ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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世界の終わりなう 前

 

 

 

 ドーンと爆発音が鳴り響く。ドーン、ドドーンと。

 街のあちこちで炎が膨らみ、膨大な量の煙がうねるように立ち昇る。まるで天を支える前衛的な柱のオブジェ群。

 ドミノが崩れるように倒壊するビル。

 車が車に乗り上げて三回転半捻りの宙返り。

 逃げ惑う人々。それを追うのはゾンビにクラスチェンジを果たした元・人々。

 空には得体の知れない大小の怪物たちが悠々と飛び回り、人間という餌を狙い打つ。

 じゃあその餌が少ない土地ならどうか。しかしそこも安心できない。人語を解すような知能と巨大な体躯のどっかで見たような動物の姿をした太古の自然神だか荒神だのに、不気味な姿の妖精、精霊の数々。

 

 今日の天気は晴れ、ときどきブタ。所によってはサメが降るでしょう。シャーク!

 

 なんでこんなことになっているのか。

 

 きっとあの時にはもう、世界の変化は終わりに近かったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 ドーン、と腹に響く音。

 見上げれば夜空に大輪の花が咲いている。

 一足早い町内の夏祭り。

 花火見物に友人のジュンヤとケンセーと出かけた。

 屋台で買い食いしつつ、カタヌキに寄り道したりしつつ、人の流れに従いつつ、歩行者天国の道路を歩く。

 

 向こうからケンセーを呼ばわる声が聞こえた。

 十人前後の同年代の集団。つまり、高校生。

 

「げぇっ。ゴッツ」

 

 言葉を発したのはケンセーではなく、ジュンヤの方。普段から澄ました態度のジュンヤには珍しく、女子からもキレイと称される顔を歪めて呟いた。

 

 ゴッツ──鎌中豪人(かまなかごうと)

 大手ゼネコン鎌中グループの跡取り。

 現在の実態は知らないが、中身がヤクザであることを、六十代以上はみんな知ってるんだとか。

 若い奴らには、少なくともヤツのヤンチャぶりは有名だ。

 

 そしてジュンヤ曰く、自分に対して妙に優しいアイツが本っ当にこわい、らしい。

 

「おう、お前らちょっと付き合えよ。面白いもん見せてやるからよ」

 

 もちろん拒否権はない。

 

 ゴッツの取り巻き連中に聞いたところによると、不思議な穴を発見したんだと。

 近づくと耳鳴りのような、モスキート音のような、耳障りな音がするんで中には入っていないらしい。

 その取り巻きの彼におれは言った。

 

「怖かったんだ?」

「怖くねえよ!」

 

 その発見をさっきゴッツに話したら、じゃあ今から行ってみようってことになったらしい。

 つまり、誰もその穴とやらに入っていないし、ゴッツもまだ見てすらない。面白いかどうかわかろうはずもない。あんにゃろう。

 

 高神山(こうじんやま)──市が運営する温泉施設やプール、体育館、陸上競技場やパラグライダーの離陸場、秋には天狗祭りが行われる128段の石段擁する晨明(しんめい)神社、麓は蛍の名所となっていたり地域住民に愛されてきたお山。

 

 神社の石段を迂回するための緩やかなカーブ連なる参道を逸れた空き地にそれはあった。

 盛り上がった土に斜めにぽっかりと。人ひとりくらいなら余裕で通れるだろう。

 

 近づくほどに確かに耳障りなキーン音が大きくなる。

 みんな一度は耳を押さえたりしながら穴を覗き込む。

 

「風が」

「どっかにつながってんのか?」

「行ってみよう」

「マジか」

「せっかく来たし」

 

 いかにも帰りたそうに来た道を振り返った隣のやつにつられて後ろを見る。祭りに合わせて設置された提灯のぼんやりとした灯りが何十と続いてる。改めて隣を見ると、なんだか泣きそうな顔。

 

「ここが幽明の境かもよ」

「え?」

 

 提灯の灯りを指さして、暗い穴を指さしてにやりと笑ってやる。

 彼の肩を一つ叩いて穴に降りる。なんだかんだでみんなすでに穴の下。

 

「ちょっ、待ってよっ」

 

 

 

 奥から光がチラつく。スマホのライト。後ろからもライトが追っかけて来た。

 

「というか、キミ誰?」

「あ、ぼくは犬嶋紺(いぬしまこん)

「なんか……犬っぽいね」

 

 名前だけじゃなく。

 

「……よく言われる」

「おれ、山田あろう。〝たろう〟じゃなくて〝あろう〟ね。よろー」

「あ、うん。よろしく……へへ」

「うーん……」

「え、なに?」

 

 耳と尻尾が見えるかのようだ。

 

「なんでもない」

 

 

 

 

 スマホのライトとは違う明滅する淡いピンクと白の光。

 先に着いていたみんなに合流。

 そこにあったのは、巨大な、巨大な──。

 

「きれー」

「水晶、なのかなぁ……?」

「なんかの宝石の原石とか?」

「いくらなんでもデカすぎんだろ」

「じゃあ誰かのイタズラ?」

「……耳がいてぇよ。耳がー、ミミガー」

 

「てか、中から光ってるよな」

 

 近くに来てたケンセーが言う。頷く。

 

「というか、おれにはもうデカいコンペイトウにしか見えない」

「──ぶふっ」

 

 コンが吹き出した。ゲラか、ゲラなのか。

 みんな遠巻きに眺めている中で、ジュンヤがスタスタと近づいていくので続く。

 対抗意識からかゴッツたちも「おい」「ちょ」「待てよ」なんて言って慌てて後に続く。

 

