趣味が悪すぎる……」

 

 すうっと目が細められたルクスの顔を見ないようにして湯船へと浸かりなおす。ドロドロとしていて、湯船の中はちっとも見えないけど……お風呂に入っている他の淫魔の視線があまりにも露骨過ぎて身の置き場がない。

 

 見られてる方は……分かるんだからね?

 視線を隠す気もそんなに無さそうだけども。

 

「それと、このお風呂だけ許されてることがあって……えいっ♡」

「ぶふっ!? 水鉄砲は最悪すぎるんだけど!?」

 

 べっとりと、頬に真っ白な液体が付着する。べとべとしてて気持ち悪い……なんでこう、淫魔の人たちはそっちの方向には全力を尽くすのか。

 

「ほらルクス、次のお風呂行くよ!」

「えぇっ? もうちょっと楽しみたかったわ?」

 

 髪にかかった白い液体を振り払いながら次の湯船に浸かるべく立ち上がる。

 

 結局何の液体なのかは……怖くて聞けないよね、うん。

 

「次は……スライム風呂なんてどうかしら?」

「却下、触手と同じオチが見えるから……天丼はウケないんだよ?」

「えぇっ!? そっ、そんなことない……わよ?」

「それは絶対何かある反応じゃん。そもそも、うちにはピンクの子がいるでしょ?」

 

 そんな中向かったのは白いけど……先ほどと違い水の中が見えるくらいの水質のお風呂。文字通り乳白色のこのお風呂は……

 

「ミルク風呂ね? とってもお肌に良いって話題のお風呂なのよ?」

「まあ、確かに良さそうだけど……」

 

 つま先からお風呂に足先を入れると、周囲からゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。

 魅力的に見えるというのも、やはり良い事ばかりではないが……この状況を愉しんでいる自分も居るので何とも言えない。

 

 つまり……周りの人にエッチに見られるの、癖になってるかもしれない。

 

「そういえばこれ……何のお風呂なの?」

「何のって……ミルクよ? ほら、動画も流れてるでしょ?」

「顔……?」

 

『本日の担当』と書かれた壁に貼りつけられていた案内を見て、一瞬時が止まったようだった。

 そこに映っていたのは、間違いなく人の顔で……

 

「あっ……あっ……!?」

 

 角の生えた彼女は、ダブルピースを決めてこちらに蕩けるような笑みを浮かべている。

 

 製造中継とは……もしかしなくても、もしかしなくてもそういう事なのだろう。

 

「わっ、私っ……あがるから……!?」

「あらあら? でもでも……」

 

 グイッと肩を掴まれる、振りほどこうと思えば振りほどける……

 

「しずくちゃんのお顔は、興味津々……って顔してるわよ?」

「そんな事……」

「こんな機会、早々ないわ? 本当に良いのかしら……ね?」

 

 そんな強さだったけど、何故かその時の私は、振り払えなくって。

 

「想像してみて? この子が、どんな気持ちでお風呂を作ったのか……ふふっ、愉しくなってきちゃったでしょ?」

「わっ、分かったよ。ちょ、ちょっとだけだから……」

 

 ゆっくりと湯船に浸かりなおす、仄かに香る甘い匂いとスベスベとした液体は……言われてみれば確かに、特有のものを感じさせる。

 

「冷やしたのもあるのよ? お風呂上がりに飲むのも美味しいけど……浸かりながら飲むのも通よ?」

「じゃあ、その……貰う……」

 

 顔が熱い、こんなこと許されて良いのかという気持ちと……ドキドキと心臓が跳ねるような気持ちが胸の中を埋め尽くし、思わず背筋がゾクゾクと震える。

 

 

 受け取った白い液体のビン、それが普通の牛乳であるはずがない。わざわざご丁寧に、目元の隠れた顔写真まで貼り付けられているのだから。

 

 流石に看板の方を視界に映していられなくなって、ビンを受け取って目を反らし───顎をクイッと掴まれる。

 

「なっ、なんれっ……?」

「反らしちゃだ~め♡ちゃんと作ってる女の子の顔を見て楽しむの、出来る?」

 

 否とは言わせない雰囲気に、ゆっくりと牛乳瓶に口をつける。

 

「んっ……」

 

 牛のものでは絶対にない口当たり、だけど人のものとも間違いなく違う。魔法の特性なのか、少しだけ甘い口当たりのそれを喉へと流し込む。

 

「ぷっ、ぷはぁ……」

「はぁい、よく飲めました♡」

 

 ヨシヨシと頭を撫でられながらも、目は画面から離せない。

 音こそ入っていないものの、画面の中の女の子はとっても幸せそうで……

 

 心臓が高鳴っている、もしもあの場所に私がいたら……そんな想像が鳴り止まない。

 きっと、とっても……

 

「あらら、ちょっとのぼせちゃいそうね? 少し外で風に当たりましょうねぇ」

「ひゃ……ひゃい……♡」

 

 気付けば肩まで浸かっていたお風呂から抱えられるように立ち上がり……露天風呂のあるらしい方角へと向かう。

 

 周りの目線など、気にしていられる余裕はもう……なかった。

 

 

 

 浴場の外にあるベンチにペタリと座り込んだまま、どれくらいの時間が経っただろうか。ようやく身体の火照りが治まってきて……ゆっくりと立ち上がる。

 

「あら? もう良いのかしら?」

「そっ、そろそろ身体が冷めてきたからね」

 

