「ヘイ、ヘイ、ヘーイ。地下8階・迷宮チャンネル! はじ、める、ZEぃっ! あ、俺だZEッ?」
:待ってた
:ZE
:きちゃ
:待ってたZE
「今回、まずはみんなも知っての通り、特別警戒情報からだYO。ついに判明した仮称赤鬼! その名も〈塵塚の怪鬼王〝赤サビ〟〉‼︎」
:やっぱネームドだったな
「【鑑定】を成功させた
:なかなかおどろおどろしいというか
:般若的なお顔をしてらっしゃるよね
:杣草真て名前出とるけど有名なん?
:ニンジャ
:そこそこ
:けっこう
「オーガの数が増えてるとの報告もあるZE。かなり浅層で遭遇した事例もあるからNE、みんな気をつけろYO」
:攻略クランが浅い層でのオーガの掃討を始めたようだが、減らねーって言ってた
:やっぱ原因と思われる赤サビを倒すしかないかもな
:流れぶった切るけど、オーガに追われてるところを火剣に助けてもらったった。感動した!
:まじかよ!
:え、待って。火剣が戦うとこ見たってこと⁉︎
:感動した!
:いいなぁ
:助けられて喜ぶな!
:おお、どした?
:助けられたら喜ぶだろ。助けられたんだから
:言い方はアレだが、まあそうよな
:喜ぶな!
:どうせーっちゅうの?
:恥じろ!
:ええー……
:助けられた不甲斐なさを恥じろ! 悔いろ! 死ね!
:死ねって言っちゃった
:死ぬほど訓練して軟弱な精神を叩き直せ!
:言い直した
:なんかコメ欄にアツい漢がおる
:女かもしれんだろ
:女でも漢なんだよ
:イミフ
「火剣の戦闘はZEヒ俺も見てみたいが、今は〈大鬼〉の話を続けるZE。数もさることながら、上位種〈増強者〉や〈鉄鬼〉の存在もあって徐々に〝赤サビ〟に辿り着くのも難しくなってきてるYOだ」
:火剣が動いたんだろ?
:おお! そうか
:火剣がやっちゅけてくれりゅ⁉︎
◇
「無理」
大衆食堂の喧騒の中、ケンセーにオーガ倒すの? と聞いて返ってきた答えがそれだ。
「オーグメンターとアイアンオーガが揃うと、【
いややろうと思えばやれるんだよ? 余裕だよ? ホントだよ? と無駄な言い訳をかましてくるので無視してメシを食う。
「ま、軍や高市民の攻略クランがなんとかするだろ。普段あんな偉そうにしてんだからよ。俺は地上の一般市民に被害が出ないならノータッチだ。探索者は自己責任。居合わせりゃ助けもするが。これまでの対応と基本変わらねえよ俺は。お前は?」
「この薄っぺらいカツレツがなぜこんなにもうまい?」
「そんなこと聞いてねんだよ」
「おれは学生だぞ」
「ま、いいか。それはそうと、覚えてっか?」
「なにを?」
「終末トラベラーズだよ」
「あー、ダンジョンじゃなく〝外〟に探索に出るってアレね」
「一ヶ月後を目処に準備しといてくれ」
「ん。わかった。にしても、みんな火剣火剣言うわりに、だれも気づかんね」
「まあ、探索の時はヘッドバンドで髪上げてるし、だいたい炎に変わってるし、こうして髪下ろして火ぃ使わなんだらまず気付かれねぇわな」
「謎に包まれた私生活。実は普通に生活してましたと。おまえがもっとイケメンならみんな気づいてくれたかもな」
「うるせえ」
「ていうか、フツーにスルーするとこだったけど、髪が炎に変わるってなんだよ。チカラを火に特化してくとそんなことになるワケ? なんでハゲてねーの? せめてそこはアフロだろ」
「炎に変わるんであって、髪が燃えてるわけじゃねーの、わかる?」
「ほーん」
「お前が聞いたくせにそのムカつく反応!」
「あらパパ。奇遇ね」
横合いからそんな声が聞こえ、顔を上げた。
おれをパパと呼ぶのは一人しかいない。案の定、新川千果がそこにいた。
友人らしき女の子たちを連れている。数人が席を取りに行き、残ったのはセンカともう一人。センカに比べだいぶ大人っぽい女性。
「ぱ、パパ……だと?」
ケンセーが驚愕の表情を浮かべていた。
「いや違うし」
