「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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57.理想と現実とその狭間……なんだが!

 魔法少女体というのは便利だ。

 

 魔法少女のコスチュームは街中だとまあまあ目立つが、コスチュームを脱いで……普通の服を着れば少し派手めなただの美少女の完成だ。

 

 そうすれば魔法少女の認知疎外の効果で、表の顔は誰か分からないまま待ち合わせが出来る。

 そしてそんな私達の為に、都内にはこの年齢でも使える個室の飲食店が結構ある。

 

「あんた程の人間が私に相談事なんて随分と珍しい事もあったもんだな……サテライト」

「ある意味……貴方にしか頼めないことなんだよ」

「そいつは随分とあたしを買ってくれてるんだな」

 

 魔協から少し離れた中華料理屋、ここもそんな飲食店の一つだ。

 そんな店内で、赤い髪の少女がメニュー表を閉じて注文の為に紙にペンを走らせる。

 

「急に呼び出しちゃってゴメンね、フランマちゃん。勿論ここは奢らせてもらうけど……」

「なに、サインの1枚でもくれればそれで良いさ」

 

 そう言ってペンを置いてニヤリと笑う彼女。

 男前すぎて危うく惚れそうだった、流石は年長者の風格と言うべきか。

 

「それで……聞きたい事ってなんなんだ?」

「まあ、ずばり新星のリーダーの……ベルちゃんの事なんだけど」

「おいおい、あたしなんかよりあんたの方がよっぽど知ってるだろ? どうして今更……」

 

 確かに、一緒に旅行にも行ったしお家にも行った事はある。

 だけど今回聞きたいのは、今の私じゃ知り得ない事で。

 

「ベルちゃんって私に対しては……その、あれじゃん? 崇拝しているというか、敬愛しているというか……」

「あぁ、まあ……言われてみれば確かにそうだよな」

「普段の様子ってどんな感じなのかなって」

 

 褒めてくれるのも、尊敬してくれるのも、愛を表現してくれるのもとっても嬉しい。

 

 だけど今は良いかもしれないけど、5年後10年後を見据えて……ずっと私の存在は憧れのままで居られるだろうか。

 

 人は慣れる生き物だ、隣に居るのが当たり前になった時。

 彼女はどんな表情をするのか……私には想像がつかなかった。

 

 そう、私はティンカーベルと言う魔法少女を……夕霧あまねという少女を知らなすぎる。

 

「普段のあいつ……なぁ。仕事ぶりは優秀……というより優秀過ぎだな。実年齢は小学生くらいだろ? なのに、組織運営をほぼ完璧にこなしてやがる」

 

 それはそうだ、彼女は私が失踪して数週間足らずで……新星魔法少女協会と言う、あれだけの規模の組織を発足させてみせた。

 優秀なんてものじゃない、組織運営の嗅覚に関してだけならあのスクイレすら凌ぐかもしれない。

 

 まあ、スクイレの場合はそれに加えて魔法と記憶能力があるからあれなんだけど。

 

「指示してないときは……そうだなぁ、もっぱらあんたの事を話してるよ。会えない時間すらも、愛を育むスパイスだとかなんだとか……」

「へぇ……本当に私の事大好きなんだね」

「まあそりゃぁ、疑う余地もねえだろうよ」

 

 まあ別に疑っている訳では無いが、想像以上だったという他無い。

 ただ、そんな彼女は……果たしてサテライトが好きなのか……星乃しずくが好きなのか。

 

 それこそ本人に聞いてみなければ、分からないだろう。

 

「学校とかプライベートは……分かんねえな。だが、うちの奴らに勉強を教えてるのを見た事あるけど……ありゃあ天才だな。中学、下手したら高校の範囲まで予習を終えてやがる」

 

 確かに、お父さんとお母さんがお医者さんだとかで……お医者さん顔負けの医療知識を披露してくれた。

 まあ、エッチな方面に偏ってたけど。

 

 確かに天才、もしくは秀才なのだろう。

 

「後は……そうだな。ちらっと見た事があるんだが、よくネットの掲示板を使ってるのは見るな」

「あぁ、あれね……」

 

 レスバに興じたり、彼女の専スレにも……らしき人物が見受けられたりしていた。

 私のアンチに対して苛烈にレスの応酬を繰り返す、そんな将来が心配になるプライベートを過ごしている。

 

 

 何処かちぐはぐだが、何となくわかってきたかもしれない。

 残りの隙間は、本人と話して少しづつ埋めていけばいい。

 

「今日はありがと、面白い話が聞けたよ。此処の会計は約束通り私に任せて……」

「あぁ、別にいいが……」

 

 話が終わるのを見計らったかのように、注文したエビチリと炒飯が届く。

 あとはご飯を食べたら多少歓談して解散……

 

 そう思っていたのは、私だけだったようで……

 

「……サインは、くれねえのか?」

「最初のあれ、本気だったの?」

「本気も何も。あいつ程じゃねえけどさ、私も結構なあんたのファンなんだぜ?」

 

 そう言えばそうだ、彼女が現魔法少女協会から離反した理由は……私が失踪したときのスクイレの対応に不満があったからだと聞いている。

 

 つまりは重めの私のファンだという事だ、その事を完全に忘れていた。

 

「……良かったらチェキもいる?」

「おっ、良いのか……!? 夢みたいだぜ、おい」

 

 可愛らしくガッツポーズを取ったフランマちゃんを見ると、頼れる姉御肌っぽく見える彼女にも可愛らしいとこもあるんだなと思った。

 暫定年上相手に失礼だとは思うけど。

 

 

 この後……滅茶苦茶写真撮った。

 

 

 


 

 

 それは、フランマちゃんと腹ごしらえをして、街中へと繰り出した時の事だった。

 

「あ~!? うわわわっ! 浮気ですかサテライト様!?」

「そういうのは付き合ってから言えよ、協会長」

「はぁ~!? 私とサテライト様は将来を誓い合った仲なんだけど!」

 

 ベルちゃんが現れたのは中華料理屋さんから出た、丁度のタイミングだった。

 間が悪く……いや、ちょうど良いのか?

