「は?負けたいんだが?」   作:天野ミラ

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新章開始です
微妙に掲示板要素を含みます


2章『世界の不平と大人にならない少女』
8.学校生活も大切なんだが?


「しずく、いってらっしゃい」

「は~い、いってきまーす!」

 

 カバンよし、トーストよし、私……よし!

 

「いっけな~い、遅刻遅刻!」

 

 わたし、星乃しずく!花も嫉妬する可愛さのピチピチの15歳!

 

「ちょっと、あなたの家の前で待ち合わせって話ではありませんでした?何処に行くんですの?」

 

 実はそんな私にも裏の顔があるの、その正体はなんと……悪と戦う魔法少女!?

 

「ぜ、全部声に出てるんですわよ……!」

「あっ、クロエちゃんじゃん。お待たせ、待った?」

「どう見ても!待って!いますのよ、このおバカ!」

 

 このまま行くのは流石に無理があったらしい、咥えていたトーストを持ち直して挨拶をする。このまま走り出して、運命の相手と十字路でぶつかるのが最近のトレンドだって聞いたのに……

 

 皆さんもご存じの通り、家の前で待っていた彼女は橘クロエ。あの事件から、私の家の前まで迎えに来るようになって……毎日一緒に登校している。恐ろしいのは……別に私の家は彼女の家と全く近くはない事だ。こういうのってさ、ご近所さんとか近場の駅とかで会う子と一緒に行くんじゃないの?

 

「タイは……貴方に限って曲がっている訳はありませんわね」

「当たり前でしょ?何時だって世界には完璧に可愛い私を享受してほしいし……」

 

 聖ヶ原中は制服も可愛らしくて非常に良い、正直制服の可愛さだけで選んだと言っても過言じゃない。いや、実際はそんな事は無いんだけど。ある程度優等生をするにあたって、学歴と由緒が兼ね備えられている必要があった。それと、家からも遠くはないし。

 

「ほら、急がないと遅れますわよ?」

「うん、それじゃあいこっか」

 

 

 家から歩いて数十分ほどの場所にあるここ。歴史を感じさせるレンガ仕立ての校門を抜けた先にあるのが、私達の通う聖ヶ原中学校だ。周辺の学校の中でもかなり評判が良く、学業、部活動共に力を入れている。

 

「ほっ、星乃さん……!おはようございます!」

「はい、おはようございます。今日もいい天気ですね」

 

「そっ、そのチョーカー……とっても可愛くて似合ってます!」

「そう言ってもらえるととっても嬉しいです、花田さんのリボンもとっても素敵ですね」

「あっ、はっ……はいっ!」

 

「きっ、緊張したぁ……」なんて言いながら席へと戻っていくクラスメイトを見送って、自分の席へと向かう。今日も順調に私の魅力に落ちていく人が多くて嬉しい事だ。それでえっと、今日の授業は英語と数学と……

 

「しずく?」

「どうかされました、橘さん?」

「いや、本当によく考えると、凄い面の皮の厚さですわね……」

 

 当たり前だろう、完全無欠の美少女を演じるからこそ……堕ちた時の落差が燃えるんじゃないか。もしも、こんな澄ました顔をしているクラスの優等生である私が、放課後にご主人様と()()()をしているのを見てしまったら?その衝撃は計り知れない物だろう。

 

「それでその、今日の放課後ですけど……」

「えぇ、はい」

 

 凛とした花のような私。そんな私の一糸纏わない姿に、普段は絶対に見せないような欲望に満ちた表情(かお)を見た時、彼らのその憧れは一体どんな感情へと変貌するのだろうか。そんなことを、想像しただけでも……

 

「いひゃい!?」

「聞いてませんわね?段々と、あなたの扱い方が分かってきましたわ……」

 

 頬を引っ張られて現実へと引き戻される、まさかこの私の女神の微笑とも評される応対モードを見抜かれるなんて……なんだか等身大の私を見られているようで恥ずかしい。

 

「今日は協会からの呼び出しが来ていますわ、放課後に一緒に行きますわよ?」

「えっ、えぇ……そういえばそうだったね」

 

 そう言えばそんなメッセージが届いていたような気もする。忘れていた訳では無いけど、取り立てて話題に上げる程のウェイトを占めてはいなかった。協会長からの呼び出しなんて、そうそう珍しいイベントでも無いし。

 

 

 

 午前の授業が終わってお昼過ぎ、私はさもクールな表情でスマホを弄っていた。周りからは高尚な文芸作品でも読んでいるのだろうと噂されているが、その実はSNSやネットニュースだ。

 

 私は基本的にエゴサは欠かさない。それはどんなファンサが良かったとか、どういう所が嫌いだとかそういうものまで。前者は私が気持ちよくなれるし、後者は今後の改善に繋がる訳だ。勿論、嫉妬だけで目の敵にしている人も多い訳だけど、そればっかりは人気税だから仕方がない。

 

 そんな訳でお昼ご飯の後はこうして、エゴサをする事が多い。それは各種SNSやネット記事。そして……こんな場所も。

 

 魔法少女サテライトの魅力について語るスレ.Part17

 

 そんな見出しの付いたここは、所謂掲示板と言われるやつだ。こんな時間にまでスレを立てて私の魅力について語りたいだなんて、どれだけ私の事が好きなのだろうか。まあ、ここの住民の『好き』はもっとドロッとしてて粘着質なものな気がするけど……その中で引っかかる投稿があった。

 

 667:名無しの魔法少女

 実際こういう子って裏があるんだよなぁ

 ほら、お尻とか弱そう(笑)

 

 こんな中にもやはり、アンチとかいう奴は現れる。もっと私への下卑た欲望を開放しているのが見たかったのに……まあこれもこれで味わいがあるか。後、お尻はまだ試した事は無い。

 

 668:名無しの魔法少女

 ひらめいた

 

 669:名無しの魔法少女

 座ってろ

 

 670:名無しの魔法少女

 はぁ???

