「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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章と章の間にある、百合が咲いているだけの幕間の物語です。


62.冬の風物詩と言えば……なんだが?

 冬の寒さも本格的になって来て、マフラーや手袋が手放せなくなってきた今日この頃。

 そんな冬の寒さから身を守るため、遂に今年も我が家にあの暖房器具がやって来た。

 

 いや、やって来たというのは語弊があるか。

 元から物置にあるのを、私とユウちゃんで引っ張り出してきただけだし。

 

「敷物ヨシ、机ヨシ、布団……ヨシ! これで設営完了っすね!」

「ユウちゃんお疲れ様ぁ、早速だけど電気点けちゃおっか」

 

 布団と机が一体化したかのような風貌の、やや大き目な布団机。

 日本の冬には欠かせない……とまで言うと過言だけど、立派な炬燵が設営し終わったわけだ。

 

「へぇ、これがコタツですのね。知ってはいましたけど、家で使ったことはありませんわね……部屋全体を暖めるじゃダメなんですの?」

「分かってないなぁクロエちゃん、こういうのは風情が大事なんだよ」

 

 実際部屋を暖めるだけなら、エアコンでも良いんだけど……やはり炬燵の方が風情があって好きなんだよね。それに炬燵には、特有の魔力があると思う。

 

「蜜柑とお茶持ってくるから、先に暖まってて良いっすよ?」

「本当? それじゃあお言葉に甘えちゃおっかな」

 

 

 玄関の方にかけていくユウちゃんを見送って、話をしている間にも少しずつ温まっているであろう炬燵の中へと脚を伸ばす。じんわりと炬燵の赤外線が、ニーソックス越しに私の脚を暖めていく。それが寒い冬には何とも堪らなくて。

 

「あぁ~ぬっくい……」

「ちょっとしずく、声がはしたないですわよ? おじさんみたいですわ」

 

 呆けた声を出していると、隣にいるクロエちゃんに窘められる。

 そのままコロンと横になると、眉を顰めて呆れ顔の金髪お嬢様と目が合う。

 

「でもそんなところも可愛いでしょ?」

「……素直に肯定するのは、なんだかちょっとムカつきますわね」

 

 それはつまり、可愛いと言ってくれているようなモノだろう。

 えへへ、嬉しい。

 

「それじゃあわたくしも失礼しますわね」

「いや、こういうのって普通隣には座らなくない? まあ、良いけど……」

 

 そう言って他に三つも席が空いているというのに、黒いニーソックスを履いた脚がスルリと割り込んでくる。ウエストは細いのに、弾力のあるお尻は大きめ……一体どういう原理なんだ?

 

「成程、これは中々……」

 

 破顔してくつろいでいるクロエちゃん、そんな姿も様になるというのだから美人はお得だ。

 それにしても本当にスタイルが良い、是非その長いおみ足で踏んで欲しい。

 

 それにしても……

 

「二人だと、流石に狭いですわね」

「いや、分かり切ってたと思うけど……」

「わたくしの隣は嫌だと言うんですの?」

「そんな事言ってないよね!?」

 

 いくら炬燵が広めと言っても、クロエちゃんのお胸の事もあってちょっと狭い。

 本当に同じ中学生か? 来年から高校生になるとはいえ……なるとはいえだ。

 

 本当に大きなお胸だ、思わず顔を埋めたくなる。

 なんて考えていたのが伝わったのだろうか、腰元にスルリと回された腕が私を抱き寄せる。

 

「ふふっ、こうすれば上も寒くない……名案ですわね?」

「クロエちゃん、ちょっと抜けてるとこあるよね……」

 

 押し付けられたお胸が、ギュムリと私の身体に当たって揺れる。

 

 まるでサンドイッチ……と言うより何処からどう見てもバカップルの完成だった。

 暖かいけど、ちょっとお胸が当たって苦しいし、それに顔も近い。

 

 というか間近で見ると睫毛長いなぁ、なんかちょっと別の理由でお顔が熱くなってきちゃった。

 

「ふふっ、恥ずかしいのですわね? 本当に可愛らしくて……食べてしまいたいくらいですわ」

「あうっ、言わないでよ……」

 

 裸を見せ合った仲だというのに、何故こうも恥ずかしくなるんだろうか。

 これも心境の変化だというのなら、皆こんな小恥ずかしさを味わってきたというのか。

 

 どうしよう、耐えられそうにないけど……この状況じゃ顔も逸らせそうにない。

 

「うわぁ。僕が蜜柑取りに行っているほんの少しの間に、どうやったらそんなにアツアツに出来上がるんすか?」

「みっ、見ないで……」

 

 妹にイチャついている所を見られるのは、何というか精神的に来るものがある。

 まぁ、だからといって結局のところ私もイチャイチャするのは嫌ではないんだけども。

 

「ほら、お姉ちゃん。口開けるっすよ」

「あっ、あ~ん? あっ、おいひい」

 

 雛鳥のように口を開けた私の口元に、オレンジ色の果実が突っ込まれる。

 甘酸っぱくておいしい……炬燵で食べる蜜柑には、格別の魅力があると思う。

 

「うぅ~さぶさぶ。それじゃあ僕も失礼するっすね」

 

 横から一対の脚が炬燵の中に入ってきて、一瞬だけ外の空気が炬燵の中に入ってきて温度が下がる。

 蜜柑を剥いては口に運んでいるユウちゃんを眺めていると、ピンポーンとインターフォンが鳴る。

 