 

 そんなタイミングで現れた彼女は、私達を見て目を白黒とさせている。

 

「にしても、これまた面倒くさいタイミングで会っちまったなこりゃあ……」

「ねぇ、フランマ? どういうつもりか、ベルにも分かるように教えてくれない?」

「別に、何もねえよ」

「うっそだぁ!? ベル知ってるよ? そう言って本当に何も無い事なんて無いんだから!」

 

 確かに別に何もねえよって言ってる時は、大体何かある気がするけど……

 今回に限っては本当に何もないのだが、言い方もあまり良くなかった。

 

「なんでベルちゃんがここに?」

「歩いてたら……近場にサテライト様の気配を感じた気がしたので!」

「あっ、そう……」

 

 気配だとか雰囲気だとかよく分からないもので察知してきたらしい、ちょっと怖いよ……君。

 まあ聞きたい事もあったし、丁度良い……か。

 

「ベルちゃんは、私のこと好き?」

「はい! 大好きです!」

 

 なんか面倒くさい女みたいなムーブだな、いやその通りなのか。

 大概、面倒くさい女みたいな悩みを抱えているのだから。

 

「ベルちゃんは、逆に何したら私の事嫌いになるの?」

「死が……」

 

 流石に私が今更ベルちゃんを傷つけるような事はしないと、そう言おうと思っていたのに。

 

「流石にそんな事しな……」

「死が二人を別っても! 私のサテライト様への愛だけは穿たせはしません!」

「そう……」

 

 なんだかさっきまで慣れがどうだとか、5年後10年後とかで悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらい愛情全開だった。

 

 きっと、態度が落ち着いたとしても……この炎のような愛情は彼女の中で燃え続けるのだろう。

 それがどうしてか、酷く眩しく思えた。

 

「その……疲れたりしない?」

「全力なので疲れます! でも、そんな疲労より回復の方が上ですから!」

 

 眩しい、あまりにも眩しすぎる。

 そんな彼女にする質問は、少しずつ私の気になっていた確信へと……迫っていく。

 

 そう、私が本当に気になっていたのは……

 

「ベルちゃんは……(サテライト)が好きなの? それとも、(星乃しずく)が好きなの?」

「それは……」

 

 彼女との出会いは、奥多摩侵攻の時……らしい。

 第一の魔王の元へと向かう最中に、偶々助けた子が彼女(あまねちゃん)だった……それだけだ。

 

「サテライト様は……私の推しで、憧れです……けど」

 

 その後、本屋で会ったのが素顔の時の初対面。

 

「しずくおねーさんも、憧れのお姉さんで……」

「おい、ベル……」

「別に良いよ、本名なんて今は」

 

 必死に考えてくれているのだろう。

 だからフランマちゃんが周りに居るのを失念しているようだった。

 

「どっちも、憧れで……どっちも好きなんです」

「うん」

「だから、だから……」

 

 彼女の瞳が、不安に揺れている。

 どれだけ優秀で、大人びていても……彼女はまだ小学生なのだ。

 

 そんな年齢でこんな事に答えを出すべきじゃないなんて事は、分かり切ってるけど。

 

「どっちも、愛したいんです。好きな人の全てを、余すことなく愛したいんです!」

「うぅん……眩しいなぁ……」

 

 最近、ようやく人を愛す事を覚えたらしい私より……

 そういう事は彼女の方が先輩なのかもしれない。

 

「そっ、それじゃ……ダメでしたか!?」

「ん~……」

 

 あまりにも、真っ直ぐな彼女の瞳と言葉に……返す言葉が無い。

 今思えば……こうして彼女の気持ちが気になるなんて。

 

 恋する乙女の挙動そのものだったな……なんて。

 

「ちょっとこっちおいで?」

「えっ、はい! 今行きま……んっ!?」

 

 とてとてと寄って来たベルちゃんの唇を、そっと塞ぐ。

 眼を白黒させて、その後真っ赤になったベルちゃんをぎゅっと抱きしめる。

 

「あっ……えっ……!?」

「……あたし、席外した方が良いか?」

「別に良いよ、これ以上はしないし……今は」

 

 思えば、初めて攻めてみた……かもしれない。

 どうせ夜になったら、負け負けなんだろうけど。

 

 ……これが、誘い受けって奴か?

 なんて、益体もない話を考えてしまうあたり……私も相当緊張しているらしい。

 

「今度、お父さんとお母さんにお話しさせてね」

「ひゃ、ひゃい……!」

 

 そんな耳を真っ赤にしたまま、パクパクと口を開いているベルちゃんが呟いた一言。

 

「みみみ、皆は初めてのキスってレモンの味がするって言ってたのに……」

「杏仁豆腐味で……ごめんね?」

 

 ただ恋愛ごとに関してはネットの皆は、そんなに参考にならないんじゃないかなって思うんだけど。

続きが見たいお話のアンケート!(第3弾)

  • 限界オタクとご本人なんだが(お医者さん)
  • お買い物の日なんだが?(撮影会)
  • シラユリ様と狐の巫女なんだが?(狐化)
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