物語にも一区切りがつきそうで、嬉しいやら寂しいやら複雑な気分です。
短い6章になりそうですが、是非お楽しみいただけると幸いです。
63.不穏な影なんだが?
魔法少女協会、魔協にある会議スペースにて馴染みの顔ぶれが集まっていた。
何時もの面子と言えばそうなのだが、今から行うのは重要な会議だから……セキュリティの問題もあって我が家の炬燵でするような話でも無いのは確かだ。
実際、スクイレの顔にも若干の緊張が見て取れる気がする。
そんな彼女が、ゆっくりと口を開いた。
「そろそろ、この長い争い……人類の生存戦争にも幕を引く時が……来た」
彼女が指し示した先にあったのは、今は既に失われたはずの幾つかの都市を載せた30年前の日本地図。魔族の中の……【外敵】の侵攻により失われた沢山の土地と人命があった事を示す、記録の一つ。
「30年にも、わたり。人類は、外敵の侵攻を受けてきた。それに対抗するかのように、生まれた私達……魔法少女。そんな彼女達の数多の尽力と犠牲によって、世界は少しずつ元の姿を取り戻しつつある」
「そんな話し合いの場に魔族がいるのも、あんまり慣れない話ですけれど」
「魔族と言っても、人間界の侵攻に手を貸してるのは半数くらいよ?」
外敵がどんな目的を持って人間を襲うのか、恐らく苗床や食料以外にも理由はあるのだろうが……そんな事を話したことがないから分からない。そもそも外敵が私達を見る目って、何時も血走ってることが多いし。
「行方不明になる人間が、年々減少するにあたって。魔族は焦りからか、準備が整ったのか……30年前よりも、大きな本腰を入れた侵攻を、開始した。出現地点は、奥多摩。最大脅威目標である、第一の魔王の出現も確認した」
「剛力の魔王ね。恐ろしいまでの身体能力と、各種状態異常への高い耐性……とっても厄介だったわぁ」
凄い自信満々で出てきて、語る程も無いような負け方をしたので正直憶えてないんだよね。なんかこう、あまりにも呆気ないから第二形態とかあるのかと思って、終わってから数分身構えてたんだけど何も無かった。
「それから数か月後。神奈川県に出現した、第二の魔王による強襲を皮切りに……ゲートの出現は、減少傾向に、ある」
「術理の魔王ですわね。あの時は体調が優れませんでしたが……次は遅れは取りませんわ」
その節はマジで申し訳ない、そういう気持ちで一杯だが……本人……人? にあまり大した思い出がない。こんな可愛い私を捕まえて、化け物扱いしてきた事だけは憶えてるけど。失礼しちゃうよね、全く。
「証言通りなら、第三の魔王なる存在が……実在する。今のこの静寂は、次の侵攻のための準備とも取れる」
【魔王であるこの俺様を倒したとしても……第二、第三の───】なんて言っていた訳だし、第二の魔王が居た以上第三の魔王も存在すると見て良いだろう。剛力、術理ときて次が何になるのかは分からないが……
「逆侵攻をかけるための準備は既に進めている。各地の魔法少女との連携、支部同士の協力体制の確立。魔法少女一人一人のパワーアップのための各種トレーニング方法のマニュアル化。だけど、問題は……」
「次の外敵の親玉が、魔界の何処に居を構えているか分からない事だよね?」
「そう、何処を攻めれば良いか分からない以上……現状私たちから取れる手段は……少ない。それでも、それだけの軍勢を、何時までも隠し通せる訳じゃない」
すうっと息を吸って、ゆっくりと吐いて。
考えてみればあまり喋るのが得意でない彼女が、ここまで喋るのも珍しい機会だ。
「第三の魔王……及び、敵の首領を討伐後に、穏健派の魔族を中心としてルクス・ルクスリアを魔族の首領に据える。その後は、こちらの手筈通りに魔法少女の地位を確かなものにする」
「ふふっ、荷が重いわね?」
今性急に外敵を滅ぼせば、行き場を失った魔法少女という力に対する世間の目はどうなるのか……想像に容易い。残念ながら敵は外敵だけでないという事だ、神崎何某のような例も居る事だし。
「決着をつける日は、近い。人類の悲願だとかそう言うのはどうでも良い……けど。全ての魔法少女の為に、協会はその役目を果たす」
そう言い切った彼女の眼に、昔のような空虚さは何処にもなかった。
確かな信念と、これからの未来をしっかりと見据えられた……そんな表情だ。
だが流石に疲れたのだろう、ゆっくりと立ち上がって横に座ったスクイレが頭を預けて来る。
