ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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アブナイ奴ら

 

 

 

 

 

 クラスメイトたちから盛大なバッシングをなぜか受けているところに、バンッと乱暴に教室の戸が開けられた。

 

「おい! (バカ)クラスどういうことだ!」

 

 Cクラスの生徒だ。

 

「なにが?」

 

 もみくちゃにされているおれを助けることなくバカ笑いしていたヒビトが応えた。

 

「なにがだと⁉︎ ふざけるなっ! 我々を差し置いて勝手な真似をッ」

 

 もみくちゃにされていたおれを助けることなく、足を組み頬杖をついてムダに優雅に眺めていたイリヒトがため息をついた。

 

「そちらが細かい取り決めが煩わしいようだったから話を進めたまでだが?」

 

 別にイリヒトは事前に知っていたとかないが、彼らをあおるためにさも当然のように言い切った。Cの生徒に目を向けることもなく、組んだ足をブラブラさせておれを蹴りつつ。やめて。

 

「それが勝手だとッ──」

「──毎回。毎回お前たちは席を立つ時に言っているじゃないか。我々は忙しいと。だから無駄な時間を省いてやったんだろう?」

 

 イリヒトはC生たちを流し見て嗤う。うわぁ、憎たらしい顔。

 

「それに、何の問題がある? お前らが不利になるような話でもあるまいし。それとも? 配信されると困ることでもあるのか? ……ああ、いや、あるか。負けた時に言い訳できねえもんなあ。そりゃ困るわな」

「はあ⁉︎ ナメるな! 我々がFなんぞに負けるわけがない!」

「なら問題ないな。ん、じゃなんで怒鳴り込んできたんだ。本当は礼でも言いにきたのか?」

 

 そんなツンデレさんじゃないだろう。

 

「キッ、サマぁッ!」

 

 ほらぁ。

 

「その辺にしておけ」

 

 太い声が響いた。

 声の主は金角。

 教室に金角と銀角、を左右に従えて小柄な人物が入ってきた。

 どうでもいいけど金角銀角の名前ってなんだっけ。そも聞いたことあったんだっけか? ……まあ……いいか。

 金角銀角は置いておくとして、真ん中の小柄な人物は薄く笑みを浮かべ、特に言葉を発することもなくFクラスの面々を一通り眺めていく。

 そんな様子をよそに、銀角は冷ややかにクラスメイトに告げた。

 

「これ以上、恥を晒すな」

 

 気圧されて息を飲むC生。上下の教育がしっかりと行き届いてしまっとる。

 沈黙が落ちる中、ヒビトが空気を読まずに言う。

 

「他のクラスにお邪魔すんだからよ。まず〝失礼します〟だろ」

 

 発言の内容自体は無視して銀角が応じる。

 

「20日後だって? せめて日程の提案はあって然るべきだったのでは?」

 

 ヒビトは大きく頷いた。

 

「それはそう! マジで!」

 

 Fクラスのみんなも大きく頷いた。

 

「ごめんて」

 

 おれは謝った。

 

 銀角が怪訝な顔をする一方で、小柄な人物がこちらをじっと見つめてくる。ロン毛なのは別にいいんだけど、彼の装いはなぜか緑色のダサジャージにビーサン装備だ。

 彼の視線に肌が粟立つような感覚に襲われる。格好はあれだが、かなり非凡なエーテル値をしていると思われる。格好はあれだが。

 あんだけ威勢よく乗り込んできたヤツらもすっかり大人しい。

 銀角が追及するのもバカらしいという思いをめいっぱい込めたようなため息を吐いた。

 

「ノバ、行きましょう」

 

 ロン毛ダサジャージはノバというらしい。銀角が丁寧に話しかけてるのに名前は呼び捨て?

 

「お前らももういいだろう。行くぞ」

「おい黙って行くな。〝失礼しました〟だろうが」

 

 再びのヒビトのチクリとした一言に、促されて出て行くところだったダサジャージがピタリと止まった。ぐりっと顔だけで振り返ったとき、その一瞬、まるで地震にあったかのように錯覚した。

 急激なエーテルの高まりによる衝撃。しかしそれはただ高めただけ。【威迫(メナス)】に繋げたわけでもないのにこの強烈な圧迫感。しゅごい。

 でもなんで急に? とダサジャージを見つめていると、彼は何人か確認するかのように見つめてから、

 

「あっは!」

 

 と笑って教室を出て行った。なにあれぇ、こっわぁ~。

 

 

 

 

 

 今日は迷宮に潜る。

 鎌仲兄弟に一緒に来るか訊けば来るってんで、連れ立ってダンジョンを進む。

 

「ほっほーぅ! ふんむむむ、おおっ! はっはーん?」

「って、おっさん! なんでいんだよ!」

「ん?」

 

 我慢も限界に達したヒビトが、物欲教授こと星井教授に叫んだ。

 

「ワシも来たかったんじゃもん」

「じゃもん、じゃねえし、全然カワイクねぇし!」

 

 ヒビトと教授のやり取りをよそに、イリヒトに視線で説明を求められ、おれは肩をすくめた。

 教授が自分で答えた。

 

