「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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64.日常の境界……なんだが?

 あの会議から数日、魔法少女協会では普段見慣れない魔法少女の姿を良く見るようになった。

 どうやら京都や大阪と言った、普段は活動範囲の被らない関西といった他の地域の魔法少女とも連携が取れるように合同演習があるらしい。

 

「今、魔法少女協会本部に魔法少女フランマが入っていきました! 噂では───」

 

 テレビの画面の中では、テレビ局のリポーターが見慣れた建物を映している。

 特に何か正式な表明をした訳では無いが、メディアという奴は随分と鼻が良いらしい。

 

 勿論魔法少女全員で侵攻をする訳では無いものの、その間は敵の侵攻も強まるとの想定だ。

 確かに冷静に考えれば、攻めてる間に守りを捨てる訳にもいかない。

 

 むしろ帰って来た時に守るべき場所が壊滅していれば意味がない、守る為の人材に力を注ぐのは当然と言えるだろう。

 

「続いて見えましたのは、京都支部のナンバーワン魔法少女の───!」

 

 着々と決戦の準備が進んでいるのを感じる。そんな中、私はと言うと……

 

「リモコン、リモコン……っと」

 

 テレビのチャンネルをポチっと変えると、お正月特別版の音楽番組やお笑いが繰り広げられている。

 新年も空けて、テレビも迎春仕様にアップグレードされているお陰で見る番組には事欠かない。

 

「寝正月だなぁ……ランニングくらいはしてるけど……」

「最近忙しかったみたいだし、そういうのも良いんじゃないの?」

「むしろ正月なのにランニングはきっちりかかさないのは、凄いと思うっす」

 

 そう、私の日常としては別段何かが変わったという訳では無かったのである。

 訓練をしようにも、私についてこれる魔法少女がそう居ないし。

 

 私について来れるような一握りとは、もう既に連携が取れてるし。

 

 なんと言っても、私自身にそんなに伸びしろがある訳では無いのだから。

 そもそもこれ以上伸ばしてどうするのかという話ではあるけど……ね?

 

「お母さま~おぜんざい食べたいかも」

「良いわよ、おもちはいくつ食べる?」

「それじゃあ2つ~」

 

 炬燵に入りながら、お正月の特番を楽しむ。

 偶にはこういうのんびりとした時間の使い方も良いものだ、最近色々あったからこそそう思う。

 

 

 炬燵の中でくつろいでいると足先にニーソックスの感触が触れる、と同時に勢いよく引っ込んで炬燵が揺れる。

 

「あっ、ごめんなさいっす!」

「いや、別に脚当たったくらいで気にしなくていいのに……むしろ当ててくれても良いんだよ?」

「えっ、それはちょっと普通にきもいっすよ」

 

 やはりまだ居候気分が抜けないのだろう、何処となく私達に気を遣っているように見える。

 

「はぁい、お姉ちゃんとお母様も炬燵に入れてね?」

「おぜんざい、出来たけど寝ながら食べちゃダメよ?」

 

 ルクスなんて、初めから長女でしたみたいな顔して居座ってるのに。

 いや、それはそれで肝が据わり過ぎか?

 

「本当に! 脚を押し付けてくる奴が!! 居るっすか!?」

「おっ、それ位遠慮がない方が楽し……うぇ?」

 

 戯れていたらげしげしと蹴りを入れてきた妹の成長に微笑ましいものを感じていたのに、いきなり足先を掴まれて驚いた。手のひらの大きさ的にユウちゃんじゃないだろうし……

 

「おいたをする脚はぁ、足つぼマッサージしてあげようかしら?」

「えっ、良いけど……出来るの?」

「むかぁし、人体のことは沢山勉強したのよ?」

 

 そのむかぁしと言うのは一体どれくらい昔なのかは気になるが、藪蛇になりそうで突くのは躊躇する。にしても何処となく手つきがイヤらしいのは淫魔の特徴なのだろうか。

 

「んっ、あぁ……」

 

 そんな事を考えていると、土踏まずの辺りをぎゅっと押し込まれて思わず声が出る。

 ぐりぐりと指先で足指の裏を揉み解したり、足裏の内側を押し込んだりと……とても素人の手つきとは思えない。

 

「あっ、んん……痛気持ち良い……」

「あんまり凝ってないわね? 健康なのは良いけど、マッサージのし甲斐が無いわぁ」

 

 足先から血行のめぐりが良くなって、ポカポカと暖かくなるような感覚がする。

 本当に上手だ、これでお金が取れそうなくらい上手だけど……やっぱりちょっと手つきがイヤらしい。

 

「ふぁぁ~そこ、もうちょっと強くても……んっ、気持ち良い……」

「不健全な方なら部屋でやるっすよ……」

「しないよ!?」

「あんた、ユウちゃんの教育に悪い声を出すんじゃないよ全く……」

「酷くない?」

 

