こちらの攻撃が効かないとわかり、〈オーガ
オーガどもがこちらに向かってくる中、排莢、装填、射撃。
今度はオーガの眉間をぶち抜いた。
【魔法的防御貫通の弾薬】──通称、スパム弾。
オーグメンターの表情が固まる。
おれはなんでもないような顔をして排莢、再装填。
しかし内心では小躍りしていた。
よ──し! オーガの防御を抜いた! フッフーッ。
ダメなら大火力で粉砕するしかなかった。『
これ以上の敵になれば、防御を貫通したとて、そもそも銃弾で仕留めることのできない怪物も多いだろうが、それはまた考える。
そして今。
探索者たちを背に庇いつつ移動を続けたことで、入り口──たった一つの脱出口でもある──に辿り着いた。
仲間に肩を貸して歩く探索者の若い男がじっとこちらを見ているのがわかった。
おれは後ろ手に早く行けと手を振った。
彼はそれでも数秒こちらを見ていたが、やがて離脱していった。
さて──と。
「
◇
ダンジョンを抜け、地下街に出た。『下街』と呼ばれる区画のさらに下だ。
地上の施設に出る大型搬入路の大エレベーターは乗るだけで結構なお金がかかるが、こっちはそういうこともない。迷うけど。『ガルムヘルム』をしてればそんなことにはならないが、あまり周囲に見せたい装備じゃない。
地下街はとんでもなく広く、天井もとんでもなく高い。
素材の運搬があるためだろう通路はかなり余裕を持って作られている。
どこかイベント会場を彷彿とさせる。ブース出店の展示会のようなアレだ。もちろんあんな洗練されたものじゃない。アレより遥かに雑多、で年季も入っているし。
中央を吹き抜けにし、2階、3階、4階と多重構造に工事現場の雰囲気。
ここには浮浪者のごとく住んでいる者もいるみたい。
比較的きれいで良い位置には企業のブースが並び、その他に個人経営の出店ブース。たとえばそこに装備のクリーニング屋があるし、研ぎ師、見習鍛治、質屋、やたら安い食い物屋台、情報屋、荷運び、葬儀屋、探索クランの出張所、訓練場、浴場、医療施設、警察組織である郷土防衛隊詰所などが見られる。
ブラブラと地上に向けて歩いていると、声をかけられた。
「あっ、キミ!」
知らん顔して通り過ぎようとしたのだが、目の前に回り込まれてしまった。
「待ってくれ! さっきは本当にありがとう!」
彼はそう言って深く頭を下げた。
さっきの探索者パーティの一人だが、あの時おれはガルムヘルムを被っていたので顔はわからないはずだ。
「なんのことです? 人違いじゃないですか?」
「いや、人違いじゃない。確かに顔を見たわけじゃないが、格好は同じオーバーサイズのミリタリージャケット。おそらく、その懐中(ふところ)の銃が何よりの証拠になるんじゃないか?」
よく見ている。
最後にじっとこちらを見ていたのがこの人だと思うが。
彼らにしたらあの切羽詰まった状況でよくもまあ、とひとつ嘆息する。
「目ざといね」
「それが俺のパーティでの役割でもあるからね」
彼はそう言って一瞬、自嘲気味に笑った。
斥候でありながらパーティを危険に飛び込ませてしまったことを悔いているのかもしれないと、チラと思った。
「で、おれのフトコロに本当に銃があると思う?」
両手を広げて見せる。ジャケットの前は閉めているし、外から銃が見えることはゼッタイない。
「ああ、ある。ジャケットの厚みで膨らみなどの違和感は見てとれないが、重心が少し傾いている。おそらくあの銃、ヘタな剣より重いんじゃないか? まあそういった推測も、キミが銃を使っていると知っているからこそだけれどね」
「うーん、本当によく見てる」
優秀だ。と思ったがそれは口に出さなかった。今の彼には皮肉にしか聞こえないだろうと思った。
「それで、ケガはいいの?」
「ああ。俺含めて3人、生きて戻って来れた。他の二人は今病院だ。俺はキミを探していたんだ。助けてくれて、ありがとう」
そうか。女性は助からなかったか……。
「うん。わかった。お礼は受けとった。んじゃあ、お元気でー」
「いやいやちょっと待って⁉︎ 俺たち3人で改めてお礼を。それに貴重なポーションを何個も使わせてしまったんだ、何かしらの補償もさせてほしい」
「ええー? いいよ」
「そう言わず」
「つってもなぁ」
「とりあえず今日のところはメシでもどうだろう? うまいとこ知ってるんだ」
「まーそこまで言うなら?」
「よし。行こう行こう」
「やはりキミは学園生か」
「そそ」
「エリートだ。どうりで強い」
「Fクラスだけど?」
「ごめん、学園について詳しくないんだ。Fクラス?」
「成績順の一番下。主に一般の外部受験組って言われる生徒で構成されたクラス」
「なるほどね。でもキミ手を抜いてるだろ?」
「いきなりなによ?」
「あの戦闘を見て〝下〟はないよ。じゃなきゃ評価の仕方がおかしいんだ」
おれはおどけて肩をすくめた。
「なるほど評価システムがおかしいんだな」
「おーい、なんも言ってませんがー?」
今田瑛は微笑んだ。
「俺はてっきりキミが探索者協会のエージェントかと思ったよ」
「はい?」
探索者全体を統括しているのは学園だが、中でも一般探索者の管理・サポートをしているのが探索者協会。
