小さな天使と抜け身の剣   作:時空未知

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少女は、どうしようもなく無垢であった。














運命の死(2)

 

 

 

[次の角を右。そのまましばらく真っ直ぐ]

「はぁ……ふぅ、は、はいっ……!」

 

 

誰もいないトリニティ市街を、ソラはグラングの気配を感知できるという声の主の指示に従って、胸元で揺れるタリスマンの感触を感じながら、ひたすら走る。

体力回復の為の休息、そして万一にも連れ戻されてしまわないよう救急医療部の捜索から隠れ続けてしばらく。それらが終わった頃には、周囲はすっかり夜になっていた。

幸いなことに、グラングを攫った襲撃者らは一度引いて待機しているらしく、到底連れ戻せない程遠くまで気配が移動してしまうことはなかった。

 

……今の所は、だが。

 

[……悪い知らせだ、気配が動き出した]

「……!!」

 

タリスマンの声の主からの報告。

それは、ソラが最も恐れているものだった。

 

「ど、何処に行って……!」

[動きはゆっくりとしている。恐らく、付近で別動隊にあれの身柄を受け渡そうという魂胆だろう。急げば十分に間に合う、だが留意しておいた方がいい]

 

声の主は冷静に返答を返す。

ソラはそれにただ小さく頷くと、再び目的地にたどり着くことに注意を向ける。

……その時、視界の端で懐中電灯の光がちらついた。

 

「……!!」

 

目的地との距離を見るに、恐らくアリウス生徒の巡回。

下手に見つかってグラングを救う予定が狂ったのでは目も当てられない。ならば……

 

ソラは聖印を構える。

脳裏に描くのは今にも消えてしまいそうな程儚い人影。前にグラングから教わったばかりの祈祷の1つ……

 

「影、敵を引きつけよ……!」

 

発動。

 

瞬間、ソラの胸元から薄い金色の靄のようなものが放たれたかと思うと、懐中電灯の持ち主の目の前に着地、人影を生み出した。

随分と頼りない影であったが、相手はそれに確かな反応を示した。

 

「トリニティの……生き残りか!」

「一人だけで無防備な」

 

敵の注意が生み出された影一点に引きつけられる。

銃声が響く中、ソラは彼女らの脇をこっそりとすり抜けた。

懐中電灯の光が背後へと遠ざかっていく中、声の主が感心したように言葉を溢した。

 

[ほう、影送りも習得しているか]

「グラングが、教えてくれたので……」

 

息を切らせながらも、ソラは返答を返す。

 

影送り

 

二本指(二本指って何?)に連なる祈祷であり、

前方に薄金の影を送り、人の類を引き寄せ、攻撃を誘う。

その影は、憎き仇に見えるのだとかなんとか……

とはいえ、影の持続は数秒程。

その間に逃げるなり隠れるなりするのが有用な使い方だ。

 

今回の襲撃事件が起こる前、グラングに教えてもらった時から何かと役に立っている祈祷である。よく使っているものである為か、その運用もかなり手慣れたものになりつつあった。

 

人影が消失した為か、困惑の声が背後から聞こえてくる。それを後目に、ソラは大通りの角を曲がった。

大半の街灯が破損し、暗い夜の闇に包まれているその場所。

この先にもう完全に崩れてしまった古聖堂が存在している。

……その少し前あたり。そこには、爆発の余波で廃墟と化した中ぐらい程の大きさのビルが静かに立っていた。

 

[見えるな、あの建造物だ。連中は一階で身柄の受け渡しをするつもりらしいな]

「あそこが……!」

 

声の主の言葉を聞いて、ソラは改めてそのビルを視界にとらえる。

……言われてみれば、ビルの一階部分で懐中電灯と思しき光が時折ちらついているような……気がする。

相手も隠れているのか、ソラにはほんの気がする程度の雰囲気しかわからなかった。もしかすると、相手が[あそこで息を潜めている]という先入観が齎す気の所為かもしれないが……

