「なあ! 見たか? 昨日の迷宮チャンネル」
「見た! 3回見た!」
「スキルのマニュアル発動! すっげえよなあ!」
「それで、……できたか?」
「できん。ムズすぎ」
「俺も鼻から麺をすすってみたがダメだった」
「なんでだよ」
「なー」
「なーじゃねえ。そういうことぢゃねんだよ」
「え?」
朝からクラスではそんな話が聞こえてくる。
前の席からちょっとズレた明るい声。
やはりスキルの話はインパクトがあったようだ。話の性質は様々だが。
後ろの方の席からも大人組がボソボソと喋ってる。
「攻撃にしろ防御にしろ、エーテルを意識することが重要であることは言われていたことだ」
「ああ。しかしスキルのマニュアル発動の存在を知った上で意識することがこれほど効果的とはな。スキルが発動できずともすでにその恩恵はバカにならない」
「しかもこの件に関してはほとんどの者が横並びのスタートだ。散々見下してきた奴らを、必ず出し抜いてやる」
「だが、どう魔法陣を収集する? スキルを持ってた奴らは正直、おもしろくはないだろうし、簡単には公開してくれないだろう」
「わかってる。その辺も考えているさ」
野心を滲ませる者。
そしてすでに筋道を見出した者。
「気持ち悪いって! その動きっ」
「なにを言ってるかわからないな」
元気少年とインテリメガネくんとヒロインちゃんの3人組が教室に入ってきた。
インテリメガネくんが両手を腰に当て軽くスキップしているが、不規則なタイミングで余計に跳ねる。
「たしかに見ているとリズムが乱れてちょっと……」
「だよな。なんかケツの座りが悪いっていうかさあ」
インテリメガネくんはスキップの合間に二段ジャンプを挟んでいるからちょっと動きが奇妙なことになっている。二段ジャンプのタイミングが不規則なのは、成功したり失敗したりしてるからだろう。
「なにを言ってるかわからない──う⁉︎」
「おいどうしたっ?」
「目がまわる」
エーテルを消費しすぎたんだな。
「……なんということだ。どうやら世界ってやつは俺を中心に回っていたらしい。ということは、俺が神か?」
「お前マジでなに言ってんだ」
インテリメガネくんがインテリメガネなのは見た目だけかもしれない。
◇
今日も今日とてダンジョンから寮に帰るとスライムの上でだらだらする。
巨大浮き輪に乗っかって流れるプールの水流に乗るがごとく、スライムはゆっくり床を滑る。ぐでーん。
「なに? これ」
「おやおやおや」
「んあ?」
なんか既視感のあるやり取り。
今日は再びの寮母さんと、この間の飯を食い続けてた方の子だ。
「なに? これ」
「スライム」
「なんか昔こんな動きをする掃除機あったねえ」
何かに接触する度に細かく方向を変えるスライムを見て寮母さんが言った。
寮母さんがこのままじゃダメになると言って仕事に取り掛かるためこの場を離れた。40分後だった。
「それであなたは何さん? おれは山田あろう」
食いしん坊寮生に聞いてみる。
「たけうちりゅうこ」
「龍虎? たつとら?」
「んーん、ちがう。流れ子」
「ああ。そりゃそうか。女の子に龍虎なんてアグレッシブ過ぎるもんな。よろー」
「よ」
「で」
「ん?」
「せめて一個返してくんない? スライム」
「……や」
「嫌、じゃなくてね?」
二個の巨大スライムの真ん中、つなぎ目あたりににうつ伏せに寝てこちらを見上げて彼女は言った。
「きょぬー」
「ブフッ」
「勝った」
「負けてない」
「笑った」
「笑ってない」
◆
『へいへいヘイヘーイ! 俺だZE? 今日は予定になかったが急遽! 地下6.5階・迷宮チャンネルミニ! 始めるZEッ』
:うおおお!
:突発放送!
:はじまた!
:おおラッキー
:やった
「本来『迷宮チャンネル』はダンジョンのお得と攻略情報を発信する番組だが、今回、特定の個人に焦点を当てる事に加え、通常よりも短い尺DEあるという事も踏まえて、ミニ版だZEぃ!」
:てことはまさか
:特定の個人っ?
:もしかして
:いやキタかこれええ
「仮に続くようDEあれば、名前はまた別に考えていきたい所存DEございますぅー。案があれば教えてNEってことDE! ヒトダマンレッドブルーだあああっ」
:キタ────ッ
:キタ────ッ
:キタ────ッ
:キタ────ッ
:キタ────ッ
ダンジョンの通路。
画面の右端にメタリックな突起物。それが一歩二歩と後ろに下がると、赤と青が混ざった人魂を模したフルフェイス。
髪をセットするがごとく、サイドを押さえ、
『ハオ』
:ハオ
:ハオ
:ハオ
:ハオ
:ハオ
『ヒトダマン・レッドブルーだ。飛躍のための翼は受け取ったかな? 今日は熱いリクエストにお応えして、私の戦闘をお見せしよう。しかし詳しい解説はしない。その辺り留意してこれを使うかどうかミルクティ氏にお任せする』
「ソッコーDE使っちゃったZEっ!」
:ナイッスー
:良判断
:英断
:よき
『じゃあ進んでくが、現在の階層は四十……八? えや五十過ぎた……っけ? 忘れた。そのくらいのところだ』
:テキトー過ぎて草
:ダメなの?
