ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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ペコリンチョとペロリンチョ

 

 

 

『スキル使用時、空間に一瞬、不可思議な模様が浮かぶことに気付いてる人も多いんじゃないか』

 

:そもそもスキルを見る機会がない

:ね

:それ

 

『アレはまんま魔法陣と考えていい。魔術スキルなんて言われるやつが分かり易い。火球とか。いくつか実践してみせるから覚えてみようか』

 

:やった!

:まじ⁉︎

:うおお、たのすぃみ~

:これでオラもスキル使いだべ

:高まるぅっ

 

『必要なのは魔法──スキルの結果を知っていること。それから正確な魔法陣、空間に描き出す技術。それらを実戦で瞬間的に発動できるレベルまでの反復練習、といったところだ。そう。胃がキリキリと締め付けられ、吐くほどの頭痛に襲われ、目はバッキバキに、気が付けば鼻から麺をすすってるくらいになるまでの反復練習だ! やれよ! ゼッタイ!』

 

:あ、はい

:りょ……

:が、ガンバル

:がんがる

:カンガルー

:こんがり

:絶対やらない奴が何人もいんな

  ︙

  ︙

 

 

 

 

 寮の居間。

 モニターに『地下6階・迷宮チャンネル』が垂れ流されている。

 冬になればこたつが置かれるらしいカーペットが敷かれたそこに、巨大スライム。その上で寝そべるおれ。ぐでーん。

 

「なにこれ」

「おやおや、すごいねえ」

「んあ?」

 

 顔を上げると、寮母さんと寮生の女の子。

 寮母さんは隣の敷地に自宅があって、管理に通ってくる。

 寮生の方はこの間ダイニングでメシ食ってたのとは別の子だ。なんか、なんっか見たことある気がする。

 

「なによこれ」

「スライム」

 

 ウォーターベッドもかくやの寝心地。ぶっちゃけスライムを模したクッションなんだけれど。感触の再現度はなかなかだと思う。まあ、材料の一部はスライムそのものなんだけども。大きさはキングサイズだ。

 

「乗ってみる?」

「うん」

「寮母さんもいいかい?」

「どうぞ」

 

 おれは立ち上がるとスライムを踏みつけて両手で引っ張った。すぽんっとスライムが二つに分かれる。

 

「エーテルを与えると別れたり合体したり、のろのろと付いてきたりするんだ」

「おやおやおや!」

「あー……サイコー……」

 

 聞いてない。

 

「あ」

 

 唐突に思い出した。

 

「おまえ千里(せんり)か。なんか昔よりちっさい気がするけど」

「ああ゛?」

 

 こっわ。

 

「そう言えばアンタ誰よ。ママのこと知ってんの?」

「……………………マッマ⁉︎」

「あたしは新川千果(しんかわせんか)。新川千里の娘」

「おぉぅ……マジんがー?」

「それでアンタだれ──もしかして」

「ん?」

「パパなの?」

「なんでだよ違うわ」

「じゃあ誰よ」

「おれは山田あろう」

「ママとはどういう関係?」

「カンケイて……ただ中学校まで同じクラスだっただけだけど──」

「──けど? けどってなによ? いつから? 小学校から?」

「いやー幼稚園からだね」

「幼馴染みってワケね?」

「いやそういう認識はないかな」

「なんでよ?」

「住んでた地区が違ったからね」

「そんなに遠かったの?」

「徒歩20分かからないくらい?」

「近いじゃないのよ」

「そう?」

「よくわからないわね。中学校を出てからは会ってないワケ?」

「いや高校の行き帰りの駅で顔合わせることもあったよ」

「ふーん。話したりした?」

「そりゃ無視する理由もないしね」

「ふーん……んー、なくはない、か?」

「ないぞ。てか父親いないのか。千里はなんて?」

「教えてくれないのよ。…………ぴこーん!」

「なにいきなり」

「あたしの虹色の脳細胞が答えを導き出した音よ!」

「すごいばかっぽいぞ。映像処理されたゲロでも詰まってんのかおまえの頭は」

「あーあーあーうるっさい。あたしの冴え渡る推理によると……アナタがパパね!」

 

 やっぱバカだ。

 

 

  ︙

  ︙

  ︙

「そろそろ地下6階・迷宮チャンネルも終わりの時間だZE。コメントを見るとヒトダマンの本気の戦闘が見たいという要望が多いNE。ヒトダマン企画第二弾の配信ができるようにこちらからもコンタクトを試みるが、ヒトダマン! これを見ていたら連絡をくれYOなッ! じゃ、次回、『地下7階・迷宮チャンネル』まDEしばし! DEは、サヨナラ、サヨナラ……サヨナラ」

 

 

 

 

 

 

「負傷者を下げろ!」

「掩護!」

「金属嵐が来るぞッ‼︎」

「盾掲げ──ッ‼︎」

「シールドアップ!」

「シールドアップ!」

「シールドアップ!」

「『呑竜』の後ろに回れ! 後退するっ」

「『能當(のと)・一貫斎』よぉーい!」

「よぉーいッ」

()ぇ────ッ‼︎」

 

 

 

「…………撤退する」

 

 指揮官が軍帽のつばを下げ踵を返した。

 爆発音に咆哮、怒号、金属を引っ掻く多重奏。悲鳴のような暴風音を背後に、50も終わりに近い副官が語りかける。

 

「我々の攻略に合わせ、探索者も普段より深く降りてきている。特定の場所に居座るフロアボスなどと呼称される〈陰影〉や徘徊するそれらが、縄張り意識のある強力な個体への一種、抑止力となっているという説はやはり真実と見るべきでしょうな」

「厄介なことだ。あの赤鬼の【鑑定】結果は?」

「は。意味不明な記号の羅列であったようです」

「そうか。地上に帰還する。あれの情報収集は探索者連中に任せよう」

「ええ。──この大導路(メインルート)は押して押されての一進一退。地上もまた然り。その上、上層部の権力争いに腐敗が進み、警察組織の汚職の噂まで聞こえてくる始末。まったく楽しいことですなぁ。せめてダンジョン攻略に集中させてくれればよいものを」

「……行くぞ」

「は」

 

 

 

 

 

 

 

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