「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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56.ピンクの花弁とミルクティーなんだが?

 目元にまだ赤さを残すユウちゃんの落ち着く時間のためにも、少し高めの茶葉で紅茶を淹れる。

 

 そんな彼女が冷静になるにつれて、ひとつの疑問が浮かんだようで……

 

「いや、火傷が治った……のは良い事なんすけど、どういう原理なんすかこれ? 冷静に考えたらすっごい怖くなってきちゃったんすけど」

「それはもう、私の妹を思う愛の力で……」

「いや、そう言うの今いいんで。こんな超回復……反動で身体が弾け飛んだりしないっすよね?」

 

 冷たくあしらわれてしまった、これが反抗期と言うやつなのだろうか。

 彼女の疑問に、今回の事を企てたサキュバスがクルクルと指先で空き瓶を転がしながら答える。

 

 ……どうしてこう、一々所作が妖艶なんだろうか。

 

「魔法少女って、魔力が強くなればなるほど身体能力と治癒能力も上がるじゃない?」

「まぁ、それはそうっすね」

「あれは魔法少女に限った話じゃないんだけど……魔力には生物の……格をあげる? ような効果があるのよね。生物はより力強く、より美しく……より強靭になるの」

 

 通りで魔法少女には美少女が多いわけだ、変身前も私を筆頭に顔面偏差値が高い理由に納得する。

 まぁわたしは、特に普段のスキンケアや美容に関しては気を使っているんだけど。

 

「魔力は外部から摂取することで、無理やり上限を引き上げることもできるのよ。こう……風船に無理やり水を注ぎ込む感じかしら?」

「そう言われると、怖くなってきたんすけど……」

「大丈夫よ? 漏れ出た分は他に回されたりするから。一時的なバフ……みたいなものかしらね?」

 

 そういう事らしい、それでお母様が急に元気になったりしたんだ。

 

「そういう事だから! 安心して大丈夫だよ?」

「今聞いたって顔で丸わかりっすよ、何で提供した本人が知らないんっすか」

 

 だって私、魔法とか魔力に関しては感覚派だし……

 

「それじゃあ、何で流行ってないんすか? もっとやればいいのに……」

「効率があんまり良くないのよね。ほら、あの子がいるじゃない? いっつも元気な炎魔法の子。ええっと……」

「ブレイディアっすか? うちのナンバースリーの」

 

 久々に名前を聞いた、あの子元気かなぁ……

 魔法少女の上位帯、お嬢様が多くて個性がうるさい以外に埋没気味なんだよな。

 

「そうそう、その子ね? その子の魔力の質と量を1とすると……」

「すると?」

「サテライトちゃんは3……」

「確かにそれは……できる人が限られるっすね」

「トータルで3000倍くらいかしらね? そう、それだから多少効率が悪くても、質と量だけでゴリ押しが効いちゃうの。無理やり魔法少女としての格を引きあげて、回復した……って感じよ?」

「ぶふっ!?」

 

 思わずお茶を吹き出してしまった、そんな事ある?

 えっ、魔力が見える人からしたら人の形をした魔力が動いてるように見えてるって事?

 

「3000倍なんてゲームでしか聞いたこと無かったけど……私、本当に人間なんだよね?」

「そうねぇ、星が動いてるって言われても信じちゃいそうなくらいね?」

「それにしても3000倍ってすごい倍率っすよね、そんな値が出てくるなんて……どんなゲームなんすか?」

「えっ……あっ……あぁ……どんなゲームだっけ。忘れちゃった」

 

 あっぶなぁ……!?

 危うく、私の社会的評価が抹殺されかけたことに冷や汗を流す。

 

「仕事柄、怪我や後遺症に困る子は沢山見てきたから何とかしてあげたい気持ちはあるんっすけど……その為に姉を牧場送りにするのは気が引けるっすね」

「便利な回復バフアイテム扱いはちょっと遠慮願いたいかな……」

 

 そう言えば記憶処理に動いてるんだよね、中々ハードそうな現場そうだ。

 確かにそういう子達の助けになりたい気持ちが全くない訳では無いけど……

 

 とは言え全くエッチじゃない、便利な回復アイテムはちょっと嫌だ。

 なんか義務感とか仕方なくで摂取されると、何となくつらいものがある。

 

「まぁ、そんな訳だから……こういうのは取り扱いには気をつけなきゃダメよ?」

「まさかぁ、そんな外で体液をばら撒くような真似は……真似は……」

 

 してない……とは言い切れなかった。

 

 それは今から、四ヶ月ほど前……クロエちゃんの別荘に行った時の事。

 夜のお散歩中に、確か庭園の薔薇の花壇で……

 

「まっずいかも……」

「今度、様子を見に行った方が良いわねぇ」

 

 うちの子のスライムと触手が異様に成長していたのを見ると、何かしらの変化が起きているかもしれない。

 

「全く、困ったねぇ……ピンクちゃん?」

【?】

「なんでスライムと触手をペットとして飼ってるんすか?」

「なんかこう、色々あげてるうちに愛着湧いちゃって」

「……もう突っ込まないっすからね」

 

 膝の上に乗せていたピンク色のスライムは、言葉の意味を理解できていないのかフルリと揺れた。

 

 逆に言えば、それが言語だとは理解しているという事だ。

 これを見ると、間違いなく何かしら異常が起きているだろう……つる触手の怪物みたいになったりしてないと良いんだけど。

 

 

 

 

 

