「でも、あろうくんすごいねっ。すでにスキルを持ってて、しかもあんなに自由に使いこなしてるなんて。もしかしてジョブを持ってたりするの?」
「いや、おれのはジョブやスキルとは違うんだ。いわゆる超能力とか特殊能力の方」
「ぅえ⁉︎ あろうくんて〝
「そんな呼称が定着してんだ?」
世界が終わりに向かって混迷を深めていく中に現れた特殊能力者たち。超能力ブームが巻き起こり、本当にヒーローのような英雄を多く生んだが、手に負えない犯罪者もまた生み出した。
そんな者らが施設を奪い、核を発射し、いくつかの国を滅ぼした。
もう二十年も前だが、人々の中に確かに刻まれた恐怖は、特殊能力者たちを一律にヒーローとして扱うことを良しとしなかった。
「あの日の中継は忘れられないよ」
「うん? あの日?」
「ううん、ごめん。あの日の中継の記録映像ね」
「へー」
そんな事があったことをおれは知らなかった。ダンジョンに呑み込まれた後、そんな事態に陥っていたとは。
やがてダンジョンから誰しもが習得できるスキルが獲得できることがわかると、なぜか徐々に個の特殊能力を得る者は減っていったのだという……。
◇
「あー……、ダンジョンを生き抜くうえで、あーいや、今の世界で生き残るうえで、有効なダンジョン産アイテムの代表的なものにスキルオーブ、と、ジョブスフィア、があり、ます。スキルオーブはあー、こんくらいのー、ぉーゴルフボール大くらいのー『宝珠』ですなぁ。見たことのある人」
おっさん講師が挙手を促すも、誰の手も上がらなかった。
「そうですなぁ、希少なものであり、ますし、見つけた者がその場で使ってしまうことも多いですから」
無理もない、と何度も頷いている講師におれは言った。
「こういうのですね」
ぼんやりと淡く光る宝珠を入れたクリアボトルを机にのっける。赤、青、緑、白と、なんとなく色が変わっていくのがわかる。
「ええ……?」
一瞬、呆けたようにつぶやいたおっさん講師は、次の瞬間がたがたっと教壇から転げ落ちた。
「えええっ⁉︎ 持ってるぅぅうう! なんでえええっ⁉︎ くれええええ──ッ」
欲望に忠実すぎた。
しばらくして、ようやっと落ち着いた教室、というか、ようやっと落ち着いた講師が、授業を続ける。
「一つの
おっさん講師がなんかやたらとチラチラとコチラを見てくる。
「ジョブスフィア、は対応するジョブに応じたスキル・魔法が複数セットになっているようなもの、で、アレンジも可能と、大変希少で貴重なアイテムであり、ます」
ちらっ、チラ。
「……こういうのですね」
「やっぱ持ってたああああッ! すげえええ──ッくれえええ────ッ‼︎」
言うと思った。
「──……ふぅ、さすがあの〝火剣〟の身内ということ、かの?」
「はい?」
隣に座ったセワシがこそっと補足してくれる。
「ここのところ〝火剣〟が来ていたって校内で騒ぎになっていたんだよ。学校の掲示板でもその噂でもちきりさ」
学校の掲示板て。と思ったがどうやらネット掲示板のことらしい。世界は分断されたが、限定的なネット環境は整備されているよう。廊下の校内新聞の横とかに張り紙されてるとかを想像してしまったが、違った。
で、〝火剣〟とはケンセーのことだ。
あいつそんな呼ばれ方されてんの? えー。
でも、あいつのことだからそんな風に呼ばれても恥ずかしがることはないだろう。むしろノリノリだろう。しかしあいつはともかく、この場の誰もが自然にそんな呼称を受け入れていることに驚く。なにより、揶揄されてるわけでもなく、憧れと共に語られているのだ。
「それで、君は〝火剣〟の息子なのかね?」
おっさん講師が言った瞬間、教室内の全ての視線が一斉におれに向いた。こわっ。おれがケンセーの息子とか、怖っ。
キモイからやめて! とか言いたかったが、ホントに言ったらなにかものすごい反感を買いそうだったので、真顔で「違います」とだけ言っておいた。
講義のあと。
「ホントに〝火剣〟の子供じゃないの?」
セワシがそんなおぞましいことを言う。
おれはすんとして言う。
「違います」
「そうなの?」
「そうです。てかなんでそう思ったんだ、似てないだろうが」
「うーん……そう言われればそうかも?」
「かも、じゃなくてそうなの」
「火剣は何度も街の防衛で活躍した英雄だけど私生活は謎だし」
「えーゆー……」
「それに、スキルは子に遺伝しないけど、〝
「へー」
「それで、どうなの?」
「違います」
◇
高等学校に通う者の年齢は幅広い。が、トラブルを避けるためなのか、ティーンはティーンでいくつかのクラスにまとめられている。ただしFクラスだけはダンジョン未経験だったり、編入組だったり、留年していたりと、年齢もバラバラ。どうやら落ちこぼれとか問題児とか初心者というか、外部からの受験組とかそういうのが集められたクラスらしい。どこに当てはまっておれはFクラスなのか。
「山田あろう!」
「今日こそボコす!」
禁制物兄弟をあしらってから講義を受ける。
「ダンジョンは地下に延々と広がっているのではなく、地中に埋まった材質不明のブロックであると、世界崩壊前に調査報告がなされています。しかも直径は5メートル程度。当時の調査の範囲では深さも10メートルから30メートルほどだったようです。実際のダンジョン内部の広さとは比べるべくもなく、小さなものですね。それでも地下に埋設された電線や上下水道、地下鉄の断裂が起こり、混乱に拍車がかかりました……──」
「山田あろう!」
「ぶっ飛ばす!」
「イーサー・スコア。エス。エーテル値などと呼ばれている数値が、知識系スキルの【鑑定】により観測が可能です。これは言わばHPでありMPであり、その他ゲーム的ステータスの総合的な値だと言われています。日々の体調によっても変動しますし、その時の感情によっても激しく上下したりします。この値に差があると、相手に異常な恐怖を感じたり、逆に包み込まれるような安心感を抱いたりと、ダイレクトに肉体と精神に影響を与えたり、与えられたりします。学園でも定期的に計測しますし、そも入学試験の合否判断にも関わっております。みなさんは最低でも1000は超えているかと──……」
「山田あろう!」
「ぶちのめす!」
禁制物兄弟がそのたんび勝負を挑んでくる。意外なことに組の力は使わずに。
なに考えてるんだろうか。
かるく指を向け、念動力で吹っ飛ばそうとしたところ、パリッと空間が弾けて指先が痺れた。
念動力を無効化される。
おれは驚きつつも、向かってくるヒビトとの距離を一息に詰め、蹴りで両足を払う。
脚を掬われバランスを崩したヒビトは、その場で空中に投げ出されたようなカタチになった。体制を立て直そうと身を縮めるのを横目に、おれは続いてイリヒトの胸に手を当て、ゼロ距離で念動力を発して吹っ飛ばした。
横でヒビトが両手両足でもって着地した瞬間、その赤い頭を踏みつけた。
「ごがっ」
明日はダンジョン実習。実際にダンジョンに潜るらしい。