ともあれ、ソラは一度走るのをやめると、近くの建物や瓦礫沿いに、息を潜めつつビルに近づいてゆく。

そんな彼女に、声の主は話しかける。

 

[くれぐれも発見されぬよう気をつけるといい。これと言う抗う手段はあるが、奇襲するに越したことはない]

「……っ」

 

……これ。

 

その言葉の響きにソラの声は詰まった。

声の主は言っていた、己に宿っているものは[死]であると。

死……キヴォトスにおいて、程遠いもの。

その概念そのものが、グラングが大切にしていたそれには宿っているという。

 

……正直なところ、いまいちピンとこないと言うのが実情である。

けれど、声の主が嘘をついているようにも聞こえない。

ならば、銃に宿るそれは……

 

[どうした?]

「い、いえ、ボーっとしてて……」

 

そこから先のことを考えようとすると、思考に霧がかかる。

身体が無意識のうちにその先のことを考えることを拒否しているようにも思えて……

瞬間、

 

 

「……!!」

 

 

考え事をしながら移動するソラの視界の端で、影が動いた。

彼女がそれに気が付いたときには、影から伸びた手が彼女の身体を既に掴んでいた。

 

 

「きゃっ!?」 

[なっ!?]

 

 

身体が瓦礫の影へと引きずり込まれる。

 

敵?ばれた??

 

思考が頭をぐるぐると駆け廻る。

そんな中に、ある言葉が浮かび上がってくる。

 

反撃しなければ、身を、守らなければ……!

 

それに突き動かされるように、ソラは銃を腕を持った腕を動かす。

その銃口は影の額を的確に捉えて……

 

「……れ?」

 

今にも引き金を引こうとしていたソラの動きが固まる。

なにせ、銃口の先にいた顔は良く見知ったもので……

 

「アズサさん、どうして……?」

 

……日中に別れたばかりのアズサ、その人だった。

呆然とするソラに向けて、彼女は言う。

 

「サオリ達の動きを見張ってたの。気を見計らって拠点にトラップを仕掛けるために。

……まあ、そうしてる余裕はないみたいだけど」

 

その言葉と共に、アズサはソラの目的地でもある廃ビルの方へと視線を向ける。

……口振りから察するに、彼女も相手がグラングを奥底へ連れ去るつもりであることに気が付いているのだろう。

しかし、その視線は直ぐにソラへと向き直った。

 

「でも、それより」

 

そう口にする彼女の薄く紫がかった瞳は、どこか厳しい色を帯びている。

ソラの身体が、僅かに強張った。

 

「何で、逃げてないの?」

 

……アズサからの質問は、一先ず予想していたものであった。

それに返す言葉は、既に決まっている。

 

「逃げたく、ないからです」

「……」

 

途切れ途切れ。

しかし、芯の籠ったソラの言葉。

それにアズサは、暫くの間口を噤む。

……やがて、彼女の視線が僅かに逸らされた。

 

「ここはソラが来ていい場所じゃない。私みたいな、[人殺し]の場所」

[……人殺し?]

 

逃げたくない。

その言葉には答えず、アズサはそう返答する。

……声の主はその言葉の一部に引っ掛かりを覚えたらしいが、その反応の意味は、ソラにはわからない。

ただ、アズサは静かに言葉を続ける。

 

 

「信頼するのが難しいのはわかってる。でも、わかってほしい。必ずグラングは……」

「そういうのじゃないんです!」

 

 

……気が付けば、ソラはそう声を発していた。

 

 

「信頼するとか、そういうのじゃなくて……私が、助けなきゃダメなんです。グラングのこと」

 

海岸で一度遊んだだけだというのに、アズサが自分達のことを心配してくれていることは痛いほどわかる。だから、アズサのことが信頼できないなどと言うつもりはない。

これは……心持ちの問題だった。自分、自身の。

 

「私にも、手伝わせてください」

 

ソラは、アズサの顔を見据えてそう言う。

その決意を己で確かめるように、手の中の拳銃をギュッと握り締める。

 

「足手纏いにならないための……手段も、用意してます」

「……」

 

