数日前
宇宙戦艦〈ムサシ〉 艦長室
話はムサシが地球を発進してから数日の間に遡る。
月面での演習を終え、土星圏での再集合を通達されたムサシは、一旦巡航速度でアステロイド帯を通り抜けて、そこからワープに入ろうとしていた。
その頃、艦長の知名もえかは艦長室にいた。ヤマト級の艦長室は、文字通り艦橋のてっぺんに存在し、見晴らしがとても良い。晴れてムサシの艦長に就任したもえかも、その過ごしやすさを実感していた。
「ふぅ……」
暖かいお茶を飲みながら一息つく。
もえかの休憩時間は、艦長室で緑茶を飲むのが日課になりそうだった。それくらい居心地がいい。
もえかは見晴らしのいい艦長室の窓から、外の空間を眺める。漆黒の宇宙空間に、デブリが漂っているのが見える。しかし操艦が上手いのか、デブリとぶつかることは無かった。
ふと、窓の外に何か光るものが見えた気がした。もえかはテーブルから双眼鏡を取り出し、その方向に目線を合わせる。
目に映ったのは宇宙船だった。しかも艦橋のない、飛行船のような丸っこい形をしている。あれは内惑星戦争の時代から改良されつつ使われているという、無人の輸送船であった。
「艦長室より第一艦橋、右舷30度に無人の輸送船、注意して」
もえかはマイクを手に取り、下の第一艦橋へ輸送船がいる事を伝えた。本来なら休憩時間のもえかが報告する事ではないが、彼女は真面目すぎるのか、見たものの報告を欠かさなかった。
『…………』
「ん?」
『…………』
「第一艦橋、どうしたの?」
復唱がない。珍しい事だともえかは思った。いつもならほんの些細な報告でも、何かしらの返答は来るはずだ。沈黙するなんてあり得ない。
それとも、こちらの声が聞こえていないのか。もえかがマイクの調子を確かめようとしたその時、ムサシの艦前方で一番砲塔が動き出した。
「えっ!?」
もえかがそれを確認した瞬間だった。ムサシの一番砲塔から、青い閃光が迸り、ショックカノンの荷電粒子が放たれる。
マイクを放り投げて窓に張り付くと、そのショックカノンの粒子はそのまま収束し、無人輸送船の脇を掠めて行った。
もえかはただ事ではないと、落ちていたマイクを再び手に取った。
「第一艦橋!誰が発砲許可出したの!?応答して!」
『…………』
「どうして……?」
やはり応答がない。それどころか、砂嵐のような雑音が入っている。
艦内電話が通じないなら、直接見に行くしかない。もえかは艦長室の扉を開け、第一艦橋への階段を降りる。
そして艦橋前の自動ドアが開き、第一艦橋の中に入る。もえかは状況を問いただす。
「貴方達──」
艦橋の子達に声をかけようと思ったその時だった。
もえかは彼らの異常に気がついた。振り向いた彼らは、目が吸血鬼のように純血しており、しかも彼らの顔つきは、飢えた狼のような表情になっている。
明らか異常だった。彼らはのっそりと席から立ち上がるが、普段は仕事を真面目にこなす彼らが、まるで誰かに操られているような出立ちになっていた。
「うがぁ!!」
「っ…………!」
まるで飢えたゾンビのように、もえかに襲いかかるのを見て、彼女は艦橋から逃げ出した。
何が起こっているのか理解できなかった。もえかは階段を登りながら、必死になって状況把握に努めようとした。
だが、その時もえかの足を誰かが掴んだ。突然のことでもえかは転んでしまい、足を引きずられる。
「ひっ……!」
飢えた狼のような顔つきで、もえかの足を引っ張るのは副長だった。彼女はまるで肉食獣のように、彼女に向かって口を開き──
「……ごめん」
その時だった。
天井のダクトから、一人の人影が副長へ向かって棒を振り下ろした。その一撃は副長にダイレクトにヒットし、彼女は立っていられなくなったのか、その場に倒れ伏した。
「っ……」
「艦長、大丈夫ですか?」
目を瞑って覚悟をしていたもえかに対し、誰かが声をかける。状況を見ていなかったもえかは、そっと目を開く。
するとそこには、緑染みた黒髪を携えた見覚えのある少年、土門竜介が、訓練用の木刀らしき物を持って手を伸ばしていた。
「っ……土門くん!」
「良かった……怪我はないようですね」
土門は正気を保っているようだった。もえかは安心して彼の手を掴み、立ち上がった。
「これ、どうなってるの……?」
「わかりません。気づいたら、みんな正気を失ったように……」
もえかが問いかけるが、土門もまだ状況が分かっていないのか、曖昧な答えを返した。
とりあえず艦長の無事を確認した土門は、今分かっている正気な生徒達の居場所を伝える。
「ひとまず、他にも正気な生徒がいます。医務室で立て篭ってるんですが……歩けますか?」
「ええ、ありがとう」
彼女が歩けることを確認した土門は、彼女を連れて行き、ひとまず味方が立て籠もっている医務室へ向かうこととした。
そうして二人が歩き出そうとしたその時だった。進行方向の方から、生徒達の呻き声が聞こえた気がした。
「っ……!」
「しまった……!」
現れたのは、十人ばかりの生徒達。しかも全員、正気を失っていた。進行方向を塞がれている。
