ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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カッセンに向けて

 

 

 

 

 

 相変わらずやる気のない担当教諭のおかげで、授業のコマ割りは穴だらけ。

 中途半端に空いた時間の中、それぞれが思い思いに過ごす中。

 いいんちょーをはじめとした真面目グループが教室の中ほどで話し合っていた。ただいいんちょーはさっき放送で呼ばれて職員棟へお出かけちう。代表者を呼んでいたからなにか連絡事項でもあるんだろう。担当教諭がわざわざここまで知らせに来るはずもない。知らせる気があるだけいいと言うべきか。

 

「〝カッセン〟を想定した集団戦の動きも、だいぶ見れるようになってきた」

「でも……それだけじゃ勝てない、よな?」

 

 二渡路人が確認するように見渡した。

 

「ああ、勝てん」

 

 クラスでも年長の東木栗人(あずまぎくりひと)が答えた。あだ名はクリント。

 

「向こうは都市防衛の義務を負って有事の際には固定砲台、は言い過ぎか、銃兵か弓兵として働くためのスキルを全員が持ってるからな。一方こちらは遠距離攻撃スキル持ちなんて、ゼロ。1人もいない」

 

 近くにいた年長組と鎌仲兄弟のグループ。

 ミニスカ金髪ギャル茅野町子(ちのまちこ)が、聞こえてきた話を受けて、頬杖をつき気だるげに鎌仲兄弟に問う。

 

「というか、なんでアンタたち2人は持ってないのよ? 遠距離攻撃スキル」

 

 あだ名はマチコ・ザ・ブラッド。ポッケには常にメリケンサック。

 

「ああ? この街の高射砲が俺たちの代わりだからだ!」

「なにそれ」

「俺たちはスキルじゃなく銃を持たされて戦列に放り込まれるからな」

「なんで?」

「親父から継いだ異能があるからだ。下手にスキル覚えるよりそっちのが役に立つってな。だから俺たちの代わりに高射砲が設置されていて俺たちは安全圏でぬくぬくなんてことはないぞ」

「じゃあさっきのヒビトの発言はなんだったのよ?」

「さあ? 願望だろ? 愛に飢えてんだよ」

「ちげーし、ちげーし!」

「あーはいはい。悪かったわよ、蒸し返して」

 

 また別のグループはスキルのマニュアル発動を練習しながら雑談を交わす。

 

「年長組は物怖じしないなぁ、鎌仲兄弟に対して。おっ、イケる【魔弾(マナショット)】」

「イテッ。なーにがマナショットだ、デコピンショットじゃねぇか。というか、マジの威力だったら死んでたぞ俺が! 人に向けるな!」

 

 そしてまた別のグループが廊下側、入り口近くで屯してる。

 おれもそこにいて、驚愕の呟きを洩らした。

 

「『盛っ亭』だと? 『ヌー』じゃないのか」

「まあ否定はしないがね。しかし時代は米だよ。5000年前からな!」

「いやしかしおれはまだ『ヌー』で本命のカレーを食ってないんだ」

「山田氏、我々の崇高なる探索行が流行り物に左右されてなんとする?」

「っ!」

 

 

 

 

 

「鎌仲兄弟、訓練を主導した二人は実際問題どう戦うかプランはあるのだろうか?」

 

 松田旺次郎がきりっとした眉をキリッとさせて言った。

 

「主導したのはあいつだけどな」

 

 イリヒトが真面目グループの輪に移動しながら雑におれを指し示す。

 

「おい、あろう。バカ話してねえでこっち混ざれや」

「ああ? バカ話なんてしてねぇっつの。こっちは『名店を巡ろう会』発足に伴い、第1回の超重要会議の真っ最──」

「さあ山田氏すぐにあちらに行くでござる!」

「ご、ござる?」

「F組の命運がかかっていますからな!」

「鎌仲殿っご心配召されるな『名店を巡ろう会』なんてありませぬゆえ!」

「ええっ⁉︎ イリヒト! おまえのせいで……く。ばーかばーか!」

 

 おれは仕方なく真面目グループに向かいながら、腹いせにヒビトの赤い坊主頭をジョリジョリした。

 

「やめろ!」

 

 

「なぁ、山田って何者?」

「あいつに関しては物怖じしないとかじゃなくてもうワケわからん」

「うん」

 

 

 

 

 

 

「で、まずお前たちはどう戦っていこうか考えてみたか?」

 

 イリヒトが真面目グループに水を向けた。

 松田旺次郎が軽く手を挙げてから発言する。

 

