「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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20万UA突破しました、ご愛読いただいて感謝感激です!
何か記念企画をしたい所なんですが、全く考えていませんでした。

何か良い案があれば活動報告まで……


65.開戦の狼煙なんだが?

 協会本部への正式な集合命令が出てから数分、特段特別な何かを用意する必要は無いがランニングをする格好で協会まで行きたくはなかったので着替える為に家の中へと入る。

 

「いっ、今から行くんっすよね? その……気を付けていってくださいっすよ?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、だって私……サテライトだよ?」

「毎度思うけど何処から来るんっすかその自信は……まあ流石にあのサテライトが負ける所なんて想像はしてないっすけど……万が一って事があるっすから!」

 

 何処から来るかと言えば、それが事実だからに他ならないが……

 圧倒的な人気は見た目ももちろんあるが、このご時世だからこそ圧倒的な実力が求められているからというのが大きい。伊達に人気も実力もナンバーワンな訳では無い。

 

「こういう時、戦闘向きの魔法じゃないのが悔しいっすね……」

「その分、この後は忙しい事になると思うから……適材適所って奴だよ」

 

 当然だが、全国各地で大規模な戦闘が予想される。

 

『魔法少女』だとかそんな名前で飾り上げられているものの、実情としては齢15程度に過ぎない少女を戦場に駆り出しているだけだ。世間が、世界がそれに耐えられないからこそ……煌びやかな活動と、実利が強調される。

 

 酷い戦いを経験すれば、心が折れてしまう子達も居る。

 そんな彼女の支えになってあげられるのは、彼女の魔法の方だから。

 

「しれっと勝った後の話をするんっすね?」

「まあその……負けるつもりは無いよ」

 

 あれから大切なものが、随分と増えた。

 増えてしまった……とも言う。

 

 今も理想の敗北という『灯』は、心の奥底で暗く燻っている。

 どうしようもなく積み上げたものをぐちゃぐちゃにしたい、そんな気持ちは日常のふとした時に鎌首をもたげてくる。

 

 それは今も弱くなっているものの……変わらない。

 

 

 それも当然なのかもしれない、人はそう簡単には変わらないのだから。

 

 

 だけどそれでも今は、前を向いて生きていたいと思っているのも……事実だ。

 その二面性も私だと、割り切って今は日々を生きている。

 

「しずく……」

 

 お母様と目が合う。

 ずっと迷惑をかけっぱなしで、何度も話し合いをして。

 

 

 それで今更になって、絶対に帰ってくるなんて綺麗事は口が裂けても言えないけれど。

 

 

「皆、待ってるからね」

「───うん」

 

 頑張ってきてとも、必ず帰って来いとも言わずに。

 ただ一言だけ、待っていると伝えた母親に。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

 何時ものように、ただ『行ってくる』とだけ伝えて家を出た私。

 

 非常事態だというのに何時になく空気の澄んだ朝は、何処までも青い空が広がっていた。

 

 

 


 

 

 

 ルクスはゲートへの対処とやらの関係で別口で魔協に向かうらしい。まあそうでなくても魔協が注目を集めている今、魔族である彼女が堂々と魔協に入っていくのは問題になりそうだし当然だが。

 

 公共交通機関や道路は混雑を通り越して麻痺していて、歩いた方が速いくらいだった。

 勿論飛んだ方がずっと早い、そんな訳で街の上空を駆ける事暫く。

 

 

 残念なこ……非常に喜ばしい事に。

 ルクスがかけていた魔法を使った後の発情は、『あの夜』の後から殆ど消えていた。淫紋の維持の為にある程度は残っているらしいが、正直あまり気にならないレベルになってしま……改善されたのだ。

 

 別に全然残念では無いが、消す必要は無いと頼み込んだものの……取り付く島も無かった。

 何か定着しきったとか、安定したとか言っていた気がするけど淫魔の魔法の事はよく分からない。

 

 

 そんな事を考えていたら、気づけば魔協の本部の前だった。

 協会の前は酷い人だかりだったが、()()の人間はこの場で私を引き止めたりインタビューをかけたりしないという判断を下してくれたらしい。

 

「今回のゲートの件、どう思われま───っ!?」

 

