ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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セワシ

 

 

 

 

 

 学園の食堂で山田あろうと鎌仲兄弟が昼食を摂っている。

 山田あろうに関しては注文はせず、みかんを二つ持ち込んでいるのみ。

 セワシはトレーを持って彼らの席に近づいた。

 

「それでたりるの?」

「うん? ずっと一日一食だったからね。それにしてもなにかしら果物が手に入るシアワセよ」

「なんそれ?」

 

 ヒビトがけらけら笑う。

 鎌仲兄弟は二人とも2食分を並べてかき込んでいる。

 3人はずいぶんフランクな関係になった。

 最初は1人離れた席で昼食を摂っていた山田あろうだったが、いつの間にか鎌仲兄弟が傍で食べるのが当然のようになっていた。セワシも時間が合えば一緒する。

 Fクラスですら浮いた存在であった鎌仲兄弟にこれほど気安く話すのは山田あろうだけだし、鎌仲兄弟もこれほど気を許しているのは少なくとも学園では山田あろうにだけだ。

 それは3人の訓練風景を知っていれば余計に驚愕するものだった。

 セワシにはちょっと理解できない間柄。

 

 座学の講義は基本午前中に集中していて、戦闘教練は午後にある。しかしFクラスに関しては担任のやる気に比例するようにスカスカのスケジュールなので、多くの生徒はダンジョンへと向かう。

 学園の訓練場を予約するようなことはないし、そもそも枠が取れないという事情もあった。

 

 探索者のイロハを教える場所はなにも学園だけではない。街には引退した探索者が教える私塾なんかもある。ただあんまり目立つと上中層民が潰しにくるので運営はなかなか難しいらしい。

 そんな学園の外の訓練場で行っていた3人の特訓を、情報収集の一環にセワシはこっそり覗いた。

 訓練は苛烈と言っていいものだった。

 山田あろうが気絶した兄弟の腹や頭を蹴り飛ばして起こすこともあった。

 あまりにもあんまりなやりようにセワシは引いた。

 ヒビトがもう勘弁してくれと泣いているのを見たし、我慢の限界に達し突然殴りかかったイリヒトが泥の中で涙を流していたのも見た。

 それでも、2人は山田あろうに食らいついていった。強くなるために。

 

 あんな徹底的に痛めつけられて、その相手とわだかまりなく談笑できるものなのか、セワシにはわからない。

 しかしそんな3人の関係は、Fクラスの雰囲気にも良い方に影響を与えているようだった。わざわざFクラスに来て我が物顔でふんぞり返ってバカ話に興じる他クラスの生徒はいなくなった。

 Fクラスの生徒にとって少なくとも教室は今や安全圏と言ってよかった。

 

「午後からどうする?」

「おれは物欲教授に呼ばれてる」

「じゃあ俺らは決闘でも吹っかけに行くか」

「おう」

「あろうくん、僕も行っていい?」

「いいよ。物欲教授のことだからどうせ「君、コレ持ってない?」て言われるだけだと思うけど」

「物欲教授って」

「そういやあのひと名前なんての?」

星井忠実(ほしいただざね)教授だね」

「〝欲しいに忠実〟て、名が体を表しすぎだろ」

 

 

 

 

 

「山田あろうくん、君、スクロール持っとらん?」

「やっぱりねっ‼︎」

 

 魔法のアイテムを手にご機嫌の教授が雑談を始める中、セワシはこそっと山田あろうに「いいの? あげちゃって」と聞いた。

 

「恩は売れるときに売っておくさ。貸しを作っておいて損はない人だからね。そうでしょう? 教授」

 

 山田あろうは堂々と言い放った。

 

「うむ。わしがボケるまでは期待していると良い。それはそれとして君、ダンジョンの目的についていくつかの説がとなえられておるが知っとるかね?」

「そりゃまーね。侵略、遊戯、あとは人類強化だったっけ……?」

 

 山田あろうがこっちを見るので肯定してうなずいた。

 

「ふむ。それで、君はどう思う?」

「えーおれ? 知りませんよ」

「なにか思うところがあるじゃろ?」

「つってもなー。いやそれ考えんの教授の仕事でしょうが」

「いいからいいから」

「僕も聞きたいな」

「セワシまで」

 

 真剣な面持ちで見つめれば、山田あろうは後頭部をガシガシかき混ぜてから、口を開いた。

 

「うーん、引っ越し?」

「ほう!」

「いやー、夜逃げかな」

「ほっほぉー? 向こうに敵対の意思はないか?」

「さあ? たとえば向こうの世界が危機に瀕していたとして、ダンジョンを通して何でもかんでもこっちに誘導している、とか」

「〈陰影(スカドワズ)〉はどうか?」

「あれも極端な話、アイテムを歩ける形にして送り出す密輸方法か、あるいはダンジョン内で荷物を運ぶ負担を減らして、必要物資を受け取るための仕組み」

「面白いの。言うなればノアの方舟説か。地球が船。ダンジョンが大地と船を繋ぐタラップといったところじゃの」

「タラップ長すぎんだろ」

「すべてを運び出そうと思っておるならそうでもなかろ?」

「まー……、そうなのかな? 都市の遺跡や森なんかもあるし?」

「しかしそうなると肝心のダンジョン作った者らに一向に会わんのぅ…………」

「まーねー……。そもそも向こうの世界が危機に瀕してるかどうかどころか、向こうに世界があるかすらまだわからないし?」

 

 そう言いつつも、山田あろうの発言の節々からなにか確信めいたものをセワシは感じた。

 彼はどこまで知っているのだろう。

 

 

 

 

 

 突貫工事の野外ステージで歌い終えたセーコは、控え室のプレハブ小屋に戻るとセワシの姿に変わった。

 マネージャー役の同クランの男に向き合う。

 表向きバラバラに情報屋として街に点在する者たちの探索クラン『百目木(どうめき)』。

 実態が謎に包まれたこのクランは、一般にはニンジャクランなどと呼ばれることで疑惑を隠し、ただ一人、杣草真(そまそうま)という男が構成員として知られている。

 彼らは──異世界の住人だった。

 地域によってはモンスターとして扱われる〈百面相(シェイプシフター)〉の集まりだ。

 

「20年ぶりにダンジョンから帰還したという男はどうだ?」

「まだ底が見えません。さすがにダンジョン内まで尾行できませんし」

「できないか」

「すぐ気づかれるでしょう」

「そうか。火剣含め、ダンジョン攻略の糸口になってくれればいいが」

「はい」

 

 彼らは異世界の状況がどうなっているかほとんど知らない。

 戦力外として同族に有無を言わせず地球に逃がされた者たち。

 

「我々は、必ず故郷に帰る」

 

 

 

 

 

 

 

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