「受付や入場口の電光掲示板なんかで〈大鬼〉の警戒情報が流されてるだろ?」
「……あー、なんか……ちらっと見たかも?」
今田さんが苦笑しつつ、端末でウェブを開き説明をくれた。
なんでも防衛軍の前線攻略に際し一体の強力なモンスター、仮称〝赤鬼〟に遭遇した。防衛軍は一時撤退を余儀なくされ、以来、ダンジョンのあちこちでオーガの数と活動範囲の拡大が確認されるようになる。さすがに9階層なんて浅い場所での目撃情報はこれまでなかったようだが。
「あの辺りは『大導路』からずいぶん離れた場所だろう? だから協会のエージェントが確認に動いているのかと思ったんだ」
「なーる」
「違うならなおさら俺たちは幸運だったんだな」
「おれはその大導路に行くことの方が少ないから。今田さんたちは行ったことなかったの?」
「ああ、今日初めてあんな方に行ったんだ」
「なんで……」
あまり自分から聞くつもりはなかったんだけども、話の流れから訊ねた。
少し躊躇して、今田さんは顔を上げた。
「それが──」
パーティの集合場所に向かっていると、先に来ていた女性メンバーがナンパに遭っていたらしい。
一般探索者ではなさそうだったこともあり、女性陣はやんわりと断っていたが、あまりにしつこいようだったため、今田さんらが仲裁に入った。
思ったよりもあっさりと引いてくれたため、ホッとしつつパーティで探索に入ったのだが、ナンパ野郎たちは後をつけて来ていたらしく、さらにはよりにもよってダンジョン内で突然襲いかかって来たのだという。
「まーじんがー?」
もうガラが悪いってレベルじゃない。
聞くところによると、一般探索者の死亡率は思った以上に高い。
強くなることも目的の一つではあるが、最も大きなダンジョン探索の理由は日々の糧を得ることだ。安全に稼ぎながら、もしかしたら一攫千金を得られるかもしれない浪漫を夢見て危険に飛び込む。
そんな彼らは基本的に避けられる戦闘は避けるのが絶対。
モンスタートレインはマナー違反と言われながらもそこそこの頻度で起こっている。マナーを気にして死んでは意味がないから。だからトレインはマナー違反であっても犯罪ではないのだ。
命懸けの戦闘をそう毎回毎回繰り返すことなんてできない。そんなことができるのは本当に一握りだけで、強くなるまで生き残る者はさらに少ない。
一方で上層民にとってパワーレベリングは常識だ。命懸けの戦闘経験を安全に積むことができる。失敗したとて完璧にフォローしてくれる者がおり、物がある。そのための方法論が確立されている。一般人では到底手に入れること叶わないエーテルの値を、10代にして手にしている。
彼らの中には、遊びでトレインを一般探索者になすりつけるようなこともあり、一般の間じゃ気をつけるべき事柄として教わるらしい。……なんじゃそらと思うが、ダンジョン内のモラルなんてその程度ということのよう。
その時、どっかで聞いたようなバカ笑いが聞こえてきた。
企業ブースの入り口ガラス戸から見送られて出てきた若いヤツら。
ダンジョンですれ違った3人だ。うち一人は制服に着替えてる。あいつ学園生かよ。なんて思っていると、今田さんが飛び出した。
「おい、おい! おいっ! おいッ‼︎ お前らッ!」
「ああん?」
ヤツらは今田さんを一度、上から下まで眺めて言った。
「あ? 雑魚がなんだ」
「誰だよ。気安く話しかけんな」
「お前らのせいで……──2人死んだぞ!」
「はあ?」
「ああコイツあのパーティにいた奴だよたしか」
「ああ? 雑魚ってことだろ?」
「ああ、はいはいはい。大鬼ちゃんとのデートはどうだった? 楽しかったか?」
「お、まえら……それでも人間かっ」
「ふん、少なくともテメーら一般よりはそうだよ。そう社会が認めてる」
「雑魚がチョーシこくなよ」
「ぐ……」
「素直に女を差し出しゃヨカッタンダヨー?」
「お、そうだ今から見舞いに行ってやるよ、だこだおい?」
「彼女は死んだ──死んだんだよッ!」
「うるせえぞ雑魚!」
「あーあもったいねえ。あ? てかなんでオマエは生きてんだよ。あ。ああ、はいはいはい。オマエ女を囮に使って逃げて来ちゃったんだろ? ひどいねえー」
「ふざけんなよッ! お前ぇぇぇええええっ‼︎」
今田さんが1人の胸ぐらを掴んで腕を振り上げた。
「なに勝手に触ってんだテメエっ!」
叩きつけられるように地面に倒れ込んだのは今田さんだった。
その拍子に弾き飛ばされてきた今田さんの端末を拾う。
遠巻きにする野次馬が増えてきていた。
「ふん。おい行くぞ」
「雑魚がよぉ」
一人雑魚しか言ってないヤツがおる。
ツバを吐き離れていくにしたがい、またヤツらの笑い声が聞こえた。
「っ、くそ、……くそぉ……」
打ちひしがれ、嗚咽を洩らす今田さんに近づく。
やはり仲間を失ったことは相当に堪えていたようだ。
たぶんおれが気に病まないようこれまで努めて明るく振る舞っていたんだろう。
今田さんの目の前にしゃがみ、端末を差し出す。
「あ、ああ、ありがとう。すまない。みっともないとこを──」
「ねぇ……──」
──力が欲しいか。
…………なんつって。