ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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宣戦布告

 

 

 

 

 

 朝の教室──Fクラス。

 そういえばいっこ言っておかなきゃなと、おれは周囲を見渡して声を上げた。

 

「おれ〝終末トラベラーズ〟に参加するんで、2週間後からしばらくいないんでよろー」

 

『…………ハアッ⁉︎』

 

 みんなの声と表情が重なった。コント集団かな?

 

「クラス一丸となってがんばろうって時にそれはねえだろ」

 

 そんなクラスの声に答える。

 

「えー、じゃあ今からCクラスに喧嘩売って2週間以内に決着つける?」

「いやムチャ振りが過ぎるだろ」

「え? ヤムチャすぎる?」

「言ってねえ!」

「ちょっとぉ」

 

 みんながおれを指差しつつ禁制物兄弟に助けを求めるように見つめた。コント集団だな?

 イリヒトがため息。

 イリヒトがなにか言う前におれは手のひらに拳を打ちつけた。

 

「そうか、つまり堂々の学年最下位のこのおれがいないと心細いってことだな! いつの間にかおれはそんな人気者になっていたのかっ」

「ふざけんな!」

「調子のんなッ」

「ボォケェ」

「くそザコナメクジ!」

「うんこ!」

「うんこタレ!」

「おいっ! 罵詈雑言が雑過ぎる!」

「お前らシッ! しーずーかーにっ」

 

 ヒビトが人差し指を立ててこの場を静め、イリヒトがまたため息をつく。

 

「今回、負けるワケにはいかねえ。こいつがいなきゃ勝てねえってんなら、それなりの頼み方があんだろ」

 

 そんなこと言いながら拳でおれの頭を小突いてくるのはやめていただきたい。

 

「逆に言やこいつがいれば勝てるってんなら、それこそ2週間以内に決闘すりゃいい話だ。で? 実際どうなんだ? お前ら。こいつに精神的にも寄りかかるつもりか?」

 

「そんなわけない」

「そうだ。もとはと言えばこれは俺の問題だ。〝終末トラベラーズ〟のメンバーに選ばれる栄誉をフイにしてまで付き合わせるわけにはいかない」

「そもそもなんだけど、山田がどんだけできるのかとか、あたし知らない」

「そういえばそうだ」

「たしかに。じゃあいてもいなくても一緒か」

「言い方ァ!」

「山田ちょっと黙ってて」

「山田が抜けたとして、その穴埋めは?」

「いやクラス対抗と言ってもその辺のルールのすり合わせはCと話し合うことになるだろう」

「ああ、なるほろ。クラス全員必ずそろってなきゃいけないわけでもないのか」

「よし。じゃあいいな」

「うん。山田はいなくてもいい」

「だから言い方ァ!」

 

「どっちにしろ、Cに喧嘩売るにはいい時期か」

「んじゃあ……行くか」

「おしゃあああっ!」

 

 勢いのままにバカども()がCクラスに突撃していった。

 

「……全員で行くことなくない?」

 

 おれは──……。

 

「よし。帰ろう」

 

 

 

 

 

 

 ぞろぞろとCクラスの教室にFクラスの面々が乗り込んでいく。

 あり得ない事態にCクラスの空気が止まった。

 しかしすぐに我に返った一人が声を上げた。

 

「おい! とうとう自分たちの教室にも辿り着けなくなったのか?」

 

「……こんにちは、Cクラスのみなさん。さっそくですが、我々Fクラスは、Cクラスに決闘を申し込みます!」

 

 いいんちょーの宣言に、Cクラスの生徒であからさまに顔をしかめたのは三分の一程度だった。他は特に表情に変化は見られない。が、エーテルが【威迫(メナス)】となって叩き付けられたことで彼らの感情は明らかだった。

 

 Cクラスのエーテル量はFクラスの遥か上をいく。

 気合を入れて臨んだもののさすがに気圧されて一歩下がった。

 

「ナメてんのか? Fごときが」

 

 一際ガタイのいい生徒が【威迫】を強め前に出る。彼の周囲の空間が彼の存在に押し退けられて歪んだように見えた。

 雰囲気に呑まれそうなところで、鎌仲兄弟が先頭に立つ。松田旺次郎がぐっと横に並ぶ。

 

「てェめ──」

「──待てキンゴ」

「ギン……」

 

 キンゴを制して前に出てきたのはギンと呼ばれた長身の生徒。

 

「……あれがCクラス上位の……通称、金角と銀角か」

 

 そんな声がFクラス生徒の中からこそっと聞こえてくる。決闘を吹っかけると決めてから情報収集は欠かしていない。

 

「鎌仲の御曹司。あなた方はそっちに付くということでよろしいので?」

 

 イリヒトが見下すように見つめたまま何も答えないことで、ギンが一瞬イラッとした表情を見せた。

 にやりと笑ってヒビトが言う。

 

「知らないようだから教えてやるよ。俺らFクラスなんだぜ?」

 

