ライシュウハイセカイ   作:そこの角にいる

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ごちゃごちゃ設定のわちゃわちゃキャラなお話がすきー


3年か20年か

 

 

 

 真新しい制服に袖を通す。

 

「うーん……?」

 

 世界は終わったのに、また、学校に通うことになろうとは。

 

 世界の終わりの混乱の中、コツコツ鍛えていた超能力は非常に有用だった。

 家族友人知人をなんとか逃そう生かそうとする中で、囮になって敵を引きつけてダンジョンに誘導したが、そのダンジョンの構造変化に巻き込まれて亀裂に落っこちた。

 

 それから3年あまり。

 

 なんとか生きて帰り着いたと思ったら、地上では20年が経っていたとかふざけんな。おれは浦島太郎か。〝太郎〟じゃなくて〝あろう〟だっつの。タイやヒラメが舞い踊るパーリータイムもなかったってのに。

 

 ダンジョンの入り口を警備してる部隊に囲まれて待つことしばし──。

 

「いよお」

 

 迎えに来たのはなんとケンセーだった。

 この時はまだ20年も経ってるなんて知らなかったけど。少し大人っぽくなったとは思った。3年近く経ったのだから無理もないと。雰囲気からいってとても四十近い年齢には見えない若々しさだったし、からかわれているのかと思ったが、ほんとうに20年が経っていた。

 

 モンスターを仕留め、ダンジョンに多く潜ってる者ほど老化が緩やかになると聞かされた。

 

「そん代わり子供ができにくくなるらしい」

 

 思わず俺は呟いた「マジんがー?」

 

 てことで、今の常識、情勢等を知るために学園に通うことになった。

 学園の高等部からは完全にダンジョン関連の研究者、技術者、探索者の育成課程になっているんだとか。

 ケンセーと話していると、社会に置いてかれた感がハンパないが、逆にダンジョン深くでの経験から、おれだけがたどり着いた情報もあるだろうたぶん。

 

 部屋の床でコロコロとじゃれ合っている子ぎつねと子だぬきに声をかける。

 

「アポ、ウォーダン、出かけるよ」

 

 外に出る直前、子ぎつねと子だぬきは二匹の子犬へと姿を変え、てってくおれの横に並んだ。

 

 

 

 街には未だいたる所に瓦礫の山。

 人は多いが、自動車はろくに走ってない。

 ひしめき合うように建てられた家屋。一帯を覆う巨大な屋根(アーケード)に、イカつい兵器群が、飛来するモンスターに備えてる。

 

 アーケードの下は『下街』と呼ばれ、さらにその地下にも街並みが広がってる。

 行くつもりもなかったのに迷い込んでしまい、配線やパイプが剥き出しの工事用通路としか思えない古く複雑な構造に捕まり、地上に出るのに苦労した。

 

 覆いの隙間から刺す白い日差しに目を細める。

 人々の喧騒が押し寄せる。

 

「お客さん、お目が高い! そいつぁ拡張性もあるし小物をヤル分にゃあ充分だぜ」

「保存食じゃないナマの肉だよっ!」

「ヒャッハーッ肉だぁ!」

「装備の改造メンテに買い取り何でもするよー!」

「それっぱかしで売れるか! 帰った帰った! ……帰れっつんだよ!」

「だんな~、いいモンあるよぉ~。ムフフ、見てってくんな」

「今日はマジもんの牛丼が食べられますよー、どうっスかあー」

「ヒャッハーッ牛だぁ!」

 

 街は人出だけ見ればまるで大都会。

 みんな大きなバッグを担いでる。通りの両側には小さな間口しかないジャンクショップが続く。アスファルトの上に無造作に段ボールや木箱が積みあげられ、新しい箱を積んだ台車が次々と人ごみをかき分けて走ってくる。どこかのスピーカーから流れる懐かしのアニメのテーマ曲。

 

 山の斜面にケーブルカー。

 木々の合間から突き出る砲塔。

 標高が上がるにつれ眼下に街並みが見渡せるようになる。

 遠く瓦礫と鉄骨のバリケード。

 その向こうには我が物顔で闊歩するモンスター、弱肉強食のワイルドライフ。

 

