ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

14 / 28
生産職、たたかいまぁーす!

 

 

 

 

「クラスのみんなと違って試験とか受けてないし、遅れて入ったし、完全なるコネ入学だしね。あ、だから二人もFクラスだった?」

「おー、ありそう」

「かもな」

「それよりいいのかよ、最下位で」

 

 ヒビトに頷く。

 

「べつに構わない。そもそもおれ生産職だし」

「ウソつけっ」

「嘘だー!」

 

 ヒビトとセワシに叫ばれた。なんだよ。

 

「そりゃ無理があんだろ」

 

 イリヒトに呆れられた。なんだよ。

 

「なんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 いつものように、ダンジョンのメインルート──大導路と呼ばれているらしい──を外れて進み、エドワードと念話を繋いだ。

 

「エディ。転移門(ポータル)を」

 

 ──はい。転移門、起動。

 

 その辺を走り回っていたオコジョとミーアキャットが俺の腕と脚にひっついた。

 おれたちを囲って光の柱が立ち昇る。

 光が回転を始め、風を巻いて球状になったところで、フッと浮き上がる感覚があり、気づけばもうそこはおれたちの砦の中だった。

 

『おかえりなさい。あろう』

「うん、ただいま」

 

 蛍光緑に光る養液に満たされた巨大水槽。金魚鉢みたいな形のそれを見上げて言葉を返す。

 ひと抱えもあるパイプや配線が床にのたうっている。

 それらはいくつもの部屋へと伸びて、魔導機械装置やまた別の水槽に繋がっている。水槽には強力なモンスターの生体組織が浮かび、死してなお、生前の力の一端を発し続けている。

 中にはアポとウォーダンの(からだ)も含まれる。その部屋に連れていくと興奮して飛び回るため二体は立ち入り禁止だ。

 

 一際、天井が高い図書館のように広い書庫。

 棚はわりと空っぽのとこが多いのだけど。

 その部屋の中央に大樹の如き白い柱。実際にそれは大樹を模している。ただし、骨のように白い幹に枝葉のように茂っているのは、透明なケースの数々。遠目にはモザイクがかったように見えるそれは、展示物よろしく大小様々な物品が安置されている。中には〝人魂〟を模したようなフルフェイスも。

 この大樹の名称は『インベントリ』。

 ここに収めた物品を自由に手元に引き寄せ、また送り返すことができるアーティファクトだ。

 

 アポとウォーダンをぽいぽいっとその辺に放り投げておれは工房部屋に入る。

 耳の裏に装着していた『耳環(イヤーリンク)』を外して、魔法陣輝く台座に置く。

 台座から伸びる湾曲した金属の首の先についた水晶玉に光が灯り、左右のアームがむぃんむぃん動く。

 エドワードが『耳環』の改良を始めるのをよそに、おれは上着を脱いで別の作業台に向かう。

 

『モンスター〈思考追い(ソートシーカ)〉の生体情報を元に、【精神追跡機能(マインド・トラッカー)】を増設します』

「あいよ。これで地上でもお前と念話が繋がるんだな?」

『はい。意図的に妨害(ジャミング)を仕掛けられたりしなければ。地上に出たら試してみてください』

「りょーかい」

 

 壁際の置き台に『回転式拳銃(リボルバー)』が三挺、四角くゴツい銃身下部を支え、把手(グリップ)が握り易いようこちらを向いている。

 そして、目線の高さの壁、【霊気障壁(エーテル・バリア)】の向こうに、横向きに立てかけられているリボルバー。三挺の元になった拳銃。

 アポ(敵)が腰に提げていて、銃ではなく『杖』と言っていたモノだ。

 そしてウォーダン(敵)の最後には、おれが持つ『杖』に手を伸ばし、『神の左手』と呟いていた。意味は不明。

 そもアポ(敵)とウォーダン(敵)は別々に現れたのに繋がりがあるっぽいのも謎のまま。

 おれたちの錬金術の知識の基は、ウォーダンの(ボディ)からエドワードが吸い出した知識で、エドワードからおれに渡された知識だ。

 読み取れた情報から推察するに、ウォーダンにはメッセンジャー的な役割があったのではないかとエドワードは言った。ただ嘘が多いため正確なところはわからないとも言う。読み取った情報なのに嘘が多いとか意味がわからない。

 

