ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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能く生きるための

 

 

 

 

 

 携帯端末に設定してあった通知が届く。

 

 ──『速報』赤鬼(仮)ノ【鑑定】ニ成功ス。

 

 仮称〝赤鬼〟の名は〈塵塚の怪鬼王(スクラップヒープ・オーガラクシャス)〝赤サビ〟〉というらしい。

 

 

 

 

 

 昼休み。

 端末をしまい、学校の屋上で禁制物兄弟と弁当を広げた。

 

「おまえらこの都市のトップの息子だろうが。上層民はどうなってんだ。学校内もそうだけど」

 

 あったことを話して聞かせると「ああー……」とヒビトが赤い短髪の頭を撫で、イリヒトが表情を厳しくした。

 

「ウチも一枚岩じゃねえってことだ」

「むしろ親父は命狙われてっからなぁ」

 

 ヒビトがぼやく

 おれはため息をつく。

 

「そんな感じかー」

 

 イリヒトが続ける。

 

「昔からの組の連中は義理人情や任侠をわかってるヤツも多いが、ここ10年でのし上がってきた新興の幹部連中は性質が違う。プライドが先行してより己の利益と権力を狡猾に求めてるように見える」

「そうそう。なのに古参連中は一度身内として受け入れたらなんだかんだ言いながら甘いからなぁ」

「血の繋がりなんかできたら特にな」

「そうだよなぁ。あと名付け親としての縁とか」

「ゴッドファーザーかよ」

 

 思わずつっこんでしまった。

 

「ジッサイ憧れてるオヤジどもは多いよ」

 

 ヒビトが明るく笑いながら言う。思い浮かべる顔があり、そういう人たちに可愛がられて育ってきたことが窺えた。

 イリヒトがうなずく。

 

「憧れはいいんだ。そこに付随する面倒ごとすらも憧れの内として受け入れることが格好良いと思ってるし、抱え込む気概がある。だが若い幹部は無軌道だ」

「年齢だけ見れば親父も若い方に入るんだけどなぁ」

「そこも不満の種なんだろ。歳の変わらない自分達の代弁者になってリーダーシップをとって欲しいのに、なぜ年寄りの側につくのか。とか、あるいは歳は変わらないのになぜこいつの下にいなきゃならないんだ、トップは自分でもいいだろう。むしろ自分こそが相応しい、とかな」

「はー、めんどくさいっスね」

 

 

 

 講義の合間にセワシにも話を聞いた。

 

「その若い幹部たちやその傘下を中心にした上流・上中層階級のプライドの肥大化は、古参の人たちの責任も大いにあると思うけどね。大きい声じゃ言えないけど……」

 

 パワーレベリング、トレイン、そんな言葉たちが現実の日常の中に当たり前のように入り込んでる。

 ゲームなんて知らない若い世代なのにどこか現実をゲームと混同している。

 ダンジョンや魔法、スキルなんてものがあるから仕方ない部分も多いとは思う。しかし、それだって人々の意識が影響してきたものだ。

 上の世代はあえて、ゲーム的な考えを通念として広めてきたのではないか。

 脅威がすぐ隣にある中で生存圏を確立しなければならない。

 そんな状況にあって強烈に引っ張っていってくれる存在は、多くの人々にとってありがたいものだったはずだ。未知の状況にすぐさま対応できる人なんて多くない。

 引っ張っていく方にとっても彼らは必要な存在だ。しかしおんぶにだっこで求めるばかりでは困る。時には死地に赴いてもらわねばならない。それは自らの意思でが望ましい。

 一部ゲームシステムのようなものが適用されたこの現実。いっそもっとゲームに寄せてしまおう。

 勇者や英雄への憧れを植え付けよう。

 そして自分もまた特別なんだという意識を育てよう。

 上は上なりの、下は下なりの、特別感というものがあるだろう。

 世界の終わりだと縮こまっていてはつまらないと、そう思わせることが肝要だ。

 