 立ち上がろうとしたら、その時にはもうユウちゃんが立ち上がっていた。

 そんなに気を遣わなくてもいいのにと思う反面、まあ今日くらいはその好意に甘えても良いかなと思って再び横になる。

 

「お邪魔、します」

「お邪魔しま……うあぁ、出遅れました!? あんまり朝早くに来るのはご迷惑と思ってですね!」

 

 遅れてやってきた二人……と言ってもまだお昼前だけども。

 クロエちゃんが少し早すぎただけだ、朝ごはん終わって直ぐにタイミングを見計らって来た訳だし。

 

 そんなちなつちゃんとあまねちゃんは、なんと言うか……何時も通りで見ていて安心する。

 

「しずくおねーさんの隣が……」

「一緒におとまりして寝たの、知ってる」

「あっ、ナチュラルに暴露するのやめてくれませんか!?」

「へぇ? 詳しく聞かせてもらおうじゃありませんか」

「あっ、私しずくおねーさんの対面にお邪魔しますね♡」

「逃げた……ね」

 

 いそいそと炬燵の中に潜り込むあまねちゃんの、ツインテールの緑髪が揺れる。

 それを見て灰色のコートを脱いで、空いている隣へと座り込んだちなつちゃん。

 

 どうやらクロエちゃんも炬燵から出てまで、その事を追及する気はないらしい。

 というか何時まで抱き着いているつもりなんだろうか、流石に胸元とか汗が出そうなくらい熱くなってきたんだけど……

 

「あらあら? もう満席……あぁ、2人まで入れるのね?」

「いや、ルクスおねーちゃんは身体がボンキュッボンだからちょっと厳し……むぐっ!?」

 

 押しつぶされるような声が横から聞こえたような気がしたが、気のせいだと思う事にしよう。

 身長も体型も、やはり淫魔と言うだけあって物凄い。

 

 そんな彼女が狭い炬燵に入ろうとすれば、私たち以上に狭いのは当たり前だった。

 

「それにしても毎度思うんですけど……なんですの? その……個性的なTシャツは」

「ぶっちゃけダサくない?」

「……私は、良いと思う」

 

 そんなルクスは、今日も『あばんちゅーる♡』と白地に黒い文字で書かれたダサ……Tシャツを着ている。見慣れた私からすれば何んとも……いや、改めて意識するとやっぱりダサいな。

 

「あらあら? 私は気に入ってるのだけど……」

「まあ、ルクスが良いなら良いんじゃないかな……」

「ぷはっ、溺れる所だったっす!? まっ、前が見えないっすよぉ……!?」

「やっぱりちょっとだけ狭いわね?」

 

 何時の間にか腰に伸びていた手は、騒がしいのをこれ幸いとさすさすと私のお尻を撫で始めた。普通にセクハラだけど、見えないからって好き放題し始めたなこいつ……まあ、私も別に嫌では無いんだけど。

 

 仕返しと言わんばかりに、彼女の胸元に顔を埋める。少し驚いたのかピクリと身体が跳ねたものの……空いている左手で優しく頭を撫でられる。やはり彼女も暑いのか、胸元の熱気がとても凄まじい。

 

「あまり、嗅がないでほしいのですけど」

「あぁ、うん……善処するね?」

「頑張る気が無い人のセリフですわね……」

 

 肺一杯に広がる香りを堪能していると、ツンツンと足先に誰かの指の感覚を感じた。これだけ狭い炬燵の中だから足が当たるのは当たり前なのだが……絡めてくるのは違くない?

 

「えへへっ、炬燵とっても気持ちいいですね?」

 

 どうやら脚の主は恣意的に行っているようで、スリスリとニーソ越しに足を絡めて甘えて来る。対面に居るのは一人だけだから、間違いなくあまねちゃんだろう。

 

 炬燵の中は艶めかしくてそれはもう凄い事になっているのだろう、是非顔を突っ込んで足置きになりたい気持ちで一杯だったが……私の辞書にも自重という言葉がある。というか最近芽生えた。

 

 そんな私の思惑を覗いてか、太腿の間にも柔らかいおみ足がすっと差し込まれる。そして足の裏で撫でるように、私のぷにぷにの太ももの感触を楽しんでいるらしい。

 

「わわっ、尻尾を何処に絡めてるんっすか!? それに息できな……」

「ルクス〜その辺にしておいてあげなね?」

「あら? これくらい姉妹なら普通のスキンシップよね?」

「人間には尻尾はないんだよルクス……」

「……ふふっ」

 

 陸上で溺れかけていたユウちゃんを見て、慌ててルクスを止める。血の繋がっていないとはいえ姉妹同士の健全なスキンシップの筈なのに、炬燵という狭い空間とあの暴力的な身体のせいで死人が出る所だった。

 

「そろそろお昼ご飯よ~あんたは配膳手伝いなさい」

「えぇ~? 外寒いし……」

「義母様! おねーさんの代わりに、私が手伝います!」

「わたくしも手伝いますわ」

「私も……」

「あまねちゃん達はお客様なんだから良いのよ? しずく、早く起きなさい……!」

 

 気付けば、美味しそうなご飯の匂いがキッチンに広がっていた。

 ゆっくりと上体を起こして、名残惜しくも温い炬燵から這いずりだす。

 

 こうして何でもない土曜日の、何でもない一日は過ぎていく。

 

 別にどこかに出かけた訳でも、何か事件があった訳でも無い……何でも無い日。

 昔は少し退屈に感じたかもしれない、そんな日常。

 

 

 

 だけど今はこんな幸せな日常が、何時までも続いて行けばいいなと心から思う。

 

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