ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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世界の終わりなう 後

 

 

 

 地元の星、高校球児たちは3回戦で敗れた。

 ピッチャーの彼もぎゃん泣きしているのがテレビにチラリと映った。

 

「手ぇ抜いてんわけじゃなかったらしいぜ」

 

 ケンセーがそんなことを言った。聞けばケンセーとジュンヤは直接話を聞きに行ったらしい。

 言い方、とジュンヤがケンセーに苦笑しつつ注意してから続ける。

 

「チカラを抑えてたわけじゃなくてあれが精一杯だったみたい。超能力の自覚はあったみたいだけどね」

「へえ。思ったより個人差が激しいんだな」

「うん。なんなんだろね、このチカラ。なんだったんだろうねえ、コンペイトウ」

「まーでもすぐに情報が出始めるんじゃない?」

 

 おれは考えつつ言った。

 

「え? そう?」

「たった3コしかないモノが同じ場所にあんなテキトーな感じで現れたと考えるよりは、無数にあるうちの3コがたまたま同じ所に現れたと考える方がまだ、納得感があるかなって思うよ」

「てことは……」

「うん、世界中に現れてるんじゃないか?」

「まぢかよー」

 

 げーっとケンセーが叫ぶ。

 

「俺たちの時代が来ると思ったのに!」

「なんだ、ケンセーは主人公にでもなりたかったのか?」

「いやそういうわけじゃねえけどよお」

「主人公がいなくても世界は回るんだ。世の中フタを開けりゃ脇役争いで大激闘のスマックブラザーズさ」

「あろうはシニカル過ぎるよ。主人公がいなくて脇役争いが巻き起こってるって言うなら、むしろ全員が主人公って捉えられないの?」

 

 さすがイケメンジュンヤ。性格良さげなことを言う。

 

「別にいいけど。主人公が一人に決まってるよりはマシだね」

「どうして?」

 

 首を傾げるコンに言ってやる。

 

「特定の個人にしか何とかできない、逆に言えば特定の個人がいればそれで済む世界なんてクソだ。おれたちその他大勢(モブ)の存在意義は? 死んで物語の賑やかしになれってか?」

「ひねくれてるなあ」

 

 苦笑するジュンヤにケンセーが追随する。

 

「そうだぞ、あろうのくせに。まっすぐ行けよ、(アロー)のように」

「うっせー。まっすぐ飛ぶことの難しさを知れ」

 

 

 

 

 

 

 時、程なくして──。

 物を浮かせる、重い物を持ち上げる、ありえない変化球、カードを投げて野菜を切断する、ブロックを拳で破壊する等の動画の投稿が増えた。が、あまり話題にはならなかった。元からあったからだ。

 しかし、海外の火災現場で炎に巻かれながらものともしない姿や、ビルの四階部分から飛び降りて何事もなく着地する姿などが報道されるに至り、スーパーヒーロー、超能力ブームが巻き起こった。

 同時に防犯カメラや鍵、扉、不可解な器物損壊事件、不法侵入、窃盗などと見られる事件が日本でも頻発するようになる。

 世界規模で治安が悪い方へと傾いていくのを誰しもが感じていた。

 

 さらに洞窟を探検する動画が「マジでやべえよ」とのコメントと共に投稿される。

 ライトで照らすさらに奥、暗がりに光る目、奇声を発し瞬く間に距離を詰め、気付けばカメラに映るヨダレを撒き散らしながら開かれた大きな口腔。

 投稿主たちの悲鳴と乱れる映像。撮影に際し、ノリで用意していた工事現場のヘルメットやスコップ、懐中電灯を投げ捨てる姿。揺れるヘッドライトの光の中に洞窟の出口が見えたところで動画は終わる。

 

 :マジでヤバいんだって!

 :映画ですか?

 :すげえ!

 :なかなかのクオリティ。

 :小鬼かな?

 :ゴブリン?

 :世界観が和なのか洋なのか。

 :和だろ、メット投げてたのは日本人の若者に見えたし。

 :ゲーム?

 :違う! マジなんだって!

 :なんてタイトル?

 :いつ発売?