「帰って来て早々、手が早いってレベルじゃねえぞ。すでにこんな子供がいるだと⁉︎」
「だから違うってーの」
「え? パパ活?」
「ぶっとばすぞ。この子は千里の──」
「加賀利さんもこんにちは」
センカはごく当たり前のようにケンセーに挨拶した。
「おう、千果ちゃん久しぶり」
「面識あんのかよ……」
「当たり前だ。お前の暮らしてる寮のおばちゃん俺の親戚だぞ。千里に相談されてあの寮を紹介したのだって俺だ」
「はぁー……」
「まあお前がパパだったとは知らんかったが」
「パパじゃねー」
「往生際が悪いわよ? パパ」
「あのね。おれの体感はともかく、20年ぶりにダンジョンから出たの。中学生の子供なんて作りようがないでしょうが」
「パパ、死にたいの? あたしはハタチよ」
「え゛?」
今の世の中、見た目はあまり意味がない。ダンジョン内での活動が多い者ほど老化が停滞するという事実を失念していた。
「センカって探索者なの?」
「そうよ。だから20年なら間に合ってしまうのよ」
「間に合ってしまうな」
ケンセーも乗っかってきやがる。
「間に合ってしまおうが違うからな?」
「…………甲斐性なし」
センカの後ろから女性のつぶやきが飛んできて、おれは謎の大ダメージをくらうはめになった。
◇
寮に帰るおれとセンカは連れ立って家路を辿っていた。
「なんでケンセーの方はさん付け苗字呼びなのに、おれはパパなのさ」
「あー、あっそうだママが帰ったんなら顔くらい見せなさいって」
「おれは久しぶりに帰郷した息子か」
「そこは夜中に帰ってきた旦那じゃない?」
「なんでだよやめてください」
「ママ、探索者協会で働いてるから」
「ふーん、まーわかった」
「…………この街の人って、上にいくほど殊更にエーテルを顕示するでしょう?」
エーテルによる暴力であり強制的精神作用でありデバフである【
「小さい頃ママのお仕事が終わるのを協会で待っていると、ちょくちょく
この時期の星空と夜風の心地よさは昔とちっとも変わらない。
センカは静かに語り続ける。
「そしていつの間にかいなくなってる。散った桜の花びらが、今もうきれいさっぱり世の中から消え去っているように。その一連の流れが自然なことだと言わんばかりに…………理不尽を撥ね返せるようになりたいと思った。あたしが撥ね返すんだって。でも、そういう意味じゃあたしはあの頃となにも変わってない。実力差がわかるようになって、むしろ臆病になったかもしれない。周りからは酷い話しも聞こえてくるし」
「……」
「でもパパと初めて会ったときは全然違う感じだったのよね。エーテルを押さえるでも叩きつけるでもない。友だちから感じる温かさとも違う大きな安心感のようなものがあった。ああ、もう大丈夫って思えるような」
長いこと人と関わってこなかったせいか意識してなかったが、精神系に偏ったおれの〝
感情にも反応するエーテルの基礎的運用法には、【威迫】のようにマイナス面に感情を揺さぶるものもあれば、プラスに作用させる方法もある。ただマイナスは悪い、プラスの感情は良い、とも言い切れない。
たとえば疑念を増幅した結果、罠を見破ることもあるし、喜びの感情に満たされ、それを御しきれず足元を掬われるならプラスに作用してもデバフになり得る。
おれはもろにそのタイプだと思ってる。
世の中にはテンションが高まるに合わせてパフォーマンスも爆上がりしていく主人公みたいなのもいるが、おれは大コケするタイプだ。そういうのはここぞという時の一瞬でいい。だからおれはプラスにもマイナスにも振れずニュートラルというかフラットというか中庸でありたいと思っている。
そこで身につけたのが【
周りにも影響が出てるとは知らなかった。
それとも、センカが特別感受性が豊かということもあるんだろうか。
「それであたしは思ったのよ。これがもしかして身内ゆえの、パパゆえの安心感? と」
「最後でおかしなことになったな」