「土門くん、ひとまずこっちに!」
「はい!」
土門はもえかに連れられ、走った。
この狭い艦橋構造物で道を塞がれては、医務室には辿り着けない。もえかはそう判断し、土門を艦長室へ導くことにした。
数時間後
宇宙戦艦〈ムサシ〉 艦長室
艦長室に立て籠もってから数時間が経過した。食糧調達からダクトを通じて帰還していた土門は、取ってきた携帯糧食を頬張りながら、同じ部屋にいるもえかに報告を行う。
「とりあえず、水と糧食は確保しました。向こう一ヶ月は大丈夫です」
「ありがとう、土門くん……」
命懸けで食糧を取ってきた土門に対し、もえかは感謝を述べた。
実際のところ、彼がいなかったらもえかは怪我をしていたかもしれないし、今ここにもいないかもしれない。
彼が正気なままだったのは幸運だった。それを改めて感謝しつつ、もえかは窓の外を見て、自分たちの現在位置を把握しようとしていた。
そんな時、付けっ放しにしていた艦内電話から、知り合いの声が届く。
『で、正気なのは俺たちだけかよ。どうするんだ?』
「その声は坂本か。どうやら、そうみたいだ……」
航空隊の坂本茂も、正気な生徒の一人だった。彼はシャワーを浴びて航空隊の詰め所に戻ろうとしたその時に襲われたらしく、命からがら医務室へと逃げ込めたようだ。
『アイツら、いきなりどうしちまったんだ?まるでなんかに操られたみたいに……』
『こっちはいきなり駆け込まれてビックリしたわよ……』
『機関科の奴らも、急に襲いかかって来たしな……』
医務室には他にも正気を保っている生徒達が居た。話した順から技術科の板東平次、衛生科の京塚みやこ、機関科の徳川太助である。彼らもなんとか安全な医務室に辿り着き、食糧を持ち込んで立て籠っていた。
もえかは生存者を確認し、状況把握に努めるが、原因がわからないまま艦内の大部分は占拠されているため、打開策が思いつかなかった。とにかく、この状況を外部に知らせることができれば……
そんな風に考えていた時、医務室側の艦内電話が引ったくられ、もう一人いる正気な人物に代わられた。
『こちらは教官の山本だ。もえか艦長、そこにいるか?』
「はい、居ます。山本教官」
代わったのは航空隊教官の山本玲だった。彼女はこの中にいる唯一の教官として、責任者のもえかに対して進言する。
『いいか?この状況だ、ムサシは緊急事態につき救援を要請する必要がある』
「ですが、通信設備はすべて彼らに……」
『そこで提案なんだが、私と坂本だけでも脱出できないか?』
「え?」
「教官と坂本が?」
この言葉には傍で聞いていた土門も驚いた。だが二人は、その脱出という言葉の意味をすぐに理解した。航空隊の面々で脱出し、外部へ救援を呼ぶつもりなのだ。
『えっ、俺もですか教官!?』
『その方が確実だ。最悪私が囮になる』
『ですがよ……』
『とにかく、近くの防衛軍施設なら、長距離の通信で状況を伝えられるはずだ。ここの通信設備を介する必要がない』
「なるほど……」
確かに理にかなっている。航空機を運用可能な二人を脱出させれば、近くの防衛軍施設へ状況を知らせることができるかもしれない。解決策につながる。
もえかはそれを理解していたが、航空隊だけでムサシを脱出するには、かなりの危険が伴う。判断に迷った。
「艦長、脱出するなら機体はシーガルよりタイガーの方が確実です。戦闘機ならムサシの対空砲群だって切り抜けられる筈です」
「そうね……分かったわ。やりましょう」
それにはすかさず、土門が進言した。その言葉を受け、もえかは艦長として作戦を承認。山本と坂本を脱出させることにした。
だが、この状況ではムサシの航空機格納庫も占拠されているかもしれない。どうやって医務室からそこへ辿り着くかは考えものだった。
「問題は、どうやって格納庫に辿り着くか、ね……」
「それなら俺に考えがあります」
「え?」
土門はそう言うと、電話を手に取り、衛生科の京塚みやこに呼びかけた。
「みやこ、そこにある患者用の搬入エレベーターは、掌握できるか?」
『え?』
突然の言葉にみやこは困惑した。だが土門に言われ、すぐにその装置を確認しに行く。
一方のもえかは、土門の考えがすぐに分かった。同時に思った。もしかしたら彼は、相当な切れ者なのかもしれない、と。
数分後
宇宙戦艦〈ムサシ〉艦内 医務室
格納庫へ向かう準備はすぐに整った。
山本と坂本の二人はたまたま着ていたパイロットスーツを確認し、わずかながら食糧も持った。
「で、俺たちは患者のフリして格納庫に直行っすか?」
「そうだ。ちょうど二つあるから同時にいけるぞ」
山本と坂本は、搬入エレベーターのベッドに寝そべりながらそう言った。
このエレベーターは外部から患者が運ばれた際、格納庫から直接医務室へ患者を運ぶためのエレベーターだ。
エレベーター、と言うよりはコンベアに近い。なぜならムサシにある三つの航空機格納庫と医務室は、同じ高さになるよう設計されているからだ。
これも傷付いた患者に負担をかけず、優しく素早く搬入するための工夫である。今回はそれを逆向きに利用することにした。