 そしてごく一部の抑えの効かない人種は、他の同業者らしき人間や警備員に取り押さえられる。

 国が危ないかもしれないというこんな時に、そんなに行動力があるなんて……私と同じくらい自分の欲望に忠実なのだろう。

 

 

 

 協会長から連絡の合った通りに協会内でも広めのミーティングルームに向かうと、会場にはまばらに人が集まっていた。その中に見知った顔を見つける。

 

「随分と早い到着ですわね? よければ隣、空いてますわよ」

「くっ……じゃなくて、グライシアちゃんじゃん。それじゃあ隣失礼するね☆」

 

 何処までもいつも通りなグライシア。

 まあ私も別に緊張しているかと言うと、そういう訳でも無いんだけど。

 

 辺りを見渡してみれば、やはり見覚えのある魔法少女の姿が見える。

 その多くは顔に緊張の色が見て取れる、まあ無理もないのかもしれない。

 

「このわたくしが! ただいま!! 到着しましたわ!!!」

 

 ……そして聞き覚えのある声も、聞こえた。

 心無しか室温が少し高くなったような気すらする……いや、気のせいじゃないなこれ。

 

「相変わらず、本当にやかましいですわね……」

「まあ、アイデンティティだし良いんじゃない?」

 

 静かなブレイディアとか、居たら逆に落ち着かないまである。

 こんな状況で外部の人も居るのにブレないそのメンタルの強さは、強みと言うべき所だろう。

 

「聞こえて! いますのよ!! 全部!!!」

 

 それにしても外は寒いし、別に煙たい訳じゃ無いから良いんだけど……

 多分、室内でくらいその火球は仕舞って欲しいと皆思ってると思う。

 

 

 

 続々と魔法少女が揃い始めている。

 今回の侵攻の為に招集がかかっている魔法少女の総勢は、東京だけで凡そ50人。その他は防衛や後方支援に回る事となっている。

 

 こちらから相手の本拠地に出向くのだ、生半可な実力では却って他のメンバーの邪魔になりかねないと、選りすぐりの精鋭が集められているという事らしい。

 

 何時も使う魔協のミーティングルームは、人で一杯になっていた。沢山の魔法少女と……珍しい事にスーツを着た恐らくは政府のお偉いさんらしき顔が見える。

 

 

 

 私が到着してから30分ほど、手元の資料にも目を通し終わったころには恐らくはほぼ全員の魔法少女が揃っていた。

 場の空気が何とも言えない緊張に包まれる中、奥の扉が開き……彼女が姿を現した。

 

「集まってくれて、感謝する」

 

 何処か冷たい印象を与えがちな魔法少女協会の協会長であるスクイレ。それも人前で話すのに慣れてないだけだと思うと可愛く見え───そんな彼女と目線が合った。これ以上勝手な事を考えていると、後が怖いのでこれくらいにしておこうかな……

 

「今から2時間後に、この東京含む6主要都市に。大規模なゲートが発生するという、反応があった」

 

 

 連絡が来たから分かってはいたものの、やはり少なくない動揺が見て取れる。

 そんな空気の中で、彼女はその続きを続ける。

 

「そこに兼ねてより推進していた、逆侵攻をかける。問題は……彼らが、東京を堕とせると踏んだ戦力が。あの中に、居るという事になる」

 

 誰かが息を飲む音が、静かな空間に広がる。

 第一次侵攻で魔王を含む軍勢の大きさを知り、第二次侵攻で魔王の強さは皆の知る所となった。

 

 だからこそ、怖気づいてしまうのも無理はないのかもしれない。

 そんな雰囲気を読んでか、彼女は更に言葉を続ける。

 

「それでも、心配はいらない。他地域の魔法少女達との連携こそ取れないけど、これまでの積み重ねた努力は、そして訓練は裏切らない。ここに居る精鋭たちなら、必ず作戦を成功させられると、確信してる」

 

 その一言で、確かに空気が変わった気がする。

 誰かの不安を見抜いて、欲しい言葉を的確に投げかけたのだろう。

 

 それは、上に立つ者、鼓舞するものとしての、絶対的な素養。

 民衆が望む言葉を的確に察知し、問題ないと告げる。

 

 