 サテライト様は完全で無欠な最強の魔法少女なんですけど???

 お前如きが愚弄するのも大概にしとけよハゲ

 

 671:名無しの魔法少女

 は?ハゲてないが?

 

 672:名無しの魔法少女

 ハゲさんピキピキで草

 毛根に悪いですよwwあっ、もう遅いかwwwww

 

 673:名無しの魔法少女

 き み

 け す

 

 お昼の十二時過ぎにこれとか……うん、しっかり終わってる。それでも、こんな所まで私のファンがいるというのは……人気を得るための努力が実を結んでいるという事だろう。やっぱ顔も良いしな……そんな事を思いながら、その日は過ぎていった……順調だったと思う。

 

 

 

 放課後、クロエちゃんに連れられて魔法少女協会……通称魔協の大きな建物を訪れる。都心にこんな大きな建物を建てられる辺り、やはり魔協の権力をひしひしと感じる。実際は、有事の際の避難場所と砦としての役割を持っているから、かなり無駄が無い設計にはなっているのだが……普段使いには、やや広すぎる。

 

 そんな長い廊下を抜けたその先、重厚そうな扉をノックしてから開ける。

 

「……あっ」

「久しぶり、スクイレ」

「お久しぶりです、スクイレ協会長」

「……二人とも、招集に応じてくれて感謝する」

 

 生活感のない部屋と、書類の山が積み上げられたテーブル。そんな部屋の椅子に座っていたのは、白みがかった灰色の髪に光を映さない瞳の少女。久しぶりに会った彼女は、相変わらず人形のような女の子だった。

 

「……帰って来たのね、サテライト」

「えぇ、お陰様でね」

「……そう」

 

 相変わらず、その顔から表情は殆ど見えない。感動の挨拶でも……と思ったが、どうやら彼女は急いでいるようだ。今回の一件は、私達が思っているよりも随分と急を要するらしい。

 

「早速だけど本題。今日呼び出したのは、この件」

 

 そう言って渡された資料に書かれていたのは、何人かの少女の姿と……気になる文字群。

 

「この『野良魔法少女連合』……ってなんですの?」

「文字通り、野良の魔法少女を集めた組織の呼称」

 

 殆どの魔法少女はこの協会に属しているとはいえ、協会に所属していない……所謂野良に分類される魔法少女が存在するのは把握していた。何度か社会問題としてニュースに取り上げられた事もあるくらいだし。いきなり力と権力を得た15歳の少女の中に、その力に溺れる者がいるのは至極当然の原理と言えるだろう。

 

「野良の魔法少女は元々問題になっていましたわよね、どうして今更になって対処をしようと……」

「直近、協会を抜けてこの連合に所属する魔法少女が少しずつ増えている」

「なっ、それは……!?」

 

 拙い事態だ。『野良』と言ったはいいものの……その実は非合法な闇取引や、暴力装置といった後ろ暗い事に手を染めている事が多いのだ。彼女達を救いたいと思った事はあるものの……その『根』は想像よりもずっと『深い』。

 

()()()()()、今回はその注意喚起と情報共有」

「何か掴んだというのですわね……?」

「うん、おそらくはその内一般にも発信されるかもしれない」

 

 

「彼女達は、自分たちこそが───正当な魔法少女協会であると主張したのだから」

 

 

 


 

 

 

 灰色の薄暗い地下に集まる、様々な髪色の少女たち。その中には、確かにテレビで見た事のある有名な魔法少女の姿も、ちらほらと散見されていた。

 

「虐げられてきた可哀そうなお姉さんたち、何も悪くないのにかわいそ~♡」

 

 そんな中で。蠱惑に満ちた、艶の良い唇を吊り上げて少女は告げる。背丈の小さなその子供が、生意気な口調で揶揄っている事実に誰も文句を言わないのは…‥その主張によるものか……それとも実力によるものなのかは分からない。それでも、この場を取り仕切っているのが彼女だという事だけは事実だった。

 

「社会が悪いのに、あんな風に扱われるなんて納得いかないよね?」

「当然だ、力のあるモノが道具のように使い捨てにされるなど……到底許容できん」

 

 その声に賛同する声は多い、まるで何かを思い出すかのようにこぶしを握り締める者さえいた。

 

「環境が悪いのに、こうやって犯罪者扱いされるのも認めたくないよね?」

「お母さんは、私を化け物だって……!あんな女、ああなって当然だったんだ!」

 

 その声に同情する声は多い、唐突に力を得た彼女達を良く思わない人間は確かにいた。

 

「なら……反旗を翻そ?」

「その通り、その通りだッ……!」

 

 その声は、まるで引き金だった。積もりに積もった世界への鬱憤を彼女は代弁したに過ぎない。それでも、それは……虐げられてきたであろう彼女達を動かすのには十分だったのだろう。

 

「このクソったれな世界に、そしてこの───」

 

 たっぷりと息を吸い込んで、数拍。グシャリと手のひらの何かを握り潰した後に、少女は続ける。その瞳には確かに、憎悪の色が強く刻まれていた。

 

「───腐りきった、魔法少女協会に♡」

「おぉぉぉぉおおおお!!!」

 

 まるで怒号のような熱狂に包まれた場を導くその少女には、間違いなくあったのだろう。先導者としての素質が。そして……扇動者としての素質が。その翡翠のような瞳には……確かな信念が込められていた。

 

「それじゃあ、『新星魔法少女協会』の皆?」

 

 都市の薄暗い地下で───

 

「世界に新たな王の姿を、見せつけに行こっか♡」

 

 ───今、思惑が動き始める。




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