 20年──。

 

 激しい戦禍に呑み込まれ、日本は今や荒廃した国となった。

 都市の大半が無惨に破壊され、放置するしかなく打ち棄てられたままの廃墟がどれほどあるか知れない。

 

 

 

「来たな」

 

 学園の門の前で待っていたケンセーがにやりと笑って言った。

 向こうから部活のかけ声みたいなのが響いてくる。

 

「遅かったな。迷ったのか?」

「迷ったよ」

「さすが20年ものの迷子」

「うるせー3年だっつの」

 

 

 

 

 

 ダンジョン。

 世界に突如現れ、世界を崩壊に導いたものであり、今も脅威であると同時に、今を生きるうえでなくてはならない生活基盤と成り果てた憎き生命線。

 

 もはや国は国としての体裁を保てていない。

 荒廃した世界において、金や能力、権力(ちから)を持った企業や団体が、見捨てられた街を要塞化し、生き残りに協力する『地方都市連合』というコミュニティを形成している。

 奇しくもかつて国交省が国土のグランドデザインとして、理念を示した中に盛り込まれていた『高次地方都市連合』という戦略が、違った形に名前が残った。

 日本全国に人口30万人以上の都市圏が60~70箇所維持されているとか。

 

「その辺は俺はよく知らねえけどよ」

 

 これから世話になる学校の部門長に紹介するというケンセーと歩きながらそんな話を聞く。

 

「で、でだ。この街をほぼ牛耳ってんのが鎌仲組だ」

「鎌仲組って鎌仲グループ?」

「そう」

「あの?」

「そう」

「鎌仲豪人?」

「そう。ゴッツの奴がこの街を仕切ってる」

「…………マジんがー?」

 

 鎌仲組は街の防衛、生産に重要な役割を担っていて、この街は言うなれば鎌仲組の企業城下町。

 

「役所も商店会も逆らえねえ。唯一、探索者を統括してる学園が口出しできるくらいだ。ゴッツのガキどもなんて〝禁制物兄弟〟て陰で言われてるくらい手出しできないのをいいことに幅を利かせてるってウワサだ」

「ガキ……息子⁉︎ 子供がいんの⁉︎ あ、まあ、二十年だもんなぁ…………」

 

 ふと、横の男を見る。

 

「ケンセー、お前は?」

「ああ? いねえよ」

「……」

「違うぞ」

「なんも言ってねーよ」

「モテないわけじゃねんだぞ」

「だからなんも言ってねーって」

「むしろモテモテだ。だからこそ俺は一人のものにはならねんだ」

「あーはいはいおっけ、わかっただいじょうぶ、うん。こっからこっから気にすんな」

「わかってねえ! ……まあマジな話、ダンジョン以外に関わってるヒマなんてなかった。数ヶ月単位で潜りっぱなしってことも珍しくねえ。街のことも気付いたら抗争が始まって終わってた」

「なにやってんだよ」

「俺に言うな俺に。そんでその兄弟、お前が学ぶクラスにいるから」

「ええー……」

 

 一通り挨拶を終えてケンセーとの別れ際。

 運動場で戦闘訓練に励む学生たちを並んで眺めながらケンセーが言う。

 

「なあ、20年もダンジョンを彷徨ってたんだから戦えんだろ?」

「3年な。いちおう戦えるけど、そんな強くないぞ。武術の心得もなかったし、彼らみたく訓練を受けるような環境にもなかったし。だからテストとか言って対人戦を要求されても困る」

「いやそんなこと言わねえよ俺は。ただ今度『終末トラベラーズ』に参加しねえか?」

「シュウマツ? ウィークエンド?」

「いや、ジ・エンド。まあ、アルマゲドンでもアポカリプスでもラストトゥモローでもいいけど、終末」

 

 なんでも街の外に繰り出して、機械部品や酒タバコの嗜好品ほかの調達と、他都市の捜索、モンスターの生態、分布調査などをするんだとか。

 

「へー、いいよ興味ある」

 

 

 

 と、その前に、まずは学園に通う。

 しかしなぜこうなってしまうのか。

 

「見ない顔だな」

「アイサツがねぇぞ新入りくーん」

 

 知ってた! やっぱりね!