 車に揺られる事数時間、辿り着いた山奥には綺麗な空気が広がっていた。

 

「珍しいですわね、庭園の様子が見たいだなんて……お花とか好きなんですの?」

「まあ人並みには好きかな? だけど、今回はそういう訳じゃなくて……」

 

 急遽アポイントメントを取って、私と将来過ごすための別荘(言語化してみると、とんでもない場所である)にやってきた私。

 

 クロエちゃんの持ち物……というか別荘なので、当然彼女は居る。

 というか何か起きていた場合、彼女に判断を仰がなければならない。

 

 早速だが目当ての庭園へと足を運び、懐かしい噴水とテーブルがあるのを確認して……

 

「ここですわね、あぁもしかして……この薔薇を見に来たのですわね?」

「そうと言えばそうなんだけど……これは凄いね……」

 

 花壇に植えられた赤い薔薇の一部だけ、異様につるの太く満開に咲き誇っている一画があった。

 しかも、周りのバラと同じ品種に見えるのに……花弁の色だけがピンク色の薔薇だ。

 

 記憶を整合すると、お散歩の最中に立ち寄った場所とも一致する。

 つまりは……そう、私の所為だった。

 

「何故かピンクで原因は庭師も全く分からないと言ってまして……何か心当たりがあるんですの?」

「いやぁ、それはその……あるというか無いというか……」

「なんですの? 珍しくハッキリしませんわね……」

 

 なんでこう私の近くで起きること全部……私が原因になるんだろうか?

 

「随分と綺麗ですし、折角ですから摘んだお花を乾燥させてありますの。ローズティーでもいかがかしら?」

「あぁ、うん……その前に色々と説明させてもらっても良い?」

 

 そんな訳で、紅茶を頂きつつ……妹の背中の怪我の事はぼかしつつ、まるで私の体液がバフアイテムのような扱いである事を話し終わった私だったが……

 

「確かに……めちゃくちゃ調子が良いですわね。どうしてこんな事が分かったんですの?」

「それはその、私のその……ミルクと言うか……」

「……詳しく聞かせなさい?」

 

 やはり、その辺りの事情も話さざるを得なくなった。

 当然と言えば当然だが、聞いている間はクロエちゃんは目を白黒とさせていた。

 

 そうだよね、困惑するよね……

 お出しされた二杯目の紅茶にミルクと砂糖を入れて、ミルクティーにして楽しんでみる。

 

 実際にこうして紅茶の上にピンク色の花弁が浮かんでいるのを見ると、別に肥料として使う分にはそんなに気にならなかった。

 とは言えわざわざ指摘されるとちょっと恥ずかしいけど。

 

 流石に不特定多数に出荷とか、あんまり嬉しいイベントでは無かったのだが……

 まあ、こういう形なら……一回植物とかを通せばギリ許容……か?

 

 

 そうやって思考を回していると、ようやく正気に戻ったらしいクロエちゃんが私ににじり寄る。

 

「それで、今日はこの後は空いてますわよね?」

「空いてるけど……」

 

 それはまぁ、此処まで来て庭園だけ見て帰るなら……折角だしお泊りしても良いけど。

 

「わたくしは、まだですわ」

「えっ?」

「わたくしはまだ、味わってないといってますの」

 

 ハイライトの消えたままの眼で、じっと私を見つめているクロエちゃん。

 そのあまりの気迫に、思わず後退りしそうになる。

 

「なんで、どうしてわたくしだけ仲間外れにしますの? こんなに好きなのに、こんなに愛してますのに。しずくを味わいたくて……ずっと我慢してましたのに、そんな方法があったなんて思いもしませんでしたわ。それを……黙ってわたくしを除け者にして楽しむなんて……わたくしがどれだけ貴方を好きか、本当に理解してますの? 寝る間も惜しんで探し回ったり、必死に各所に頼み込んでまで貴方を捜したんですのよ? 貴方の為に家まで用意して、こんなに頑張ってますのに……」

「あっ、あの……クロエちゃん? 気持ちは嬉しいけど、それってそんなに気にする事なの?」

 

 別に、私にとっても価値があるとしても……ミルクに価値があるかと言われると疑問だった。

 

 そんな私の態度が良くなかったのだろう、気付けばなすがままに……ベッドに押し倒されていた。

 

「あっ、あの……クロエちゃん?」

「むぅ……意地悪……ですわ」

 

 ぎゅっと抱きしめられて、体温と甘い匂いが布団の中に広がる。

 ハグをするとβ-エンドルフィンが分泌されて幸福感があると言うが……確かに幸せかもしれない。

 

「抱きしめられるの……結構好きかも。もっとぎゅーってして?」

「余裕があるのも、うぅ……むかつきますわ」

 

 憂さを晴らすように、首元にカプリと噛みついて歯形を残す彼女。

 拗ねているクロエちゃんが珍しくて、本人には申し訳ないけど……ちょっと可愛いなって思ったり。

 

「それじゃあ……飲む?」

「……えぇ」

「そっか、それじゃあその……優しくしてね?」

 

 上着をはだけさせて、肌を露わにすると……彼女がそっと舌を這わせる。

 何かこう、いじらしいというか母性が擽られるというか……

 

 

 結構、こういうのも好きなのかもしれない。

続きが見たいお話のアンケート!(第3弾)

  • 限界オタクとご本人なんだが(お医者さん)
  • お買い物の日なんだが?(撮影会)
  • シラユリ様と狐の巫女なんだが?(狐化)
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