あれからお風呂を借りて、ご両親の帰宅を待つこと暫く。
ご両親2人が帰って来たリビングに流れる雰囲気は、気まずい……という他無い。
クロエちゃんの家はあれだったし、ルクスのご家族に挨拶はして無い。
そして、恐らくスクイレの御両親にも挨拶できるかは怪しいだろう。
そしてうちは母親しかいないから……
ある意味一般的な家庭の様子というのは初めて見るかもしれない。
「どうぞお座りになってください」
「しっ、失礼します……」
娘には聞かせられない話と聞いて、私とご両親だけがリビングに腰掛けていた。
何を言われる覚悟も、出来てはいたのだが……
2人とも物腰が柔らかそうな人で、何故かその顔には冷や汗が浮かんでいた。
本来緊張するべきなのは、私の方の筈なのに。
「奥多摩では家内とあまねと……父がお世話になりました」
「いえいえ、当然のことをしたまでで……」
確か、あまねちゃんはご両親と大侵攻があった時に……奥多摩の祖父母の家にいたと7月くらいに言っていた気がする。
ただ、正直憶えていないので……何とも気まずい。
「そうですか。噂にお聞きした通りの方だ……」
「そっ、そうねぇ……」
ジャブ代わりに打ち込まれた話題が重いし、それを聞いた彼らが更に悲痛な面持ちになる。
「あまねのお部屋はご覧になりましたか……?」
「えっ、えぇ……はい」
「そう……ですか……」
私が沢山飾られた部屋は何度か見ているので、そう答えた。
だがここでまたしても、部屋に悲痛な沈黙が満ちる。
何やらまた間違えてしまったらしい。
ここまで私に人の気持ちが分からないとは思っても居なかった。
誰か助けて、スクイレ……スクイレが居れば解決するのに……
やがて決心したかのように、ゆっくりと父親の方が口を開く。
決心してやって来たのは、私の方なんだけど。
「あの、娘がその……ご迷惑をおかけしていませんか? ストーカー被害とか……」
「あっ、あぁ……」
確かにそう言えば、出会いはリア突された事がきっかけではあったけど。
「ダイジョウブ……ですよ? あまねちゃんには良くしてもらっていて」
「娘の『推し』への執着は、少し度が過ぎたモノがあって……ご迷惑をおかけしていないのなら一先ずは安心です……が」
心当たりはあった、確かにあった。
いきなり下着が消えていたり、盗撮紛いの写真が祭壇に並べらえれていたり。
あれ……その、お付き合いの報告とかしに来たはずなのに。
「娘に推しが居るのは聞いていたんですが、その……最近は色々と立て込んでいて……」
「私達がしっかりと見てあげていられなかったばっかりに、その……魔協に……宣戦布告のような事をしたと……」
確かに『新星魔法少女協会』なんて親の許可を得て立ち上げたようには見えなかった。
2人ともお医者さんらしいし、忙しくてあまり構ってあげられなかったのかもしれない。
この様子だと、その事が発覚したのも最近なのだろう。
弱っている今、お付き合いのご報告するような事じゃ無かったのかもしれない。
「娘さんは今は立派に誰かの為に活動しています、ですから……」
「えぇ、とっても立派な事だとは思いますけど」
「あまりにも危険だ、もしもあまねの身に何かあれば……」
私は別にスクイレが穏健派な事を知っているが、外部から見ればそうは見えないのも理解している。
あの電波障害も表向きには、外敵の仕業になったとは言えだ。
娘の心配をして、身を案じている。
何処までも普通の親御さんだ、だからこそこの後の話が重い。
「刑務所……いえ、魔法少女は収容院でしたね。うちの子に前科がついたり危険に巻き込まれたりさえしなければそれで……」
「どうかうちの子を守ってあげてください……中学生の子供にこんな事を頼むのは間違っているかもしれませんが、私達ではもうどうにも……」
「まっ、任せてください! 絶対に守って見せますので!」
余りにも悲痛な懇願を受けて、思わず大きく頷く。
確かにこの内容は、あまねちゃんに聞かせられる話ではないかもしれない。
お付き合いの報告という雰囲気ではなくなってしまったが、ここで後日……というのは有り得ない。
何より、せめてそこくらいは誠実で居るべきだと思ったから。
「その……本題に、入らせて頂いても良いでしょうか」
「あまねから、ある程度は話は伺っております」
冬の空気が一段と冷え込んだ気がした、暖房がしっかりと聞いているのにも関わらずに。
息が詰まって、呼吸が苦しい。
齢15の少女でしかない私にはあまりにも重い、人の人生を背負うという重圧。