 教室内である。

 休み時間である。

 遅刻してきたヤンキーに絡まれ中。

 カミソリのように鋭いのと、赤い髪の坊主頭。

 ひとつ息を吐いて俺は彼らに振り返った。

 

「ああー! キミら知ってるぅーッ。イリシトくんにプロヒビトくんの禁制物兄弟っしょ⁉︎ ゆーめーじんじゃーん!」

 

 教室がざわめいた。

 

「てめえ……」

「なんだプロヒビトって! 俺は日日人(ひびと)だ!」

「死にてぇのか?」

 

 イリシト──入人(いりひと)に胸ぐらを掴まれたので掴み返す。

 

「父ちゃんに泣きつくのか? ゴッツに言っておけよバカ息子の躾はちゃんとしろって」

「てめえ、親父を軽々しくゴッツなどと! 死んだぞクソが」

 

 突き飛ばされる。

 前に出たヒビトがフツーに腰に吊った剣を抜き放つ。

 イリヒトも黙ったまま静かに剣を抜いた。

 周りを見るが誰も何も言わない。あからさまに目をそらす者もいる。

 鎌仲組か。

 ガキ同士のいざこざにもしゃしゃり出てくるんだろうか。

 

「はぁ……、おれあんま強くないんだけど」

「喧嘩売っといてそれで済むわきゃねえだろうが」

 

 ヒビトが机を派手に蹴飛ばした。

 

「ケンカ売ってきたのはオタクらでしょーよー」

 

 そんなだから違法だの禁止だのと本名をもじった陰口を叩かれるのだ。

 

「もう謝っても遅えからな」

 

 剣を構えヒビトが意地悪く笑う。

 

「謝る? なんで? おれ強くはないけどお前らに負けるほどじゃないよ?」

「ああ? つまり……どういう意味?」

「俺らがクソ弱だって言ってんだよコイツ」

「ああッ⁉︎ ボコす!」

 

 彼らが踏み込む前に機先を制す。

 

「あっち向いてホイ」

 

 指を上に振る。念動力で二人に上を向かせる。

 

「あがっ⁉︎」

「ふがっ⁉︎」

 

 首からグキと痛そうな音が鳴った。

 

 続けておれは指を振り、教室の窓を開ける。ガラリ。

 二人の背中を念動力で押して3階の窓から放り投げる。

 

「そーい」

 

 指を振り窓を閉め、鍵をかける。

 

「よし」

 

『ええー……』

 

 

 改めて周りを見ると、また目を逸らされた。

 これはどうやら、おれもヤンキー認定されてしまったか。

 ただそんな中でも、奇特なというか、空気読めないというか、猪突猛進というか、テンパりつつも突っ込んでくる少年がいた。

 

「まままままままままままずいよっ‼︎」

「おぅっ⁉︎」

「ままままずいよっ、まずいよ田中くん!」

「山田ね。あろうでいいよ」

「まずいよあろうくん! あの二人に手を出すなんて!」

「あ、うん」

「反応薄ぅっ⁉︎ いやいやいやいやいやっ」

 

 高速で手と首を左右に振る……いや、誰?

 

「忙しないね。セワシくんか」

「そうだよ?」

「そうなのっ⁉︎」

「僕、藤木世和志(ふじきせわし)です。よろしくね」

「ああうん、よろー」

 

 お互いに頭を下げ合う。

 

「はっ⁉︎ そうじゃないよッ!」

「え? 違うの? なんでウソの名前言ったんだよ」

「いやそこは嘘じゃないよ! 違くてあの二人!」

「ああ。禁制物兄弟ね」

「それえええええっ。言っちゃダメでしょおおお本人にぃッ!」

「あ、そうだね。悪口言っちゃダメだね」

「そおいうことじゃなくてねえええ⁉︎」

 

 ころころ変わる必死顔に思わず笑う。百面相か。

 

「わかってるわかってる」

 

 セワシの肩をポンポン叩いて落ち着かせる。

 

「本人たちが報復に現れるのか、鎌仲組が現れるのか、楽しみだね?」

「わかって、ないッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

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