駆逐艦〈ハレカゼ〉艦内 教室
「(はぁ……なんでハレカゼなんだろう……)」
突撃宇宙駆逐艦ハレカゼの艦内にて、宗谷ましろはため息をついていた。
設計改修で新しく設けられた教室には、ましろ以下ハレカゼに乗るクラスの面々が集まり、自己紹介を交わしたりしていた。
全員が女子だった。ヤマトやムサシと違い、小型艦であるハレカゼは乗員区画の都合上、男女で部屋を分けることが難しい。なので、この船に乗る乗員は全員が女子だった。
ましろが悩んでいるのはそこではない。別に出会いを目的に横須賀高等宇宙学校に入学したわけじゃない。
それよりも問題なのは、ハレカゼのような宇宙駆逐艦は、成績上位者はまず乗らない船だと言うことだ。
「(これじゃあ私、落ちこぼれだ……)」
逆説的に、ましろは成績が悪いと言うことになる。それがましろの、宗谷家の女としてのプライドや誇りに傷をつけていた。
「宗谷さん」
「あ……」
そんな彼女の前に、一人の少女が声をかけた。濃い茶髪の癖っ毛が、肩まで垂れているのが特徴のましろの友人、黒木 洋美だった。
「久しぶりだね。元気出して」
「…………」
「宗谷さんが艦長じゃないなんて、何かの間違いだよ。成績、トップクラスなのに……」
「…………」
そういって彼女はましろを励まそうと、精一杯の言葉を投げかける。ましろとしても友人がそう励ましてくれるのはありがたかった。
だが、それが申し訳なく感じて、ましろは俯くしかなかった。
「あー!一緒の船なんだ!」
そんな落ち込む彼女の下に、聞き覚えのある声が響いた。
顔をそちらの方に向けると、これまた見覚えのあるツインテールの少女が、笑顔で近づいていた。
思わずましろは顔を顰める。
「(げっ)」
「縁があるのかな?」
「ないない!」
慌てて否定する。
まさかこの女と一緒の船だなんて、つくづくついてないと、ましろは思った。
「私、岬明乃!二人は?」
「宗谷さん、知り合い?」
「し、知らない!」
洋美は不思議そうに聞いてくるが、ましろはそれも否定した。洋美がましろの名前を呼ぶのを聞き、明乃は聞き覚えのある名前だと感じて、名簿として配られたタブレットを見る。
「宗谷さん?ああ、副長さんだよね!」
「え、ええ……」
「貴方は?」
明乃は洋美の方へ名前を聞く。洋美は自分の役職から名乗った。
「私は機関助手の……」
「黒木 洋美さん?」
「え、ええ……よろしく」
どうやら機関助手というだけで名前がわかったらしい。もう名前を覚えているのかと、洋美は少し戸惑いながらも感心した。
そんな二人が自己紹介を交わす傍ら、ましろは今日何かと縁のある明乃がなんの役職なのか、少し気になった。
集合時刻になり、教室に二人の教員が入ってきた。
一人は巻き上げた青い髪が特徴的な、大人の女性。
もう一人は、癖のある茶髪と鋭い眼光が特徴的な成人男性だった。
「ハレカゼクラス、全員揃ったな?」
そう言って生徒達に声をかける成人男性は、古代 進三佐。かの宇宙戦艦ヤマトの元乗組員であり、地球を救った英雄の一人だ。
古代はハレカゼクラスの生徒達を一瞥しながら、これから航海に向かうひよっこ達を、きちんと見定めていた。
──みんないい目をしている。
古代はハレカゼクラスを見て、内心でそんな感想を抱いた。
「艦長」
「はいっ」
古代は艦長の明乃を指名し、起立の合図を送る。明乃はそれに従い、元気よく挨拶して立ち上がる。
──コイツが艦長だと……!
一方のましろは、何かと不運を持ち込むこの女が、自分を差し置いて艦長になっていると初めて気づいたのだった。
「起立!」
明乃の言葉により、生徒達が立ち上がる。彼らが立ち上がるのを待ち、古代達は生徒達に自己紹介を行う。
「指導教官の古代だ。こちらは……」
「同じく、指導教官の古庄です」
古代は指導教官として、これから航海実習に向かう生徒達に向け、祝辞と激励を投げかける。
「今日から君たちは、高校生として航海実習に出ることになる。君たちはまだ宇宙戦士の卵だ。これから先、辛いこともあるだろう」
古代はそこで一呼吸置き、言葉を続ける。
「だが昔から、穏やかな海では良い船乗りは育たないと言う。それは宇宙に行っても同じだ。これから宇宙に出て、また地球に戻ってくる時、君たちは一段と成長した姿になっているはずだ。それを楽しみにしている」
その言葉を受け、ハレカゼの生徒達の表情が真剣なものに変わる。古代としても、新しい旅立ちを迎える新入生達に期待を抱き、笑顔になる。
「では各員、出港準備!」
最後に出港の指示を告げると、生徒達は威勢よくそれに応える。その様子を受け、二人の教官は教室を去る。
二人が去った後、少女達の話題は古代進のことで持ちきりになった。やいのやいの、古代のことが気になる生徒達が黄色い声で話す。
「すごい!カッコいいよあの教官!」
「イケメンだったなぁ……」
「元宇宙戦艦ヤマト乗組員の古代三佐。まさか、私たちの教官になってくれるなんて……!」
「やっぱり私、ここに来てよかった!」
復興した地球にとって、古代進は有名人だ。
ヤマトの元乗組員というだけでも肩書として強いのに、自分たちの教官になってくれて、しかもビジュアルも良いとなれば、女子達の話題は自然と古代一色になる。
そんな浮き足だった教室の中、艦長の明乃は古代に聞きたいことがあったのか、教室の外へ飛び出して行った。
「あのっ、古代教官!」
「どうした、岬君」
古庄教官と共に艦外に向かおうとしていた古代を、明乃は走りながら呼び止めた。
明乃は息を整えながら、気になっていたことを質問する。
「あの、どうして私が艦長なのでしょう……?」
明乃の言葉を、古代は目線を合わせて聞く。明乃の言葉は若干震えており、不安そうだった。
「私は……艦長を務められるほど成績が優秀と言うわけでは……」
自信がないのか、艦長という役職にプレッシャーを抱えているのか、明乃は俯きながらそう言った。そんな明乃に対し、古代は笑顔で答える。
「岬君、この人事は、俺が後押ししたものなんだ」
「え……?」
古代がそう事情を暴露するのを聞き、明乃は自分の耳を疑った。古代は話を続ける。
「もちろん、個人的な理由じゃない。もっと深い根拠があってのことだ」
「…………」
「君には艦長の素質がある。俺はそう判断し、校長もその意見を受け入れてくださった。ただそれだけの事だ」
「古代教官……」
古代の言葉を受け、明乃の表情が少し明るくなった。古代は艦外への扉の方へ向き直り、歩み始めながら、最後にこう締めくくる。
「君は、君の理想とする艦長になればいい。大丈夫だ、自信を持て」
「は、はい!」
古代からの激励を受け、明乃は少し自分に自信を持てた。その言葉を胸に、明乃は艦橋へと向かった。
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