「そうして怪物への恐怖、死への恐怖、殺すこと殺されることへの忌避感を軽減してきた。ある意味〝終わった世界で生きる〟という事を説いてきたんだよ。ブシドーと云うは死ぬ事と見つけたりってね。たしかに特別感というのは根付いたと思う。けど、今では特に上中層階級の若年層は自分の力に酔ってしまってる」

「むしろ溺れてるのに気づいてないって感じだ」

「それくらい余裕が出てきたってことなんだろうね」

「元の願いを歪めて解釈するくらいには、考えるヒマができたってワケか」

「一般の人たちが接点がないゆえにそれほど気にしなくて済んでいる一方で、一般探索者が一身に嘲弄の対象になっている感は否めないよね。学校のFクラス然り」

 

 

 

 

 講義のあと、おっさん講師にちょいちょいと手招きで呼ばれた。

 

「あー、山田あろうくん?」

「はい?」

「君、『迷宮核』持ってない?」

「持ってないスねー」

「そうじゃよなぁ、そりゃそうじゃよ」

「こんぺいとうが欲しいんですか?」

「君、こんぺいとうと呼んどるの?」

「はい、巨人のこんぺいとう。略して巨こ──」

「──こんぺいとうということは、君、実物を見たことが、あー、あるんじゃね?」

「まー、そうですね」

「いいなー」

 

 相変わらず素直に欲望を吐露するおっさん講師だ。

 

「迷宮の階層ひとつひとつがダンジョンコアが元になってるんですよね?」

「そう言われておる」

「でも階層をくまなく探してもダンジョンコアが見つかったことはない」

「うむ」

 

 現実の地下にダンジョンが広がっているわけではないことから、今はダンジョンコアの中にダンジョンが広がっていると考えられている。コアの中にいるがゆえに、コアを見つけることは叶わないのだと。

 

「ただし例外が──」

「──うむ、『閉鎖迷宮』」

 

 他の階層に繋がることのなかった、できなかった〝底がある〟ダンジョン。その最奥にだけは、ダンジョンコアが存在する、らしい。

 ダンジョンから分離、新しく発生し、やがてダンジョンを拡張する新たな階層になるだとか、そのダンジョンを好きにいじくり回せる操作盤だとか、触れた者の願いを叶えるだとかいろいろ言われている。あと、超能力を得られる、とか。

 

「ダンジョンを弄れるというのはどうやら本当らしいの」

「へー」

 

 そんな情報どっから手に入れたのやら。

 

「もし安全なダンジョンで米や野菜が作れて、家畜を育てることができたら食糧の不安はだいぶ軽くなりますね」

「そうじゃの」

「個人が手にするのは無理がありますね」

「そうじゃの」

「この街を出て隠者にでもなります?」

「無理じゃの、2日で死ぬ」

「じゃ、ムリですね」

「はぁ~、この辺に迷宮核落ちとらんかの」

「ここに落てたら他の階層と繋がって新しいダンジョンの入り口になるだけじゃ?」

「はぁ~、スキルオーブくんない?」

 

 このおっさん講師、教授だそうだ。

 

 

 

 

 

 足は地面を噛んでゆらりと。

 四肢は無駄なくしなやかに。

 ヘッドバンドの陰の黒い瞳が白く発光する。

 髪は揺れる炎に変わる。

 ゆるく構えられた猛火の刃。

 一瞬で、爆発的な加速を見せて、風に煽られる炎の音に先んじて、一刀が〈大鬼(オーガ)〉の群れを斬り刻んだ。

 オーガが通路を飾る松明のように燃え上がる。

 

 直前まで危機に陥っていた探索者らは、今やキラキラとした目を〝火剣〟に向けて歓声を上げた。

 

 

 

 

 

 

『地下8階・迷宮チャンネル! はじ、める、ZEぃっ!』

 

 

 

 

 

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