6年前
日本 横須賀市
ましろが思い出すのは6年前のあの日。
地下都市に避難する少し前。母と姉達に連れられ、これから最後になるかもしれない地球の青い姿を、目に焼き付けておこうと近所の神社へ登った思い出。
「……昔は、もう少し緑があったよね、ここ」
「ええ。ガミラスの遊星爆弾の汚染が、ここまで影響しているみたい」
遊星爆弾の被害が浸透して来ているのか、健康上問題ないとされているこの地域の緑ですら、だんだん枯れ始めていた。
姉の一人──宗谷真冬が、これから火星沖に出撃する母を心配して声をかける。
「……母さん、また戦いに行くのか?」
「ええ」
母──宗谷真雪は静かに肯定した。
自分たちの家系、宗谷家は女系の軍人家系。自分たちの曽祖母の代から続く、由緒正しい家である。
だから、戦いは避けられなかった。宗谷家当主にして国連宇宙海軍巡洋艦〈アタゴ〉の艦長を務める母には、出撃の日が迫っていた。
「今度も、また必ず、帰ってくるよね……?」
「もちろんよ。貴方達を置いて死にはしないわ」
真雪の言葉は重く固く、そして決意に満ちていた。必ず帰ってくる。例え火星沖での決戦が苦しいものになろうとも、必ず。
まだ真雪の子供達は幼い。長女の真霜はまだ高校生。次女の真雪も中学生で、三女のましろはまだ7歳だ。彼女らを置いて死ぬわけにはいかない。
真雪は、まだ幼く詳しいことを理解していないましろに対し、しゃがんで声をかけた。彼女に自分の帽子を被せる。
「ましろ、よく見ておきなさい。これが青い地球よ」
「…………」
「もしかしたら、これを見るのは最後になるかもしれない。だから、あなたの目に焼き付けておいて」
ましろはその言葉を受け、海の方を眺める。青々とした綺麗な海に、太陽の光が反射して、燦然と輝いていた。
何かと運の悪いましろであったが、幸運なことに、青い地球は再び見ることができた。最後になることはなかったのだ。
戦闘から翌日
駆逐艦〈ハレカゼ〉艦内
あれからしばらくして、ハレカゼは一度就寝時間を挟んで翌日を迎えた。朝早くから起きた明乃は、艦の被害状況を改めて確認し、艦橋に戻って来た。
「艦長、被害状況どうでした?」
「一部装甲板がやられて、応急修理が必要。機械室は総点検だって」
明乃や他乗組員が確認したところ、ハレカゼの装甲板の一部が破損、一部からオイル漏れが発生していたという。
とりあえず当該箇所のオイル漏れだけ先に直して、装甲板の修理は応急処置だけして、本格的な修理はヒペリオンで行うこととした。
そして問題の機械室。修理中に全開で回したため、まだまだ修理に時間がかかりそうだった。
「学校側から連絡は?」
「ない」
「私たち見捨てられたんじゃないの……?」
「今、事実確認中なのかも。もう少し待ってよう?」
明乃がそう言うが、学校側からの通信もない以上、状況が把握できない。もしかしたら見捨てられたかもしれないという不安は、一抹ばかり残っていた。
「こ、このまま、巡航で土星圏のヒペリオンまで向かうでいいんだよね……?」
「うん。私たちが反乱をしたみたいになってるけど、違うって、ちゃんと軍の人たちに説明しなきゃ」
とりあえず、ハレカゼは前に進むしかない。現在の進路はヒペリオンへ向け、巡航速度で向かっている。まだ距離にして一日ほどかかる距離だ。
「合流地点に着いた途端、捕まっちゃわないかな……」
確かにそれは懸念材料だった。
今回の事件を受け、ヒペリオンには防衛軍の艦隊が集結しているかもしれない。そうなれば、反乱の容疑があるハレカゼは、即刻拿捕されるだろう。
「オ前ラー!何故サルシマヲ砲撃シター!」
「違ウンデス!先ニ攻撃シタノハサルシマノ方デス!」
「嘘ヲ言ウナー!」
幸子が迫真の大根演技で、ヒペリオンで起こるであろう防衛軍とハレカゼ乗組員のやり取りを再現した。やけに現実味のある話だったので、周りの空気が少し重くなる。
「確かに、言っても信じてもらえないかもねー」
「だが我々に反乱の意思などない。このまま逃げ続けられないなら、一刻も早く、近くの防衛軍施設に入港するしかない」
「うん、そうだね。入港すれば攻撃されることもないだろうし」
とはいえそれまでに捕捉されないといいが。現在ハレカゼは、このままの進路だと木星沖を通過する。そこに着くまでにワープ機関を修理して、土星沖に向かうつもりだった。
「はぁ……全くどうしてこんなことに……こんなクラスになったせいで……ついてない」
「は?なによ、こんなクラスって?」
ましろが自分の不幸を嘆きながらそう言うので、ハレカゼクラスに不満でもあるのかと、芽依が問い詰める。
「そりゃハレカゼは合格した生徒の中でも"最底辺"が配属される船かもしれないけど……それはアンタも一緒でしょ!」
「い、一緒にするな!私は入学試験だって全問正解していたはずなんだ!ただ……」
「ただ、なによ?」
ましろの反論は少し詰まったが、彼女は少し赤面しつつ、恥ずかしそうに言葉を続けた。
「解答欄をずらして回答していたから……」
「…………」
その呆れた暴露に、艦橋要員の面々は呆れた表情を抱えた。
「ついて、ないんですね……」
「う、うるさい!」
思わず幸子がそう言った。
「そ、そっかぁ!私なんて、受かっただけでも奇跡なんだけどね……!たまたま勉強していたところが出て、それで艦長なんて……」
「こちらは強運の持ち主ですねー」
「うぃ」
対する明乃の言葉は、残念ながらましろのフォローにはならず、むしろ彼女の劣等感を溜めるだけに終わった。
そんな会話を繰り広げていたその時だった。
『広域レーダーに艦影見ゆ!』
「ッ!!」
艦橋下のCICから報告があった。
続いて光学観測員からも報告が入る。
『こちら光学観測、艦影見えました!右60、上10、距離30000、接近中の艦艇は……ガイデロール級です!』
恵とマチコの報告を受け、明乃は艦橋から双眼鏡を覗く。その方向に居たのは、緑色の迷彩塗装を施された大型宇宙戦艦、ガイデロール級だった。
「あのマークは……ガミラス共和国、バレラス高等宇宙学校の留学生艦です!」
バレラス高等宇宙学校、その名の通りガミラス共和国の宇宙学校だ。
地球とガミラスの国交樹立に伴い、地球の高等宇宙学校制度を参考にして(一説には対抗して)ガミラス共和国が設立した学校である。
教育システムなどは地球の学校を参考にしているが、保有する艦艇はもちろんガミラス製だった。
『ガイデロール、主砲旋回しています!』
『こちらCIC!ガイデロールよりレーダー照射を受けています!』
「問答無用ですね……」
「回避行動!面舵いっぱい!!」
明乃が指示を下す。
鈴が慌てて操縦桿を横に倒し、駆逐艦〈ハレカゼ〉はスラスター全開で回避行動を行う。
『ガイデロール、主砲発砲!』
ガイデロール級の330mm三連装陽電子ビーム砲が、一斉に火を吹いた。戦いの火蓋が切られる。
ハレカゼの航海は、未だ安堵とは程遠かった。
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