第二十一話です!
第二十一話:第十一番惑星・乙女のピンチ!
ワープから約24時間後 太陽系外縁部
駆逐艦〈ハレカゼ〉 艦内倉庫
駆逐艦ハレカゼの艦内倉庫にて、搭載された物資の状態を確認するべく、主計科応急員の媛萌と百々はチェックリストを作って倉庫内を調べていた。
艦内倉庫の低い天井の空間に、所狭しと並べられた物資の段ボール箱が、今ではゴロゴロと崩れ落ちていたりするなど、結構大変な光景となっていた。
「あーあ、ここも荷崩れしてるっす……」
「いくら慣性制御でコントロールしてるとは言え、あんなに揺れちゃあね……」
百々の気だるそうな言葉に対して、媛萌は補足をするようにそう言った。
確かにこの倉庫、戦闘の影響で相当な数のダンボールが荷崩れしている。慣性制御のコントロールすらも無意味に期すほどの大きな振動が、あの戦闘で起こっていたのだと推測できる。
物資のほとんどは潰れても問題ないものが多いため、煮崩れしても問題はないが、艦外の事情を知らない百々は疑問を浮かべるばかりだった。
「それにしても、こんな無茶な事するなんて、一体何と戦ったんすか?」
せっかくなので媛萌に聞いてみる。すると彼女は屈んだ状態から立ち上がって振り向くと、腰に手を当てながら語る。
「艦長の話だと、あのアンドロメダに追い回されてたって話だよ」
「え、ええっ!?だとしたら、今生きてるのが奇跡っすよ!」
百々は思わず驚嘆の声を上げた。アンドロメダといえば、地球艦隊の総旗艦にして最新鋭戦艦だ。
誰もが知っている最強の戦艦に追いかけ回されて生きているなんて、とても信じられなかった。
「それがね……」
そんな百々の心情を知ってか知らずか、媛萌はその話の続きとして、捕捉説明をした。
「アンドロメダの艦長が手加減してくれたんだってさ。砲撃はわざと外して、追撃してますよー、って」
「そ、そんなんすか?でも、それって……」
「うん。命令を適当にこなしたから、多分今頃、その人は処分されていると思う」
媛萌は事情を説明するついでに、そんな憶測を交えて言葉を締め括った。
その艦長が処分されたかどうかの確証はない。だがアンドロメダの艦長がハレカゼを見逃してくれたのだとすれば、普通の軍隊なら艦長の職務怠慢を理由に、彼はその席から引き摺り下ろされるだろう。
自分たちを見逃してくれたとはいえ、媛萌は複雑な感情だった。アンドロメダの艦長ともなれば、そのキャリアは約束されていたようなモノだ。それを私達のせいで棒に振るわせてしまった。
「アンドロメダの艦長って、優しい人なんすね……」
そんな感情は、その話を聞いた百々も抱いていたのか、少し暗いトーンの声で言葉を漏らした。
「……そう、だね。優しい人だよね」
「もし……もしもその人が解任されたら、私たちのせいっすよね……」
「……かもね」
百々は相手の艦長のキャリアを潰してしまったことに責任を感じているのか、少し俯いて、元気を無くしていた。
そんな百々を見て、気持ちの切り替えが必要だと感じた媛萌は、両手を叩いて仕事の話をする。
「そ、それよりもさ!ちゃんと備品をメモしてる?」
「あっ、もちろんっす!あとはこの箱だけなんすけど……」
どうやら話をしながらでも仕事はちゃんとしていたようで、彼女のチェックリストはほぼ確認済みの項目で埋まっていた。
そうして最後の一項目を確認しようと、百々が下の棚へしゃがんで見て見ようとした瞬間、彼女から素っ頓狂な声が漏れた。
「あれ?」
「どしたの──あ"!!」
続けて媛萌がしゃがみ込もうとしたが、その前にその箱の中身を見て驚愕の声を上げた。
見ていたのはトイレットペーパーの箱だが……まだまだ余裕があると思われていたその段ボールの中身は、なんと空だった。
十分後
駆逐艦〈ハレカゼ〉 艦内教室
さて、緊急事態という事を聞かされ、ハレカゼの艦内全員は教室に集められた。まず、主計科の媛萌が咳払いをし、今回の事態の経緯を説明する。
「極東管区トイレ連盟によると、女性が一日に使うトイレットペーパーの長さは12.5m……うちのクラスは約30人、航海実習は二週間続く予定だったので、余裕を持って250ロールも用意していたんですが……」
そうして媛萌は百々と共に、持って来た段ボール箱の中身を見せびらかし、こう言った。
「もうトイレットペーパーがありません!!」
『ええっー!!?!?!?』
途端、教室に驚愕の声が溢れ出す。緊急事態というのは、まさかのトイレットペーパー切れであった。
「誰がそんなに使ってるのー!?」
「うちのクラス、トイレ近い人ばっかりなの?」
「一回、10cmに制限するとか……」
「えー!困るー!」
このトラブルにはもちろん、大顰蹙が巻き起こった。乙女としてトイレットペーパーが使えない、最悪トイレに行けないとなると相当な苦痛になる。
「誰よ!無駄に使ってるのはー!」
「あー、でも私、トイレットペーパーで鼻もかんじゃいますねー」
芽依が犯人探しをしようとした時、幸子が思い出したかのように言った。それに続いて、通信員の八木 鶫が恐る恐る手を上げた。
「すみません!私、持ち込んだティッシュが無くなったので、何個かCICに持ち込んでました!」
「えー!」