「……ふぅ。喋り、過ぎた。喉が、カラカラ」
「それはその……流石にどうなんですの?」
皆に向けて喋らなければいけないから、何時もより声も張っていたが……確かにこの短い時間喋っただけで、ぐったりするのは人と喋りなれなさ過ぎていると思う。あでも、今の彼女にしては十分頑張ったと思う。
「ほら、スクイレ? お茶どうぞ?」
「んっ、もらう……」
コップのお茶をストローで飲むスクイレは、まるで小動物みたいで可愛い……なんて思っているとジトっとした目線を向けて来る。そんな無言の抗議を見なかった事にして、会議を締めるための会話を続ける。
「まあつまり、私達に出来るのは現状維持だけかなぁ。攻める先が分からないと、私達が如何に強くてもどうしようもないし」
「わたくしの氷面鏡も、次元を隔てられると流石に手詰まりですわ」
何か一発逆転の手があればいいんだけど、このままじゃどうしようもない。
第三の魔王の居る座標からゲートでやってくるような外敵が居れば話は別何だけど、さっきの話通りそもそも最近ゲート自体が減少傾向にあるし……
「それじゃあ、私達の強化の為に……やることがあると思いませんかぁ?」
「業腹ですけど、同意見ですわね」
「決定。私も、少しは戦えた方が……良い」
「あらあら、結局そうなるのね? 私もお邪魔しちゃおうかしら?」
四人の視線が一斉に私に向く、その瞳が怪しく輝く。
それが示すのはつまり……つまる所そういう事なのだろう。
「おっ、お手柔らかに……?」
「緊張しなくても良いのよ? 力を抜いて……ふふっ、愉しみましょうね?」
密室、女の子5人、何も起きないはずが無く───
その夜、妙にツヤツヤとした四人が仮眠室のドアから出てきたという。
暗い、暗い……闇そのもののような暗さのその場所で。
【───よくぞ集まってくれた、諸君】
牛の角を持つモノ、四つの腕を持つモノ、鋭利な牙を持つモノ、翼を持つモノ……様々な異形が
【今までは儂ら魔族とって雌伏の時であり……そして、冬の時期であった】
それはその存在の声を一切聞き逃さないためでもあり、そして万が一でも『彼』の不興を買わないためでもある。何故なら、『それ』は彼らの王でもあり───強者でもあるからに他ならない。
【剛力は強大すぎる力に及ばず───その
その体躯は第一の魔王程大きくはなく、むしろ集まった魔族の中でも小振りな部類である。
【術理は理外の力の前に無意味に立ち消え───その奇跡は無意味と化した】
その身に秘める魔力は強くはあるものの、第二の魔王ほどの圧倒的な魔力は存在しない。
【諸君らの落胆はもっともじゃよ。魔王と呼ばれるものはこの程度のモノであったのかと、最も強いとは】
誰もが、口を噤んでいる。
されどその誰もが黙って平伏し、その声を拝聴している。
魔王が二度敗れてなお……それでも、彼に沢山の賛同者が居るのは。
間違いなく彼らに無かった『ナニカ』が、彼にあるからに他ならない。
【くくっ、魔王の魂は残り一度。つまり我らに残されたチャンスは一度であるからして、故に儂は───考えた】
上機嫌そうに、地球儀と呼ばれるそれを手の中で回す異形はカラカラと笑う。
【思えば我らは人を矮小と決めつけ、理解する事を拒んでおったのだろうなぁ。侵攻を成功させるためにどうすれば良いかだけではない。人とはどんな種族であるか、どんな生態をしておるのか】
何が面白いのか、誰も理解はしていないであろうものの……その魔族は言の葉を続ける。
【故に儂はこの六カ月をもってその全てを───調べ、解き明かし、学び取ったのよ。それらを分析して……そしてようやく一つの結論を下すに至った】
口角を引き上げて、残忍な笑みを見せると。
それは声を張り上げて演説の続きを続ける。
【諸君、我らの冬の時期は終わりを告げる。
【Gugyuaaaaaaa!】
静かだった群衆から、地を鳴らすような怒号が響き渡った。
集められた彼らに、【彼】程の知能は無い。
だからこそ分かりやすい餌は、彼らの意欲を大いに刺激する。
その反応すらも【彼】の思惑通りであると、彼らが理解する事は無いのだろう。
【始めようか、人と我らの生存競争を。本当に楽しみじゃなぁ……そう思うじゃろう?】
彼の問いかけに応える者は───居ない。
ただその薄暗い空間に歓喜と期待の入り混じった鳴き声だけが響いていた。