地球軌道 月面
在太陽系ガミラス大使館 大使の執務室
地球の月面のクレーターのうち、宇宙空間から見ても一際目立つガミラスのマークが掲げられた場所がある。
在太陽系ガミラス大使館。月面に設置されたガミラス共和国との外交窓口だ。地球圏ではあまり見ない、ガミラス風の建築様式で彩られた建物は、地球人からみると不気味な物珍しさがある。
そんな建物の一角。大使の執務室にて、在太陽系ガミラス特務大使のローレン・バレルは、デスクの上に置かれた通信機からの報告に耳を疑った。
「バレラス高等宇宙学校の学生艦が、行方不明に……ディッツ校長、それは本当かね?」
『はい。行方不明になったのは、地球の横須賀高等宇宙学校へ留学予定だったガイデロール級航宙戦艦"シュペーア"です』
彼の疑問に答えるのは、ガミラス航宙艦隊総司令官にして、バレラス高等宇宙学校の校長を務める壮年の男、ガル・ディッツ提督だ。
彼はテレビ通信でバレル大使に資料のデータを送りながら、状況の説明を開始する。
『昨夜未明、太陽系ヒペリオン基地に入港したのを最後に通信を途絶。その後、本校のバーガー教官が空母"ランベア"から偵察機を発艦させ、目標を発見しましたが……シュペーアは偵察機に対して発砲し、ワープで姿を眩ましました』
「こちらの被害は?」
『ありません。しかし、シュペーアは未だ再捕捉はできず、太陽系内を彷徨いていることになります。何があったのかは不明ですが、放置しておくのは危険です。もしあの船が地球側に発砲するような事があれば……』
バレル大使は最悪の可能性を察し、眉を顰めた。
「間違いなく、国際問題になるな」
『ええ、そうなれば船の生徒達も……』
ディッツ提督も生徒達の安否を心配しているようだ。
年老いながらも、ガミラスの艦隊総司令官として、共和国時代でも引き続き活動を続ける胆力ある彼だったが、今の顔はどちらかといえば、教え子を心配する教師の顔だった。
バレル大使はディッツ提督の言葉を受け、今ある情報をもとに、状況を整理していた。すると自分の記憶の中である一点と合致する。
「校長、かの船はヒペリオン基地に立ち寄ったと言ったな?」
『はい。本来の予定であれば、そこは留学先の横須賀高等宇宙学校との集合場所のはずでしたが……』
「これはこちらの情報筋の話だが、現在横須賀高等宇宙学校の学生艦が数隻、ヒペリオン基地から行方不明になっているそうだ」
『なんですと……?』
一体どこから仕入れたのやら、まだ防衛軍が内密に処理しようとしている事態ですらも大使は把握していた。
その情報の内容もそうだが、流石のディッツ提督も大使の情報収集能力の高さに少しだけ身震いした。彼はなんでも知っているのではないか?と。
「地球はこの件を隠したがっている。だがこの状況、もしかすれば彼らも我々と同じかもしれん」
『…………』
「校長、こちらの方で横須賀校の校長へコンタクトを取ってみる。この件は大事になる前に学校同士の連携で処理しなければならない。準備してくれ」
『……ザー・ベルク!』
大使からの指示を受け、ディッツ提督は疑念を取り敢えず置いておくとして、ひとまずこの事態に対処することとした。
敬礼を挟み、通信が切られる。
それを見計らい、バレル大使の方は大使館の内線である人物を呼んだ。
同時刻
宇宙駆逐艦〈ハレカゼ〉 艦内
一方のハレカゼは、ガイデロール級に追尾されていた。光学観測員のマチコが報告を叫ぶ。
『ガイデロール、速度を上げました!追って来てます!』
先ほど問答無用でビームを撃ってきたガイデロール級は、そのまま獲物を追いかけるようにして、ハレカゼを追ってきている。
しかも、何度も呼びかけているが通信に返答がない。あの時のサルシマと同じだった。
「ガイデロール級は、全長350mの超大型艦です!最大速力はこちらの第五戦速と同等、330mm三連装陽電子ビーム砲塔を正面に3基、280mm二連装陽電子ビーム砲塔を艦尾に4基、その他近接火器多数!魚雷発射管は……33門もあります!」
幸子が相手のガイデロール級の要目をタブレットのデータベースから検索し、素早く読み上げる。
艦長の明乃は、さらに詳しい情報を問いかけた。
「ココちゃん、相手の装甲は?」
「ガイデロール級の装甲厚は、同クラスの陽電子ビーム砲を完全に防御する他、本艦の12.7サンチショックカノンに対しても、一定の防御性能がある……と、防衛軍の報告書に記載されています!」
「主砲の詳しい情報は?」
「330mm三連装陽電子ビーム砲は、最大射程距離400000!こちらが当たれば一撃で轟沈する威力の高出力ビームを、毎分二十発、発射可能です!」
彼女の言葉の通り、遥か後方、こちらを追尾してきているガイデロール級は、毎分二十発前後の頻度で陽電子ビームをハレカゼへ撃ってきている。
距離が離れているので中々当たらず生存はしているが、その一発一発がハレカゼのような小型艦では致命傷になり得る。
「装甲も火力も桁違いだ……」
「こちらが勝ってるのは、速度と俊敏さだけ」
ましろの言葉に、明乃は頭を整理する意味合いも込めてそういった。