「あ、それ食堂でも見たよー!」
その言葉に続いて、食堂に近い炊事科の面々が訳を話す。
「ちょこっと拭くのに便利なんだよねー」
「うんうん」
どうやら皆トイレットペーパーをトイレ拭き以外の用途で大量に使用していたようである。これが早めに無くなりかけてた理由のようだ。
「ったく、どいつもこいつもすっとこどっこいだな!」
「どうしよう……無くなったら、おトイレ行けなくなっちゃうのかな……?」
麻侖の言葉に続き、鈴が不安そうにそう言う。やはり乙女にとって……いや乙女でなくとも、トイレットペーパーがないと言うのは死活問題なのだ。
「それもこれも!地球のトイレットペーパーが柔らかすぎるのが悪い!」
『そうだそうだ!』
最後にミーナが責任を地球のトイレットペーパーのメーカーに押し付け始めた。とにかく、この死活問題を回避するにはどこかで補給をする必要があった。
「艦長!纏めて下さい!」
「あ、うん!」
結局話がまとまらず、ましろは艦長の明乃に取りまとめを進言する。明乃は立ち上がり、皆に問いかける。
「み、みんな、ちょっと待って!他にも足りないもの、必要なものってない?」
明乃が問いかけると、皆は口々に──
「魚雷!」
「腸詰肉!」
「模型雑誌!」
「真空管……」
「真面目に答えろ!」
と言うので、最後にましろがツッコミを入れた。
「はぁ……艦長、ワープがあるとはいえ、太陽系外縁部から学校に戻るとしたら、最短でも二日はかかります……なんとか物資を補給しないと……」
「うーん、武器や弾薬はともかく、食糧に医薬品、最低限必要な日用品だけでも揃えておきたいよね……」
明乃はそう結論付け、近くで補給する手段がないかを考え始めた。だがここは宇宙だ。補給を受けるには他の船から貰い受けるしかない。
「戦闘禁止命令が出ているとはいえ、なるべく他の船には遭遇したくないよね……」
「ましてや防衛軍から補給なんてできないですし……」
「じゃあ!買い出し行こう、買い出し!」
「買い出しって……」
芽依がそんなこと言い始めたが、ましろはそんな場合じゃないと言いたげなのか、肩をすくめた。だが明乃は一応ということで、幸子に問いかけをする。
「うーん、ココちゃん、ここらから一番近いショッピングセンターは?」
「艦長、ここ宇宙ですよ?そう簡単に見つかる訳が……」
「えっと……ここからですと……」
明乃の言葉に応え、幸子が即座にタブレットで心当たりのある場所を探した。すると、あった。
「あー、第十一番惑星に、大型ショッピングセンターの"オーシャンモール"があります」
「あるのか!?」
そう、太陽系外縁部にもショッピングセンターがあった。
それは最近までその存在が発見されず、特殊な楕円軌道を描く、太陽系で最も遠い惑星として数えられる……とまあ、複雑な事情が絡み合う星、第十一番惑星だった。
こんな宇宙の彼方にもショッピングセンターがあると聞き、乙女心をくすぐられた乗員達は浮き足立った。
「買い物……行きたい行きたい!」
「私もヘアコンディショナー無くなっちゃったし」
「それはルナが私の使うからでしょ?」
「げっ……それは……」
「はぁ、みんな私の使うんだもん……」
皆がウキウキした様子で買い物したいものを想像している中、ましろは警戒心を緩めず、明乃に意見具申をする。
「艦長、今の状況で、みんなで楽しく買い物には行けません。少人数で行くのが正解かと」
「そうだね。その方が目立たないし」
とりあえず、話としては第十一番惑星に買い出しに出かける方へまとまった。だがしかし、ここで主計科会計委員の等松 美海が手を上げた。
「艦長!買い出しに行くとすると、一つ重大な問題が……」
「どうしたの?」
彼女は会計委員なので、船のお金事情に関して一任されるほど几帳面だ。そんな彼女が言う重大な問題とは、一つしかなかろう。
「お金が……足りません……」
「──え?」
というわけで──
「トイレットペーパー募金、お願いしまーす!!」
艦長帽を受け皿にして、皆から募金を募る事にした。明乃は艦長として、なんか微妙に惨めな気がしたが、気のせいだろうと思い込み一人一人に掛け合う。
「船に小遣いは持ち込まねぇ!」
「小切手は……使えませんわよね……?」
「大昔のお札ですが、いいですかー?」
「お前ら真面目にやれ!」
というわけで、あまり集まらなかった。最後にミーナからも募金を募ろうと声をかける。
「儂はガミラスの通貨しか持っとらんが……」
「それで大丈夫だから、ちょっとだけ貸してくれるかな……?」
確か第十一番惑星にはガミラスの資本も流れているので、ガミラスの通貨でも問題はないはずだ。なので彼女から幾らか貰うことができそうだった。
「儂?」
「ん、何か儂の顔についてるか?」
と、ミーナの一人称に炊事委員の杵崎姉妹が反応した。ミーナは聞き返すが、二人は思わず笑い出してしまった。
「儂って、ふふっ」
「翻訳機がおかしくなったんじゃないのー?」
「あはは!」
「な、何がおかしいんじゃー!!」
儂という珍しい一人称に教室が笑いに包まれる。まだまだ彼女とのコミニュケーションには、いくつかのハードルがありそうだった。
次回──第十一番惑星・買い出し作戦でピンチ!