「やはりスキルの有無は大きいと思う。しかし先日、スキルオーブが手に入らなくともスキルの行使が可能なマニュアル発動という手段が示された。できるだけ空いた時間に発動の精度を高め、わかっているスキル方程式は共有しようと話していたんだ」

「ふーん」

 

 イリヒトに肘で突かれて仕方なくおれは口を開いた。

 

「マニュアル発動はやめた方がいいね。無駄だから」

「なにッ⁉︎」

 

 真っ先に反応したのは今まさにマニュアル発動の練習していたヤツらだった。

 

「ごめんごめん、無駄じゃない。ただ〝カッセン〟においては無駄ってだけ」

「それはどうして?」

「マニュアル発動を知ってから今まで、一つでも実戦で問題なく使えるようになったものは? 低級スキルなんて言われてる【二段ジャンプ】だって難しいんじゃない? それをいくつも式を共有したからって意味ある? 串打ち3年裂き8年焼き一生、マニュアル発動はそういう話さ。提供できるまでには時間がかかる。一度覚えたからといってそれで終いじゃない。人は忘れていくからね」

「む、むだ……」

「……むだムダ無駄ぁ……」

「あー、ごめんごめん、無駄じゃない。自身のエーテルをより強く意識し操作する練習としてはとても良い」

 

 再び松田が軽く手を挙げた。

 

「しかしそれではC生のスキルをどう防ぐ?」

 

 イリヒトが「一番簡単なのは」と続けた。

 

「防具を揃えることだろう。金で済むからな」

 

 生徒会が言っていたことに照らし合わせば、それもまた力の一つだろうけど。

 

「まあ仮に、金に飽かして武器防具を揃えて勝ったとしても、向こうはすんなり負けを認めることはないだろうが」

「もっともそれができるのはウチよりCだろうけど。もしそうなったら目も当てられないな」

 

 だっはっはとヒビトが笑った。

 もしそうなったらおれが用意するしかないかな、と思っていると、そこへいいんちょーの声が響いた。

 

「そうはならないわ」

 

 職員棟へ受け取りに行った連絡事項はどうやら〝カッセン〟に関することだったようだ。

 

「装備は軍から借りた物で統一されるそうよ。武器の種類はいくらか選べるみたい」

 

 さらに、ウチのクラス担当とは別の教員から追加で話が聞けたようで、その辺りの情報をいいんちょーが披露する。

 

「迷宮チャンネルというか、市の側から学園に強く、死者を出さないようにという要望があったみたい」

 

 要望ってところがまたアレだなーと思う。

 いいんちょーと共に職員棟に出かけていた女子生徒が続ける。

 

「学園の威信をかけて、脚や腕の1本2本なら飛んだところで完璧に治してくれるってサ」

 

 聞いていたみんながみんな嫌そ~な顔をした。

 

「そのために防衛軍秘蔵の魔導機械装置(アーティファクト)をものすごい額のお金を払って借りたみたい」

 

「へー。それなら対スキル戦法は決まったね」

 

 みんなの注目に促されておれは言った。

 

「無視して突っ込む」

 

 罵倒の嵐が吹き荒れた。

 

 

 

 おれは人垣を飛び越えて『名店を巡ろう会』のとこに避難すると【亀甲結界(シェルタ)】を起動した。

 亀の甲羅のようなドーム状の光網に覆われる。

 詰めかけてきたヤツらにニヤリ笑いを浮かべてから、会の面々に向き直った。

 

「串打ち3年で思いついたんだけど、うなぎ食べたくない? 会としてここはまず至高の〝うな重〟食べに行こう!」

「うなぎ」

「うん」

「それがし、食べたことない」

「あっしも」

「僕も」

「えっ⁉︎ くまちゃんまで? まさかうなぎ屋さん、ないの?」

「聞いたことないすなぁ」

「僕も」

「そ、そんな……」

 

 バングルが床に滑り落ち、結界が消えた。失意のおれを数人が抱え上げてた。まるで蛮族が獲物を掲げて凱旋するかのように、おれは話し合いの場に戻された。

 

「はー、うなぎがないなんて……。無視して突っ込めとは言ったけど、うなぎ。無策で突っ込めとは言ってないワケよ。うなぎ。知っての通りエーテル値は生命力であり攻撃力であり防御力。うなぎ。そこには当然、魔法への抵抗力というのも含まれる。うなぎ。ここでマニュアル発動の練習が生きてくるワケだ。うなぎ」

「その語尾やめろぉ!」

「話がぜんっぜん頭に入ってこない」

 

 

 

 

 

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