「ぅぐ、耳が痛え……これ以上は無理」

 

 脱落するヤツも出つつコンペイトウに近づく。

 

「あー、後ろにも一個ある」

 

 少し横にずれてみたらもう一個というか、端がくっ着いて融合するようなカタチで並んでる。

 

「おい、見ろよ」

 

 ゴッツが声を上げた。

 ジュンヤやゴッツがコンペイトウに手をかざし近づけていくと、コンペイトウの内部に黒い線がゆっくりと走る。黒い糸の束のような、神経細胞のような、撚り合わさって表面、掲げた手の方へ近づいてくる。

 

「ちょストップ」

「耳が」

「頭が」

「ぅぅ」

「待っ──」

 

 そして盛大な破裂音と共にコンペイトウが爆ぜた。

 浮遊感。すぐに衝撃。吹っ飛ばされて地面を転がっているのだと遅ればせながら気づく。耳鳴り以外に音は聞こえない。

 視界には同じように倒れてる姿。

 状況を把握しようと手をついて上体を起こしたが、ふと、下から光に照らされて視線を落とし、愕然とした。

 

 ──もう一個⁉︎ や、っば。

 

 地中に埋まっていたのか。

 とにかく、ダイレクトに両手をついてしまっている。

 沈み込むような感覚。

 

 ──取り込まれる⁉︎

 

 いや、吹っ飛ばされるのか。

 視界も意識も白に呑み込まれた──……。

 

 

 

 

 

 

 

 地元の中華屋『とーろーけん』でケンセーと昼飯にあんかけラーメン。

 テレビは高校野球中継。大音量で地元高校の解説が流れていた。夏の甲子園初出場とあって盛り上がってる。

 ピッチャーはキレッキレの変化球を武器に急激に実力をつけてきた選手で、バッターとしても好打者っぷりを発揮していてうんたらかんたら。

 

「あいつ」

「ん?」

「あいつ」

 

 ケンセーがピッチャーが映ったテレビを箸でさす。はしたないぞ。

 

「あの時のメンツにいたんだけど覚えてるか?」

「ぜんぜん覚えてない……ふーん、いたのか」

「ああ、いた」

 

 

 

 駅前商店街を横切る。

 途中でケンセーがスポーツ用品店『トンダ運動具店』で硬球を買った。

 

 ジュンヤとコンと合流したのは森に囲まれた寺の一角。

 周囲に他に背の高い建物も緑もないので、ここだけがもっさりと木々に囲まれている。

 寺自体は大きくないが、砂利道の参道は100m近くまっすぐに伸びて、黄昏時にもなればぽつんと蝋燭が灯り、森の闇に浮かぶ寺はなかなか雰囲気がある。

 この時期、小学生は出席カードを首から下げて、朝も早よから座禅を組み、ラジオ体操で1日をスタートさせる。

 真っ昼間の今は人気もなく、おれたちはその森の中のマレットゴルフのコースになっている拓けた一角にいた。木のテーブルとベンチが一組置かれてる。

 

 ケンセーが思いっきり投げた硬球が右にすっぽ抜けた。

 白い硬球はしかし、木々の合間を大きくカーブしておれが左に伸ばした手の中に収まった。

 おれも誰もいない森の中にボールを投げる。

 シュルルルルルル……とボールの回転音が遠ざかり、そしてブーメランよろしく戻ってきたボールをスルー。

 さらに一度大きくぐるんと迂回したボールは、ケンセーにキャッチされた。

 

「おおー」

 

 ベンチに座ったジュンヤとコンが拍手する。

 彼らの元に向かいつつ、ケンセーがボールをジュンヤに放る。

 ジュンヤが立てた人差し指の数センチ前で、ボールはピタリとそこで止まった。

 

「おおー」

 

 ぱちぱちぱち。

 

 あの日からおれたちに不思議なチカラが備わった。

 ある日ジュンヤが超能力が使えるとか言い出して、試したら──ここにいる全員ができた。

 ポテトチップを数センチ浮かせることから始めて、今はキモチワルイ変化球を投げるくらいはできるようになった。

 センスがあるのはジュンヤとコンだ。今も浮かせたボールを自由に動かし、制御を奪い合って遊んでる。

 ケンセーは繊細な動きは苦手のようだが、いち早くできることを増やしていく。さっきも指先に火を灯してみせた。

 逆に一番遅れているのがおれだろう。ぐぬぬくやしい。でもコツコツやってる限り着実に伸びてはいくようなので、今んとこ大きく置いていかれることがないのはよかった。

 ところでピッチャーの彼は怪しまれない程度に加減してるってことなんだろうか。

 

 コンペイトウがあった穴は多少ヘコんで見えるくらいでなくなっていた。後から埋められたとかそういう感じでもない。

 おれたちがどうやって穴の外に出てきたのかも謎。気付けば地面に転がっていた。

 

「なんかわからないの? コン」

「なぜ僕に聞くの?」

「え、コン繋がりで」

「なんの繋がりもないから」

「そう?」

 

 そんなユルいやり取りにケンセーが交ざる。

 

「にしてもアレだな。コンペイトウだけだと何だな。だから巨大、いや、巨人のコンペイトウと呼ぼう」

「長くない?」

「だから略して──」

「やめて! 何の繋がりもないけどっ、僕の名前にも掛かってそうですごくイヤだッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

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