 おれのいわゆる〝魔人(デモニック)〟のチカラは精神系に傾いている。

 エドワードは器物からの読み取りはできなかったので、おれが『杖』に対してサイコメトリーを試みたが、読み取れたのはわずかだった。

 誰かが話している声。残留思念ゆえなのか、言葉自体はわかった。ただ固有名詞と思われるものはそのまま音として聞こえるようで、意味のわからないものも多かった。

 いくつかの音をエドワードに解析を頼むと、「螺旋」「神殺し」「翼」「水星」「混沌」かもしれないという。

 そんななんとも曖昧ななんやかんやがあり、水星からの連想でアポロンとヘルメス。ちょっとひねってアポとウォーダンの名前をつけた。

 で、『杖』の方はエドワードと相談の結果『カオス・カドゥケウス』とした。ちょっと〝ちゅうに〟が過ぎるかもしれないと思ったけど、エドワードがそれくらいでちょうどいいと言うし、つらつらとアポとウォーダンに話して聞かせた時も抵抗するような素振りはなかったので、まあ良いのだろう。たぶん。

 

 ちなみにエドワードの名前は彼が自分で付けた。

 契約の際におれの記憶を参考にしたと言うが、エドワードに〝富を守るもの〟という意味合いがあるなんて知らなかったんだけど?

 

 三挺の回転式拳銃(リボルバー)は『カオス・カドゥケウス』を参考に、アーティファクト制作の技術向上のために作りはじめた魔銃だ。改良に改造を重ねまくって、もはや趣味。しかしそれでも『カオス・カドゥケウス』にはぜんぜん及ばないのが悔しいところ。誰やねん作ったヤツまぢで。出てこいや。

 

 

 

 

 手のひらにリスとハリネズミを乗せて元のダンジョンの通路に戻ってきた。

 地上でエドワードと念話が繋がるか試すため、さっさと戻ることにする。

 枝分かれする道。見上げる位置にぽっかりと続く道。切り立った崖にへばりつくような隘路。

 三挺のレプリカの中で最も素直に写しとして作製した『映輝(ラストラス)』で、モンスターを撃ち落とす。魔銃として一番威力は低いが、弾丸への細工でエーテルの消費を抑えつつ、威力を底上げできるのが銃の良いところ。逆に言えば使用者のエーテルを攻撃に転化し難いとも言える。

 しかし探索者たちにあまり銃の使い手がいない理由は、まさに湯水のごとくお金が流れ出ていくという点に尽きる。

 

 〈グリーンホーン〉や〈スティールバット〉を撃ち落とし、中折れ式のヒンジを開放、全弾排莢ブレイクアウト、右手に握り込んだ6発をチャチャチャと装填。

 忍び寄ってきていた〈グレムリン〉共を撃ち抜いた。

 

 妖精と鼠と羽虫を掛け合わせたような悪魔的なモンスターの〈グレムリン〉は、銃を含め機械的な物に寄ってきて食い荒らすなかなか厄介な怪物だ。

 

 再びブレイクアウト。今度は直接『インベントリ』から弾薬を召喚装填。

 軽いステップで後ろに下がると、グレムリンが視界を横切る──1撃、まず1匹。

 無造作に前進しながら2撃、3撃、4、5、6。最後に思いっきり頭を蹴り上げて戦闘終了。

 

 またしばらく進んでいると、珍しく他人の気配がした。まだだいぶ外れたルートにいるのに。その上、ダンジョン探索には似つかわしくない笑い声が聞こえてきた。

 

 おれは腰に落としていたホルスターを引き上げ、銃が心臓の前にくるよう固定、懐中(ふところ)に隠してジャケットをパッパと直した。

 銃を使う者は少ないが、銃を欲しいと思う者は多い。

 

 

「ハッハハハハハヒ」

一般人(パンピー)がナメてっからよぉ」

「ウケる」

 

 すぐに若い探索者パーティに行き合った。

 ニヤけた顔と見下した顔が一瞬こちらを向いたが、そのまま通り過ぎて、またバカ笑いが聞こえてきた。

 

 おれは耳裏の『耳環(イヤーリンク)』を操作して、ガルムヘルムを展開、装着した。

 異常音を探知。

 ヘルムの赤いディスプレイに方向が示される。

 

「マップを」

 

 視界にポップアップした色分けされた地図を入り口から数えつつ、留め具をパチリと外して胸元のホルスターを腰に落とす。

 

「9階層」

 

 大した深さじゃない。しかし切羽詰まった怒号や悲鳴が異常を知らせていた。

 すでに走り出している。

 干戈を交える連続音。

 怪物の咆哮。

 警戒はしつつも、そのままおれは洞窟から飛び出した。

 