その言葉に、アズサは虚を突かれたような表情になった。

そして、迷うように視線を彷徨わせる。

……十秒、二十秒。

沈黙だけが過ぎてゆく。

けれど、こうして立ち止まっているだけの時間は、彼女らには残されていない。

 

……そして、沈黙の末。

 

 

「……わかった」

 

 

アズサはただ一言、そう口にした。

未だ迷っているようノア響きは伴っているものの、確かにそう言った。

それを聞いたソラの表情が、パッと晴れる。

 

「……それって!」

 

言い切ることこそしなかったものの、

その言葉にアズサはこくりと頷く。

 

よかった、わかってもらえた。

 

ソラの心に、ひとまずの安堵が宿る。

そんな彼女に向けて、アズサは口を開いた。

 

「じゃあソラ、ちょっと後ろ向いて」

「……?は、はい。わかり……」

 

……何故、後ろを向く必要があるのだろう?

 

そんな疑問がふと脳裏をよぎった。

けれど、ソラはそれに首を傾げながらも素直に逸れに応じた。

きっと、何か準部のようなものがあるのだろう。

結局、戦闘に関して自分が素人であることに変わりは……

 

 

[不味い、伏せろ!]

 

「え?」

 

 

 

それは、胸元に吊り下げたタリスマンからのもの。

それも、酷く切迫した……

……けれど、それがその声に反応しきることは出来なかった。

 

 

ゴッ

 

 

「あぐっ!?」

 

 

瞬間、首筋に走る衝撃。

適切な角度、力加減をもって放たれたそれは、

的確にソラの脳を揺らすとその意識を刈り取る。

揺らぐ視界、薄れゆく景色の中、彼女が最後に見たのは、立ち上がったアズサの足元だけだった。

 

 

「……ごめん、ソラ」

 

 

ただその言葉を残して、ソラの意識は途切れた。

 

 

 

 

…………………

 

 

 

…………

 

 

 

…………

 

 

 

……

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[……きろ、起きろ馬鹿者!]

「へあっ!?」

 

 

瞬間、ソラは己に呼びかける声と、肌越しに感じるコンクリートの硬い感触を前に跳び起きた。

眠っていたのだろうか?

直前の記憶がひどく曖昧だ。

それに、首の後ろ辺りが鈍く痛む。

 

一体、何が……

 

……だが、幸いと言うべきか。ソラが直前の記憶を思い出すのにさほど時間はかからなかった。

 

[漸くか……]

「ようや、く……っ!?」

 

漸く。

 

声の主のその言葉で、彼女の記憶が一気によみがえる。

 

「そうだ、確かアズサさんに気絶させられて……」

 

記憶を頼りに背後を見ても、案の定トリニティの制服を着た白い少女の姿は影も形もない。

アズサは、ソラが何と答えようと自分一人で事態の収拾を図るつもりだったらしい。

その事実に少女は歯噛みする。

……けれど、いつまでもこうして立ち止まっているわけにもいかない。

意識を失っている間も図っと声をかけ続けてくれていたらしい声の主に、ソラは声を掛ける。

 

「私、どの位意識を失って!?」

[時間は然程経っていない。十分と少しと言ったところだが……]

 

十分と少し……と、声の主が言いかけたその時。

 

 

轟音

 

 

大口径のライフルの銃声か、将又爆弾が起爆したのか。

破裂音にも似たそれが、廃ビルの方面から響き渡る。

……間違いない。

アズサが今も、戦っているのだ。

 

[……アズサ、などと言ったか。大口を叩いていたが、長く持つとは思えんぞ]

「!!」

 

ソラに向けて、声の主がそんな言葉を口にした。

アズサの戦闘を見ていたわけでもないだろうに、しかし妙な説得力が籠っている。

そして万が一、彼女が敗北してしまったとなれば……

 

……グラングが、危ない。

 

「行かなきゃ……!!」

[ああそうだ。疾く行くといい]

 