 愉しそうにニコニコとこちらを見ているルクスに、見られているという事が恥ずかしくなって逃げるように湯船を探す。

 

「あら、そこのお風呂は湯浴み着を着ないとダメよ?」

「珍しいね? でもこれさぁ……」

 

 ルールだと言うのなら従うけど、よりにもよって何で……

 

「水着、しかもなんでスク水なの?」

「今、淫魔界隈で一番熱い水着だからよ? 見えない、からこそ美しい……これが芸術なのよね?」

 

 多分人間界に毒されて、変なブームが流行っているようだった。

 普通に貫頭衣みたいなのでいいと思うんだけど……

 

 真っ赤な見慣れない花がプカプカと浮いているお風呂は、かなりの絶景で……淫魔の街が一望できる作りだった。こう見ると滅茶苦茶発展している。

 

 恐らくそれで、湯浴み着を着る必要があったのだろう。お風呂に入るのにスク水と言う不思議な気分だったが、熱めのお湯へと脚を入れる。

 

「ふぅ……気持ちいいね? それて効能は……血行と食欲不振に効くんだ」

 

 確かに、身体がポカポカと暖まって来た感じがする。

 と言うか、皆顔真っ赤だし……何かちょっと熱すぎないかな?

 

「あれ……ルクス? あの花はどんな花なの?」

「妖艶花って言う……催淫効果のあるお花よ?」

「……なんて?」

 

 思わず聞き返す、聞き間違いか?

 いや、何か身体が変だと思ったら……淫魔にとっての食事ってつまり……!

 

「ふふっ、しずくちゃんも物好きね?」

「違っ、知らなくて!? 早く出よ……」

「多分だけど、もう手遅れよ?」

 

 立ち上がった瞬間にグラりとその場に崩れそうになって、ルクスの胸元へと倒れ込む。

 今更気づいたんだ、身体が熱いのは……温度のせいじゃない……っ♡

 

「もう足がガクガクしちゃって立ち上がれないでしょ?」

「あがらせて……っ♡」

「ここで水着を着るのはぁ、敏感なところに効きすぎちゃうからなの♡パートナーの子が、水着の上からゆっくりと擦り込んで調理してあげるのよ?」

「そんなの……知らにゃい……♡」

 

 お腹の奥がじんわり熱くて、頭がクラクラする……

 これ以上ここに居たらまずい。周りの淫魔ですら顔を赤くするほどの効果があるのに……!

 

「ほら、ゆっくりと蒸気を吸って~吐いて……身体全体がポカポカしてきたでしょ?」

「はっ……あうっ……」

「もう、素直じゃないんだから……そう言う所も可愛くて素敵よ?」

 

 抱きかかえられた姿勢のまま、ゆっくりと細くて長い指が私のうなじを撫で……お湯を掬って肩へと

 かけていく。湯気が私の気道を……肺を侵していくのが分かる。

 

「水着の上からこうやって……スリスリって♡どうかしら? ゆっくり、ゆっく~り慣らしていきましょうね~」

「あっ、ダメ……やらぁ……」

「おねだりのつもりなのかしら? そんなに弄らしく誘わなくても……後でたっぷり可愛がってあげるわ?」

 

 水着のからスリスリと、湯を馴染ませるように身体をなぞっていく。

 

「脇の下とかも吸収が良いのよねぇ、ほら……こちょこちょ~♡」

「えへっ、あはっ♡くすぐっ……んっ♡」

 

 ちゃぷちゃぷと湯船が揺れて、身体が熱くてうまく動かなくて……

 

「お腹もこうやって……撫でてあげる♡あらあら、幸せそうな顔しちゃって……とっても可愛い♡」

「えへへ、おなかね? なでられるの……あんしんする……」

 

 にげなきゃ……なんで? こんなに、こんなにきもちいいのに。

 

「太腿もとっても柔らかいわぁ……今度は、太腿も感じるようになるまで遊びましょうね~?」

「うっ、うんっ♡るくす……しゅき♡」

「うふふっ、私も好きよ? しずくちゃん♡」

 

 るくすに……まかせたら……しあわせになれるから……

 

「あらあら、興奮しちゃったの? 水着の上からでも分かるくらい主張しちゃって……♡ここにもいっぱ~い擦り込んであげるわね~♡」

「うぅ……じんじんする……」

 

 からだ……じんじんして……きもちよくて……

 

「るくすっ……おねがい? がまん……できないよぉ……♡」

「あら、本番はダメよ? そういうのはあっちの……淫魔式のサウナでする決まりなのよ?」

「さう……な?」

「そうよ? デトックス効果もあるから、女の子にもとっても人気なの。癖になっちゃう娘……沢山いるんだから♡」

 

 

 るくすに、おひめさまだっこされて……ゆぶねから、あがった。

 

 

 むわりと、おんなのこのにおいがただよう……もくせいのとびらのさき。

 ひきかえさなきゃだめ、なにかがだめになる。

 

 ぜったいに……だめ。ここにはいったら……だめだってわかってる、のに。

 

「えへっ、はやくさうな……いこ?」

「もうしずくちゃんったら悪い娘ねぇ……泣くまで可愛がってあ・げ・る♡」

 

 

 きもちいいなら、なんでもいいや♡

 

 

 そんな軽率な結論と共に、扉がバタリと───閉まった。

続きが見たいお話のアンケート!(第二弾)

  • 10.泳げない訳では無いんだが?後編
  • 19.ドキドキお泊まり大作戦なんだが!?
  • 26.ただの耳かきのはずなんだが?
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