大鬼(オーガ)!」

 

 こんな浅いところでっ。

 奇妙に明るい空間。拓けてはいるが、入り口側以外は切り立った崖──9体のオーガ。

 3mを超える小山のような力士体形のオーガども。

 そして5人組パーティと思われる探索者たち。

 が。

 低く呻く。

 すでに死人が出ている。

 オーガの足の下で潰されている、人だったものがある。

 崖の縁に追い詰められている探索者たち。

 オーガは遊びのつもりなのか相対するのは2体のみ。他は見物するかのような雰囲気さえあった。

 本来、2、3体でつるむことも珍しいオーガだ。すぐ喧嘩になる。なのに9体の群れ。異常事態。

 

 ──あいつか。

 

 3m越えのオーガの中にあってひと回り小さい個体、そいつだけプロレスラーみたいな体形をしてる。

 変異体。いや、一般的には上位種か。

 あれが統率者だろう。

 

 おれは咄嗟に膝のバネを溜めて斜め右に跳ねた。

 背後、オーガが拳で地面を砕く。

 獲物を逃さないためか洞窟のわきにいたヤツだ。

 巨体に見合わない素早さ。が、おれはそいつを置き去りにして駆けた。

 遺体を踏みつけにしているオーガの背を駆け登り、まばらに生えた頭髪を掴んで後ろに引っ張る。

 

「オガッ⁉︎」

 

 オーガの顔を上から覗き込むような体勢で、ヤツの右目に指を突き入れる。それでも目玉を破壊することは叶わない。

 指を引っ掛けて無理やり目蓋を開かせ、銃口を押し当てた。

 驚愕と憤怒の相貌。

 おれを引きずり下ろそうと腕を上げるオーガより、単純に銃爪(ひきがね)を引くおれのが早い。銃弾を撃ち込みつつ跳躍。6発でオーガの後頭部が弾けた。

 

 オーガが次々と興奮に叫ぶ。

 

 着地──排莢──銃弾の再召喚(リロード)

 すべてのオーガはおれに気を取られている。この間に探索者たちは体勢を立て直すなり、オーガに不意打つなりして欲しかったがムリか。彼らも突然のことに固まってしまってる。

 

 叫んでるオーガの目、口、喉に2発ずつ。雄叫びが途切れる。

 探索者パーティの前に陣取って叫ぶ。

 

「撤退準備!」

「は、はい!」

 

 彼らの革鎧はいずれも用を成していない。

 男2人、女2人。

 ぐったりと後ろから抱えられている女性はもう、息がないように見える。

 仲間を守り、オーガの攻撃に耐えていた血まみれの盾持ちは、左手で盾を保持するのがやっと。右腕に至っては千切れかかっている。のたうち回っててもおかしくない。

 

 ちらりと確認を終えると、おれはインベントリから『水薬(ポーション)』を次々と引き寄せた。

 オーガを見据え、射撃を繰り返しつつ、念動力でポーションを浮かせて探索者らに振りかけ、「飲め!」と言って小瓶をそれぞれに放る。

 

 エドワードが【鑑定】した情報が赤いディスプレイに立ち上がる。

 

熱狂(オージィ)オーガ〉

 エーテル値/40000

 

 数値だけで結果は決まらないので一概には言えないが、数値の上では探索者パーティとオーガ一体で釣り合いが取れている。

 準備をしっかり整えてからなら、一体を安全に狩ることもできる実力が探索者パーティにはあった。

 

 上位個体が奇妙に吠えた。

 

「オッ、オッ、オッ、オッ、ガァアアアザザザザァアアア──ン゛ッ‼︎」

 

 光の粒子が立ち昇る。魔法のエフェクト。

 色の付いた風がオーガにまとわりつく。

 狂ったようなオーガの絶叫が重なった。

 

 鑑定結果に〝暴徒化状態〟が追加。

 エーテル値が5万近くを行ったり来たり。

 能力が20%ほど強化されたと見る。

 20%支援(バフ)なんて破格もいいとこだ。

 

 上位個体の鑑定結果には〈オーガ増強者(オーグメンター)〉。

 エーテル値は15万。

 ジョブ持ち。〈煽動者(インスティゲータ)〉。

 

 物理に特化する傾向のある〈大鬼(オーガ)〉には珍しい魔法の素養。

 どう考えても9階層にいていい奴らじゃない。

 

 撃った。

 オーガ全員の眉間に銃弾を叩き込んだ。

 パラパラと潰れた弾丸が地面に落ちる。

 オーガは──無傷。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。