ソラは今度こそ立ち上がる。

手の中に、サプレッサーのついた真新しい拳銃をしっかりと握り締めて。

そんな彼女に、声の主は励ますようにそう言う。

 

目的地である廃ビルは、もう目の前だ。

ソラは息を付く間すら惜しいと、今も断続的に戦闘の音が聞こえてくるその場所に向けて、急いで駆け出した。

 

 

 

_________________________________

 

 

 

廃ビルの中は、暗闇に包まれていた。

ソラはその中を、小さな懐中電灯の光だけを頼りに進む。

建物に近づくにつれてだんだんと大きくなっていった銃声と爆発音は、廃ビルに侵入して少ししたところでぷつりと途切れていた。

 

……アズサの攻撃は、うまくいったのだろうか?

それとも声の主が言う通り、負けてしまったのだろうか?

不安ばかりが、彼女の脳裏を駆け巡る。

 

……その時、

 

 

「……甘い、甘いぞアズサ」

「……!!」

 

 

曲がり角の先から、声が聞こえた。

酷く冷え切った、冷徹な声。

ソラが恐る恐るそちらへと視線を向けると、

一室から光がこぼれ出ているのが確認できる。

 

……間違いない、アズサはあそこにいるのだ。

 

「……あせ、らない。あせらない」

 

緊張により、バクバクと心臓が早鐘を打つ感触を一身に感じながらも、ソラは懐中電灯の電源を落とし、抜き足差し足光へと近づく。

 

 

「何が友達だと?目的の為なら、たった一人の身柄など切り捨てるべきだ。私達にはそれができたはずだ。私達人殺しは、そうするように教えられてきたはずだ。それができなくなったのはお前が友情などと言う甘い欺瞞に浸かっていたからだ。その弱さが、お前をこうして敗北に導いている」

 

そうしている間にも、光の先から冷徹な声が、言葉が聞こえてくる。

 

どうやら、アズサが敵と知り合いであったというのは、本当だったらしい。

言っている言葉の意味にまで注意を向ける余裕はない。

けれど、それに含まれているのは 責と、諦観か……

 

……相手は、グラングを助けようとしてくれたアズサの行動を、間違っていると言っている。そんな気がする。

 

「……そんなわけ、ない」

 

無意識のうちに、ソラの口からそんな言葉が零れだしていた。

幸いと言うべきか、その半ばかすれた声が誰かに聞き届けられることはなかった。

そうして遂に、少女は光の前までたどり着く。

 

ソラは乱れる呼吸を強引に整えると、恐る恐る室内を覗き込んだ。

 

 

「……虚しいな」

「……!!」

 

 

元々は会議室か何かだったのか、少し広めの部屋の中。

いまは椅子の1つもない無機質な空間を、小さなランタン型のライトが薄く照らしている。

 

部屋の中にいるのは合計9人。

……内、敵は7人。

グラングを攫ったのが確か4人組だったはずだが、それから3人も増えている。

増援か、身柄の受け渡しで訪れたのか……最初の襲撃者が誰なのかも、正直よくわからない。

けれど1つ確かなのは、部屋の奥まった場所に、背の高いエンジェル24の制服を着た人物がワイヤーで四肢を縛られてぐったりとしているのが見えること。

 

……間違いない、グラングだ。

 

身じろぎ一つしないその姿に、思わず駆け寄りそうになる。声を上げそうになる。

けれどソラは、その願望を必死に抑え込むと、他の情報の観察へと意識を向けた。

 

無骨なガスマスクをつけ、アサルトライフルやグレネードランチャーを装備をしているのが3人。

背中に大きなリュックサックをしょって対物ライフルを抱えたのが1人。

黒いマスクをつけ、ロケットランチャーを担いだのが1人。

顔全体を覆うガスマスクに加え、フードをかぶって人相を隠しているのが1人。

 

……そして、彼女らが囲う中心。

 

 

「なぜ抗う?全ては無意味だというのに」

「……」

 

 

口元だけを覆うガスマスクに、黒い帽子の人物。

アサルトライフルを持ったその人は、

ボロボロのまま倒れたアズサに、銃を突きつけている。

アズサの傍に転がるのは、彼女のアサルトライフルと大切にしているらしい鳥のぬいぐるみ。

その瞳からは、未だ戦意は消えていないように見える。

けれど、このままでは……!