 バカにすることはあってもされることはないだろう銀角が舌打ちした。

 

「本気で言ってんだな?」

 

 嫌味な丁寧語が消える。

 

「選抜メンバーで勝ち抜き戦でもやんのか? 時間の無駄だろう。俺たちはお前たちのために割く時間などない」

「そうだ!」

「消えろ!」

 

 そんな声を制して、いいんちょーが気丈にも声を張った。ただし鎌仲兄弟の間の隙間から。

 

「選抜メンバーの勝ち抜きによる団体戦ではありません! FクラスとCクラス、総員による対抗戦を望みます!」

「なんだとっ⁉︎」

「調子に乗るなよ!」

 

 Cクラスが騒ぐ中、銀角が一瞬「ほぅ」と意外そうな顔を見せた。咄嗟に笑みを手で隠していたが、セワシはしっかりと見えていた。

 

「Cクラスのみなさんは知らないかもしれませんが──」

「〝カッセン〟形式での決闘を望むんだな? Fは」

「……知っていましたか」

「まあな。ランキングは個人戦ゆえ、前例はほとんどなかったはずだ。しかし、だからなんだ? やはり我々が応じる必要はない。というか順番が違うだろ。DクラスEクラスに勝ってから言え」

「そうだバカどもが!」

 

 銀角に追随する声でまた騒がしくなるが──。

 

「なんだかんだ言ってまた逃げんのかっ⁉︎ さすが卑怯者クラス! フーッ、シ・ビ・レ・るぅっ‼︎」

 

 Fクラスの誰かから上がった声で、水を打ったように静まり返った。

 

「おい……今言ったん誰だ?」

 

 Fクラスの生徒たちさえ誰が言ったかわからず顔を見合わせた。鎌仲兄弟だけは面白そうにCクラスの動揺を眺めている。

 Fクラスの後ろで、なに食わぬ顔をしてかがめた腰をすっくと伸ばした者がいた。山田あろうが見た目だけかもしれないと疑念を抱くインテリメガネくんこと、根尾月太(ねおつきた)である。

 横にいた元気少年こと二渡路人(にとろひと)が呆れたように「お前さぁ……」とこぼし、ヒロインちゃんことふわふわ髪の轟風子(とどろきふうこ)が「あはは……」と苦笑いする。

 

「ふっざけんなッ!」

「誰が卑怯者だッ!」

「殺すぞ!」

 

 銀角はちらりと隅のクラスメイトに目を向ける。今回の事の発端でもある成金歩也(なりきほなり)がビクリと肩を震わせた。

 

「卑怯者とは聞き捨てならんッ!」

 

 突然、金角が上半身裸になって、脱いだ制服を床に叩きつけた。

 仁王像のような肉体をポージングを決めて見せつけつつ、一歩、また一歩とFクラスに近づく。女子生徒が恐怖に慄いた。

 

「この肉体のぉ! どこに! どこに卑怯者の要素があると言うのだッ‼︎」

 

 シンと静まり返る中、金角の取り巻き数名の拍手だけがまばらに響く。

 

「そ、そうだ! D、Eクラスならいざ知らず、我々はCクラスだぞ。〝高市民〟に最も近い我々を侮辱するとは覚悟はできているんだろうなッ」

 

 根尾月太が再びかがんで叫ぶ。

 

「また家族を狙う気かっ⁉︎ さすがっスね‼︎」

「ちょっ⁉︎ おまバカ! しーっ!」

 

 二渡路人が慌ててバカメガネの口を塞いだ。

 

「てめえかッ‼︎」

 

 Cクラスの面々が一斉に二渡路人を睨みつけた。

 

「ええっ⁉︎」

 

 根尾が口を塞ぐ二渡の手をどかし、メガネの位置を調整しつつ真面目くさった顔で横の二渡を親指で指し示して言う。

 

「だが、コイツが言ったことは事実だろう?」

「ざけんなッ!」

「クソメガネ!」

「死にてぇかのか!」

 

 ちなみに最初の言葉は二渡路人のものだ。しれっと俺が言ったことにするんじゃねぇと首を絞める。

 収拾がつかないほどヒートアップしていく場の熱を、イリヒトの一言が断ち切った。

 

「黙れ」

 

「ウッ」

「──ッ⁉︎」

 

 イリヒトの【威迫】にあてられて、騒いでいた者たちが息苦しさを感じて呻く。

 銀角がひとつ息を吐いてイリヒトの目の前に立った。

 

「……とにかく、一時を万事にしてCクラス全体に勝手なレッテルを貼るのは止めてもらえないか?」

 

「おかしなことを言う。Fクラスだの一般探索者だのと、一括りにして語るのはお前たちの常套句だろ。いざ自分たちのことになると違うと言うのか? まさに卑怯者のやり用だな」

 

 銀角があからさまに怒りに顔を歪めた。

 

「もういい。死ぬほど、後悔させてやるよ」

「上等。お前の吠え面を楽しみにしている」

 

 

 

 

 

 

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