「搬入先は、後部航空機格納庫に設定してあります。いつでもどうぞ」
「こりゃまるで、俺たちがカタパルトに乗せられたみたいっすね……」
「坂本、つべこべ言うな!みやこ、やってくれ」
「はいっ!気をつけて!」
みやこが機器を操作し、二人を同時に格納庫まで送り出した。
薄暗いトンネルのような搬入路を通り、格納庫へ向かう。寝そべっていて行き先が見えぬ不安の中、コンベアは二人を、わずか三十秒ほどで格納庫まで送り届けた。
まず山本が辿り着き、視界が開けると即座に飛び起きて、周囲を見渡した。周辺に正気じゃない生徒はいないようだ。
続けて坂本が格納庫に辿り着いた。山本に比べると少々ぎこちない動きで起き上がると、山本教官の背後に付き、離れないようにする。
「どうやら格納庫に生徒はいないようだ」
「ラッキーですねぇ。これならハッチを開けても問題ないっしょ」
「調子に乗って離れるなよ」
「へいへい」
おちゃらけた口調で返答する坂本を他所に、山本はまず航空隊詰め所に向かい、そこで自分たちのヘルメットを拝借した。
そして坂本と共に外へ出ると、慣性制御の範囲外となっている無重力の格納庫を泳ぎ、手頃なコスモタイガーに張り付いた。
機体の状態を確認。問題ない、オールグリーン。ついでに周囲を見渡し、この格納庫に生徒達がいないことをまた確認した。もし誰かがいて後部カタパルトハッチを開けでもしたら、吸い出されてしまうだろう。今回その心配は要らないようだ。
『教官、準備オッケーです』
「よし……土門、こちらは問題ない。いつでもいいぞ」
『了解です。今から格納庫のシステムをハッキングします』
そして格納庫を開ける最終段階は、土門が担当することになった。
というのも、土門はどこで習ったのかハッキングの心得があり、艦長室に繋いだパソコンから、艦内の一部システムを一時的に掌握できるらしい。
艦のメインシステムは他の生徒達に掌握されているため、すぐに戻されてしまうらしいが、それでも短時間だけならシステムをハッキングできるのは心強い。
そして今回も、そのハッキングはうまく行った。格納庫の後部ハッチが開放され、航空機の発艦シークエンスに入った。
まず山本教官のコスモタイガーⅡが動き出し、艦尾の方へ移動。機体尾部を外に向けた状態でカタパルトに乗せられた。
「メイクリーダー、山本──出る!」
土門の操作により、山本の機体が宇宙空間へ射出された。機体がムサシから離れ、艦底部を見上げる形で宇宙を漂う。
機体のエンジンを点火。ムサシを飛び越す超速で飛行を開始。ムサシの注意を山本の機体に集める。
『メイク3、坂本──行くぜ!』
続いて作戦通り、今度は坂本の機体が射出された。どうやらまだシステムの掌握は間に合っているようだ。
山本は彼の射出を確認した後、ヤマトの対空砲群の射程になる上面を、わざと飛行した。その途端、赤いパルスレーザーの光が山本機を掠める。
「くっ……!」
だが山本は巧みな機動と、小惑星を用いた一撃離脱により、パルスレーザーの注意を引き付けながら回避をし続けた。
そして回避しながら数分が経ち、機体のレーダーで坂本の機体が戦域から離脱したのを確認した。
そして山本もその後に続く。そしてパルスレーザーの射程外に逃れると、坂本機と合流した。
『教官!無事ですかい!?』
「見ての通りだ。このまま近くの施設へ向かうぞ」
『どこにあるんですかそれ?』
「まあついて来い。アテがある」
そうして二人は、一路、近くの防衛軍施設を目指した。こうしてムサシ脱出のための作戦は成功したのである。
その後、彼らは山本の道案内である施設へと着陸し、そこであの救難信号を発したのである。
そこは旧国連統合軍時代に太陽観測天文台として使われていた、イカルス天文台の通信施設だった。
土門ともえか、艦長室で二人っきりの巻……
本作ゥの予定するCPをっ、亡き総統への手向けとするのだぁっ、選べ!ガーレ・ガミロンッ!
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明乃×ましろ
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土門×もえか
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山南×百々
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南部×志摩
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ミーナ×幸子
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古代×雪
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俺は……選ばない!
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愚かなりゲーぇ↑ルーぅ↓……