 

……逡巡は一瞬。

ソラは、拳銃の安全装置を外した。

 

 

「やぁああああっ!!」

「っ!?」

 

 

……その時、なんと自分が叫んだのか、ソラはよく覚えていない。

けれど、確かに自分はアズサに銃を突きつけたその人に向けて銃口を向けると、トリガーを引いた。

 

 

パスッ

 

 

サプレッサーで押し殺された音が、銃口から発せられる。

けれど、その何処か気の抜けるようなそれとは対称的に。

撃ちだされた弾丸は、輝ける黄金と全てを飲み込むような黒。

そして、血のように赤い真紅の炎に包まれて飛跳する。

 

……本来なら、発見されていない有利を生かし、影から不意打ちすべきだったのだろう。

しかし、経験不足が故の判断の誤りが、ソラに、敵の注意を引き付けるという行動を取らせた。

 

その結果、銃弾は本来目標としていたリーダー格の少女……サオリには当たらない。

ただ、彼女が回避行動を取った結果、そのすぐ後ろにいたスクワッドでないアリウスの隊員に、それは着弾した。

 

 

外した……!?

 

 

襲撃を受けた。

 

迎撃しなければ。

 

迷い込んだだけか?

 

 

対面した両者の間で、そんな思考が駆け抜ける。

……けれど、彼女らがそのことに意識を裂くことができたのは、ほんの一瞬のことだった。

 

 

「あ、」

 

 

声が、聞こえた。

 

 

それを発したのは、ソラの放った弾丸が着弾したアリウスの1人。

キヴォトスの住民にとっては、精々チクリとして痛い程度の小口径の拳銃弾。

……しかし今、少女の服に刻まれた弾痕からは、赤い炎が揺らめき立っていた。

 

 

その異質な炎は、息を付く間も与えず、全身に燃え広がる。

 

 

「ああ゛ああ゛あぁぁああぁああああ?!?!!」

 

 

黒と黄金、真紅の入り混じる炎。

それは苦痛の悲鳴を意にも介さず、揺らめき、揺らめき、身体を灼く。

 

 

「あつ、ぁつい゛!?いや、ああぁああ゛あぁあああ!?!?!?!」

 

 

その衣服が黒く焼け落ち、灰になることはない。

僅かに露出した皮膚が焼けただれ、グロテスクな火傷を形作ることもない。

ただ何を薪に焚べてか、その炎は燃え上がる。

頭上に浮かぶヘイローに、実体のない生命の象徴をも、その炎は飲み込んでゆく。

 

 

「……ぁ」

 

 

やがて、その人は力なく倒れる。

炎はいつの間にか消えていた。

ただ、今にも砕けてしまいそうなほど震え、明滅するヘイローだけを残して。

 

 

「……え?」

 

 

……何が起こっているのか、わからなかった。

 

沈黙ばかりがその場を支配している。

その場にいる誰もが、その異常に釘付けになっている。

……と、

 

 

[っ、力が乗せきれない。殺しきれなかったか]

 

 

ソラだけに届く声。

タリスマンに宿る意識が、そんな声を溢した。

目の前の光景に驚くことも、圧倒されることもなく。

ただ現象がうまくいかなかったことを恥じている、そんな声色。

 

そんな声の主は言った。

[殺しきれなかった]……と、

 

「……ぇ、え?」

[……何を驚いているのだ、ソラ]

 

訳も分からず困惑を溢すソラ。

そんな彼女の反応に、声の主はただ不思議そうに告げる。

 

 

[私は言ったぞ。これに宿っているものは[死]だと]

 

 

……この時漸く、初めて。

ソラは自分の手に握られたモノが何を示しているのか。

その意味をはっきりと理解した。

 

 

 

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