ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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 学校に通うようになってひと月半。

 廊下で、すれ違いざまFクラスの生徒が突き飛ばされているのを目撃した。

 

(バカ)クラスはハシを歩けって言ってんだろぉがよ」

「ったく、ザコが」

 

 そんな一連のやり取りを眺めていると、セワシに声をかけられた。

 

「なにしてるの?」

「んー、あれ」

「……珍しくもないでしょう?」

「ま、そうなんだけどね。……雑魚だってさ」

「うん」

「ゴミよりは上等だろうって言ってきていい?」

「ななな、ダダダダダダダメに決まってるでしょっ⁉︎」

「そう?」

「そうだよ!」

「……そうかな?」

「そうなのっ!」

「ふーん、ざーんねん」

「もう、からかわないでよ」

 

 なんでああなのか聞けば、当然のようにセワシが答えてくれる。人差し指を立てて澄まし顔で。

 

 学園は上流階級と一般が共に生活する特殊な場所である。

 AやBクラスに所属する生徒はすべて上流階級の家、〝高市民〟と言われ、学園でも一般人とあまり一緒にならないよう配慮までされていて、そういう彼らは一般人に会っても基本無視である。

 

「無視というか本当に意識にも引っかかってないというか、引っかけないというか……」

「なるほど」

 

 まさに、アウトオブ眼中。

 しかしそれは、高過ぎるプライドゆえに、Fクラスを視界に入れることすらダサいとして、相手にしない、無視を決め込んでいるというワケだ。

 だからFクラスに絡んでくるのは〝上の中層(アッパーミドル)〟と言われる階級のCクラス以下のヤツらなんだとか。

 

「上流階級や上中層階級の生徒たちは、学園に入る前から都市の防衛に関わってきたんだ。もちろん前線に出されるようなことはないんだけどね」

 

 彼らは自分たちこそが都市を守ってきたという自負がある。

 探索においても一般探索者とは文字通り階層(レベル)が違う。

 十に満たない頃から相応の教育を受け、エーテル値を伸ばしてきたのだ、そりゃ差が生まれないはずがない。

 外部受験組のFクラスだって卒業後は同じくらいの探索経験を持つ一般探索者と比べてみるとずいぶん開きがあるとわかる。そもそもFクラスといえど優秀な成績で受験を突破した者たちなのだ。

 その優秀な生徒たちであるFクラスに対して、その他のすべてのクラスがすでに十年、キャリアに差をつけている。

 

「たとえばアッパーミドルの人たちは、自分たちは危険を冒しダンジョンの攻略にあたっているのに、一般探索者は安全に小金を稼いでるという意識があるんだ」

「役割分担でしょ。一般探索者の多くが鉱石やモンスターの素材を持ち込んでいるから都市の運営に障りが出ないわけで、だからこそ攻略組(フロントライナー)はダンジョン深層に集中できる」

「そう思えない人たちがたくさんいるんだろうね。特に〈陰影〉は一般探索者の活動領域にも出るし、貴重なポーションやスキルオーブが出ることだってあるから。それらは本来自分たちが手に入れるはずだったもの。横から掻っ攫われたという認識が働くんだと思うよ」

「はーん……ん? 禁制物兄弟は? 上流も上流、これ以上ないってくらいの上流だろ? なんであいつらFにいんの?」

 

 セワシはこてんと首を傾げた。

 

「さあ?」

 

 

 

 

「さあ?」

「さあ?」

 

 イリヒトとヒビトがそろって首を傾げた。

 

「知らねーの?」

 

 昼休み。

 なんだかんだ仲良くなった禁制物兄弟とセワシと一緒に教室で飯を食いながら話す。

 ヒビトの赤い坊主頭をジョリジョリする。

 

「やめろっ。知らん」

 

 目を向けた先のイリヒトも首を横に振った。

 

「知らん。俺ら二ヶ月前まで防衛軍の士官学校にいたんだよ」

「へー」

「で、突然親父に『お前ら探索者学校行ってみるか?』って言われて」

「それで?」

「じゃあ行くって」

「あ、俺もって」

「軽いなぁ。なんで急にそんなこと言うのか気にならなかった?」

「士官学校は規律規律の全体行動で、合わなかったからな。なんでもよかった」

 

 イリヒトはそう言って牛乳のビンに口をつけた。

 

「ああ。その点ここは面白いよな。学生ランキングに決闘制度」

 

 ヒビトが紙の包装から取り出したサンドイッチでこちらを指して笑う。

 

「お前ら姿が見えないと思ったら、ケンカ吹っかけて歩いてたワケ?」

「ケンカじゃねえの。ちゃーんと学園側が認めたルールを活用してんの」

 

 学年ごとの総合的な成績順ランキングと、『探索者ランキング』と呼ばれる一部大学部生を含め、学年の垣根を超えた探索者としての実力順ランキングがある。

 探索者ランキングの決闘結果は当然、成績にも反映されることとなる。

 成績順ランキングの方はほぼクラス順といっていい。

 おれたちの学年には150人の生徒がいてFクラスは125位から最下位までに収まっていたんだが──。

 

「なななな70位⁉︎」

 

 セワシがのけ反った。

 

「もうCクラスの順位じゃないですかっ」

「ただケンカ吹っかけたんじゃいろいろ言われて決闘に持っていけなかったりするんだよな。でも上級学年の廊下を偉そうに歩いてたりすると向こうから絡んできてくれる」

「そうそう。上級生とやった方が楽しそうだったし」

 

 決闘といっても学園側が許せばさまざまな方式での決闘が許される。

 一撃死ルールや攻守の決め打ち。タイムアタック、集団戦、場合によっては代理を立てることも可能らしい。

 その場で成立、すぐに移動して決闘、もあれば、改めて時間と場所を決めてという場合もある。

 有観客をアナウンスすることも。

 

「何度か放送が流れてたのは知っていたけど、もう70位なんて」

「流れてたんだ?」

「あろうもやってみろよ。楽しいぜ」

「あろうは何位にいるんだ?」

「ん? ちょっと待って」

 

 携帯端末をいじる。

 

「うん、150位だね」

「最下位じゃねえかっ」

 

 

 

 

 

 

 

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