「な、聞いたか? スキルを授けてくれる魔法オババの噂」
「ああ、そんな時期か」
「え? どういうことっスか?」
Fクラス。嬉々として友人に話す若年のクラスメイトに、今年も同じ教室で学んでいる年長のクラスメイトが答える。
「毎年この時期に話題に上るんだよ。どっかから噂を聞きつけた新入生が掲示板に書き込むらしくてさ」
「え? じゃあいないんスか魔法オババ」
「オババの噂は聞くが、会ったって奴の話は聞かん」
「そんなっ、じゃあ嘘じゃないスかぁ……魔法オババぁ……」
「わからんぞ。アドバンテージを失わないために会ってもダンマリを決め込んでるだけかもしれねぇし」
「オババもう死んでるって話もあったなあ」
「ええ⁉︎」
「オババは確かに発見者ではあるが、それがもう陳腐化してるっていうか、もう広く知られてしまってるって話もあるよな。どれのことか知らないけど」
「スクロールじゃないかって聞いたことある」
「ああ。っぽいよな」
「え、スクロールってあれっスよね。開いてエーテル流せば即座に魔法が発動するっていう使い捨てのアイテム。欠損すら再生させる治癒系魔法のスクロールは5000万をくだらないともいう」
「そうだけど、スクロールにはもう1種類あんだよ。開いてエーテルを流すと、スキルが使えるようになるっていう」
「え⁉︎ マジすかっ⁉︎」
「【
「すげえじゃないスかっ」
「そうだな。ただし一日限定の回数制限ありだけどな」
「へ?」
「回数も3回だったよな?」
「そう」
「スクロールとしては破格に安い2万円。希少は希少なんだがなぁ」
「それは……うーん。それは、どうなん?」
「だよな。微妙なとこなんだよ」
そんなクラスのやり取りを聞いて、セワシは山田あろうと顔を見合わせた。
山田あろうが言う。
「教授もその書き込みってのを見てスクロール欲しがったのかな」
「でもきっと前にも調べてると思うよ?」
「毎年やってんじゃね?」
「そうかも、ありそう」
あははと笑い合った。
『スキル・スクロール』『マジック・スクロール』と呼び分けられている魔法の巻物。
山田あろうが首を傾げる。
彼らの話から察するに、スキル・スクロールはまだ3種類しか見つかってないようだけど、その辺どうなのと聞いてくる。
セワシはうなずいた。
「そうだね。少なくとも一般に知られているのはその3種だよ」
「あー、そういうこと?」
「そういうことかもね」
「秘匿してるトコがあるかもってことか……どうやってかわからんけど」
使い捨てのスクロールを秘密にする意味はあまりないのだけど、『魔導書』の存在を知っていると大きな意味を持ってくる。彼は知っているのだろうか。山田あろうの顔を注意深く見つめた。
セワシは一歩踏み込んでみることにした。
「あろうくんはさ」
「うん?」
「鎌仲兄弟やほかにも何人か、鍛えてるよね?」
「鍛えてるっつーか、強くなりたいってヤツがいて、縁があった。んで、おれに手伝えることがあった。そんだけだよ」
「そんだけ……」
「強くなってもらわねばならない。とは思っているよ。ダンジョンの奥に行くほど強力になる〈陰影〉は、ナワバリ意識のあるモンスターにここから先はお前たちの領域ではないと示す意味でも配置されていると思う。ま、実際ホントにそうか知らないけれど結果的にそうなってる。強力な〈陰影〉の存在は強力なモンスターの存在を示唆している。そして、強力と言えど〈陰影〉が対応できるレベルにも限度がある。その限度を越えるモンスターは確実にいて、そいつらが地上を目指そうものなら再び世界が終わりかねない」
ある日突然そういう事態になってもおかしくはないから。
「それに〈陰影〉を狙うのはモンスターよりもむしろおれたちだろう。モンスターの進路を阻む壁を人間は自ら取り除いてる。〝赤サビ〟の出現もその結果と言える、かもしれない。でも我々は探索を止めることはできない」
だから強くなってもらわねばならない。と山田あろうは言った。
人々が一丸となって戦うために、生きるために。
その下地として、まずは探索者たちに。
「と思ったんだけど、街の状況が思ったよりややこしいことになってて、なんつーか難しいよ」
躊躇してしまうのはセワシにもわかる。
イリヒトが言うところの新興の幹部が先頭に立つ新興勢力の暴走が懸念される。
一般探索者に向けられている差別意識が、普通に生活している一般の人たちに拡大する恐れもある。恐怖政治や管理社会のディストピアに陥ってしまったらセワシとしても不都合が大きくなり過ぎる。
現在の街のトップである鎌仲豪人をはじめ、火剣などの魔人たちが抑止力になっている限りは大丈夫と思うが……。
「どうするの?」
「ん、どうもしないかな。おれたちはひとりじゃないからね。なにかやらなくちゃって焦る必要はないさ。誰かが動き出せばまたおれにも手伝えることがあるかもしれない。その内おれ自身やりたいことができるかもしれない。そしたらセワシも手伝ってくれよな」
「それは、もちろんいいけど」
「セワシも遠慮なくおれを巻き込んでくれていいからさ」
「うん。でも、いいの? 大変なことに巻き込むかもよ?」
「ああ。みんなで取り掛かれば笑い話にできることもあるかもしれないぜー」
「うん……」
なんだか友だちっぽいやり取りに、セワシは笑みを浮かべた。