明乃は考える。このままワープ機関の修理までガイデロールから逃げ続けるべきかと考えたが、修理しながらの航行では、距離を詰められて危険だ。
かといって反撃しようにも、こちらの武装では太刀打ちできそうにない。魚雷を撃っても良かったが、相手の方が魚雷発射管が多い事を踏まえると、それは危険だ。
そう悩んでいた時──
「ぐるぐる……」
「えっ……?」
志摩が小さい声でそう言っていたのを、明乃は聞き逃さなかった。その瞬間、明乃に閃きが起きる。
「──そうだ!ココちゃん!確か古いガミラス艦って、砲の仰角固定されてたよね?」
「えっ、は、はい!その通りです!」
明乃が幸子に問いかけると、幸子は一瞬戸惑いながらも、すぐに答えてくれた。
「ガミラス艦は、高い機動性を活かした運用が主なドクトリンです。威力を稼ぐために砲の仰角が固定されていてても、艦をロールさせることでそれを補っています!」
「でも、ガイデロールは大きい船だから、そんなに簡単には曲がれないしロールも遅いと思う」
「そうか!相手の砲が届かない角度で逃げ回れば!」
それは宇宙空間ならではの戦法だった。宇宙空間は立体的な三次元空間であるため、左右だけでなく上下にも移動できる。
それなのに砲の仰角が固定されているというのは、格下の文明しか相手にしてこなかったガミラス製艦艇の明確な弱点と言えた。
「リンちゃん、上げ舵40度!」
「りょ、了解です……!」
明乃の指示で、鈴が操縦桿を引く。
ハレカゼは速度はそのまま、ゆっくりと上げ舵方向へと昇っていく。
『ガイデロール、ロールして対処しようとしてます!』
「もどーせー!右ロール90度、下げ舵30度!」
明乃は艦をロールさせ、砲の仰角が追いつかないスピードで複雑な軌道を繰り返す。艦が揺られ、身体がいろんな方向に引っ張られる感覚がする。
「うっ……!」
「みんな耐えて!逃げ切れるから!」
それなりに強烈な旋回Gに耐えながら、複雑な軌道を繰り返すハレカゼ。流石のガイデロールも、ハレカゼを追いきれずに射線を離れる。
『ガイデロール、主砲の追従できてないようです!いけます!』
「よし……これなら……!」
いけるかもしれない、とハレカゼ乗員に希望が見えたその時だった。
『っ……!ガイデロールより射出物確認!』
「え?」
マチコの新たな報告に、明乃は双眼鏡を構えた。確かにガイデロールの方から、確かに何か射出された物体が飛び回っている。
「魚雷か?」
「いえ、ガイデロールの魚雷はここまで届かないはずです」
『確認しました!あれはツヴァルケです!』
「ツヴァルケ?」
芽依の疑問には、幸子が答えた。
「ガミラス共和国の空間戦闘機です」
「まさか、艦載機で攻撃してくるのか!?」
『いえ、ツヴァルケには武装ポットが見当たりません!』
目標を追って確認したマチコがそう報告する。
確かツヴァルケの武装の中で、ハレカゼに致命傷を与えうるのは武装ポッドの対艦ミサイルだけだろう。
それが確認できなかったという事は、脅威ではないと思いたいが……
明乃がそう思った瞬間だった。
ガイデロールから対空ミサイルらしき小型の物体が発射され、それがツヴァルケに向けて、複数突き刺さって爆発した。
『ツヴァルケ!ガイデロールによって撃墜されました!』
「うそっ、味方を!?」
いきなりのショッキングな出来事に、芽依が驚嘆の声を上げる。それと同時に、マチコから追加の報告を受ける。
『ツヴァルケよりベイルアウトを確認!』
「あのままだとまずい!助けないと!」
「えっ?」
明乃は素早くそう判断し、救出を求めた。しかし、これには相手の意図を図りかねているましろが反対する。
「敵を助けるんですか!?」
「ガミラスはもう敵じゃないよ」
「そ、そういう意味では……」
「あのままだと、漂流して酸素も続かなくなる。危険だけど、助けてあげて事情も聞きたい」
「艦長……」
人道的には理に適った選択だ。それに攻撃してくる船の乗組員を確保するというのは、情報を得るのにも役立つ。
だがましろ含む何人かの艦橋要員は、ガミラス人に対して何か思うところがあるのか、少し迷った。
だが、それでも──
「それに……船乗りはみんな仲間!助けなきゃ!」
明乃の信念は堅かった。
彼女は改めて皆に問いかける。
「みんな、ごめん、少しだけ力を貸してほしい!」
その言葉に、艦橋の面々は少しだけ迷う者もいたが、最終的には全員が頷いた。
『こちら機関室!3分だけなら全開出しても許容範囲でい!』
空気を察してくれた機関室から、麻侖がそう報告する。全力を発揮できる時間にしては短すぎた。
「3分でアプローチできるのか?」
「救助のため、足を止めればガイデロールの砲撃の餌食に……」
「大丈夫、足は止めない。全開のまま救助する」
明乃はすでに作戦を考えているのか、艦長の帽子を被り直し、通信機を手に取った。その相手は主計科の面々だった。
「主計科のみんな、毛布ってある?」
「え?」
ましろはその言葉の意図が分からず、少し困惑したが、彼女の作戦を知るのはすぐ後だった。
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