 誰の声が教育に悪いって言うんだ、誰の。

 こんなに可愛らしくてキューティな声をしているというのに……

 

「しないのかしら?」

「やっぱりしっ……いや、しないよ?」

「あらぁ、意外ね?」

 

 人を何処でも発情してるうさぎのような扱いをするのはやめてほしい。

 流石に家族との団欒を優先する位の理性が私にだってある……筈だ。

 

「そんなに気持ち良いなら、その……ボクもやってみて欲しいんっすけど」

「あら、そうなの? なら、任せて頂戴?」

 

 わきわきと手を動かして近づいていくルクスは、どう見ても変な人にしか見えない。

 そんな彼女が炬燵の下へと手を───伸ばした。

 

「あっ、確かに気持ち……痛っ!? 痛た!? ちょ、待って欲しいっす! 何かおかしいっすよね!?」

「あらあら、ユウちゃんはとっても凝ってるわねぇ? もっと健康に気を遣わないとダメよ?」

「分かったっすから一旦ストップ───いひゃ、いたたたた!?」

 

 そういえば足つぼマッサージは、身体の体調が悪い人ほど効果がある……痛いと聞く。

 家の事情があって丁寧な暮らしをおくれては無さそうだったユウちゃん。色々と凝ってそうだと予想はしていたものの……あまりにも気持ち良くて止め損ねた。

 

「助けっ、死ぬっす……! 見てないで助けっ、あぁぁっ!?」

「あらあら、ここも随分と凝ってるわね?」

 

 今も悲鳴を上げながらじたばたと身を捩るユウちゃん、揺れで机の上のお椀が落ちそうになって持ち上げる。

 

「あはは、健康には良い筈だからその……頑張って?」

「あんたたち、お正月から元気ねぇ……」

 

 叫んでいるユウちゃんを横目に、柔らかいお餅を口に含んで甘い小豆のお汁を啜ると程よい甘さが染み渡る。

 

 考えてみれば今までの正月は私とお母様の2人だったし、それも勿論楽しかったものの……こんなにも賑やかなお正月は初めてかもしれない。

 

「本当に、賑やかねぇ……」

 

 お母様は少し呆れつつも、その様子を楽しそうに眺めていて。

 それが何となく嬉しかったのを、今でも覚えている。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 それは元旦から幾日か経ったある日の、早朝の事だった。

 

 その日はやけに空気が澄んでいて……

 それ以外は特に何も変わらない、お正月によくある普通の日常だ。

 

 

 いや、日常()()()

 

 

 外に出て日課のランニングを始めようとした所で、耳をつんざくような災害用のアラートがスマートフォンを揺らす。そんな警報音が、町の至る所からこの街に鳴り響いていた。

 

 慌てて画面に目を通してみれば、そこにスクイレからの着信が届く。

 メールやメッセージでは無いという事は、余程急ぎの件……だというのは街の様子を見ていればそんな事は言われなくてもわかるけど。

 

「もしもし、気づいてはいると思うけど。用件だけ話す……ね」

「……うん」

 

 頭の何処かでは、言われなくても理解していたと思う。

 その時が来たんだって事は、何となく。

 

「大規模なゲートの発生の予兆が確認された。日本での観測箇所は札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・福岡の人口の多い都市周辺。そして発生見込み時間は───」

 

それはこの規模にしては随分と遅い発見だった、恐らくは相手側もかなり頭が回るのだろう。

そして、ゲートの出現箇所は北は北海道……南は九州までと来た。

 

「───今から3時間後。朝9時にこの国は大規模な侵略に見舞われる事になる。奥多摩の時より一つ一つの侵攻の規模は小さいけど……」

「露骨に散らしに来た……ね」

 

 痛い所を突かれた形になる。

 魔法少女、とりわけ私達のような上位の魔法少女は貴重だ。

 

 正に一騎当千の戦力、この国にとっての頼みの綱とも言える確かな実力の魔法少女。

 

 だがその数自体は多くは無い、こうして散らされると他の県からの増援は見込めないだろう。

 私も一人しかいない以上、目の前の人たち以外を守ることは出来ない。

 

「このまま、なら。沢山の地域が、戦場に……なる」

「そうさせないための準備……でしょ?」

 

 だからこそ先に敵の本陣を叩く、そしてその先に居るであろう敵の首魁を討ち取る。

 その為の準備、その為の人員の用意は既に出来ている。

 

「そう。ゲートが完全に出現する前に、ゲート内部を制圧してゲートそのものを開かせない」

「責任重大だね、私達」

「……うん。作戦等は会議の通り、東京の作戦チームは魔協に集合……待ってる」

 

 通話が切れる、彼女は他への連絡やこれからの用意で忙しくなるのだろう。

 ふと顔を上げれば、街は早朝とは思えない喧噪に包まれていて……避難を始める人たちの姿もちらほら見える。

 

 

 今も鳴り続けているアラートが、何処までも日常の終わりを知らせていた。

 

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