そんな中彼らが、私の眼をジッと見て……一言だけ、告げた。
「娘を……あまねを本当に幸せにしてくれますか?」
「してみせます」
自分一人の人生すらグチャグチャにしようとしていた私が吐くには、あまりにも軽薄に聞こえるだろう。
「今は、その言葉を信じます」
きっとこんな事は言葉で示しても、何の説得にもならない。
だから、行動で示すしかないのだろう。
「うちの子も部屋で待っていると思います。よければ、帰る前にもう一度声を掛けていってあげてくださいね」
「……はい」
果たすべき責任や柵が増えていく、それもまた人生という事なのだろうか。
私のグッズで一杯の部屋へと戻ってくると、どっと肩に入っていた力が抜けていく。
緊張で胃の中がひっくり返るかと思った、本当に。
「あまねちゃ~ん? 起きてる?」
「んんっ、んーっ……ふわぁ、寝ちゃってました?」
「起こしちゃってごめんね? でも、寝る前はパジャマに着替えないと」
「それも……そうですね……?」
眠そうに目元を擦る彼女は、年相応らしく見えた。
時刻は21時を過ぎていた、普通の子ならこんな時間まで出歩けないだろうという時間。
私達みたいなのは例外だけど。
魔法少女を後ろから襲おうと鉄パイプを振りぬくと、鉄パイプの方が折れる話はあまりにも有名だ。
「帰っちゃうんですか?」
「着替えも無いし、流石に親御さんに迷惑……でしょ?」
流石に夕食まで御同伴する訳にはいかないだろう、あんな話をした後だし。
私も彼らも、時間が欲しいと思う。
「そう……ですか……」
「うっ……そんな寂しそうな顔しないで……よ……」
寂しそうに、だけども私の事情を慮ってか引き止める事はしなかったあまねちゃん。
その顔を見て、ふと思い出す。
先程、幸せにすると約束したばかりでは無いかと。
いきなり約束を破る所だった、迷惑とか常識とかそういうものに私が縛られる通りは無い。
「一回帰って、ご飯と着替えだけ持ってくるから……ね?」
「はっ、はいっ! 1分でご飯食べてきます!」
「いや、そんなに焦らずにゆっくり食べてね?」
あまねちゃんの御両親に話を通して、急いで玄関へと向かう。
こんな私を、車で送っていこうかと一声かけてくれた彼らは本当に善良で普通の両親なのだろう。
そんな彼らに見送られながら、あまねちゃんの家を後にした。
夜……というよりかは、もう深夜に差し掛かりそうな時刻。
辿り着いた一軒家の二階にあるあまねちゃんの部屋は、未だに明かりが灯っていた。
窓の外から顔を出していたあまねちゃんは、私の姿を見ると手を振って顔を引っ込め……ガチャリと玄関の鍵が開く。
「本当に……来てくれたんですね」
「約束したでしょ? それにしても、来なかったら一晩中外を見てるつもりだったの?」
「えっ、勿論ですけど」
「そっか」
ちょっと怖いくらいの執着を身に浴びながら、ゆっくりと階段を上がる。
そしてその想いの集大成のような部屋へと、足を踏み入れる。
「折角のお泊りですし、何をしましょうか!? トランプとか……」
「いや、もう時間も時間だし寝るよ?」
「えぇっ!? 折角準備してきたのに……」
「そういう我が儘はダ~メ、寝不足はお肌にも良くないんだよ?」
駄々をこねるあまねちゃんを連れて、お布団の中に入る。
嬉しいやら緊張やらで表情をコロコロと変えていた彼女も、やはり眠気の限界だったのかうとうとと舟をこぎ始める。
「あの……」
「どうしたの?」
ぎゅっと私の胸に顔を押し付けて、抱き枕のように抱えて眠ろうとしていたあまねちゃんが声を上げる。
「私、しずくおねーさんの……迷惑になってないですか?」
「ん~……」
別に考えた事も無かったが、わざわざ家に帰ってから寝に戻るなんて随分と手間のかかった行動だ。
赤の他人の為なら絶対にしない、少々面倒くさい行為。
「別に、嫌じゃないよ」
「そう……ですか……」
少々行き過ぎた愛情表現も、手間すらも愛おしいと思えるようになった。
今はきっとそれで十分だと思う。
「おやすみなさい、しずくおねーさん」
「おやすみ、あまねちゃん」
やがて寝息は深くなり、布団の中に二人分の体温が籠って冬の寒い室温を温めていく。
「可愛いなぁ、もう……」
ぎゅっと抱きしめ返すと、流石に少し暑苦しいけど幸せだった。
私はお昼寝をしてしまって全然眠くならなかったが、彼女の寝顔を見つめていたら……
結局一時間ほどで眠りについた。
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