 

 投稿主が何を言ってもネタだと思われスルーされたこの映像は、しばらく後にまた注目を浴びる。

 

 

 

 

『こんばんは。ニュースロックです』

 

 不思議な物や場所を視聴者の依頼によって人気芸人が調査するバラエティ番組──の映像の一部が、同局の報道番組で流された。

 得体の知れない何かの生物。

 短い映像の後に番組スタッフの死亡が伝えられ、世間はまた騒がしくなった。

 すぐに政府から洞窟を発見しても無闇に近づかないこと、洞窟を発見したら直ちに通報すること、と注意喚起の声明が発表された。

 だがやはりと言うべきか、各地で怪しい洞窟を探して回る者が次から次へと現れた。そして行方不明者の捜索願いは激増し、迂闊な政府発表が原因だとして批判が噴出した。

 

 

 

 

 

 

 消防団や警察の車両から垂れ流されるアナウンスがどこからか聞こえてくる。

 駅前を歩けば行政批判のデモ行進とまたすれ違う。

 

「デモねぇ……」

 

 ケンセーが呟いた。

 

 動きの速い地方自治体などは地元消防団、青年団、ボランティアなどを動員し、山狩りじみた大規模捜索によって炙り出しを行っているところもある。大勢で一度に捜索することで、勝手なことをさせないよう見張りつつ怪しい場所をすべて見つけ出す取り組みは、一定の成果を上げた。

 実施していない地域に比べ、私有地への不法侵入等が明らかに少なかったのだ。

 

 そんな話を聞いてしまうと、今回はデモよりも他にやることがあるんじゃね? という気持ちになるのもわかる。おれたちはどっちもスルーだけど。

 

 大型ビジョンに官房長官の記者会見。

 

「災害時における基本原則は、まず、周知することであります。知らせることで民衆がパニックに陥るなど、リスクはありますが、知らせないことで、気付けばもう助からない状況に追い込まれていた、ということがあってはならない。たとえば、これまで警報は山火事にしか使われてこなかった。なので今回、津波に警報を発しなかった。危険な海側に避難してしまうことを懸念したから。だが結果、多くの人が濁流に呑み込まれた、家の中にいたまま直前まで気付かなかった人すら多く居たと思われる、それではいけないということで──」

 

 もっともだけど、言うの遅すぎない?

 

 

 

 

 

 特定秘密漏洩の疑いで自衛隊一佐が逮捕された。

 ダンジョン情報漏洩事件として知られるようになる。

 リークされたのは、最新鋭装備の特殊部隊による探索映像と資料数点。

 当初のドローンによる偵察は、洞窟に入った時点で途切れたことや、生息する数々の生物の映像記録が人々に衝撃を与えた。

 ある情報番組にコメンテーターとして呼ばれたヒゲの生物学者が「私をダンジョンに連れてって」と発言して話題を呼んだ。

 

 アメリカでは、一部地域でゾンビの発生が報じられ、混乱が加速。

 

「死体が動いてるのではなく、何らかのウイルスに感染しそのような与太話に使われた可哀想な患者である」とアメリカ在住の解剖医の日本人女性が日本のメディアの取材に答え、その若く聡明で美しい姿からファンが急増した。

 彼女は続けて、「仮にゾンビがいたとして、腐った体では歩くどころか立つことさえままならない。滑稽なだけで恐れる必要は全くない」と発言したが、後日、アメリカのニュースサイト内のゾンビ映像の中に彼女が映っていたことがわかり、多くの者がなんとも言えない感情に襲われた。

 

 ジュンヤがスマホをいじりながらポツリと言う。

 

「立って歩いて時に走る死体がゾンビなんだから、恐れなきゃダメだよね」

 

 

 

 最初期、不明生物と呼称されたダンジョンの生物群。

 それが、ある日、突然洞窟の入り口を吹き飛ばしてついには地上に溢れた。

 災害緊急事態として自衛隊の出動に至る。

 現代火器による制圧で沈静化したがすぐに別の場所に、あるいは同時多発的に『特殊外来生物』と改められた怪物たちが氾濫した。

 

 アメリカでゾンビが2000万を超えた。

 北欧やアフリカで人喰いの巨人、悪霊、蟲群れの報告。

 中国では火を吐き空を飛ぶゾンビが現れたなんて話も聞こえてきた。あと龍。

 収拾のつかない混沌が、全世界を覆っていった。

 

 そして日本でも──、

 

 ドーンと爆発音が鳴り響く。ドーン、ドドーンと。

 街のあちこちで炎が膨らみ、膨大な量の煙がうねるように立ち昇る。

 東京タワーは折れ曲がり、倒壊するビル。

 逃げ惑う人々。

 得体の知れない大小の怪物たち。

 

 

 

 怪物によって、あるいは人間自らの手によって、世界各地の主要な通信施設は壊滅し、世界を覆っていた電波の網はズタズタに切り裂かれた。

 

 

 世界は──分断された。

 

 

 

 

 

 

 

 世界の終わりなう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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