:フツーは完璧に把握して探索するもの
:特に陰影の強さに関わるからわかってないと危険
:え、じゃあダメじゃんヒトダマン
ダンジョンの入り口は地上と空間の断裂があり、電波など境界を越えて届かない。
ダンジョンに入ると誰もが〝変わった〟と感じる。
ダンジョンは一本道ではなく無数の分岐の中に、そういう境界がいくつもあり、何度境界を越えたかで階層を数える。
そして、活動できる階層で自身のレベルもわかる。
自分の限界を超えた階層に入り込むと、瞬く間にエーテル値が減少していき、体調不良、平衡感覚の喪失などの異常に見舞われることになる。
:たぶん50階層程度じゃ気にならないほどレベルが高いんだろうな
:トップ層の活動領域なんですがそれは
:最高到達階層はいくつですか?
:公式記録では80だったはず
『さっそく第一村人を発見。
:村人じゃねえし
:テキトー過ぎて草
『割とどこででも見かけるこのゴブリンの親戚だが、ゴブリンより小型で、猿と掛け合わせたような体躯を持ち、モンスターであるが故に猿より凶暴、当然侮っていい相手ではない』
:ひょいひょい躱しながら言われてもw
:緑小鬼の手掴んだと思たらほうり投げた──っ
:言動が一致してねえんだよなあ
『侮ってはいけないが、グリーンホーン、つまり
:かわいそうw
:かわいそうw
:そうだったんか、知らんかったかわいそう
:小さい角があるからだと思ってたかわいそう
:俺もはじめて知ったわかわいそう
:そんなん気にしたことなかったしかわいそう
「ご存知の通りゴブリンは最も突然変異を起こしやすい種と云われている」
:いや知らんけどw
:初耳ですが
:ゴブリンに限らず俺たちがいわゆる上位種とか呼んでるヤツらのことかな
:ああ
:なる
「
:カッパ!
:カパー!
:まじ⁉︎
:てか河童いんの⁉︎
「最も恐ろしい突然変異を遂げたゴブリン種は、身も心も邪悪に魔法的進化を遂げた〈
:いや近づかないようにって
:どうすりゃいいの?
『さて』
:おおい!
:ちょっと⁉︎
:話を変えようとするな!
:どうすりゃいいか言ってからにしろ!
『そろそろ戦闘を始めていこう。ただグリーンホーンじゃつまらないので別のを探す』
:うわすでに倒してた
:いつの間に
:蹴っ飛ばして終わったな
:なぜ逃げなかったグリーンホーンw
:草
:あ
:え
:ヒトダマンなにそれえー
:ふぁ⁉︎
:人魂⁉︎
ヒトダマンの両サイドに赤と青の火の玉が浮かび上がり、奇妙に揺れている。
:スキル?
:どうだろうわからん
:ヒトダマンの仮面はちゃんと由来があったんだな
:えーヒトダマンも魔人だったってこと?
:まだわからんだろ
:別にデモニックだっていいだろ
:テイムしたモンスターの可能性も微レ存?
:ないな
:ないんかい泣
:ずっと言われてはきたけど成功したやついないし
:でもウチにはスライムがいる
:は?
:はぁ?
:嘘つくな
:ウソつくな泣
:家庭訪問します
:なあ、人魂に顔ついてね?
:いや、うーん……
:たしかにそれぞれ丸三つと長方形三つが顔っぽく配置されてるが、顔なのか?
:もっと正面からじっくり映してほしい
:モンスターである可能性があがった!喜
:どういうものにしろ、やっぱ炎系なんかな?
:超高レベル帯の炎使い?
:あれ?
:もしかしてヒトダマンて英雄の関係者?
:火剣!
:謎に包まれていた火剣のパーティメンバーか⁉︎
:なかなかのイロモノ感
:しかし解説はしてくれない
:うおおお泣
『モンスター発見。あれは……〈
:ていうかマジで何階層にいんの?
:40や50じゃないよな
:知られてるメインのルートからかなり外れてるんじゃないかな
:あー、ルートによっては40や50階層でもトンネル・トロールに遭遇するってことか。やばっ
:来た来た
:フ──ッ
:どんなんかな
:ワクワク
:接敵!
:やっぱ火魔法か⁉︎
:人魂わし掴み!
:投げた────ッ!
:ぶつけた────ッ
:ええええっ⁉︎
:ドッヂボールかな? ただし常に球はこちらのものとする
:ジャンプアタックぅぅぅ──ッ!
:ハンドボールかな? ただし常に球はこちらのものとし、二つあるものとする
:すでにトロールの全身は変形するほどボコボコなんですが
:しかし彼は食べることを諦めなーい
:食欲の権化
:ああ──っと?
:ただし常に球は二つありこちらのものとし、爆発するものとする
:これはヒドいw
:人魂ちゃんにヒドいことしないでっ泣