「ふむ、あろうくんなら安全を確保しつつダンジョンを探索できないかと思っての」

「完璧に安全な探索なんてないって言ったんだけど」

「うむ、ならばある程度までなら確保できるんじゃな、と。じゃあ、連れてって、と。そう言うわけじゃ」

「……どういうワケ?」

 

 ヒビトが首をひねって呟いた。

 

「で、俺らが護るってワケか?」

 

 イリヒトにおれは首を横に振った。

 

「ほっといていいよ」

「ほっほ! これを見よ!」

 

 教授が左腕を掲げた。

 複雑に彫刻された翡翠のように見える幅広のバングル。

 教授が一人先を歩く。と、壁に張り付いていた〈ナッツイーター〉が飛びかかった。

 教授を中心に、亀の甲羅を思わせるドーム状の光の線が奔る。

 ナッツイーターは教授にたどり着くことなく、びたんと障壁に張りつく結果になった。

 ヒビトがナッツイーターを引き剥がし、彼方へと蹴り飛ばす。

 

「これをあろうくんが作ったというんじゃから驚くわい」

 

 ビックリしてる様子の鎌仲兄弟に言う。

 

「おれ生産職だって言ったじゃんか」

「あれマジだったのか……」

「盾系じゃなくて結界系のスキルに似てるな」

「おおーさすがボンボンイリヒト。似たようなのを見る機会があったか」

「ボンボン言うな」

「そう! こいつは名付けて『亀の甲羅のように視えないこともないバリア』。略して『亀甲視バリ』!」

「名前を変えろ」

「なんだとっ⁉︎」

「わしもその方がいいと思う」

「俺もー」

「なんだとッ⁉︎」

 

 じゃあオマエラで決めろよ、とおれは不貞腐れて丸投げした。

 3人の協議の結果、『亀甲結界(シェルタ)』に決まった。

 

「フツーっ!」

「う、る、せえ」

「ねえ、せめて『ヒキコモゴモ』にしない?」

「しない」

「結界に引き篭もるって意味と結界を張った結果攻守の立場の違いによる悲喜交々な感情の変遷という──」

「し、つ、けえ」

 

 

 

 

 

 探索続行ちう。

 

「おっと、そこの岩陰、気をつけろよ」

 

 おれの言葉に頷いたヒビトとイリヒトが静かに素早く回り込んだ。

 鉄骨を擦り合わせたような断末魔の後に、イリヒトが岩陰から戻ってきた。

 

「ジャントだ」

「っほほーう!」

 

 教授が走って行く。

 岩陰に行くと3体の巨大な蟻の死骸。

 おれの胸下あたりの体高がある〈巨蟻(ジャント)〉は昔、巨大蟻(ジャイアント・アント)と呼ばれてた。でも途中で【鑑定】の結果が変わり〈巨蟻(ジャント)〉になった経緯がある。

 今では巨大蟻(ジャイアント・アント)は蟻系モンスターの総称に使われている。みんなデカいからね。

 エーテルの作用でモンスターは大きくなりがちだ。

 通常サイズの小さなアリ数億に群がられて──……なんて恐ろしいことも起こるが、そういう場合はエーテル器官を備えたデカい司令塔が必ずいるものだ。

 

「ほっほっほーう! この一匹だけ巨蟻(きょぎ)ではないのぅ」

「なに?」

「あー、そいつだけ最初から瀕死だったぜ?」

「見てみよ、外殻のところどころが金属に変わっておる」

 

 最後に近づいていったおれは納得の声をあげた。

 

「〈大暗蟻(ダッケ・アント)〉?」

「うむ」

「ダッけ……?」

 

 ヒビトが首を傾げる。

 

「オオクラアリと言った方が通りよかろう」

「へぇ、大蔵蟻!」

 

 イリヒトが声を高めた。

 

「うんむ。オオクラアリはその収集癖から、巣には価値のあるものを貯め込んでいる場合が多く、探索者の間では〝倉庫〟や〝問屋〟などと言われ、目の色を変えて攻略隊が組織されることもしばしばじゃ」

「マジか、お宝⁉︎」

「ふむ、その結果、魔法の品々を含む莫大な富を得ることもあれば、オオクラアリのコロニーが〈棘蟻〉に乗っ取られていて、逆に莫大な死者行方不明者を出すこともある」

「うぇ?」

「〈棘蟻(ネトルアント)〉はなー、マジんがーで怖いからなぁ」

 

 蟻とはいうが、下半身はムカデに似る。体長は20メートル。上半身は人間の女性のようで、毛の生えた甲殻を各所に備え、鼻や口元、顔の輪郭も人間の女性のよう。

 そう〈棘蟻(ネトルアント)〉は女王単独の種。他の蟻の巣を寝取って逆ハー軍団に改造する。

 女王は魔術師だ。人語を解し、魔法の杖を持ち、数多の術を行使する。

 

「此奴の巣に手を出した結果、十万人都市が壊滅したという話を昔に聞いたのぅ」

 

 女王の逆ハー軍団は、蟻に限らない。

 

「怖っ」

 

 

 

 

 

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