 それを魔法によって可能にしている彼女には、不安に揺れる彼女達の求める最適な言葉が選べる。

 直接の戦闘力は心許無い彼女だが、それはこの戦いにおいて役に立たないという訳では無い。

 

 メンタルケアは間違いなく重要なのだ。

 どれだけ持て囃されようとも……結局戦うのは成人もしていない少女なのだから。

 

「基本はツーマンセルで探索、ゲート内部がどうなっているのか分からない、から。臨機応変な立ち回りを要求する。他注意事項に関しては……」

 

 淡々と、しかし確実に作戦会議は続いていく。

 まるで台本を読むかのように滞りなく、それでいて確実に必要な情報を読み上げていき……

 

 

「以上。これより、移動を開始……する」

 

 

 作戦の為の移動が、告げられるまで。

 随分と攻めた作戦が異様だというのに、誰一人として異論を示すものは居なかった。

 

 

 

 

 

 

 協会本部から車で移動する事数十分。

 交通規制のせいか、人だかりは全くと言って良い程なく東京とは思えないような速度で車が進んでいく。疎らだった人だかりも、駅前に進めば進むほどに少なくなっていく。

 

 人っ子一人、ヘリすら飛んでいない駅前は酷く新鮮だった。

 そんな異様な雰囲気にある駅近くの公園の噴水の前に、特設で建てられたであろうテントと見慣れた顔ぶれ。

 

「資料にはあったけど、本当に……」

「よく分かりませんけど! 味方ならそれで良いですわ!!」

 

 作戦中の共有事項にもあったそれは、聞いた当初は半信半疑だっただろう。

 だがしかし、実際に目にしてみると真実だと納得せざるを得ない。

 

「はぁい、ゲートの準備は出来てるわよ?」

 

 そこに居たのは正装とも言えるボンテージアーマーを着た、ショッキングピンクの髪色の淫魔。この作戦には彼女の存在が必要不可欠だったとはいえ、協会長も大胆な事をするものだ。

 

「今後の、スタンスを示す為でも……ある」

 

 前を歩いていたスクイレがそっと私にだけ聞こえるように口を開く。

 幸いにも、他の魔法少女の視線は突如として現れた『魔族』に釘付けだった。

 

 そんな彼女が、受け入れられているのもスクイレの魔法によるものが大きいだろう。

 何せ彼女を裏切ったり、騙したりする事は不可能に近いのだから。

 

 その指先が虚空を描くと……無理やりとも言えるような異音を発しながら、空間にぽっかりと穴がこじ開けられる。ギチギチと音を立てて閉じようと拮抗しているそれを───

 

「はいっ、停滞……完了♡」

 

 何処かからか現れた、緑髪の魔法少女が固定する。

 残ったのはポッカリと開いた、異様な風貌のゲートだけ。

 

「それでは、手筈通り。フェーズ1を始動」

「このわたくしの煌びやかな出番を! その目にお焼き付けになりなさい!!」

 

 見る見ると大きくなるその火球が、さらに大きく……そして重く肥大化していく。

 溶け残った雪は一瞬で蒸発し、周囲の地面は冬だというのに陽炎が出る程に暑くなっていく。

 

(エン)───」

 

 まるで地上に現出した太陽が、その場を照らしているようだった。

 生身の人間では、近づくだけで干からびる程の熱風が周囲に吹き荒れる。

 

 そんな地上に出現した太陽が、今。

 

「───過重(プレス)ですわ!」

 

 ゲートの中へ───吸い込まれる。

 

 

 ゲートに吸い込まれて、爆発音は鳴り響かない。

 

 

 だが……停滞していた筈のゲートの縁が、揺れている。

 それだけの衝撃が、このゲートの中で炸裂したという事なのだろう。

 

 

 こういった火力だけで見れば、序列三位のブレイディアに匹敵する範囲火力を持つものは存在しない。正に適材適所というやつだった。

 

 

 そして、そんな圧倒的な火力と共に切られた戦いの火蓋とともに、皆がゲートへ向かって歩き出す。この先の殺人サウナに耐えられぬような魔法少女は此処には存在しない。

 

「これより第三次魔王襲撃の防衛、及び逆侵攻の開始を宣言……する」

 

 辺りに熱気の残る中、か細いながらもよく通る声が───作戦の開始を告げた。

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